表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/36

07.ギルドの受付の人驚きがち

 ソーンに抱えられたミツルと、ギルドの受付の人が医務室へ入って行った後、すぐに強面の冒険者に連れられ、司祭らしき衣装のお爺さんが入ってきた。彼がハシミ神官なのだろう。

私はその様子をただ見守る事しかできなかった。例え強い魔法が使えても、傷を癒す能力はないのだから。


 しばらくして、神官だけを残し他の人が医務室から受付へと戻ってくる。その表情はまだ予断を許さないといった様子に見える。

それでもギルドの受付、確か名前はキュウと言っていた彼は、私に優しく微笑みかけた。


「ミツルは大丈夫なんでしょうか」

「ええ、ハシミさんが来てくれましたので安心してください。そちらは彼に任せましょう。

 それで、魔物の情報を教えてもらえますか? 出発からの時間的にも、街の近くで負傷されたのでしょう?」

「いえ、採取場で戦闘になったんです……」

「そうですか。では、急いで討伐隊を組む必要はなさそうですね。

 立ち話もなんですから、掛けてお話を伺いましょう」


 そう言って彼は、ギルドの談話室へと案内する。部屋にはいくつもの机と椅子のセットがあり、ここで冒険者たちは情報交換や、もしくは仲間集め、そして時間帯によっては食事を取ったり酒を飲み交わしたりするそうだ。中には宿を取り損ねた冒険者が寝ている場合もあるのだとか。


 今は冒険者がみな帰ってきており、ちょうど夕食と共に酒も飲んでいて、少し騒がしい。

その中で部屋の隅にあるテーブルに向かい、彼はすでに座っていた男に話しかけた。


「申し訳ないですが、少し込み入った話がありますので席を譲っていただけますか?」

「あぁ? なんだおま……ってキュウさんでしたか! 失礼、すぐにどけますので!」


 それはとても丁寧な口調で、さらに言えば彼は髪型がポニーテールの、冒険者には見えない優男といった見かけだ。

いや、髪型は関係ないのかもしれないけど、あんまり実戦経験もなさそうに見える。だからすでに座っていた、ガタイのいい冒険者が逃げるように席を譲った事に少し違和感があった。


