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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
王都編
93/148

内なる神



 王都の狐人と人間の子供を含む家族の行方不明。その報告と対策を考える会合がハルトの執務室で開かれていた。アントナーラ時代からの朋友であるハロルド、デニスに加えノーラが参加し、ハルトが信用をおける人間以外は人払いがなされ四人が口の字を描くように机を向かい合わせている。

「…………ということが起こってるんです」

 大規模な子供を含む家族の行方不明を伝えられたハロルドは白いあごひげをしきりに触っている。

「ニンディタでの子供を含む家族の行方不明か。気にならんわけがないな。オーブには報告したか」

「狐人の舞衣さんからの話に王都に住んでいた人間の家族の行方不明者が居ることをオーブに手紙で知らせました」

「アントナーラの襲撃において解決されていない案件です。オーブもさぞかし気を揉でいることでしょうな」

 王都とアントナーラを往復するのにも飛甲機が使いられ始め、オーブとの連絡係も重要な役割になりつつあるデニスも浮かない顔だ。プロの情報収集屋としてあまり心情を顔に出さないデニスだが優しい人柄もあるのだろう、政治的な状況というよりも行方が知れなくなった家族の安否に心を砕いているようだ。

「キラナにも知らせて情報を共有する体制を作らなくちゃだよね」

「キラナとニンディタは国境を接してるしな。キラナ国内の調査も必要かもしれない。胤月さんは今日呼ばなかったのか?」 

 第三王女エレオノーラであるにもかかわらず人懐っこいノーラの振りにハルトが疑問を口にした。

「デニスさんとサポート機開発の工房での話をしておきたかったんだよ。ハルトぅんを貶めるプロパガンダを流されてるんでしょ。その話になるとグランノルンの内情を聞かせてしまうことになるから。焚哉くんと胤月さんを信用してないわけじゃないけど他国の人だからね、一応ワンクションおいた方がいいかなと思って」

 綺麗にまとめられたストロベリーブロンドの下の桃色の大きな瞳はそこはかとなく物憂げだ。普段はあまり表情に出すことはないが王族に転移したノーラには気を回さなくてはならない事情があるらしい。

「もうすぐ量産型飛甲機の納入式で焚哉くんと胤月さんは一度キラナに戻るから、それまでにこっち側で話しをまとめて伝えないとなんだけど」

「キラナには五機が納入予定だったな。初めての納入だし式典はやるだろうな。キラナでのライセンス生産も始まる」

 ハルトの意識が飛甲機に向かい、アントナーラ襲撃事件がハルトの心に傷を負わせたことを知っているノーラは話題が逸れたことに安堵の表情を浮かべた。試練に立ち向かっているハルトをノーラだけでなく学園の生徒全員が気遣っている。そんな中ノーラはハルトの過去を気遣いながらも少しでも安心して試練に臨める材料を作りたいと奮闘していた。第三王女であるエレオノーラをノーラと呼ぶことで政治的な立場を外し仲間として話していることを暗に示しながらデニスがノーラに話しかけた。

「ノーラさんは行方不明多発の件をアンナ様にご相談なさったと聞きましたが」

「ええ、第一王女であるアンナ姉さまには彼女の後援組織にハシュタルなど背後にニンディダの影がちらつく勢力がかなり深いところまで入り込んでいることを考慮しながら伝えました。姉もやっかいな人達なのは分かっていて手を焼いているのが実情のようです。排除するきっかけを欲しがっているいるようにも見えましたけど、そう単純なことでもないようでした」

「政治ですからな。急激な変化で均衡が崩れるのもよくないことは私にもわかります」

「機微を察して頂けているみたいで助かります」

「デニスさん、工房に入り込んでいる工作員の内偵はどうですか?」

 工房でのプロパガンダによる影響を直接体験したハルトには行方不明事件の他にも王都のニンディタに影はちらつく勢力に対して強い警戒感がある。

「状況証拠はかなりあるのですが、決定的な証拠をまだ握れていないのです。人物特定は出来ているのですが対処をしながら好機を伺っている状態です。アンナ様も似たような状況でしょうけれどアントナーラの捜査状況も鑑みつつ、もう我慢できない、というタイミングが来たら少々荒っぽくても手を出しますがね。しかしそれをやると後が面倒です。泳がせておける内は下手に追い詰めない方が良いかと。私の方はオーブと連絡を密にとりながら進めます。ノーラさんもアンナ様の状況に変化があったら教えて下さい。――そう言えばオーブが王都を訪れるとのことです」

