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すべての人の心に花を-9

 満足げに駆けてきたしのぶを見て、

「もういいの」と由起子は訊ねた。

「うん、満足満足」としのぶは息を切らしながら答えた。

「もうすぐ帰れるから、少し待っててね」

「うん」

由起子はそのまま校舎へと戻っていった。

「しのぶちゃん、あたしたち、帰るわ」

和美とまゆみが、少し離れてそう言った。

「ん。またね」

しのぶは笑顔でそう応えた。

「さよなら」

「さいなら」

大きく手を振ってしのぶは和美とまゆみを見送った。そんな姿を見て、朝夢見も言った。

「あたしも、そろそろ。バイトがあるから」

「え?バイト?中学生が?」

「うん」

「いいの?」

「あたし、身寄りがないから、特別」

「へぇ~、そうなんだ」

「ま、由起子先生がうまくやってくれたんだけどね」

「あ、そう…なんだ」

「ん。じゃあ、またね」

「また明日」

 一人になって中央掲示板の前に立った。射し込んでくる西陽が頬を照らす。眩しさに目を細めながら全身で温もりを受け止めようとした。校庭からは歓声が飛び込んでくる。いろんなクラブのいろんな声。それは紅く朧げな視界の向こうでブラウン管の中の出来事のように展開されている。どこにいるのかもわからなくなってくる。温もりが次第に現実感を奪っていく。夢うつつの気分で立っていると、名前を呼ばれて振り返った。そこには、相も変わらぬ穏やかな表情の由起子が立っていた。

「どうしたの?」

素朴な質問を投げかけられて、しのぶは目を見開いた。紅く照らされた由起子のシルエットは、懐かしい記憶を呼び起こしている。しのぶは、そのまま石化して由起子を見つめてしまった。

「どうしたの?」

少し首を傾げて由起子は問い掛けてきた。陰影に浮かび上がった由起子の表情を見て、ようやく、しのぶは現実に戻った。

「んん、べつに」

「そう…?」

「もう、終わったの?」

「うん。帰りましょ」

しのぶは由起子の腕にぶら下がるように抱きついた。

「今日、何食べたい?」

「え?」

いきなりの質問にしのぶは戸惑ってしまった。そして由起子の顔をしげしげと見つめた。由起子は何の疑問もなく微笑んでいる。しのぶは嬉しくなってしまい、身を寄せた。

「どうしたの?」

由起子の問い掛けにも答えず、しのぶはしがみつくように由起子に身を寄せた。



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