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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
王都編
91/148

猫耳と狐耳と

 試練に体調を崩しがちなハルトにとって、アバターシュの開発がノエルとハロルド、フィレーネを中心とした飛行ユニットの試作実験待ちになっていることは幸いだった。ハロルドは珠絵のアイデアを元に射出機開発も行っているので多忙だ。試練が休息日で時間的に余裕のあるハルトはミックの統括するサポート機開発工房に降りた。

 フォルマージュのサポート機としてグレース、マティアスが用いるサジウス型一号機と名付けられた中型機がロールアウトしようとしていた。コーカサスオオカブトの素体は黒曜石が光を反射する如く磨き込まれ、その巨体がハンガーから出されて技師達に囲まれている。白衣の技師が黒蜜に集うモンシロチョウのように見える。その中に白衣を来たハロルドがいるのを見つけハルトは声をかけた。

「やっぱりコーカサスは長い三本の角が目立ちますね」

「この角で蟲を押さえ込むには相当の操縦技術が必要じゃ」

「毒を持ってる蟲に近接戦は怖いでしょうしね」

「ボディと一体の武器は使いづらい。カマキリの鎌を付けられんかな? と思っておるのじゃが」

「確かに角よりは便利そうですけど、生体的に拒絶反応起こしません?」

「何事も実験じゃよ。それともう一つ考えておるのはフォルマージュから無線で無人飛行が出来んかなぁ、とも考えておるんじゃが……」

「また面白いこと考えてますねぇ。でもすぐには無理でしょ?」

「何とかならんかのお。うーむ……」

 白く長いあご髭を触りながら考えるハロルドの真剣な様子から本気で考えていることが知れた。

 こうやって本気で向かってればいつか実現するのかもな。世界が意思で出来ている、っていうのはある意味本当なのかも。

「しかし現実的にはにサジウスにも長距離対応の武装をつけにゃあならん。位置をもう一度確認してくる」

 ハンガーに向かったハロルドの背中から視線を工房内にハルトは視線を映した


 少し離れたところにある作業を監督する机ではミックが技師たちから提出された書類を手に仕事をしていた。ハルトが近づいてもミックは書類から目を離さない。何かのチェック表を埋めているようだ。

「お疲れ、ミック」

「おう、体は大丈夫か」

「まぁ何とかね。今日はちょっと動ける」

「あまり良くなさそうだな。ハルトにしては弱気だ」

「本気で乗り越えたいからさ。空元気(から元気)を出したくないだけだよ。現状をちゃんと認識するのが試練を超えるコツみたいだから」

「大人じゃん」

「だろう」

 冗談の言い合える仲間との会話に安堵するハルト。実は肉体よりも精神的な疲労の方が大きく不安に苛まれていたのを何とかしたくて仕事場に降りてきていたのだ。試練はハルトの内面を否応なくえぐっていた。自信を失わさせることが目的のようにすら思えてしまう中でハルトは奮闘していた。

「ところでさ、サジウス型一号機のロールアウト、そろそろだよな」

 試練から意識をそらすようにハルトはミックに尋ねた。

「ああ。技師や職人達が優秀だからな。良い機体になりそうだ」

 ミックは自信ありげにサジウスを見た。

「なんか爺さんに口調が似てきたな」

「先生は本当に凄い。あの方の知識がどこまで深まってゆくのか寝る時も一緒に寝て見ていたいくらいだ」

 胤月さんとはまた違うパターンでやばいな。ミックも。老け専なの?

 とはいえ、ここ最近のハロルドの活躍ははた目にみてもめざましい。ハルト以外の転移組の知識にも触発されたハロルドの好奇心はとどまることを知らず、数々の発明品を生み出していた。その中でもハロルドが元々得意としていた植物の分野での功績は顕著で、アバターシュの細胞活性液の成分構成は複雑になり、多彩な植物の成分比が試されるようになっていた。人型魔導ガーディアンの開発過程で得られた成果のフィードバックが飛甲機の性能向上に繋がっている。副産物として楠の木を蒸留し乾燥させた樟脳が作り出され、新しい虫除け製剤、カトーリの製造もアントナーラで始まっている。ケビンとカールの名が権利登録され、一時期は権利登録が元で関係がこじれた友人兄弟が約束通り虫除け製剤の仕事でも活躍していることを聞いたハルトは胸を撫で下ろした。更にハロルドは樟脳と木の繊維を液化したものを混ぜ合わせることで簡易的なプラスチックを生み出しつつあった。後にこの世界で大きく普及することになるセルロースと樟脳を混合したセルロイド製品の先駆けである。ハロルドはセルロイドで鎮めの粉を注入した活きた蟲の卵を包み、薬莢の先端に装着する弾頭の材料に用いた。その製造方から鋳造という概念がこの世界に生まれることになる。

