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01.スライム仲間にしがち

 ねぇねぇ、異世界転移小説で電車に乗ってたら、知らないうちに転移しちゃったって始まり、ある?

どうやら私の場合そんな始まり方だったみたい。


 私、ツジ美雪ミユキ19歳。現在浪人生。いつも通り電車で予備校に向かってたら、知らないうちに転移しちゃったみたい。

めずらしく座れたからうとうとしてたんだけど、次の瞬間には見知らぬ林の木の根元でうたた寝してたの。

暖かくて、木洩れ日が優しくて……。うん、二度寝しよう。どうせ夢だしね。もう一度寝たら目的地の駅に着いてるよね。


 こんな夢を見るのも、きっと昨日買ったラノベのせいよ。うっかりレビュー動画を見て買っちゃったけど、クソラノベと酷評されているだけあって、終始苦笑いしか浮かばなかったわ。

だいたい転生・転移モノって、トラックに引かれたり、神がうっかり落とした雷に打たれたり、あとはガチャで爆死して転生とか、そういうのがお決まりでしょ? 最初っから外しにきてるとか、この夢はクソラノベよりクソよ。そんな所で奇をてらうなら人外転生の方がインパクト大よ! スライムとか、蜘蛛とか、まくらとか、ね!


 ま、そんな事言ったって仕方ないし、さっさと二度寝しましょ。

そう思って、1ページに1回ダメージを与えてくる拷問器具と呼べる、参考書の詰まったカバンを抱き枕に寝ようとした途端、「バサバサッ! ガァガァ!」と、やかましいカラスの鳴き声が耳に入ってきたの。


 まったく、寝ようとした瞬間これよ。目がさえちゃったじゃない。

うん? 夢で目がさえるって変な話ね。でも気になるし見に行ってみようかな?

よっという掛け声とともに起き上がり、ジーンズに着いた土を掃う。あ、服は家を出たときと同じなのね。

ジーンズと桜色の肩見せトップス。ちょっとふんわりしたトップスのシルエットと、すらっとしたジーンズのシルエットに衝動買いしたお気に入り。店にあったそのまんまのコーデだけど、私は自分で組み合わせられるほどそういうセンスないからそのままの方がいいの。

肌寒いと困ると思って持ってきたトレンチコートが見当たらないけど、今は寒くないし別にいっか。きっと電車の中は暖かいのね。

 ズッシリと重いカバンを肩にかける。この辺夢なんだからもうちょっと融通を利かせてほしかったわ。

でも置いていくのも嫌だし、重いけど持ってカラスの声のした方へ行きますか。


 うららかな日差しの下林を歩いていけば、一羽の大きなカラスが何かを足でつついている所に遭遇。

うーん、あまり良いものをつついてるとは思えないのだけど、見に来たのに確認しないのもね……。

それになにより妙に暴れてるのも気になるし、罠にかかっての事なら助けてあげたいしね。


 そう思って近づくと、その足元には黒いヘドロ……? ゼリー状の何かが落ちていたの。

もしかしてアレって! もしかしなくてもスライムよね!?

そうよ、そうそう! 転移系主人公が仲間にするか、人外転生と言えばスライムよ!

これこそ私が求めていた展開! こうなったらカラスを殴ってでも助けないとね!


 ちょうどよく近くに落ちていた木の枝を持ち、私は「おりゃー!」という掛け声と共にカラスに向かってフルスイング! けれどカラスはひらりと身をひるがえし、空へと逃げて行っちゃった。

スライムを助けるのが目的だから、仕留められなくてもいいんだけどね。


「スライムちゃん大丈夫?」


 その声にスライムの返事はなかったわ。そりゃそうか、スライムが喋るわけないもんね。

うーん、助けたはいいけど、どうやって仲間にすればいいんだろう? でもこういう時は、小動物と同じで相手が来るのを待つべきかな?


 お手をさせるように、近づきすぎず遠すぎずの所に手を差し出して、チョイチョイと指でおいでおいでってするの。猫相手だと効果ないけど、犬なら大体これでイチコロよ。

敵意がなければ相手から近づいてくるだろうし、ダメなら逃げるでしょ。

そう思って手を差し出したんだけど……。


 おっそ!! この子の動きめっちゃおっそい!! カタツムリかナメクジの方がまだ幾分素早いわ!!

