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06.「同時に複数属性の魔法を!?」と驚かれがち

 ふわふわと浮遊する五色の花弁を持つクリスタルの花。中央の魔石を得るための作戦はこうだ。

獣人ソーンが敵の前に立ち注意を引く。その間に私は後ろに回り込み、隙をついて花弁を剣で砕く。

うん、単純明快。だけど、相手って前とか後ろってあるのかな? 見た目は裏も表も同じ構造に見えるんだけど……。


 あとはソーンが攻撃されて無事かって事も気になるけど、どうも彼は戦いに慣れてるみたいで、ミツルに渡された剣も軽々使いこなしてたわ。

長身でしなやかな体つきもあって、出発前に見た素振りの様子は踊ってるようだったな。こういうのを剣舞っていうのかしらね。素早い身のこなしで攻撃を避けるのも大丈夫そうだし、心配はいらないでしょう。


 ミツルもミツルでソーンの補助に当たるって言ってたけど、普段は使わないって言ってた剣を取り出してやる気満々みたい。……って! 何本剣持ってるの!?

そういえばソーンの防具もカバンから取り出してたし、容量無限なのかな? んー、旅に出る時家にあったもの全部詰め込んだとか、そういうのでないと防具のサイズが揃ってる事に説明が付かないんだけど……。うん、触れないでおきましょう。いずれ本人から聞く事になるでしょ。

それよりも今は、目の前の敵よ。集中しないとね。




 合図なんてない、出たとこ勝負! ソーンが飛び出し、敵に斬りかかる。

私はまだ出ない、相手がソーンに魔法を撃ち込み、隙のできるその瞬間を見極める……。


 ソーンの斬撃は、揺らめくように避けるクリスタルを軽く、リズミカルに叩きつける。もちろんその程度では破壊できず、傷つく様子もない。

まだ、まだよ……。彼を信じて、時を待つの……。


 その時魔物の花弁に光が集まる。五枚のうち赤青緑の三枚、それらがすっと光ったかと思った直後、それぞれの花弁から、三色の球体の魔法が放たれる。

それはソーンめがけて真っ直ぐ高速で発射されたが、身を翻しソーンは回避した。

避けられた三色の魔法の球は、そのままソーンの背後に立つ木へと叩き込まれ、その幹を小枝の如くへし折った。


 なるほど、魔法にはチャージ時間が要るようね。花弁が光って実際に発射されるまで、体感2、3秒程度。そして一度放てば連射はできないみたい。

分かれば簡単、次の攻撃の直後私が仕留めるわ。


 ソーンは体勢を立て直すと再び魔物に斬りかかる。それをいなしながら、魔物は再び花弁に光を集めた。

今度も同じ三色、だけど少しずつタイミングをずらしてるみたい。一度に撃たずに三色を三連射する気ね。

なら私が一発目を撃たれた瞬間に光る残りに斬りかかれば、後の二発を無効化できるわね。

そう思い、タイミングを伺った。


「もらったぁぁぁ!!」

「だめだっ! 避けてっ!!」


 一発目の赤の魔法が発射された瞬間、私は剣を振りかぶり飛びかかる。

しかしその時見えたものは、光りだした黄色と紫の花弁だった。


「気付かれていたのか!?」


 ソーンの焦りを隠さない声は、私の混乱を加速させた。

攻撃は黄色? それとも紫?

一瞬の迷い、それが命取りなのにどうしていいか分からない。

分からないうちに、私は「黄色!」と叫んでいた。


 体、正確には纏っているクロイムから黄色の魔法が飛び出す。

それは魔物が放った黄色い魔法とぶつかり、力を中和させることなく私の目の前で眩い爆発を起こす。

その瞬間どうなったのかは分からない。けれど、気付いた時には私は背後にあった木にぶつかっていた。


 身体中が痛い……。それに痺れて起き上がれない……。

 その時、私は気付いてしまった。


 どうして痛いの?


 だってこれは夢のはずでしょ? だったら痛いわけないじゃない……。

馬鹿馬鹿しくも、主人公は絶対負けない小説を夢に見てるはずでしょ?

なら負けるわけないじゃない……。


 ねぇ、これは本当に夢なの?

 本当に私は、小説の主人公なの?

 負けたら……どうなるの?


 突然目の前の景色が色を失ったようで……。恐怖と絶望が私の体を震わせる。

こんな不安、今まで一度だって経験した事なんてない。


 イキがってるって言われて上級生にボコボコにされた時だって、命までは取られないってどこかで思ってた。

けど今は違う……。負け、それは……死ぬって事。


 怖い……怖いよ……。どうしてこんな事になったの!? 私が何か悪いことしたの!?