「いつですか?」

「ハルトさんが試練を越えたら祝いに行く、と意気込んでましたよ」

「仕事から逃げたいのかな?」

「いえいえ、オーブは真摯に事件を解決しようをしていますから率先して仕事をすることはあっても逃げだしたいなどどとは思わないでしょう」

「そうじゃな。今は特にそうじゃろうて。ハルト、もうちょっと素直になれ。オーブもお前が甘えてやれば喜ぶんじゃないのか? それくらいの余裕を持ってやれ」

「ごめんなさい」

 ハルトは調子に乗ってしまったことを詫びるように卓上に視線を落とした。

「ハロルドさんってハルトぅんに優しいよねぇ」

 淀んでしまった流れを変えるように明るい声を出すノーラ。

「ふんっ、わしはこんな坊主なんかより美しい女性に優しくされたいわい。そういえば明日の授業はウルデ様じゃったな。楽しみじゃなぁ」

 手のひらを返してほうけたように顔を緩めるハロルドだったがノーラと視線が合うとニヤリと笑ってから叱るような目つきでハルトを見た。

「また湯屋ですか? そういえば爺さんってTバード持ってるんだってね」

 ジトー、ハルト負けじと送った視線を受け流すハロルド。ノーラとの共闘でせっかく雰囲気を変えてやったのに、とでも言いたげだ。

「何じゃ、わしが持ってちゃ悪いんか?」

「でも隠すことないじゃないですか」

「わしゃここぞという時にしか使わんのじゃ」

「はいはい」

「そもそも、わしがTバードを持っておらなんだらアントナーラが蟲に襲われた時どうやってアルフリードと連絡を取ったんじゃ。必要とあらば使うよ、わしは」

「――すいませんでした」

「そろそろ神殿の時間じゃろ。気を抜くでないぞ。最終段階はそう甘くはないはずじゃ」

 ハルトにとって心に中に根を深くおろしたものと再び向き合う時が来ようとしていた。ギクシャクしながらも仲間達はハルトを信じ支えていた。


 神殿での試練に再び臨もうとするハルトに表情を引き締めたマティアスが告げる。

「最終段階に入る。負荷を上げるぞ」

 ハルトはマティアスと目をあわせると一度瞼まぶたを閉じた。しっかりと目を見開いたハルトはマナを循環させる球体を見つめ、無言で顎を引いた。マティアスが呪文も紡ぐとハルトの取り巻く景色が一変する。何もない空間に光が差し込んでくる。


 真の姿と向き合え。

 頭の中に直接響く言葉と共に試練の最終段階が始まった。


 ハルトの意識の中に差し込んできた光が幾つかの玉になった。球体の中には厳粛な神の姿が見て取れる。神々はハルトの周囲をめぐりながら、次々と畳み掛けるようにハルトに告げては廻る。

 

 拐われた子供の行方を探したいのは己の失態の贖罪をしたいだけではないのか?

 そもそも罪の意識は傷つけてしまったアリシアへのものではないのか? それとも伴侶となるはずだった女性を失った自分への憐憫か?

 アリシアへの愛情はお前の中にある綾乃という女を得たいという欲望の代わりだっただけではないのか?

 人の世へ貢献、正義とな。それはお前が孤独から逃げるための口実だろうに。好きな女に振り向いて欲しいという己の欲望を正当化したいがためのごまかしではないのか?

 

 分をわきまえよ。

 己の小さきことを自覚せよ。

 思慮なく過信した者がもたらすものは他人を巻き込んだ破滅だ。


 ロダの村で何が起こった? アントナーラの街はなぜ襲われた? お前が原因を作ったのではないのか?

 

  この世界へ来たこと。ロッキとの遭遇。巣のあった崖が聖地に繋がっていたこと。全てが偶然だと思うか? 

