表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/36

02.亜空間にアイテムしまいがち

「うぅ……ひどい目にあった……」

「あらあら。目が覚めての一言目がそれなんて、お姉さん悲しいな」

「いやホント、もう過剰なスキンシップは勘弁してください……」

「うーん、じゃあ今やってる膝枕はダメなのかな?」


 その言葉で男の子は状況を把握したみたいで、びゃっと飛び起き、私から距離を取ったんだけど……。そんなに嫌だったのかな? うん! 恥ずかしがる所なんか可愛い! もっとイジめたくなっちゃうね。

 あ、それにしてもこの子誰なんだろう? 年齢的にも一人でこんな所をうろうろしてるのは変だと思うんだけど……。でもでも、こういう時はまず私から名乗らないとね。お姉さんとして!


「私、辻美雪。気づいたらこんな所にいたんだけど、それより君の事教えてもらえる?」

「えっ……。気づいたらこんな所に居たって人が、気になるのがここがどこかより、俺の事ですか」

「うん。だってここがどこかなんて、別に興味ないもの」


 こういうのはクソラノベ的に考えれば、小さな村の近くの森だとかそういうものよ。そして中世ヨーロッパ風なんていう「中世のヨーロッパそんなんじゃないから!!」って言いたくなる謎の世界観の村に案内されるってのがお決まりなのよ。

 だから何よりも重要なのは登場人物の把握! できるならお決まりの奴隷を仲間にするイベントはこなしたい! なので彼が奴隷であると私は嬉しいわ。


「まあいいか。俺はアスク。ちょっとワケあって一人で旅してるんだ。あ、一人と一羽か」

「へぇ、そうなんだ」


 キタわ! 来たわこの展開!! ワケ、それはつまり逃げ出した奴隷って展開よね!!

 ん……? それにしては身なりが綺麗すぎる気がするけど……。うーん、でもここで聞き出すのはどうなんだろう?

読者に対して彼は何者なのかって期待させる展開かもしれないし、もしかするとどこかの王族で、反乱軍に追われてるとかそういうパターンもあるわね。うん、今後に期待って事で触れないでおきましょう。


「ところでお姉さん、ツジミユキなんて珍しい名前だね。なんというか、呼びにくそうな長さで……」

「そうね、フルネームで呼ばなくていいのよ? 美雪お姉さんって呼んでね?」

「それも珍しいね。愛称だったら、頭から取ってツジミお姉さんになりそうなもんだけど。それにフルネームって何?」

「え? だって辻は苗字だもの。あんまり呼び方に使う事はないんじゃない?」

「苗字……? もしかしてお姉さんって異世界人? 気づいたらこんな所に居たって言ってたし」


 まさか!? まさかの展開よ!? ここでどうして異世界人だとばれるの!?

そんなテンプレから外れる展開ダメでしょ! もしかするとそういうクソラノベもあるかもしれないけど!

ん? でも考えてみれば、いきなり異世界人かどうか聞かれるって事は、もしかするとこの世界には他にも異世界人が居るって事なのかな?


「アスクは異世界人にあった事があるの?」

「うん。この世界にはそれなりに居るよ。こっちでは名前しかないから、苗字を持つ人は異世界人なんだ。トラブルになるから隠す人も多いけどね」

「そうなんだ。うーん、私もよくわかってないけど、多分異世界に来ちゃったんだと思うの」

「そっか。それは大変だったね。もし良かったら、しばらく一緒に旅しない?

 俺も一人よりは二人の方が楽しいし、こっちの世界に慣れるのに案内役欲しいでしょ?」

「えっ? いいの? でも私何も持ってないよ? お礼もなにもできないけど……」

「俺は別にお礼なんていらないけど、色々買わないといけないからお金は必要かもね。そのカバンは?」

「うーん、お金になりそうなものはないかな。参考書ばっかりだし」

「参考書? 本って事だよね? それじゃあ、それを俺が借りるってのはどう?」

「借りる?」

「うん。レンタル料を俺が払う、それでお姉さんは買い物とかすればいいよね。

 少なくとも……武器や防具は必要だと思うな」

「でもいいの? ただの本だよ?」

「本はこの世界では貴重なんだ。それを貸す商売は、ひと財産築くのに十分だよ」

「へぇ~」


 いい、実に都合がいい。たまたま持っていたものでお金を得る、これぞクソラノベ展開よね!

