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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
王都編
96/148

オーブの来訪と最終試練

 ノーラの部屋から戻って自室で腹ごなしをするとハルトは軽いトレーニングを始めた。

 これぐらいなら大丈夫。

 体と相談しつつ過負荷にならないように気をつけながら汗を流しているとTバードのメッセージ着信音が聞こえた。空中ディスプレイを立ち上げてみるとオーブからのメッセージだった。

『調子はどうだ? 生きているか?』

 生きてるか?って酷いな。でも心配してくれてるんだよな。

『何とか生きてますよ』

 激励とも叱咤とも取れない内容に抗議するわけでもなくハルトは簡潔に返信した。試練は越えていないが中級騎士の中でも上位になっている今では多量のマナを消費するTバードを使う余裕がある。

『そうか。明日王都に向かう。ゆっくり飯でも食おう』

 またご飯のお誘いかぁ。みんな俺にどんだけ食べさせたがるんだよ。

 そう思いながらもオーブの気遣いだと分かっているハルトは『お会いするのを楽しみにしています』と返信した。


 翌日の陽が暮れる前にオーブがハルトの部屋を訪ねて来た。自ら飛甲機を操縦し王宮に到着して手続きを終えるとすぐにハルトの部屋に向かって来たらしい。

「調子はどうだ? 大変だろ」

 上級騎士であるオーブ・アントナーラは豪快に笑いながら言い、ハルトは強がるわけでもなく弱気になることもなく淡々と状況を伝えた。領主であることを表すオーブの名をいただきつつも屈強な戦士でもあるオーブは我が子を見守るように耳を傾ける。オーブが試練を乗り越えた先輩であることはハルトはこのとき初めて強く意識した。オーブからハルトに幾つかのアドバイスが伝えられてゆく。

「まず何より体調を整えるのが先決だ」

 武闘派のオーブらしいな、と思いながらもうなずくハルト。しかしオーブが妻をなくしてから試練に臨んだことが明らかになったときには二人の表情は真剣そのものになっていた。淡々と語るオーブだが当時の感情がどれほど壮絶なものなのか今のハルトには痛いほどよく解った。

 この人はそんな重いものと向き合って乗り越えたんだ。

「これでも昔は繊細な男だったんだぞ。そうとも言ってはいられなくてこういう男になったわけだが……」

 正義感が強く豪快なオーブ。そうとしか思えないオーブが実は若い頃はハルトに似て繊細だったと語る。にわかには信じがたかったが、経験がオーブを今のような強い男にしたのだとハルトは知った。

 いかにして試練に臨むのか? ヒントを貰ったような気がしたハルトが気持ちの整理を終えると、少しだけ緊張を緩めたオーブからアントナーラの状況が報告されてゆく。その滑舌は快活さを感じさせる雰囲気からは程遠い。先程が固く強くならば、重く得たいの知れない霧のようなものと対峙するかようにオーブは事件後の進展を語った。

「やはりニンディタの勢力が相当数ハシュタルに入り込んでいるってことですね」

「蟲を使った襲撃の主犯はニンディタで間違いないだろう。非難声明を突きつけてやれるほどの証拠を掴めていないのがもどかしいが。セルドと息子のスネイルにも指示を出したのが誰なのか名前までは知らされていない」

 セルドとスネイルは厳しい取り調べに音を上げて白状したがその先には繋がらなかったという。

「ニンディタでの子供のいる家庭への補助制度を利用した拉致の件は俺ではどうにもならん。今回王都に来たのはアンナ様の調査状況を聞きたくて来たのもある」

「胤月さんと焚哉が王宮に戻ってきたらキラナでの調査状況を聞けるんですけどね。キラナにも拉致されたと思われる家族が相当数いるようです」

「キラナとニンディタは犬猿の仲だが直接国境を接しているからな。民間で密かにやられたら阻止できないだろう。王と王妃とも話してニンディタへの移住許可申請の審査厳格化が成立すれば良いのだが、はいそうですか、ではそうしましょう、というわけにもいかない」