 

 運命なのだよ。これは。


 お前が運命に抗ってまで成し遂げたいものは一体何なのだ。

 それすらも分からん者が際限なくマナを扱いたいなどどは思い上がりも甚だしい。


 容赦なく繰り出される神々の言葉にハルトは打ちひしがれた。


 マティアスが試練を止めた。

 ハルトの心の負荷と肉体的な限界が近づいてきていた。まるで気力と体力がリンクしているように体がいうことを聞かない。その日ハルトは自力で立ち上がることが出来ず、マティアスが呼んだ司祭とマティアスの部下に担架に寝かせられたまま運ばれた。

 

 翌日になっても起き上がることができなかったハルトは学園の時間になってようやく動き出した

「神の声、とハルトは言うがそれは自分自身の声かもしれんな」

 黒の騎士でありながらも碧い瞳に優しさの滲むマティアスの言葉を思い出しながらなんとか学生服に着替えたハルトは私室を出る。足元がふらついてまともに歩けない。それでもハルトは開発工房の二階にある教室を目指した。自分で手綱を握るコボルでの移動を諦めて馬車を出してもらったハルトが少し遅れて教室に入るとすでに黒い天使、ウルデが教壇に立っていた。

「ハルト、来たか。大分消耗してるな、無理もない。まぁ座れ。それでは講義を始めるぞ。私は形式張ったことが苦手だ。今日はディスカッション形式にしよう。まずは皆で自由に話してみてくれ、私から何を話すのかは皆の話の流れで決めよう」

 ウルデは教壇に腰をかけて足を組み生徒達が机を移動するのを見下ろしている。黒くピッタリとした露出度の高い衣裳から伸びるおみ足は翼の模様が巻きついた網タイツにつつまれている。ウルデが組み直す太ももの先に目が釘付けの焚哉は移動している机をカッツェにぶつけた。ごめん、ごめんと後頭部を掻く焚哉の横では、ソフィーが神話の本を取り出し神々の世界の話しを期待しているようだ。しかし生徒たちがディスカッションの体制を整え終わると自然に話題はハルトの試練の話になった。ハルトはアリシアと綾乃に対する個人的な感情を伏せつながら、自分と向き合え、という声が聞こえたことや、乗り越える資格が自分にあるのだろうか、という疑念を持ち始めていることを打ち明けた。

「神の声っていうのかな。自分の中にそういうのが響くんだ。己と向き合えって。マナを際限なく扱う資格がお前にあるのか? 分をわきまえない行為は混乱と破壊をもたらす、って言われたのが引っかかってて……」

「神の声かぁ」

 うーん……皆が腕を組んで考え込む中で、ノーラが半袖のセーラーの腕を上げてウルデに尋ねた。

「ウルデ様、神様って個人の心の中に入って来れるものなんですか? そもそもこの世界にノルン様以上の存在って実在してるんでしょうか? 主神についての記述がどの文献でも『ノルン様はそう言われた』になっているんです。この世界で天使信仰が主流になっているのもあるんでしょうけど」

 ウルデは教壇を降り、長い銀髪を褐色肌になびかせて生徒たちの輪に混じる。

「主神達は存在する。だか我々ノルンと同じ存在だとは思わない方がいいな。ノルンは人と同じ存在として触れることも話すこともできる。ノルンと人は物理法則を共有していると言い換えてもいいかもしれない。人の形を取った主神と我々ノルンは相まみまえることができるが本来主神はもっと高次の次元に存在している。純粋な意識として存在することの方があの方々にとっては自然だ。そうだな、次元の話しを理解しやすくすると今我々が存在している次元は四次元だろう?」

 生徒達から反応が返ってくるまでにやや間があった。

「私達が存在している世界は三次元じゃないのですか?」

 珠絵が首をかしげている。

「私達には点、線、立体の上に時間が流れてるだろ。だから四次元なんだ。だが我々がいる次元の時間の流れは不可逆だ。その流れを鳥瞰ちょうかんできる次の次元。その上に時を遡れる次元、更にその上に時間の流れに干渉できる次元があるとする。そんな次元にいる存在達が何をどう考えるのか解るか? 少なくとも私には想像することしかできんし、その想像も今いる世界にとらわれた発想の範疇を出ない。そんなものを考えてもしょうがないとは思わんか? 全くの無駄だとは言わんがそんなことを考えるよりも今自分が生きている世界でよりよく生きるにはどうすればよいのかを考える方がよっぽど有益だと思うがな、私は」