 爺さん天才かよ!凄い勢いで仕事してるなぁ。

「爺さん忙しくてこっちになかなか顔が出せてないんじゃないか?」

「あれほどのお方がなかなか来られないのは仕方がない。でも来て下さったときには的確な判断やアイデアを、ここでそれが欲しかったっんです、ってタイミングで置いていってくれるからな。全く無問題だ」

 ミックのハロルドの酔心ぶりが加速している。絶対的な信頼である。

 俺もこれくらいマティアスさんとの信頼関係を築きたいもんだ。

「ミックさん」

 ハルトは試練に意識を戻したときに突如、技師ではなく職人がハルトとミックの話しに割って入ってきた。ハルトの見慣れない職人である。職人は使い終わった道具をどこに移動すればよいのかをミックに尋ねた。次にアバターシュ側で使う道具だったためにハルトがそれに答え、馬車で運ぶ荷の中に入れるように伝えると職人はハルトに答えることなくミックの判断を仰いでそそくさと立ち去ってゆく。

「なんか感じ悪いな」

「気がついたか」

 ミックは声を潜めてハルトに話す。

「以前はハルトの人気というか信頼がすごかったんだが、アバターシュの開発が始まって色々体制が変わっただろ、工房が半分になったり。その上ハルトは研究会で午後は抜けることも多いしアバターシュにかかりっきりになってる」

「恨まれちゃったかな」

「それだけじゃないみたいだ。あの職人はハシュタル領出身の職人なんだけど、ハシュタルの職人たちがハルトを下げる言動を広めてる。最近では俺の耳にも直接入るようになってきてる。アバターシュのテスト・パイロットにハルトが名乗りを上げた頃から仕事中にも露骨に話すようになってるな。アバターシュに関われない職人達の嫉妬心を煽ってるみたいだ。ここの職人たちはグレース様の乗るサジウス型に携わっていることに誇りを持とう、という空気になり始めてる」

「そんななのか」

「親方クラスの職人は分かっている人も多くてハルトはしっかり認められてる。この流れはどこか意図的に作られてる気がする。何となくロダ村でのセルドを思い出す」

「ハシュタルってセルドが逃げ込もうとしてた領地だよな」

「ニンディタ訛りが漏れる職人がいる。と、デニスさんが言っていた」

 こう言えばわかるだろう? という顔を向けるミック。

 内偵が入ってるってことか。

「帰化していれば、書類上はわからないからな」

「そこまでで十分だ。ありがとう」

「悪いな、ハルトが大変な時に厄介ごとを押し付けて」

「いや。教えてくれてよかったよ。現状を知らないと対応出来ない。デニスさんとも話しておくよ」

「その時は俺も一緒に話したいから呼んでくれ」

 アバターシュ開発が純粋に開発を楽しめる環境であることを再認識しつつハルトは執務室に戻った。

 思ったよりやっかいだな。

 ミックとの話が気になりデニスとの面会予定を組むハルト。しかしデニスとの会合は数日先になるとのことだった。 

 その時に精神的な負荷が大きくなってなきゃいいけど。暗黒面に落ちたら終わりだ。しっかりしよう。楽しいことを考えよう。

 ハルトは学園の始まる時間を待った。


 今日に学園の授業はラフィーによる森の生態系の講義とナターシャによる音楽の授業である。ソフィーが生き生きとした顔で教壇に立つ幼女姿のラフィー見つめている。本来は狼の姿である獣神から森で生きるとはどういうことか、人の暮らしにとって森がいかに大切なものかを説かれたハルトは戦場として森を見ていたことに気がついた。しかし奥森で蟲が活性化していることを告げられると気を引き締めた。

「アントナーラを襲った蟲が容易く結界を破った理由が判明した。蟲に変化がおきておるようじゃ。負のマナが活性化している場所が妖精の森に近い結界付近に散見される。原因は判明しておらんが引き続き調査を進めておるところじゃ。ハルト達もいざとなったら動けるように体制を整えておいて欲しい」