それにこの子、私に本のレンタル料を払うって事は、それなりにお金を持ってるって事よね。だってひと財産築けるって言うくらいだし、かなりの金持ちと考えたほうがいいわ。

ってことは逃亡奴隷ではなさそうね。貴族か、もしくは王族の線が濃厚ね!

そして追いかける反乱軍を私が成敗! そういう筋書きね!


「大丈夫よ! アスクは私が護るから、全部お姉さんに任せなさい!」

「えっ? 何の話?」

「とは言っても、武器もない私が戦うのは無理があるわね……」

「それなら俺が持ってるのを使うといいよ」

「あら? 武器なんて持ってるの?」

「うん。普段は使わないけどね」


 そう言ってアスクは背負っていた小さなリュックを開き、中を探るんだけど……。多分こんなリュックに入ってるくらいだから、短剣なんでしょうね。

もっとこう、ドラゴンの首をばさっと斬りおとせるような剣でないと、挿絵が映えないんだけどな。ま、それは後で買う事にしましょう。

なんて考えてたけど、その後の展開はちょっと予想外だったわ。


「あ、これこれ」


 そう言って取り出されたのは、長さ1mほどの剣。って、いやいや待っておかしいでしょ!?

リュックはどう見ても深さ50センチくらいしかないよ!? どういう事!? 何、私は手品でも見せられてるの!?

でっ、でも、ここはお姉さんとして驚いている様子は見せられないわ。


「うん、ちょっとまって。そのリュックからどうしてそんな長い剣が出てくるの?」

「え? だってこれ、亜空間バッグだもん」

「へ、へぇ。この世界ではそういうのが普通にあるのね……」

「あ、普通じゃないよ? このカバンは前に会った異世界人からもらって、それを使いやすいように改造したものなんだ」

「ふーん、便利そうでいいなぁ……」

「お姉さんも異世界人ならできるんじゃない? やってみてよ」

「うーん、でもどうやるかも分からないのに……」


 簡単に言うけどやりかたも分からないものを、どうやれって言うのよ。せめてお手本があればいいんだけど……。それにそんな事ができるなら、私の参考書という名の重石を今頃そこにしまってあるわ。


「そっか。んーっと、じゃあスライムに頼んでみたら?」

「え? スライムに頼むの?」

「うん。多分魔力の制御が理解できてないだけだから、それをスライムに頼むの。

 魔物はそういうの得意だからね」


 なるほどなるほど、魔法を使うにも魔力があればいいってもんじゃないのね。

ちゃんと魔法の使い方を学ばないと、例え魔力があっても何の役にも立たない。意外としっかりした世界観じゃない。適当に呪文を唱えればいいって世界ラノベよりは好感が持てるわ。


「わかったわ。それじゃあクロイムちゃん、お願いできる?」


 返事……かどうかはわからないけど、クロイムはぷるぷると体を揺らして、にゅるにゅると私のカバンを包み込むように覆う。

そして体と同じ黒いオーラを一瞬放ったかと思うと、さっとその身をカバンから離したわ。

うーん、見ためは変わってないけど、これでできてるのかな?

確認のためにファスナーを開けてみると、その先には黒一色の空間が広がってたの。


「えっ、参考書がない!」

「どれどれ? あぁ、成功してるみたいだね。

 取り出したいものをイメージすれば、亜空間から取り出せるよ」

「へぇ……まるで四次元ポケットね」

「重さもカバンの分だけになって便利でしょ?」

「そうね。でもこれどれくらいの物が入るのかしら?」

「さあ? 入れれなくなるまで詰め込めば分かるんじゃない?」

「そうね、今は分からなくていいよね。いざとなったらその時考えましょうか」


 うん、それにしてもこれでアイテムBOXゲットね。いい滑りだしじゃない。

そして旅の目的はアスクを護る事……。ちょっと弱いわね。

異世界転移系なら、ここは魔王の討伐であるはずよ! よし、魔王を探してその首取ったるわ!


「ねえアスク、魔王はどこに居るの?」

「え? 魔王? 魔王なら6年ほど前に倒されたけど?」

「そっ……そんなあ!?」

都合よく資金やアイテムを入手する展開もたやすくこなす。

これぞなろうあるあるではないですかね。知らんけど。


次回:「03.チンピラ絡んできがち」

1月3日19時更新予定!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