「ちょっといいですか?」

 再び挙手をしたのはノーラだ。

「すいません。少し脱線するんですけど、神様といえば前の世界では人工知能を人が作り出し始めてたんです。人を越える全能の存在を人が作り出すことをウルデ様はどう思いますか? 思考の速度が人の何万倍も早くてアクセスできる記憶情報がその世界にある全てだという人類を超えた思考する機械を神といってもいいかもしれない、そういう考え方が前の世界で出来始めたたんです。機械だとしても思考すればそれは生命だと思いますか? いずれはその機械の意識が自分達を模した機械を作るようになって意識だけが増殖していく、それは人の意識が肉体というかせを外すことだ、神を生み出した人類はその役目を終える、って考える人もいたんですけど」

「――人が作った全能の思考をする機械を神として認めるかどうか? か。――ではノーラの考える生命いのちとは何だ」

「生命ですか? うーんと、自然の摂理によって生まれた体と意識、みたいな感じでしょうか」

「私は少し違う。生命せいめいとは個々の持つ命のあり方ではるが、流れそのもの、でもあるのではないか? と思ってるんだ。記憶や感情は心の中で起こるものだが、心は肉体がないと認識できない。肉体の生命活動自体はこの世界の流れの中にある。この世界にある流れ、それそのものが生命なのではないのだろうか? と私は思うのだ。自意識をどこに置くかの違いになるのだが……その観点から言うと、さっきノーラが言ったモノは神と言える、になるな。もしかしたら今我々が在るのはその流れという意思の中で生まれた物質世界なのかもしれんぞ。そういう輪の中で起こっていることなのだ、ということは否定できないんじゃないか? 世界は誇張と収縮を繰り返すものだから」

「ウロボロス蛇みたいですね。自分の尾を食べる蛇の輪っかのことなんですけど」

「まるで世界はVRみたいな話しだな」

 ノーラとウルデのやり取りを聞いていたハルトが焚哉を見ながら呟いた。

「個人的な自意識と宇宙そのものは同一のものだ、って考え方は仏教にもありますね」

 話の流れを汲み取った焚哉の言葉にノーラが反応した。

「そうなんだ。教えて焚哉くん」

「何がわかりやすいかなぁ……そうだ、大日如来っていう仏は密教の本尊中の本尊なんだけど、宇宙そのものの意思だって言ってもいいと思うよ。過去、現在。未来にまたがって存在してるし」

「過去、現在、未来にまたがるなら少なくとも私よりも高次の存在だな。その御方は」

「あくまで概念ですけどね。でもこの世界は天使様が具現化しちゃってるしなぁ」

 真剣な議論の最中にもかかわらず、ついついウルデの美貌と胸元に視線がいく焚哉。何気に生徒に混じったハロルドも便乗している。ハルトはため息を漏らしたくなるがエロ度が高いウルデのファッションのせいもあるな、と突っ込むのをやめた。注意が逸れたハルトだがウルデが真摯な顔をして考えている話題は変わっていなかった。

「具現化しているからこそ私は過去というものに縛られているのかもしれないな」

 言いながらウルデがハルトに視線を向ける。ハルトは話題に意識を戻すように背筋に力を入れるが背中にも痛みが走る。

「ハルト、お前は私よりもベルダンティアの影響の方が強い。ベルダンティアは現在を司る。私は過去を乗り越えようとする『現在』をお前に強く感じる。今お前が臨んでいる試練は過去と向き合うように仕向けてるんだろう? でもそれはもしかしたら過去を乗り越えようとするお前自身の性質によるものなのかもしれない。乗り越えようと思う、ということは過去を客観的に見れていないと出てこないものなのではないのか? 過去に囚われている者はその延長線上でしか自分を認識できない」

「――そうかも、しれませんね。これは俺の意思なのかもしれない」

「だとしたら自分自身をしっかり保ちさえすればいいんじゃないか? 何を選択するにせよ全てが丸く収まることなどそうそうない。同意する者もいれば反感を持つも者もいるものだ。そんなことをいちいち気にしてたら何も出来んぞ。考えて躊躇しているだけでは存在している意味がない」

