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すべての人の心に花を-1


         すべての人の心に花を


 某月某日―――晴。


 快活な笑い声が響く高架をくぐり抜けて、由起子とイチローは深山駅に向かった。夕暮れの陽射しはいつもより紅く、朧げに二人を照らしている。

 赤信号に立ち止まって、話に華を咲かせていると、不意に一人の浮浪者が近づいてきた。楽しげに笑っている二人に、ゆっくりと、近づいてきた。足取りは虚ろで、酔っているようにも見える。しかし、確かに、二人を目指して近づいてきた。

 と、イチローがその浮浪者に気づいた。はっとして、その珍妙な接近者に身構えると、由起子もイチローの様子に気づき驚いて振り返った。しかし、その浮浪者を見据えると、小さく笑みを見せた。それは、浮浪者といっても、まだ若い、子供のような風体に子供だと認めたからだった。しかし、イチローは、じっと身構えたまま睨み据えていた。接近してきた敵に歯を剥く犬のように、じっとその浮浪者を睨んだ。しかし、浮浪者は、イチローのその目に気づくことなく、ふらふらと近づいてきて、そしてにやりと笑んだ。イチローはギョッとしながらも、まだ緊張を解くことはなかった。浮浪者は委細構わず近づくと、にやにやしながら、口を開いた。

「なぁ…、金、くれよ」

イチローは少し驚きながらも、構えた姿勢を崩さずにその浮浪者を見据えた。

「なんだぁ?」

「金。金、百円でいいよ。くれよ」

「なに、言ってやがんだぁ。向こう行けよ」

「いいじゃ、ないか。…百円。百円、くれたら、行くよ」

「バカ野郎、なんで、オマエなんかにやんなきゃなんないんだよ」

「いいじゃないか、百円ぽっち。なぁ、くれよ。おねえさん、あんたでも、いいよ。なぁ、おくれ」

「バカ!あっち、行け!」

イチローはそう言いながら、押し退けるつもりで浮浪者の肩を軽く突き飛ばした。それほど力を入れたつもりはなかったが、ふらふらとよろけた浮浪者は、足をもつれさせて、その場に倒れた。しまったと思ったイチローとは裏腹に、浮浪者は倒れながらもにやにやしていた。ほっとしているイチローの目には、浮浪者のズボンの破れた隙間から滲む血が見えた。あっと思ってイチローは、動けなくなり何も言えなくなった。そして、由起子もそれに気づいたようだった。すぐに、由起子は浮浪者に近づいて寄り添って身を起こそうとしながら、

「大丈夫?」と、問い掛けた。浮浪者は相変わらずにやにやしながら身を起こすと、由起子の手を振り払うような仕種をしながら、

「大丈夫さ」と答えた。

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