表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/47

すべての人の心に花を-38

 玄関の扉を閉めると、朝夢見が心配そうに見つめていた。しのぶは、朝夢見の肩に掴まったまま、泣いている。由起子は笑顔で応えながら、二人に近づいた。

「さぁ、帰りましょ」

「もう、いいの?」

「今日は、もういいわ。また、今度」

「今度だって」

朝夢見がしのぶにそう告げると、しのぶはしゃくりあげながら頷いた。

 三人はたどたどしくその場を立ち去った。由起子は振り返って、家の様子を伺った。追ってくる気配はない。中から様子を伺っている気配すらない。由起子は一層確信を持って振り向いた。しのぶは泣きじゃくっている。朝夢見がそれを宥めている。由起子は笑顔でしのぶの背をさすった。

 電車の通過する音が聞こえてくる、静かな住宅街。三人は、ゆっくりと、日常に戻るために歩みを進めた。


          *


 マンションに戻ると、由起子はさっさとお茶の支度をした。まだ所在なさげなしのぶのことが朝夢見は心配で仕方なかった。そんな朝夢見に、由起子は快活な声で、

「今日は、ゆっくりしていって」と言った。

「よかったら、ご飯食べていって」

「あ、はい」

「ね、大勢のほうが楽しいわ。そうでしょ、しのぶちゃん」

ちょっとウインクをしながら、由起子はしのぶに問い掛けた。しのぶは、しばらく由起子の方を見ていたが、小さく、こくりと頷いた。由起子はその仕草を見て頷くと、いそいそと台所へ入っていった。


          *


 その頃、矢島は、行きつけの喫茶店に入った。奥の席に近づくと、そこには、以前、しのぶを連れ戻そうとしたチンピラの二人が待っていた。

「おぅ、待たせたな」

「いえ。矢島さん、今日は、何の用ですか?」

「なに、こないだの件だけど、また、頼むわ」

「こないだの、っていうと、あの、しのぶちゃんですか?あれは勘弁してくださいよ」

「なんだ?」

「だって、見てくださいよ、まだ治んないんですよ」

一人が頬に貼った絆創膏を指して言った。

「あいつは、バケモンですよ」

「ガキだろ。たかが、中坊じゃねえか。そんなのに、ナメられて、どうすんだ」

「だけど、吹っ飛ばされたんですよ。何メートルか。顎の骨が、砕けたかと思ったんスから」

「情けねえヤツだ。じゃあ、大勢で行けよ」

「え」

「頭数揃えて行きゃあ、いいじゃねえか」

「そんな…」

「なんか、文句あんのか?」

「いえ…」

矢島に睨まれて、チンピラは黙った。矢島は煙草を吹かしながら呟いた。

「あの女、ナメやがって…」

「なんスか?」

「いや、こっちのことだ」

煙草の灰を落としながら、俯きがちに応えた。その仕草を黙って見つめていた男は、恐る恐る訊ねた。

「でも、そんなに、あの、しのぶって子、大事なんですか?」

矢島は薄笑いを浮かべながら答えた。

「あぁ、大事だ」

「やっぱ、靖江さんが帰って来て欲しがってるんですか?」

「まぁな。……大事な、金ヅルだからな」

「は?」

「まぁ、気にすんな。オレたちにも事情があるんだ」

「はぁ」

「頼んだぞ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