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すべての人の心に花を-25

「…あのね、…お母さんのこと、嫌いなのかって訊かれたら、たぶん、好きだって、答えてしまう、いまでも。でも…、好きなのかって訊かれたら、頷けない。でも……、でも、はっきりしてるのは、あそこは、あたしの家じゃない、あたしの住む所じゃない、帰る場所じゃない…」

「じゃあ、その矢島さん、っていう人のせい?」

「…そうかもしれない。……そうじゃない、かもしれない」

「矢島さんは好き?」

「んん、嫌い。やさしい人だよ…。やさしい人だけど、あたしは…嫌い…」

はっきりとそう言うしのぶの瞳から、つぅっと涙が流れた。はっとして由起子が言葉を失ってしのぶを見つめていると、涙は留まることなく流れ落ちはじめた。

「あれ、あたし、どうしたんだろう……」

そう呟くと、しのぶは両手で顔を覆った。由起子が立ち上がってしのぶの隣に腰掛けると、しのぶは、ゆっくりと由起子に身を寄せ、咽び泣いた。由起子はしっかりとしのぶを包み込んだ。しのぶの嗚咽は夜の更けるのにあわせて鎮まっていき、やがて静かに眠りについた。

 由起子はしのぶを寝かしつけ、そしてキッチンに戻った。棚からブランデーを取り出し、グラスに少し注ぎ込むと、一息に飲んだ。そして、じっと暗がりを見つめながら、懸命に怒りを抑え込もうとした。しかし、慣れないアルコールは、由起子の怒りを増幅はしても鎮めることはなかった。由起子は、何かを叩き壊したい衝動に駆られながらも、穏やかに眠っているしのぶを気づかって必死で堪えた。

 壁に掛かった時計は確かに時を刻んでいる。由起子はその音を醒めたまま聞き続け、夜を明かした。



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