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すべての人の心に花を-43

 由起子がしのぶを招き入れると、靖江は立ち上がって、しのぶを迎えようとした。しかし、しのぶはまだ由起子の陰に隠れて姿を見せようとしなかった。園長に促されて、ようやく、足を踏み出したしのぶは、ゆっくりとソファに腰掛けた。靖江は涙ぐみながら、しのぶをじっと見つめていた。しのぶは、まだ、視線を合わせようとしなかった。由起子も何も言わず、しのぶの様子を伺っていた。しのぶは、掌を握りしめたまま、小さく震えていた。

 「しのぶちゃん」

矢島が、間に耐えきれずに、ゆっくりと切り出した。

「おじさんは、君のお母さんと、結婚することにしたんだ。新しい家庭を作る決心をしたんだ。だから、君に、家に、帰ってきて欲しいんだ。一緒に、新しい生活を始めよう。今まで、何か不満があったんなら、言っておくれ。もう、家族なんだ。君の、お父さん、なんて言うと厚かましいけど、そう呼んでもらえるように努力するから。これからは、家族だよ。何でも言っておくれ。だから、ね、帰ってきておくれ。お母さんのためにも」

しのぶは身を硬くしたまま動かなかった。ただ、静かに身を震わせていた。

「しのぶ、帰ってきて」

涙ぐんだ靖江の言葉にも応えなかった。ただ、ぐっと、手を握りしめて、耐えていた。

 沈黙が流れ続ける。

 ふうっ、と矢島はため息をついた。それに、しのぶは、びくりと反応した。由起子はじっと矢島を見つめた。矢島は両手で頭を押さえながら、ぽつりと漏らした。

「私は…この子の、父親にはなれないんですね」

その言葉に慌てて靖江は反応した。

「何を言うの。そんなことないわ。わかってくれる。しのぶは、わかってくれるわ」

靖江は向き直ってしのぶに話し掛けた。

「しのぶ、聞いて。あたしが、悪かった。あんたの、気持ちも思いやってあげていなかった。それに、勝手に再婚を決めて、ごめんなさい。…でも、わかって。あたしが、あなたの親なの。本当の、親は、あたしだけなの。それは、もう、…辛いの。あたしにも、助けてくれる人が要るの。お父さんと別れて、もう五年よ。辛いの。独りじゃ…。あたしは、あなたを育てなければ、ならない。その助けを、矢島さんに、頼んじゃ…いけないの?あたしが、親としてあなたを育てていく、その助けを、…ほんのちょっと、お願いしたいだけなの」

 切々と訴える姿を、由起子は白々と見ていた。しかし、間違いなく、靖江の言葉はしのぶを追い詰めていた。

「ね、しのぶ。帰ってきて。お母さんと一緒に暮らしましょ」

しのぶは、じっと俯いたまま震えている。由起子はそんなしのぶの姿をじっと見つめていた。手をかざすこともなく、ただ見守っていた。

「しのぶちゃん」矢島が穏やかな声で話し始めた。

「私のことは、もう、どうでもいいよ。君が嫌なら、結婚もやめよう。でも、お母さんの気持ちを考えてあげてよ。たった一人の親なんだよ。血のつながった母親が、どれだけ、君のことを心配していると思う?ねえ、帰ってやってよ」

しのぶは、小さく、頷いた、ように動いた。それを見つけると矢島は大きな声で言った。

「そうか、帰ってくれるんだね」


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