1話 百姓さんと鳥さんです
「鳥さん鳥さん」
『なんだ百姓』
「私が育てたサクランボを勝手に食べないでくださいよー」
『なんだと。なんの権利があってそんなことをいう』
「私が作ってるんですからすごく権利はあると思いますけどねー」
『鳥だぞ。鳥にはあかい実をたべる権利がある』
「あー、また食べたー。せめて綺麗に食べてくださいよー」
『きれいにたべるって?』
「ひと口づつしか食べてないじゃないですかー。ひとつの実を食べ切ってから次の実を突いてくださいよー。もったいないじゃないですかー」
『あかいところぜんぶ食うの?』
「そうですよー。種だけ残して」
『むずかしい』
「難しいですかー。仕方のない鳥ですねー」
『はんぶんじゃだめ?』
「だめですー。練習してくださいー」
『うー』
「その調子ですー。そうー、そんなふうに裏側まで全部食べ切ってくださいー。いいですよー、上出来ですー」
『ひとつの実をたくさんたべられるぞ。すごい』
「そういうものですー。今後はそんな感じでお願いしますねー」
『すごいぞ。あかいとこぜんぶ食うとひとつの実をたくさんたべられるんだ。しってたか?』
「たった今私が教えたと思うんですけどねー、どうしようもないバカ鳥ですねー」
『バカドリってなに?』
「鳥さんのことですよー」
『? 鳥は鳥だぞ』
「バカ鳥も鳥ですよーバカ鳥さん、って痛い痛い、何で突っつくんですかー」
『なんかつつきたくなった』
「うう、バカ鳥さんめ……痛たたたたたた」
『わかったぞ。百姓が『バカドリ』と言うとつつきたくなる』
「無料でサクランボ食べてるくせに態度でかいですー」
『百姓のあかい実はうまいからな』
「何ですかおだててー、そんなことで機嫌治ると思ってるんですかー? 甘く見られたもんですー。もっと食べますかー、ほらー、この実大きいですよー」
『たべる』
「赤いとこ全部食べるんですよー、できますかー?」
『できるぞ。百姓はできない?』
「出来ますよー、それくらいー。ほら口に入れてもぐもぐしてー、プッと」
『口からタネが出てきた! すごい』
「ふふふー、ほらもぐもぐプッ」
『鳥はつついてたべるぞ』
「綺麗に食べられてますねー、よろしいですねー」
『鳥だからな。あかい実を食う』
「そうですねー、鳥さんですからねー、権利ですからねー、仕方ないですねー」
『うん』
そんな6月 なかごろでした。