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王子様と通行人①

 俺にとっての人間関係は、一言で表すと『ストレス』だ。

 嫌われないために愛想笑いをする。

 孤立しないために話題を見つけて、楽しそうに話している輪に飛び込む。

 好きでもない話を楽しそうに話したり、誰かが誰かの悪口を言っていて、それを遠くで聞いていたり。

 自分は大丈夫だろうか。

 裏で悪口を言われていたり、孤立させられたりしないだろうか。


 そんな風に怯えるようになったのは、いつの頃からだっただろう。


 生きていく上で、人間関係は大事だ。

 それでも結局は他人同士の関りでしかない。

 今は仲が良くても、学園を卒業すればほとんど交流はなくなる。

 だったらその場しのぎで良いじゃないか。

 適当に相槌をうって、なんとなく会話に参加して。

 友人とは呼べなくとも、クラスメイトくらいになれたらそれで良いんだ。

 そう考えるようになってからは、変に自分を出さなくなった。

 自分らしさなんてさらけ出しても、結局は嫌われて……はい、おしまい。

 周りに見せるのは、取り繕った自分だけで良い。

 仮面をかぶるんだ。

 好意なんて必要ないから、悪い奴じゃないとだけ思われれば……それで良い。

 俺は人気者とは縁遠い。

 人気者になったって、気遣いばかりで疲れるだけだ。


 例えば、そう……。


「おはよう! 白濵くん!」

「……おはよう。夢原さん」

「あれ? 朝から元気ないね? 今日から二年生なんだしテンション高くしないと!」

「夢原さんが高すぎるんだよ。俺はいつも通りだから」

「そうかな? 私もいつも通りだけど、あっ! それじゃまた! 同じクラスになれると良いね!」


 うん、と。

 俺が答えるより先に、彼女はせっせと走り去っていく。

 前を歩いている人たちに同じように挨拶をして、楽しそうにおしゃべりして。

 また次の人に声をかけて、朝から忙しそうだ。

 そう思いながら歩いていると、後ろからもう一つ、駆け寄ってくる足音が聞こえてくる。


「よっ、朝っぱらからヘンテコな顔してるな」

「ん? ああ、なんだリョウスケか」

「なんだとは失礼だな。せっかくオレから話しかけてやってんのに」

「頼んだ覚えはない。というかそっちこそ失礼だろ? ヘンテコな顔とか」


 このツンツン頭は萩原凌介(ハギワラリョウスケ)

 中学からのずっと同じクラスで、俺の数少ない友人と呼べる相手だ。


「ヘンテコな顔をしてたぞ~ 何見てたんだ?」

「何って……」


 俺は正面に視線を向ける。

 そこにはまだ、登校中の他の生徒と話す夢原さんの姿があった。


「ん? 何だお前、夢原に一目ぼれでもしたのか?」

「なんでそうなるんだよ」

「だよな~ お前が恋愛なんて考えられねーわ!」

「とことん失礼だな……」


 まぁでも、こいつの言っていることは当たっている。

 俺自身がどうしようもなくそう思う。

 恋愛なんて……俺には一生できないだろう。


「つってもマジで惚れたなら応援するぜ? まぁ相手は学園一の王子様『夢原悠希(ユメハラユウキ)』だ。相手にされないどころか、変に近づくと周りの女子共が襲い掛かってくるかもだぞ? もちろん物理的に」

「……怖いこと言うなよ」

「冗談でもねーからな? あいつファンクラブとか出来てるし」

「ファンクラブ……」


 たかが学生一人に何を作っているのか……と呆れてしまう。

 だけど彼女のことならあり得るとも思う。


 俺と同じ高校二年生になった彼女、夢原悠希(ユメハラユウキ)

 通称『イケメン王子様』。

 女の子につけるあだ名じゃないと気もするけど、その気持ちもわからなくもない。

 整った顔立ちと水色ショートヘア、女子にしては高めの身長とスラッとした手足。

 そのままでも美少年にも見える彼女は、男装すればテレビに出てくるアイドル美少年とそん色ないだろう。

 加えて人当たりも良くて、スポーツ万能学業優秀。

 まさに絵に描いたような完璧人間だ。

 そりゃあ男女問わず人気が出るのも必然だろう。

 

「その割には、あんまり恋愛の話とか聞かないよな。ああ、さっきの理由か」

「それもあるけど、男の場合は嫉妬だな」

「嫉妬?」

「あいつを見てると、自分が男らしくない、格好悪いと自覚しちまう! ってな感じで。大抵の男子は尻込みするみたいだ」

「……そういうものなんだ」


 男子にとって彼女は、ある意味理想なのだろう。

 何でも出来て、皆に慕われて。

 女の子にはモテモテでファンクラブまである。

 なるほど確かに、そんな彼女と付き合える男子はそういない。

 釣り合わないと思ってしまうのも無理はないな。


「――てなわけだから、告白するなら非難を覚悟しとけよっ」

「だから違うって。そういうんじゃない。ただ挨拶されたから見てただけ」

「あーそういうこと。なら良いけどな! お前と夢原さんじゃ生きてる次元が違うだろうし」

「……本当にな」

 

 こいつは本当に包み隠さず話す。

 でも、言い返すつもりもない。

 事実だ。

 俺と彼女じゃ、生きているステージが違う。

 学園の人気者と、ただの通行人は、こんな道端の一瞬でしか関わらない。

 そう思っていたんだ。

 関わることなんてない。

 ただのクラスメイト、同級生の一人でしかないのだと。

 積極的に関わりたいとも思っていない。

 それなのに……。


「また同じクラスだね!」

「……そうだね」


 二年生の教室で、同じクラス、隣の席に彼女は座っていた。

 

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