「では、おかけください。それで、状況を教えていただけますか?」


 そこからは状況の説明が始まった。私はこちらの世界に詳しくないのもあって、途中途中でソーンが説明を追加してくれる。そのため十分に把握できたようだ。

けれど私たちが薬草を採取していた場所は、本来は近づかない方がいい奥の方だっだらしく、魔物に襲われたのは起こるべくして起こった事故だとも言われた。


「まったく、依頼を出す時に説明しましたよね?」

「スミマセン、聞き逃してました……」

「今回は負傷したとは言え無事でしたが、次はどうなるか分かりませんよ」

「はい……。あの、相談なんですが……」

「えぇ、何なりとどうぞ」


 私はカバンをテーブルの上に出し、中から採取した薬草を取り出した。


「この薬草、薬効が高いって言ってましたよね。ミツルの治療に使えませんか?」

「あぁ……それですか……。結論から言えば使えません」

「どうしてですか?」

「それは、特殊な病気を治すための薬草なのです。”魔王の呪い”と呼ばれる病のね」

「魔王の呪い?」


 それは魔王が倒される時に世界に撒かれる病、魔力を多く持つ者を蝕む呪い。

魔王が再び現れるまで人間を脅かす、魔王の代行者。


「そしてその薬を作れる者は、世界にただ一人。医神の呼び名を持つ人物だけです」

「そうなんですか……」

「心配いりませんよ。ハシミ神官の神聖術は一級品ですから」

「では、治療費のためにこれを売却したいのですが……」


 私が次に取り出したのは、五色に光る魔石。それは今もなお生きているように、脈を打つかの如く淡い光を強弱させていた。


「この魔石、売ればかなりの額になると聞きました」

「待って下さい!! なんですかこの魔石は!?」


 突然立ち上がり大声でそう言うものだから、部屋にいた冒険者の視線が一気にこちらへ集まる。


「……失礼。みなさんどうぞお気になさらず」


 その言葉に皆の視線は戻るものの、魔石がどうの、彼が驚くくらいだ、などという会話の端々が耳に入ってきた。

先ほどの冒険者といい、どうやら彼はギルドの中ではかなりの力を持つらしい。そんな人が受付をしていたというのは不思議だけど。


「これ、一体どうされたんです?」

「ミツルに魔法をかけた魔物の魔石です」

「……なるほど、かなりの強敵だったでしょう。五属性を持つなんて、聞いたこともありません」

「そうなんですか?」


 説明によれば、複数属性を持つ魔物は珍しいそうだ。というのも相反する属性を内包すれば、互いの魔力が中和されてしまい、いずれどちらか一つになるか、もしくは消滅するためだ。

そのため今回の魔物であれば、どれか一色だけが残るか、もしくは赤青緑のうち一色と、黄紫のどちらか一色が残る二属性持ちになるはずなのだとか。


「それなら売却すれば、十分な治療費になりますよね?」

「いえ、これはウチでは買い取れません。正しくは、誰も買う事などできないでしょう」

「どうしてですか?」

「値が付けられないためです。冒険者ギルドの全ての資産を売り払っても……。

 いえ、三大ギルド全てどころか、国家自体を売り払っても釣り合わないでしょう」


 聞き耳を立てていた冒険者たちが、その言葉に静かながらにざわめく。

それには彼も気づいたようで、私に一つ提案をしてきた。


「この魔石は狙われます。ですので紛失防止魔法をかけさせていただきます」

「紛失防止魔法?」

「えぇ。失くしても、例え盗まれても貴方の元へ戻ってくる魔法です」

「でも……」

「お金なら心配いりません。ハシミ神官は他の強欲な神官と違い、良心的な請求しかされませんから。

 それに今回の依頼費があるじゃないですか。それで十分足りますよ」

「はい。ありがとうございます」


 そして紛失防止魔法をかけてもらったが、見た目には変化もなく、本当にそんな便利な魔法がかかっているのかと逆に心配になった。

けれど彼を信用するしかないだろう。少なくとも今この場に居る冒険者は盗もうと思わないはず。彼がそんな提案するのだ。盗もうとすれば彼を、そして冒険者ギルドを敵に回す事になるのだから。


「しかし魔石がここにあるという事は、五属性持ちの魔物を倒したのですね……。

 いや、実際に見ているというのに、実感がありませんね。通常の魔石でも、これほど綺麗に残すなど至難の技なのに……」

「それはえっと……」

「いえ、どうやったか聞くつもりはありません。

 ただ、あなたがたの評価を再考しなければなりませんね」


 評価、それはつまりギルド内の序列であるランクの事だ。

登録するときに一通り話は聞いたのだけど、確か1から50までのランクで分けられていて、今私たちはランク17らしい。

色々細かい話もされたのだけど、数字が大きいほど高難易度の依頼を受けられたり、あとは検問なんかも一定ランク以上なら、ギルドのお墨付きって事でパスできたりするんだとか。

 ……そういう話をいっぱいされた後だったから、採取場の説明が頭に入らなかったのよね。

いえ、人のせいにしていい事じゃないわ。今回は私のミスだもの。


「私の一存では決めかねますので、それはまた後日にしましょう。

 今日の所は、宿に戻られてはいかがですか?」

「いえ、ミツルが心配なので、できればここに居させて欲しいです」

「そうですか。ソーンさん、ギルド内とは言え女性が一人では心配ですので、付いていてくださいね」

「はい、畏まりました」


 そう言って部屋を去る受付のキュウさんだったが、出る前に飲食物販売カウンターへと行き、部屋にいたすべての者に酒を振る舞うよう指示していた。

多分だけど、魔石の事を口外するなという口止め料なんでしょうね。やっぱり見かけによらずやり手のようね。

ハシミとキュウは過去作でも出てきた人なんですよね。

俺の書くモノは全て繋がっているのでね、そういう事もあります。

時系列もバラバラだし、世界自体が繋がってるとは限りませんけど。


次回:「08.冒険者が喧嘩を売りがち」

1月8日19時更新予定!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