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すべての人の心に花を-2

それを聞いて、イチローは少し安心した。が、血は気掛かりだった。

「あの…、それ、ケガ、したのか?」

「なに?」

浮浪者は、イチローの指さす、太股のあたりを見ながら、にやにやしていた。

「あぁ、これ?気にしなくても、いいよ。ただの生理だから」

「え?」

次の瞬間、イチローは硬直して動けなくなった。しかし、由起子はさっとその浮浪者の少女を抱え上げると、驚いている少女に構わずすぐに駅に連れて行った。

 駅のトイレの前でイチローがしばらく待っていると、由起子は浮浪者を抱きかかえるように出てきた。そして、目で合図するのを見て、イチローは戸惑いながらほっとした。浮浪者は、由起子の腕の中で笑むこともなく無機的な表情を浮かべている。イチローは掛ける言葉も見つからないまま戸惑っていた。しかし、由起子は、凛とした表情でイチローに向かって言った。

「イチロー君。今日の御馳走の話は、なかったことにして。それより、この娘をつれて、あたしのマンションに行きましょ。一緒に、タクシーで」

しっかりと少女の肩を抱いたままそう告げる由起子に、イチローは素直に頷いた。


         *


 落ちついたインテリアの部屋に、汚れたトレーニング・ウェアで座っているのは、イチローには気詰まりだった。落ち着かず、きょろきょろと部屋を見回しながら、由起子の趣味を伺っていた。シンプルながら、やはり女性の部屋だと意識させる部屋の雰囲気に、イチローは少しも落ち着けなかった。バスルームからはまだシャワーの音が聞こえている。

 と、その音も止んだ。イチローはそれを察して緊張してしまい、バスルームのほうを見ないようにした。時間が止まったような緊張の張り詰めた中で、ゆっくりとバスローブをまとって出てきたのは、間違いなく、女の子だった。さっきまでのばさばさの髪は艶やかな光沢を放っていて、その頬の線も柔らかな少女の形を造っていた。寄り添って出てきた由起子は、慈しむような笑みを浮かべながら、少女を抱いている。そして、その笑みがイチローに向けられた時、ようやくイチローは自分がその少女を見つめていたことを気づかされた。

「ね、かわいいでしょ?」

由起子の問い掛けにイチローは、こくりと頷いた。少女は、小さく、頼り無げに、身を由起子に預けていた。そんな様に、イチローは、ただ見つめるしかなかった。

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