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すべての人の心に花を-3

「たいしたものはできないけど、今日は、ここで食べていって」

由起子の言葉にイチローは、少女を気にしつつ、戸惑いながら答えた。

「あ、由起子先生、いいよ。俺、帰るよ」

それは気詰まりな部屋から出たい気持ちから発した言葉だった。しかし由起子はいつもの笑顔を向けてきた。

「いいじゃないの。一緒に食べましょ」

「でも…」

イチローはこの雰囲気に耐えられそうもなかった。それでも、明るく振る舞う由起子に気押されて、頷いてしまった。由起子は、少女をイスに腰掛けさせると、

「ありあわせで、申し訳ないけど、すぐ作るからね」と言いながら、いそいそとキッチンに立った。


 がつがつと貪り食う少女の姿に圧倒されながら、ふとイチローが由起子を見ると、由起子はにこにこしながら少女を見守っていた。そんな由起子に、今日聞いた話を思い出しながら、改めて由起子を見つめてしまった。少女は、二人の視線を意識することもなく、食べるだけ食べて、大きくげっぷをすると、立ち上がり、そのままソファに倒れ込んだ。はだけたバスローブから剥き出しになった脚にドキリとしてしまい、イチローは顔を背けた。そして、由起子の視線に気づいた。由起子は、イチローではなく、その向こうの少女に目を向けていたのだが、イチローは自分が見られていると思ってしまった。そして、少し居住まいを正すと、由起子の様子を伺うように言った。

「俺、もう、帰らなくちゃ」

由起子はその時ようやく、イチローがいることを思い出したように、視線をイチローに合わせて、そして答えた。

「そうね。明日も、学校あるものね」

「うん。御馳走さま。おいしかったよ」

「ありがと」

由起子の笑顔にイチローはドキリとさせられた。由起子の顔をまともに見つめられなくなって、目線を逸らしながらゆっくりと席を立った。

「じゃあ、帰るよ。さよなら」

「道、わかる?」

「わかるよ。だって、ここ学校のすぐ近くじゃない」

「そうね。でも、もう暗いから、車に気をつけてね」

「うん。じゃあ、また明日、学校で」

「さよなら」

 玄関まで由起子に見送られてイチローは部屋を出た。出てみると、外は案外寒かった。そして、ようやくあの少女のことが気になった。今夜はこの部屋に泊まるんだろう、と検討をつけたものの、明日はどうするんだろうかと、思いを馳せてみた。

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