嫌だよ……そんなの嫌、家に帰してよ……。



「ミツル様! 目を覚まして下さい!!」



 恐怖が私を覆ったのはきっと一瞬だった。ソーンの叫ぶ声に、私は二人を視界に入れる。

そこにはぐったりと力なく横たわるミツルと、その半身を抱え上げるソーン。

その幼い体は、黒いもやに覆われていた。


 この世界が夢じゃないなら……。もし本物だったら……。彼らも本物なの?

ミツルも、ソーンも生きていて、こんなに怖いって思いながら魔物と戦っていたの……?

浮かれてはしゃいでたのは私だけ……?


『私が護るから、全部お姉ちゃんに任せなさい!』


 そんな言葉、なんの覚悟もなく言ってたの?


 ううん、違う。覚悟はなかったかもしれない。

けど護ってあげたい、その気持ちは、絶対嘘じゃない!

お願いクロイム、私に力を貸して!!


 その想いに応えるよう、クロイムは黒いオーラを放つ。

そして今にも魔法を放たんとする五色に光る魔物の前へと、私を導いた。


「ミユキ様、お逃げ下さい!!」

「バカ言ってんじゃねぇ! 舎弟シタを護るのはカシラの役目だ!!

 アタシらに喧嘩売った事後悔しな、ガラス玉がぁ!!」


 五色に光ってるなら何も考えなくていい、全部の属性ぶつけてやれ!


「行くぞクロイム! 全部ぶっぱなせ!!」


 その瞬間突き出した私の左手からは、五色のレーザービームが放たれる。

それは魔物の撃つ光の玉を貫通し、その後ろにあるクリスタルの花びらを散らす。

弾けたそれはキラキラと周囲に飛び散り、味気ない雑木林をイルミネーションのごとく、幻想的に彩った。


「そんなっ! 同時に複数属性の魔法を!? あり得ない!!」


 その言葉に、ふと恩師を思い出す。

タバコとコーヒーの匂いが染みついた、だらしない彼の言葉。


 ――燃えるか燃えないかじゃない、燃やすか燃やさないかだ――


 こんな私でも進学の可能性を示してくれた、あの出来損ないの教師を……。


「有り得る有り得ないじゃねえ! やるかやらねえかだ!!」


 そうやって必死に取り繕っても、体は今も怖くて震えてる。でも、それでも……。

私、この世界でやっていけるかわからない。けど、これだけは言える。

絶対に、絶対にミツルもソーンを護ってみせるって!

ううん、それだけじゃない。みんな護ってみせる、そう決めたから!


「ソーン、ミツルの様子は!?」

「意識を失っています。紫の魔法……闇の魔法を受けました」

「私が受けた黄色と同時に撃ってきたやつね」

「はい、私を庇いミツル様は……」

「今は泣き言なんかいらない! すぐに街へ戻るよ!」

「はい!」


 私は足元に落ちた魔石をカバンへとしまい、ソーンと共に街へと急ぐ。

きっとこの魔石がミツルを助けてくれると信じて。



 ◆ ◇ ◆ 



 火事場の馬鹿力とでも言うのか、街までの道は行きよりもさらに早く、なんとか日没前に駆け込めた。

検問も冒険者ギルド関係者の緊急事態ということですっ飛ばせたし、仕事終わりで帰ってきた冒険者達もギルドの扉を開けた途端道を譲ったわ。

そして受付のカウンターへと私達は押し掛けたのだ。


「ミツルがっ! 魔法を受けてしまって!」

「すぐに医務室へ! 君! 教会へ行ってハシミ神官を呼んできて下さい!」


 慌てる様子はなく、しかし素早く的確な指示を出す職員。

近場の強面の冒険者でさえ彼の指示には文句ひとつなく従い、すぐに神官を呼びに駆け出した。


「私は何をっ!」

「お姉さんはここに居て下さい。見たところ闇の魔法です。

 心配でしょうが、対策のない者では瘴気に当てられかねません」

「でもっ!」


 職員は私の両肩を押さえ付け、ゆっくりと首を振る。

結局、私は何もできないのだ。


「大丈夫、信じて下さい。必ず助けます」

「……お願いします」


 彼の言葉に、私は力なくそう答える他なかった。

タイトルでオチバレ……。

逆に考えれば「複数属性魔法を一度に使う世界観ではない」という説明をしてくれてる訳ですね。

本文で語れよ! って声が聞こえてきそう。


次回:「07.ギルドの受付の人驚きがち」

1月7日19時更新予定!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミユキ姐さんとお呼びしたいです。 カッコいい、シタやらカシラやら……(*´ω`*) ミツルくんもソーンもイイ人そうで、ここで主人公溺愛の逆ハーレムルートを期待してしまう。
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