凛理
それは寝ても覚めても色褪せず、眼球にこびり付いた名前。
凛理。
りんり、と呼ぶ。
腰まで伸び、三つ編みで纏められた艶のある髪。
整えられた後頭部。
しかし首の下は模糊とし、服装は全く窺い知れない。
分かるのは、その頭の持ち主がまだ若い、ということ。
未熟な女、だということ。
私は呼ぶ。
凛理。
凛理。
りんり、と。
声にならない言葉は文字となり、墨の様な滲んだ黒で、現れる。
凛理が遮る。
大小、濃淡、形の違う二文字が、霧に貼りつけられた女を隠す。
もどかしさは声を大きくし。
文字を大きく、色を濃くする。
凛理がりんりを、覆い隠す。
りんり。
りんり。
りんり。
何度呼ぼうと。
声色を変えようと。
泣こうが喚こうが怒ろうが。
りんりは振り返らず。
凛理が視界を蹂躙する。