 ラフィーの講義も、講義でありつつ現状を伝える重要なものだった。重めの内容だったラフィーの講義が終わると一日二次限の講義が音楽の時間になる。ノーラは学園が始まる前は個人レッスンだった音楽の授業をとても楽しみにしているらしくテンションが高い。何度目かの音楽の授業に生徒たちは人数分用意されているバイオリンをケースから取り出し、机を窓側に寄せて先生を囲むように配置した椅子に座ってナターシャに注目する。

「いきなりバイオリンでメロディーを弾くのは難しいのでしばらくはロングトーンをしっかりした音程で奏でる授業になります。単調な練習ですが楽しむことが音楽の本質です。今日は引き続きロングトーンを弾く練習をしながら楽しめる方法を考えてきました。では、三つのグループに別れて下さい」

 ナターシャの指示でノーラとソフィー、ハルトと焚哉、カッツェとノエルに組分けがされる。

 では一班はこの音を。二班はこの音です。ナターシャが音階を弾いてみせる。


 それぞれの班がロングトーンを奏で、音が重なると安心感のあるハーモニーが流れた。

「ドミソのコード、Cのメジャートライアド、長音階の和音だね」

 焚哉がハルトに解説を加えた。

「ちょうおんかい?」

 半分の輪になった椅子の並び、ソフィーを挟んでひとつ隣の席からノーラが焚哉に尋ねた。

「メージャーコードのことだよ。マイナーコード、悲しい気分になるコードは短音階っていうんだ。長い短いは三つある音のうち真ん中の音が最初の音に近いか遠いを現してるよ。2つ目の音が和音の性格をきめるからね。鍵盤でいうと、僕とハルトが弾く2つ目の音がノーラちゃんたち弾く基音から白い鍵盤を一つ挟んで3つ目の音になるんだけど、基音とこの3度という音の間の距離がハーモニーの明るさを決めるんだ」

「そうなんだ」

 感心するノーラに焚哉の舌がまわりだす。

「ノーラちゃんとソフィーが弾いている音を基音。ノエルちゃんとカッツェが弾いている音を5度といって和音の地面と屋根になる感じだね、真ん中の僕とハルトの3度が動くと印象が変わるよ」

「そうなの?」

「やってみた方が早いね。ハルト、音を半音下げてみよう」

 フレット一つ分下の位置に指を下げた場所を示して焚哉が音を出す。

「重ねてみて」

 他の生徒が音を重ねると悲しげな和音が響いた。

「ほんとだ~」

 ノーラとカッツェの目が点である。

「タクヤル様はよくご存知ですね」

 皆に理論を説明した焚哉をナターシャが褒めた。

「前の世界ではギターという楽器を弾いてましたから」

 焚哉はバイオリンをギターにみたてて弾いてみせる。タクヤルちゃんってば天才! 授業中はほぼ保護者席にいる胤月はやんややんやだ。

「では今度一緒にプライベートで演奏しましょう。私は色々な楽器を持っていますから」

「是非是非。わぁ、音楽ができるってすばらすぃー!」

「なんかソフィーの口調が移ってんな」

 笑い声が上がる教室。

「悲しげな音を奏でてばかりだと気が滅入りますからね。今日は長音階、明るい音が美しく響くことを目標にしましょう」

 単純な和音ながらも、それぞれの音程が安定してくると響きが美しくなってゆく。おっ今は完璧だ、という瞬間があった。時が止まるような美しさを皆と奏でていることにハルトの心が落ち着いてゆく。

 そうだよな。俺だけが頑張ってるんじゃないんだ。みんながいる。この一体感を知れたのは嬉しい。

 この授業をノーラが提案したことをハルトは知らない。ハルトの知らないところで皆が試練に臨むハルトを支えていた。

 授業自体もハルトの訓練が終わるまで講義の時間が90分から60分に短縮されている。その代わりに自由参加の「放課後」が長くなっているのだ。夕刻が近づくと神殿に向かうハルトを考慮してのことだった。

 気持ちの落ち着くセラピーのようなナターシャの授業が終わり、放課後の時間になった。部長が外出しがちな部活の時間は雑談タイムと化している。焚哉がソフィーとセッションを始めた。