「オーブも大変ですね」

 ハルトは『なぜアントナーラは襲われた? お前のせいではないのか?』という神々の声を思い出したがあえて話題には乗せなかった。

 事後のあらましを語り終えたオーブに迷いは全く見えない。

「私の領地の子供を拐ったのだ。しっかり対処して必ず取り戻してやる。キラナとも直接連携を取りたい。二人が帰ってくるまで王都に滞在させてもらうつもりだ」

「結構かかりますよ? 仕事は大丈夫なんですか?」

「ここには今週末までの少し遅めの夏期休暇を使うつもりで来たのが、そこから先は仕事だ。引き継ぎもしっかりして来たぞ。ラフィー様からの奥森の調査報告にはまだ間があるし、ハルトの上級騎士認証式にも参列したいからな」

「プレッシャーをかけないで下さいよ」

「大丈夫だ。お前ならやれる」

 はっきりと言い切ったオーブからは信念のようなものが滲み出ていた。ハルトは自信を貰ったような気がして闘志が湧いてくる自分を感じていた。

 簡単に影響されすぎかな? 俺。でもオーブは試練を越えてるんだ。前とは見方が変わった。こんな人が俺を買ってくれてたのか。

「よしっ、ということで飯だ飯。何ごとも食わんと始まらん。行くぞ、ハルト」

 お忍び仕様の服装で王宮を出た二人はオーブが若い頃によく通ったという料理屋に入り、ハルトはオーブにしこたま肉を食べさせられた。「身体を作るには肉だ、肉。がははは」もりもりと平らげるオーブにつられてハルトの腹はどっかりと重くなった。

 

 翌朝、ハルトの隣に部屋を得たオーブがハルトの部屋に入ると二人で朝のトレーニングに汗をかき。朝食を終えるとカッツェを警護に伴っ三人はフォルマージュのサポート機であるイカルス、サジウスの開発工房に視察に向かった。キザイアのフォルマージュ・イリスのサポート機となるイカルスも完成間近までこぎつけ、ヘラクレスオオカブトの素体を使用した立派な角をたずさえた白い中型機がハンガーで調整を受けている。マティスとグレースに割り当てられるサジウス型の一機は訓練飛行に出ているようだ。片方のハンガーが空になっているペアにハンガーの横にはもう一つ実験機として作られたサジウス型がたたずんでいる。グレース自身もサジウスをかなり乗りこなせるようになっているとミック達の作業を監督するハロルドから伝えられた。

「奴の向上心はなかなかのもんじゃ。総長に認められるだけのことはある。機体に対する理解と改善要求も的確じゃ」

 同型機であるコーカサスオオカブトの素体の三本角の漆黒の機体に目をむけらがらハロルドは言う。

「マティスもハルトの試練に付き合って、時間と気力を削がれながらも機体に馴染んできておる。フォルマージュとサジウスの分離から攻撃体制へ移る速度をグレースと競い合っとるわい」

「俺も負けてられませんね」

「お前の開発はアバターシュがメインじゃ。サポート機はミックに任せておけば良い。飛甲機に関してはもうわしの出る幕はなさそうじゃ。あいつも伸びとるよ」

 ハロルドとハルト達の会話が聞こえていたのだろう。作業服姿のミックがめずらしくハルトに向かって親指を立ててみせた。

「そのアバターシュを見てみたいのだが」

 そわそわとするオーブに「そう言うじゃろうと思うて段取りはしておいた。あっちに行こう」言ったハロルドが先導して一旦工房を出る。アバターシュの開発工房とイカルス、サジウスの工房は第二開発工房を仕切って二つに分けたものだが直接出入りすることはできない。サポート機の開発工房よりも厳重な警備が敷かれるアバターシュ開発工房の入り口で許可証を提示したオーブと二人が中に入ると全高六メートルを超えるのアバターシュを収納したハンガーが赤く淡い光に包まれていた。

 飛行ユニットのテスト中か。

 ハルト達がハンガーに近づくと白衣を着たノエルが振り向いた。エレオノーラから正式に開発担当者として任命されたノエルはエレオノーラの影武者として工房にくる必要はなくなっている。周囲の技師達がノエルに伺いを立ている様子からノエルの知識が開発に大きく貢献していることが分かる。