「もっと我儘でいい、と」

「ワガママじゃなくて、あるがまま、でいいんじゃないの?」

 焚哉は真っ白なワイシャツの上で愛嬌のある顔をハルトに向けた。

「あるがまま、か。俺がそうしたい、って気持ちを肯定しろってこと?」

「ベルダンティア様が言ってたんだろ。否定的な思念よりも肯定的な思念の方が強いって。だったらそれでいいじゃん。僕はハルトは根本的に悪い人間だとは思ってないよ。因果応報、もし間違ってたら悪いものが返ってくる。もし罰をくらったとしてもそのときにまた考えればいいんじゃね」

「ハルがそこまでして試練を超える必要はあるのかな? アバターシュがフォルマージュみたく専用パイロットじゃなくても動くことを証明すればいいんじゃないの? カッツェは私と一緒にいた時間も長いし、開発を手伝ってくれてるからアバターシュを動かせるんだし」

「でも鳥の人だから出来るんだって言われたらどうする? それにエレオノーラ派って見られてる俺じゃ意味がないんじゃないか?」

 ノエルとカッツェも会話に混じってくる。

「僕がテストパイロットをやってもいいけどね」

「タクヤルちゃんは駄目よ。飛甲機の納入にキラナに戻らなきゃならないでしょ」

「そうだよね。キラナの聖地の位置情報も収集して来なきゃだし」

 焚哉はハルトを今一度見た。

「ありがとうみんな。でもこれはやっぱり俺自身が向き合わなければいけないことなんだと思う。乗り越えてみせるよ」

「がんばってね」

 ノーラの差し出した手に生徒達の手が重ねられる。ハルトは一番上に手の平を重ねて、まかしとけ、と勢いづいて見せた。

「青春じゃのう」

 ハロルドとウルデが目を見合わせた。

 ハルトの体調がすぐれないためウルデの講義が終わると次の講義を行う予定だったハロルドは「わしは個別に話せばよいからな。今日は自由時間でよいそ」と、放課後の時間になった。

「そういえばフィレーネはどうしてる? 最近見かけないけど。もう足が完治したから定期的に癒やしをしてもらわなくなってから会わなくなってるんだ。開発工房に出てこないし」

 ハルトの問いにノエルが心配そうな顔つきになった。

「体の調子が良くないみたい。アバターシュの飛行ユニットの基礎設計が終わってからはわたしの部屋でじっとしてることが多いよ」

「妖精も調子を崩すことがあるんだな」

「声をかけても、へーき、へーき、としか言わないんだよね。でも元気がないのは確かだから心配なの」

「なんかフィレーネらしくないな。私を助けろー、美味しい花の蜜が吸いたいんだけど、とかいいそうなのに」

「食欲もないみたい。それに寒気がするんだって。夏なのに」

「夏風邪でもひいたのかな?」

 もしかしたら時間がないのかもしれんな、ぽつりと呟いたウルデに皆が注目した。

「フィレーネが感じているのは多分共感覚というやつだ。同族の他人と感覚を共有することを共感覚というのだが、妖精族やノルンはその感覚に特に敏感だ。同族に危機が迫っていると離れていても感じ取る習性があるんだ。私も妙な胸騒ぎがすることがある。スクルディアが危ないような気がしている。繭の中のノルンはスクルディアで間違いないと思う」

「妖精の森……」

「ハルトが飛甲機を作り、今ここにいるのも妖精の森に出来た繭とそこから出てきたフィレーネに端を発している。ハルト、とにかくお前は自分の道をゆけ。機が熟せば動くことになる。そうなったときにアバターシュに乗れるように上級騎士の位を得て来い。皆も出来るだけハルトに協力してやって欲しい」

 生徒達に加えてハロルドもうなずいた。

「ハルト、お前は今日の試練の前にしっかり休んで体調を整えた方がよさそうじゃの。皆が応援しておる。行ってこい」

 ハルトはハロルドに激励され、学制服の仲間達に見送られて再び神殿へと向かった。


アントナーラの襲撃からつながる行方不明事件。ハルトが臨む試練と妖精の森の繭と妖精フィレーネ。不安材料をかかえながらも前に進もうとするハルト。

次回 「綾乃の存在」 週明け月曜日に投稿しますね。

よい週末をです☆

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