 即興で音楽を奏でる学友を見入るノーラとノエル。珠絵はなにやらノートに書き込みながら撃つことへの執念を燃やしている。

「しかしほんとよく似てるなぁ、ノエルとノーラは。同じ服を着てるとまだ間違えそうになるよ」

 俺なんかが持ってると壊してしまいそうだ、バイオリンをケースに仕舞ったカッツェが歯に衣着せぬ口ぶりで二人に話しかけた。

「制服だと余計そうだよねぇ。――いいこと考えた!」

 ぽんっと手をうつノーラ。

「ノエルちゃん、猫耳つけよう!」

「えー、しっぽだけで十分だよぉ」

「そんなことないって。きっと可愛いと思うんだぁ」

 ふるふるとこばむノエルの頭を触って、こんな感じかなぁ、とイメージを膨らませるノーラ。

「やっぱ髪としっぽにあわせてピンク色の耳がいいよね!」

「ピンクの毛でつくるの?」

 興味しんしんモードに入るとノーラが止まらないことを知っているノエルは早くもあきらめた様だ。

「あるじゃん。ピンクの毛。モモちゃんの落ちた羽から作ってもらおう。胸の毛とかふさふさだし」

「モモちゃんのものを身につけるならちょっといいかも」

「猫耳に貴石を埋め込んでさ。気持ちに反応してピンとたったり、へにょんってなったりするようにしたら面白いよね。それくらいだったらちっちゃな欠片でもできそうな気がしない?」

「――出来るかもしれない。実験してみたい」

 ノエルはすっかり乗せられてるな。分身みたいな二人だからノーラはノエルのツボをつくのが上手いわ。見てて微笑ましいし。それに猫耳はきらいじゃない。っていうかむしろ見たい。モフりたい。

「あーハルトぅん、猫耳いいなぁ、とか思ってるでしょ」

「いやいやいや」

 耳の中の毛は白いのがいいなぁなんて思ってないよ? 耳の中の神経繋がんないかな? モフったら顔を赤らめるシチュエーション希望、とかも考えてませんよ?

 図星をつかれたハルトにノーラが近づく。身構えたハルトだったがノーラの突っ込みが続くわけではなかった。

「そう言えばさ、今度の土曜日あけてあるよね?」

「予定は空けてあるよ。舞衣さんに会いに行くんだっけか?」

「お会いしたいって連絡を貰ったけど、来てもらうと仰々(ぎょうぎょう)しくなっちゃうし」

「それじゃその日はエレオノーラはノエルがやるんだな」

「ノエルちゃんもいっしょに行けるといいんだけどね。元々ノエルちゃんの知り合いだし」

「わたしは一度ちゃんと挨拶に行ってるからいいよ。キラナに行ってから挨拶に行ってないんでしょ。お世話になったみたいだから二人で行ってくればいいよ」

 ノエルのノーラに対する口調も大分くだけてきている。

「ほんと助かるわぁ。ノエルちゃん、もういっそのことお王女さまになっちゃわない? したらわたし冒険者になるし」

「ええー、実際なってみるとけっこう大変なんだもん。謹んでお断りします」

 ぺこんと頭を下げるノエル。

「それは残念無念。でも土曜日はお願いね」

「了解だよ、おねえちゃん」

「きゃー。かわゆすぎる!」

 ノエルを抱きしめるにノーラに感化されたらしいソフィーも加わってユリの花が咲いた。

「やれやれ」

「まぁいいじゃね、仲が良いのはいいことだ」

 カッツェとハルトがほのぼのと三人の女子を見ていた。


 狐人族の王都での取りまとめ役である舞衣をノーラとハルトが訪問する土曜日は雲の重い空模様だった。しかし天気なんてどこ吹く風のノーラはノエルの服を着こんで王宮を出るとご機嫌だ。

「しった町で~、おっ買い物、おっ買い物~♪」

「買い物は帰る時にした方がいいんじゃない?」

「だってハルトぅんは神殿に行くんだから早く帰っちゃうでしょ。早めに出てきたんだし買うのは後にするから見るだけでも付き合ってよ。 あっ、この和柄のうさぎのお皿かわいい~」