「お久しぶりです。オーブ・アントナーラ」

 板についてきた貴族の礼をノエルがオーブに送ると破顔したオーブが答えた。

「新しい世代の活躍に目を見張るばかりだ。俺の直感は間違ってなかった」

「思い込み、とも言うがな」

 とハロルドが笑う。

「何にしてもハルトを巻き込んだことは正解だった」

「巻き込まれたんですか? 俺」

「仲間になった、ということだ」

「まぁ、ハルは巻き込まれ体質ですからね。昔から」

「そうなんだ……」

「そうなんだ、ってなに他人事みたいなこと言ってるの? 飛甲機を作ったのだって女神様達の都合に巻き込まれたようなものでしょ?」

「そう言われればそうだな」

「ノエル、ご苦労だな。アントナーラの人間が活躍していて私も鼻が高い。進捗はどうだ?」

「はい。今、飛行ユニットの省力化に入っています。飛ぶこと自体はもう出来るんですけどもっと少ないマナで行動範囲と稼働時間を伸ばせるように改良しているところです」

 白衣を着たノエルは髪の毛と同じピンク色の伊達メガネを触りながらバインダーに挟まれた書類に目を落とす。技師らしい格好をしたいというのと、エレオノーラとの印象の差異を強調するためにノエルが考えだしたスタイルだ。猫耳は仕事中はおろか工房にすら持ち込まないことになっているようなのだが、かなり良いものが出来たらしい。しかしハルトにはまだお披露目されていない。

「作業が一段落したらアバターシュに乗ってもいいかな?」

「乗ってみて欲しいぐらいだけど体はだいじょーぶ?」

「昨日、一昨日おとといと沢山食べたし平気」

「なら、お願いしようかな」

 ノエルはハルトから向き直り、ノーラと同じピンクの髪と桃色の瞳でアバターシュを愛おしそうに見つめる。

 中世の騎士の装甲と生物学的なフォルムが融合した人型魔導ガーディアン、アバターシュ。

 頭部はギリシャ兜を彷彿させる精悍なデザインで、モヒカンの様相をなす頭頂のクレストは飛行ユニットを制御するアンテナとしての機能を兼ね備えている。頭頂に立ち上がる多数の線はそれ一本一本がマナの青い光だ。最前部が特に長くなっていて昆虫の角のようにも見える。ボディ全体はハルトの意向により薄いブルーを基調にして塗装されている。燐粉が混ぜ込まれた塗装がパール塗料のように玉虫色に微妙に色を変えてながら輝きを放ち、要所々々の濃いブルーのパーツとの対比が美しい。その上に王都の威信を表すような黄金の燐粉細工で装飾が施されることになっているため完成形とはまだ言えない。

 薄紫でカブトムシの角だとオーラバトラーになっちゃうからな。騎士の雰囲気がもっと強いからイメージは大分違うものになった。でも足首から下が魔獣の爪なのは似てるか。空中で何かを掴んだり蹴りの攻撃力を上げるのには有効だから断り切れなかった。

 足首の形状である足趾そくしをどうするのかはけっこう揉めたのだ。機能性を優先させて二本の指が前後で対になった鋭い四つ爪が猛禽類を思わせる。自立飛行を目指して開発されているアバターシュだが長距離移動に使われるサポート機とのロックや自然界での接地有効性と蟲への攻撃などを総合的に判断して飛竜の足首が選択されることになった。

 アバターシュの動力源とその伝達設計はノエルの知識によるところが大きいが、全体の設計思想にはハルトの知識によるところが大きい。男冥利に尽きるといってもいい人型の機体にハルトが強い愛着を抱くのもうなずける。

 パイロットスーツに着替えたハルトは皆と共に作ってきたアバターシュを見上げる。

 性能面でも飛甲機を大きく凌駕するものにする。フォルマージュの廉価版どころか対等に戦えるものにしてみせる。ノエルやミック達と励まし合って作ってきたものだ。環境を整え、知識を提供することで支えてきてくれたノーラやハロルド、カッツェや焚哉の協力もあって少しずつ形になってきたアバターシュにハルトは乗り込む。

