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すべての人の心に花を-7


 テニスコートから野球部グラウンドに出ると、飛び交っている掛け声が間近になった。

「あぁ、これだったのね、さっきから聞こえてたのは」

「そう。うちの野球部は強いから、練習も熱心なの」

「ふーん」

しのぶはネット裏から眺めていると、昨日見た顔が打席に立っているのを見つけた。

「あ、あいつ」

「なに?」

「あ、イチロー君?ケッコー、有名人だよね、カレ」

「そう、彼女を略奪したとか、コミカルスーパースターだとか」

「イチロー君のこと知ってるの?」

「あぁ、…昨日、先生と一緒だったから」

「へぇ~、そうなんだぁ」

「どこで会ったの?」

 しのぶは答えたくなかったので、聞こえないふりをして打席のイチローを見つめた。イチローは、バッティング練習をしている。バットを振るたびに快音が鳴り響き、ボールが飛んでいく。しのぶは野球を知らなかったが、なんだかイチローがカッコよく思えた。

「ね、あいつ、うまいの?」

「さぁ、よく知らないけど…。知ってる?」

「さぁ?あんまり、野球部の試合見ないから」

「あたしも」

「まぁ、有名人だってことで、いいじゃない」

「…ふーん」


 しのぶがネットに張りついていると、イチローの打撃練習は終わった。打席から出てきたイチローは振り返って、私服姿のしのぶを見つけた。そして驚いたような顔で駆け寄ってきた。

「お、おまえ、昨日の?」

「なによ」

「なんだ、どうして、こんなとこにいるんだ?」

驚いて訊ねるイチローに朝夢見が答えた。

「しのぶちゃんは、うちのクラスに編入してきたの」

「編入ぅ?」

「なによ、文句あるの?」

「文句あるのって、なんだ、この野郎、えっらそうに。このルンペンが」

「なんだよ、その言い方」

「だって、おまえ、正式な編入なんてできないだろ」

「そ、…それがどうしたの」

「どうせ、由起子先生がうまくやってくれたんだろ」

「いいじゃない、べつに」

「いいか、言っとくぞ。俺はな、女だからって、優しくしてやんねえぞ」

「なによ、それ?」

「昨日はびっくりしたけど。女だろうが男だろうが、人の好意に甘えて偉そうにしてるようなヤツなんか、俺が許さないからな」

「なに言ってんだよ、あんた。バッカじゃないの」

「なにをぉ!」

「うるさい。男だからって偉そうにすんな!」

「誰が偉そうにしたっていうんだよ!」

「オレが許さない、なんて言う資格があんたにあるのかよ」

「うるせえ!おまえが、偉そうにしてるからだ」

「誰が、いつ、偉そうにしたっていうんだよ」

「まともな編入もしてないのに、ここの生徒みたいな顔してるじゃねえか」

金網越しに睨み合っている二人に割って入るように朝夢見は言った。

「イチロー君、監督が睨んでるわよ。早く練習に戻ったら?」

イチローははっとして背後を振り返り様子を伺った。そして、向き直ると、舌打ちをしながらしのぶを睨み、そのままグラウンドへ駆けて行った。

「なによ、あいつ」

しのぶはそう言ってさっさと歩き出した。後ろから三人は、そんなしのぶを指さし笑みを浮かべながらついていった。

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