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すべての人の心に花を-8


 「あら、ここにいたのね」

校庭に戻ろうと音楽室の横を通り抜けるとき、校舎から由起子先生が出てきた。それを見つけるとしのぶは、さっきまでの不機嫌さがどこかに行ったように、明るい表情になり、それでもためらいがちに、由起子に向き直った。由起子の手には袋が下げられていた。それに気づいたしのぶは少し首を傾げて覗く仕草をした。由起子はそんなしのぶにゆっくりと差し出した。

「何だと思う?」

しのぶは首を振って応えた。由起子はそんなしのぶににっこりと微笑みながら言った。

「制服よ」

ぱっと花を開かせたような笑顔を見せると由起子の手から袋をひったくり、手を突っ込んでかき回すと中から服を引きずり出した。広げたそれは、今日一日、ずっと憧れて見ていた制服だった。しのぶは、それを広げて眺めたあと、さっと由起子の様子を伺った。由起子は小さく頷いた。

「いいの?ホントに?」

ためらいがちに問い掛けると由起子はまた頷いた。

「いいわよ。着てみる?」

しのぶは大きく頷いた。周りの三人も微笑みながら、しのぶの姿を見守っていた。

 更衣室から出てきたしのぶは、まっさらの制服に照れながら、みんなの視線に身を任せた。三人は小さく拍手して歓迎した。そんな中で、一層しのぶは恥ずかしくなった。

「…ヘン、じゃない?」

「んん、似合ってるよ」

「うん」

「サイズ、ちょうどいいみたいね」

「…うん」

しのぶは、照れながら頷いた。由起子はニコニコしながら見つめている。それを見て一層はにかんでしまった。

「しのぶちゃん。かわいい」

和美の言葉にますます身を竦めるしのぶに、三人から笑い声が漏れた。


 掛け声の飛び交うグラウンドの横を、真新しい制服の少女が通りすぎる。ライトのポジションに着いていたイチローは、はっとして立ち尽くしてしまった。イチローの視線の先には、得意気に澄ましているしのぶがいた。イチローが見つめているのを認めると、しのぶは、イーッと口を曲げて、さっさと駆けて行った。突っ立ったままその姿を見つめていると、監督から怒声が飛んだ。慌ててイチローは構えた。構えながら、どうしてあいつが、と思い続けていた。



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