 コクピットハッチがマナの力によって閉じられると意識を伝達する液体がハルトの周囲を満たした。モニターが起動し視覚を得たハルトはアバターシュを数歩前進させてハンガーから出す。ボディーの背後に装着された飛行ユニットの甲殻の翼が持ち上がり、膝裏に届こうかという半透明の長い後翅うしろばねが振動する。巨大な甲冑を支える足首が床から離れてて宙に浮いた。その状態で腰に装着された鞘から剣を抜いてマナを流す。刃先に光が宿る。刀紋がマナの光で描かれた長剣が蒼穹色のボディーに写り込んだ。

 モニターにノエルの姿が映り声が聞こえてくる。Tバードを応用しハロルドが開発した通信機能だ。

「飛びながら剣にマナを流したときの負荷はどう?」

「前回みたいに違和感を感じることはなくなった。これなら意識に影響を及ばさない。集中力が途切れるような違和感は感じないな」

「剣に流すマナと飛行ユニットのマナの伝達経路を分離したからね。でも飛ぶことに集中しすぎると剣の方にマナが回らなく可能性があるから今日はその辺をチェックしたいんだよね」

 タブレット型の通信機に目を落とすノーラの姿がモニターの中にある。ハルトの視線を移動する意識とアバターシュがリンクしてモニター映像も移動してゆく。モニターの中にオーブの感嘆とした表情が入ってきた。カメラを引くように意識するとオーブと数値を確認するノエルを守るように背後を固めるカッツェの姿も入ってくる。

「でも、まだだなぁ。まだ詰められる。もう一度調整するから一度降りてもらえる?」

「了解」

 ハルトがノエルに意識を戻した瞬間に映像は大きくノエルを映し出していた。モニター環境は完璧に機能しているようだ。

 飛行ユニットから送られる後部の映像を見ながらアバターシュをハンガーに収めたハルトがコクピットを出ると、満足そうな顔をしたハロルドといまだ興奮さめやらんというオーブに迎えられた。ハルトはノエルに「すまないな、ノエルにばっかりやらしちゃって」と謝ったが「ハルのアイデアで道筋が見えたからね。細かいことはやっとくからハルは試練に集中すればいいよ」と、笑顔で返してからノエルはすぐに次の作業を指示するためにハンガーに取り付く技師達に向かって行った。

「飛甲機のときもそうだったが実際に見ると凄いな。まるでアントナーラの精神が形になったようだ」

「そのセリフちょっとやばいです。どっちかというと反逆者が言いそうな感じなんで」

 興奮マックスのオーブをいさめるハルト。

 無意識なんだろうけどやっぱこういうセリフが出てくるんだな。面白い。

「そうか、つい、な。しかし残念ながらこれほどの施設を作る資金や人材的は今のアントナーラにはない。私はアントナーラの領主だがこれが人の世のためにあるのだからそれでいい。アントナーラの人間が中心になって編み出したという事実だけで十分だ」

「オーブはしばらく滞在するんじゃろ? その間にも改良は進む。もっと驚かせてやるわい」

「期待しているぞ」

「珠絵もおるでな。射出機の進歩も目覚ましい。ハルトは体力と使うマナの量と相談しながらもうちょっと付き合え。わしはオーブに射出機の方を見せてくる」

 あえて銃と呼ばず射出機と呼び続けるハロルドは、オーブを連れて研究室に向かった。ハロルドの研究室を中心に開発が進む射出機開発には珠絵が大きく貢献している。二人を見送ったハルトはアバターシュの開発に携わることで試練に対する気力を回復させていった。


 その夜ハルトは、オーブ、ハロルド、ノエル、カッツェ、ミック、デニスとアントナーラに縁のある面々と共に食事をした。オーブと共に乗ってやって来ていたデニスは「気なることがありまして先に調査に入っていました」とハルトに挨拶が遅くなったことを詫びたのだが「オーブの命があったのもありますし特に気にしてませんから」と返したハルトに、ハシュタルとニンディタの勢力を牽制してますから安心して下さい、と伝えた。

 オーブからはアントナーラの飛甲機事業は順調でその反応すざまじく、開発母体であるクスノキ・パッカードに何としてでも取り入りたい他領の貴族達からの馬車の注文が絶えずにパッカード商会を困らせているくらいだと伝えられた。ロダの家族も大忙しですよ、デニスが伝えるとハルトとノエルは見合って笑みを浮かべた。

