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すべての人の心に花を-44

 そうして身を乗り出して、しのぶの前に笑顔を突き出した。それが威嚇のように由起子の目に移ったとき、急にしのぶがひきつった顔でわなないた。

 ―――ぃ…いや……。

まただ、と由起子は、先日の実家での叫びを思い出し、慌ててしのぶを抱きすくめた。しのぶは、由起子の腕に抱かれながら、両手全身を硬直させながら、泣きわめいた。

「いや、いやぁ。…もう…いやぁ、……犯されるのは…もう…いやだぁ」

 しん、と空気が冷えた。

 沈黙が重くのしかかってきた。

 由起子はしのぶが暴れないようにぐっと抑えながら、あまりの言葉に我を失いそうになって、一層力が入ってしまった。しかし、その力は、痙攣を起こしたかのように全身を硬直させて暴れようとするしのぶを抑え込むには、充分だった。

 空気が重い。

 しのぶの嗚咽だけが響いてる。

 次第に、しのぶの力が抜けていくのを全身で感じた由起子は、両腕胸元からしのぶの動悸を感じながら、その音に耳を澄ましながら、気持ちを落ちつけ、ようやく視線を、しのぶから、矢島に向けることができた。そして、怒りを抑えながら、矢島に問うた。

「いまの言葉は、本当なんですか?」

矢島は由起子の視線を避けるようにしながら、

「まさか、そ、そんなこと、あるわけが・・・」と口ごもっている。

「本当なんですね」

由起子は問い続ける。矢島は、目線も合わせず、ただ、曖昧な否定語を並べるだけだった。由起子は、怒りの視線を靖江に向けた。靖江も目線を合わせようとしなかった。

 しのぶの嗚咽は、静かに、続いている。

 由起子は、ゆっくりと、口を開いた。

「お母さん。いまのことは御存知なんですね」

「な、なにを」

「この方がしのぶさんに暴行していたということです」

「ま、まさか…、そんなこと、あるわけないじゃない」

「御存知なんですね」

「知りませんよ。あたしは、全然」

「しのぶちゃん」

由起子は目線を靖江から逸らさずにしのぶの名を呼んだ。かすかに腕の中でしのぶは反応した。

「しのぶちゃん、お母さんの言っていることは、本当なの?」

しのぶの手が由起子の腕を強く握った。そして、首を振る感触が由起子の胸に伝わってきた。

「しのぶちゃん。いまが、分岐れ目よ。言いなさい。あなたの真実を言いなさい。帰りたいの、帰りたくないの?」

「……帰りたくない」

「もっと大きな声で」

「…帰りたくない。帰ったら、また、……、……売春させられる」


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