 こっちの急須も渋くていいねぇ。ノーラに露店を引きずりまわされるように巡りつつ舞衣の家に近づいてゆく二人。

「そういえばさ、ウルデ様がこのあたりに部屋を借りたらしいよ。ルシールの名前で」

「そうなのか。相変わらず自由だな」

「うらやましいよねぇ。いくら天使様といえ。でも前の世界のウルドもそういう感じだったかも」

「下町でなにやってるんだろう」

「よく分からないけど湯屋には行ってるみたいだよ。ハロルド様がTバード開いてニヤニヤしてるとこ見ちゃった。新しい湯屋を見つけた、とか何とかのメッセージを貰ってたみたい」

「えっ、爺さんってTバード持ってんの? フォローしてないぞ」

「内緒にしてるみたいだよ。でもウルデ様とはメッセージのやり取りをしてるみたい」

「どこまで天の邪鬼なんだ、あの爺さん」

「でもやることはやってるからね。わたしは凄いと思う、あの人」

「まぁ俺もそれは認めるけど」

「あっ、あの陶器もいいね!」

 突如として露店に足を向けたノーラは陶器を手に取って何やらぶつぶつと独り言を言っている。

「よしっ、買うものも大体決まったし行こっか」

 二人はお狐様の祠を曲がって神社を目指した。


「うーん、キラナ全開だね」

 細い路地に入ると松並木を見てノーラがいった。

 前に来た時は驚いてばっかだったけど、ちゃんと見ると風情があるな。捉え方が違うとこうも見え方が違うのか。

 ハルトは自分の精神状態がいかに自分が見ている世界を変えてしまうのかをまた考える。そうこうしているうちに神社についた。庭先で植木の手入れをしていた舞衣に迎えられて家の中に入った。

「わざわざ申し訳ございません」

 麦茶をお盆に乗せた舞衣が座敷に入ってくる。氷が入ったグラスには水滴がしたたっていた。

「氷は貴重でしょうにありがとうございます」

 電気のない世界に冷蔵庫は普及していない。氷室から運ばれた貴重なものだ。

「本来ならば王宮のしかるべきところにお話をするべきことなのですが」

 巫女服姿で座布団の上に正座をした舞衣は早々に本題に入った。舞衣の髪の上にちょこんと乗る白い狐耳が緊張したようにピクピクと動いた。

「以前ノエルさんにはお話ししたのですが、王都に暮らす狐人が元いた土地に帰還する事案が増えておりまして」

「その話は聞いています。何でもニンディタに子供がいる家族に補助を出す制度が出来たとか」

 ノーラが舞衣にノエルから聞いていることを伝えると舞衣の顔が曇った。

「はい。それで再移住といいますか故郷に戻る家族が少なくない数おります。しかし故郷といっても元いた森は焼かれてしまっていますのでニンディタ国内の街に移住する者が多いのです。その家族と連絡が取れない。と、こちらにも古宮島の本家にも相談が相次いでおりまして……」

「相次ぐ、ということは複数、ということですよね。具体的には」

「十二家族。四十八名の行方が知れないのです」

「そんなに」

 アントナーラの子供誘拐事件にニンディタの関与を疑うハルトは思わず声を上げた。

「不審に思って帰還した家族と連絡を取るようにと伝えているのですが、手紙が帰ってきたという声の方が少ないのです。未確認の者を含めるともっと大きな数になるでしょう」

 不安を隠せない様子の舞衣。

 ニンディタ。子供。気になる。アントナーラの子供の集団拉致は解決していない。

「私どもの方でも調査を始めておりますが、グランノルンのお力添えをいただけないかと思いまして」

「ハルトぅん」

「俺も同じことを考えていた。アントナーラ襲撃とも無関係じゃない気がする」

「わたしもそう思う。それにサジウス工房でのこともあるし気になるよね。舞衣さん、姉のアンナと両親に伝えて相談してみます。王宮にいる胤月さんからもキラナの本山にも伝えてもらいます。具体的にどんなご協力が出来るか即答はできませんが出来る限り手を尽くします」

「王と王妃、第一王女のご協力を頂けるとは。本当にありがとうございます。胤月様にもよろしくお伝え下さい」

 舞衣は両手を畳について頭を下げた。

 早々に舞衣の家を辞そうとする二人を見送る舞衣が、孫の少女の肩を抱く姿が印象に残った。

 


ハルトが試練に臨み、皆の開発が進んでいる間に外界での動きが伝わってきます。

思ったより厳しい試練に臨むハルトを支える仲間達。

次回は試練を越えた先にいるライバルとの邂逅が訪れます。

水曜日の投稿になります。


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