 懐かしさを感じる時間を過ごしているうちに再びハルトが試練に挑む日の朝がやってきた。ハルトは床に腰を下ろし瞑想を始めた。焚哉に教えられたように呼吸だけに意識を向けて心の中から余計なものを取り除いていく。ゆっくりと時間が溶けてゆくような感覚に浸って心を落ち着け、集中力を高めると部屋を出た。

 わざわざハルトの部屋を訪ねて見送りに来たノーラと一緒に神殿に向かう道すがら、ふとハルトは尋ねた。

「ノーラ、神殿長の女性を知ってる? 紺色の髪で金眼の」

「知ってる知ってる。あの人絶対本好きだよ。でも、かなり大人の人だよね」

「やっぱそう思うよな。なんで少女じゃないんだろう?」

「それはだってこの世界に本がなかったら困るじゃん。()()()()。そういう歴史があったのかもぉ、って思うくらいがちょどいいんだよ」

「そういうことか」

 ノーラが望んだ世界か。何となく納得してハルトは王宮を出た。


 神殿の加護と試練の間にハルトがたどり着くと、いつものようにマティアスが待っていた。

「さて始めましょうか」

 言ったハルトにマティアスは「いや、今日はその前に時間を取ろう」初めて休養期間をどう過ごしたのか詳しく聞きとる時間を取った。話し終えたハルトにマティアスは少し緊張を緩めて「ハルトは仲間に恵まれているな」と言いながら入念にハルトの身体を調べた。マナの計測器を持ち込んでの入念なチェックだ。

「体内のマナの流れも私の体感でもわかるほどに前回に比べて良い。では、始めようか」

「はい。よろしくお願いします」

 残されたチャンスはそう多くない。

 そう感じ取ったハルトは球体と鏡に向かう。しかし不思議と緊張はしなかった。


『また来たのか』

 そう言われた気がしたハルトは

『何度でも来ますよ。来られる限り』

 心の中で言いながら球体と向かいあい、呼び水となるマナを流し始める。ガクン、音が聞こえそうな急激なマナの流出が始まる。マナが返ってくるまでに出来るタイムラグの間にいつものように気分が変調を始める。部屋の景色が消え去り、なにもない亜空間に幾つかの球体が浮かんでは動き始める。球体一つ一つの中に神々が宿っているいつもの風景。しかし今日のハルトはこれまでの尋問されるかのように思えていた存在に親しみを感じていた。

『随分と柔らかくなったな』

 その言葉にハルトは反射的に返していた。

「柔よく剛を制すつってね。アドバイスをくれた友達とやってた競技の先生も言ってたし」

『あの手この手というわけか』

『毎回ポイントを変えてきよるな』

『しかしそれはこの男のブレではないのか?』

 疑念という名の風が通り抜ける。しかしハルトは気に留めることなく流す。

『ほう。流すか』

 幾つもの球体がハルトの周りを無数の軌道を描いて回る。

『そう、守れなかった。俺はアリシアを守れなかった。でもだからこそ大切なものを守る』

 何度も繰り返してきた言葉だがハルトの中でその言葉の持つ意味が変わりつつあった。今のハルトは「守りたい」ではなく「守る」という断定の言葉を使い、揺るぎない意思を宿していた。

 マナの循環が大きくなる。これまでに経験したことのない強い流れだ。

 これは行けるかもしれない。

 そう思ったハルトにポツリと一つの言葉が落とされた。

『お前は運命というものを理解しておらんようだ。運命は別の時空とも繋がっている。また同じ想いをしたいのか?』

 ハルトは直感的にアリシアと同じ状況に置かれた綾乃の姿を思い浮かべた。

 苦しむアリシアの姿が浮かび上がり、そこに綾乃の姿が重なった。


 



試練を乗り越えた先輩にあたるオーブが駆けつけ最終試練に臨むハルト。

この世界に来てからハルトの心に一番大きな傷跡を残したことと同じことが今のハルトの希望である綾乃にも訪れる可能性を告げられました。

次回「運命」

月曜日の投稿になります。


大分暖かくなってきました。早く春になるといいですね。(作中では夏ですが……)

コロナも早く治まって欲しい(切実

では良い週末をです☆

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