表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/36

05.初心者は薬草採集させられがち

 ミツルの計らいで、獣人奴隷のソーンは解放の可能性がある状態になったのは良いんだけど、その分ミツルが金貨9万枚分の赤字を出しちゃったのよね。

あまり気にした様子ではなかったけど、それでもかなりの額よ。


 円換算だと確か角金貨1万枚が1億円で、その1/10で申請したから1千万円。

あぁ、ぱぱっと計算できない私のポンコツ頭にイライラしちゃう!

えっとそれで、1億引く1千万って……9千万円!? 大赤字じゃない!


 それに気付いた私は、せめて生活費くらい稼ごうという話をして、それなら冒険者ギルドに登録しようって事になったの。

登録の時に魔力測定を行なって、テンプレ通り測定器を壊したりもしたけど、だからといって高難易度依頼を受ける事はできなかったわ。

初心者は薬草採集、そういったお決まりはこの世界でも共通のようね。


 でも一応魔法適性を勘案して、本物の初心者には薦められない収集地にしてくれたみたい。時々強い魔物が出るけど、その分薬効の高い薬草が生えてるそうよ。他にもいろいろ言われたけど、面倒なので適当に聞き流したわ。

ともかく、これで多少お金を稼げれば良いのだけど……。


 採集地までは歩いて1日かかる場所だったので、依頼を受けた後宿で一泊して、早朝に採集地へと向かったわ。

だけど私はクロイムちゃんの身体強化があるし、ミツルも獣人ソーンにおんぶしてもらったから、半日かからずに到着したの。おかげで採集も終わって、今は少し休憩中。

あまり早く帰るとギルドの受付さんに怪しまれるしね。悪目立ちは避けた方がいいのよ。

終わったのなら帰ろうよと言わんばかりの雰囲気を出していたミツルだったけど、それで納得してくれたみたい。ま、キャンプだと思えば楽しめるわよ。ホントは寝袋は嫌なんだけどね。


 そう、私はクソラノベの主人公と違って、目立たないと決めたら、ちゃんと自重できる人なの。

授業全サボしてても、大学に行くと決めたからには浪人してでも、予備校通ってでも勉強するのと同じよ。

 ……目が覚めたら予備校か、ちょっと憂鬱。こっちの生活が楽しいからね。

ま、いまやその勉強道具である参考書も、ミツルの暇つぶしに読まれてるんだけどね。


「ミツル、面白い?」

「うん」

「古典の教科書だけど、読めるの?」

「まぁね」

「へー、ミツルは私より賢いかもね」


 中学に入るちょっと前からかな。私は大人というか、権力というか……。なんかそういうのに抑えつけられるのがいやで、学校をサボっていわゆる不良ってヤツをやってたのよね。だからカバンに詰められた参考書も、中学生がやるものも入ってるの。だからミツルにはちょうど良かったみたい。


 そしてもう一方の獣人ソーンだけど、こっちもこっちで参考書を読んでたわ。

内容は……社会科の公民ね。あー……、世界史は見せないように隠しましょうか。奴隷解放運動とか読まれちゃうと、色々とマズそうだもの。


「ソーンは内容理解できそう?」

「ええ、文字は読めます。内容もとても興味深いです」

「そっか、いい暇つぶしになって良かったわ」


 それにしても、本というか、紙が貴重な世界なのに文字が読めるなんて、不思議な感じね……。


 ミツルによれば、この世界の紙っていうのは魔力を含んでいて、その影響で紙に書いた文字は内容が変わってしまうんだとか。

なら木に書けばいいってわけでもなく、命の宿るもの、宿っていたものに魔力は含まれるそうなの。

だから基本的に文字を書くなら石版になるみたいで、街にある看板なんかは全部石製だったわ。それはそれでオシャレだけどね。

 あとはギルドの依頼ボードなんかは、黒板が使われてたわね。チョークの原料は貝殻だった気がするけど、どうも化石になるくらい古ければ、魔力がほぼ抜けて影響もなくなるみたい。


 ま、そういう細かい事はともかく、そういった理由で魔力を含まない紙はかなりの貴重品らしいわ。

もちろんこの世界にも魔力を含まない紙を作る方法もあるらしいのだけど、三大ギルドのひとつ、魔導士ギルドが技術を独占してるんだって。独占……じゃなかったわ、他にできる技術力を持つ人が居ないって話だっけ? ま、私にとってはどっちも同じよ。