でもでも我慢よ我慢! じっと耐えるのよ美雪! 相手を尊重できないなんて、テイマー失格よ!!

 そんな脳内ツッコミを繰り広げつつ待つこと数分……。いえ、数十分かも。

スライム未だに手に触れられる様子ナシ! あと数センチってトコなんだけどなぁ……。


 そうこうしていると、茂みからガサガサっって音がしたものだから、スライムもびっくりして引っ込んじゃった。進むのは遅いのに戻るのは素早いのね!


「えっと……。君、何してるの?」


 その声に茂みの方を見れば、声の主は朱色の髪の少年だったわ。長くもないのに髪を後ろで一つにまとめてしばってるもんだから、なんだか雀のしっぽみたいでかわいい髪型をしてて、ベージュの丈夫そうな布地の長袖長ズボン。背中には四角くて小さいリュック。なんだか探検家っぽい雰囲気がある姿。


 背格好は中学に入りたてで、まだまだ制服に着られてるくらいの子の雰囲気。でも幼い感じはしないから、小学生には見えないわね。

そして何より目立つのが、彼の右肩にとまるカラス……。ってそのカラスさっきのカラスじゃない!


「あとちょっとだったのに!」

「えっ、ごめん。邪魔しちゃった? ってスライムに何してるの?」

「何って、手懐けようとしてるんだけど」

「……どう見てもそのスライム、お姉さんを食べようとしてるよ?」

「ええ!? まさか!?」


 いやいや、そんなわけないでしょ!? 食べようとしてるならもっと素早く動かないと逃げられちゃうわよ!?


「もしかしてそのカラス……横取りされたから邪魔したの?」

「そういうわけじゃないけど」

「じゃあ放っておいて。私はこのクロイムちゃんを仲間にするのよ!」

「クロイム……?」

「そう! 黒いスライムだからクロイムちゃん! いい名前でしょ!?」

「あーはい。 (どうでも)いいですねー」


 何か小声の早口で聞こえた気がするけど気のせい気のせい!

さっ、クロイムちゃん! こっちへおいでー!! と手を伸ばしたのに、怖がって動かなくなっちゃった。


「もう! 君が邪魔するからだよ!?」

「えぇ……。うーん、じゃあテイムするの手伝うよ……」

「え? 君テイマーなの?」

「まぁ、知識はあるって程度。このカラスも使役してるしね」

「なら早く言ってよー! ねねっ! どうやったらテイムできるの?」

「あー、その前に悪意のあるモンスターか鑑定しないと……。

 俺がやるから近づかないでね。気が散るから」


 えー、つまんないなー、とは思ったものの、私じゃやり方分からないし見てる事にしましょうか。

彼が何かボソボソと呪文のようなのをつぶやくと、スライムの足元に魔法陣が現れて、ぷるぷると黒いスライムが震えてる。

うーん、見た感じいじめてるようにしか見えないけど、これがテイムに必要な魔法なのかな? 逆らえなくする呪いみたいなものなのかもしれないね。

それをぼーっと見てると、魔法陣はすっと消えてスライムが私の方へとぬるぬるやってきたの。


「鑑定とついでにテイムもしておいたよ。これでこの子は君のものだ」

「あら! ありがとね! よしよし、いい子いい子してあげよう!」

「ははは、お姉さんスライムが好きなんだ……もごっ!?」


 もちろんいい子いい子するのは、テイムしてくれた可愛い男の子だよ!

へへへ、お姉さんの豊満な胸に顔をうずめて嬉し恥ずかしの思いをするのだー!!


「もがもが……もが……」

「へへへ、私弟が欲しかったのよねー! よしよし頭もなでなでしちゃうぞー!」

「もがが……」

「嬉しいだろ嬉しいだろー! 特別サービスなんだからね!」

「……」

「……へ? うわー! しっかりしてーー!!」


 私のなでなでから解放された男の子はぐったりしてたわ。えっと、息はしてる。うん、大丈夫。

きっと嬉しくて気を失っちゃったのね! へへへ、今度は起きるまで膝枕してあげよっと!

クソラノベを自称するならもっと改行連打して、

空間の匠と呼ばれるほどの余白を入れないといけないよなぁ……。

なんて思いながら第二話へ続く!


次回:「02.亜空間にアイテムしまいがち」

1月2日19時更新予定!

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