 そして本や紙が貴重な事による弊害、それは技術や文化の停滞らしくて、そのせいで私の住んでた世界よりかなり技術や文化水準も低いみたい。高度な研究には成果を書き留めるノートと資料が必要って事なのかもね。

まあ、異世界人のもたらしたものがあるから、そんな制約がある割には発展してる方だと思うけどな。


 そういったこちらの世界の話を頭の中で整理していたら、突然クロイムちゃんがビクッと反応したの。同時にミツルのカラスも、何かを察知したのか一点を見つめていたわ。


「何か……来るの?」

「あまり良いものではなさそうだね。茂みに隠れよう」


 三人で隠れて見ていれば、そこに現れたのは五枚の花弁を持つ、宙に浮く花のようなものだったわ。

けれどその材質は何かの結晶のようで、五枚それぞれが赤、青、緑、黄、紫に染まっているクリスタルみたいだったの。

その中心にはそれらを繋ぐような、透明なクリスタル。中には小さな5つの結晶が見えたの。


「なにあれ?」

「おそらくエレメントかと思われますが……。属性がわかりません。あんなエレメント初めて見ます」

「変異種だろうね。普通なら単色か、上位種でも二種がいいとこなのに、あれは五種もある」

「それってヤバいの?」

「うん。属性が多いほど弱点が少なくなる……というか、弱点を補えるようになるからね。

 属性相性は赤が青に強くて……」

「もしかして、赤青緑が三すくみで、黄色と紫が対立してる関係?」

「あ、お姉ちゃん知ってたの?」

「まぁね」


 それって、スマホゲームにありがちな属性相性じゃない……。おかげで理解しやすいけどね。


「で、どうしよっか?」

「逃げましょう。五属性持ちなど、どうすることもできません」

「んー……。でもあの魔石は魅力的だよねぇ……」

「魔石?」

「ほら、真ん中の透明なやつの中に入ってる石。あれが魔石。

 魔物の心臓部で、あれを介して魔物は魔力を制御してるんだ」

「へー、つまりあれを砕けば倒せるわけね。簡単じゃない」

「まぁそうなんだけど、それを傷つけず手に入れられたなら、魔物の魔力を丸まんま手に入れられるんだ。

 だからかなり高額で取引されるものなんだよね」


 それって……。まさかとは思うけど、あの魔石を売ってソーンで出した損失を穴埋めしようとしてる!? あっ、そーんのそーんしつ……なんでもないわ。


「方法は?」

「お、お姉ちゃん乗り気だね」

「お待ち下さい! あまりにも危険すぎます!」

「金貨9万枚の穴埋めには必要よ」

「うぐっ……」


 直接言うのも気が引けたけど、だからって黙ってる訳にもいかないよね。こういう本音は、対立の原因になったとしても、言い合う方が良いと私は思うの。

それにソーンをやる気にさせるには、これ以上ない理由だもの。


「……では、私が囮になります。その隙をついて、主様が攻撃を……」

「その前に、魔石以外を攻撃してダメージは通るの?」

「周囲の五枚のクリスタルを砕けば倒せるよ」

「それは魔法で? それとも剣?」

「どっちでもいいけど、剣のほうが魔石ごと破壊しちゃうリスクは少ないかな」

「わかった。ソーン、安全第一よ。損失を取り戻すより、あなたを失う方が私達には痛手なの。だから無茶はしない事」

「はい。承知いたしました」

「俺がソーンの補助に回るから、お姉ちゃんも無理しないでね」

「わかってるって、お姉ちゃんに任せなさい!」

「うん。それじゃ、属性説明だけ最後にしておくから」


 相手は魔法で攻撃してくる魔物。もし攻撃された場合の対処法を知っておく必要があるし、相手への攻撃法も覚えておかないとね。


 相手の攻撃を打ち消すには、その攻撃に有利な魔法をぶつける。赤の攻撃には青、青には緑……。

だけどエレメント本体は、同じ属性を当てるとダメージどころか回復してしまうらしいの。

だから剣での攻撃を諦めた場合も、それぞれの五枚のクリスタルには、違う色の魔法をぶつけないといけないらしいわ。もちろん有利色の方が効果は高いようだけどね。


「クロイムはかなり優秀だけど、お姉ちゃんが理解しているといないとでは結果に大きな差が出るからね。人任せにしないで状況を見てね」

「クロイムちゃんは人じゃないけど……。わかったわ」

次回、最も苦手とするバトル描写。

全カットしてもいいですか? だめですか。


次回:「06.「同時に複数属性の魔法を!?」と驚かれがち」

1月6日19時更新予定!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