表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甲殻の翼  作者: 月弓 陽
王都編
87/148

アバターシュ

すいません!覚え書きが削除されていない別のストックを投稿してしまっていました。修正しましたm(_ _)m


 雨が降っている。窓に水滴が曇り空の景色をにじませている。

 ガンガンガン。開発工房内の新しいハルトの執務室に、工房の内部を仕切る壁を作る音が響いている。第二開発工房をフォルマージュのサポート機と新型人型機開発の二つの施設に仕切る工事の音だ。

 ドーム状の第二開発工房、湾曲した外周に沿った二階には、事務室や研究室、個人の執務室が連なっているのだが、秘密保持度の低いサポート機開発側にのみ階段があり、一般事務など入室許可レベルの低いものが振り分けられている。その先にある学園区画と仮称フォルマージュ改の開発に関わる部屋の出入りは厳しく制限され、学園の教室から見て区画の最後の部屋に当たるハルトの執務室は生徒たちのたまり場になっていた。ハルトはサポート機開発の責任者でもあるため執務室が両方の区域にまたがる位置にある部屋に移されたのだが、学園区画側の半分がハルトのトレーニングルームとプライベートスペースになっているため寄り道をする生徒が絶えない。この部屋の学園区画側の扉を出て、廊下にある衛兵の詰め所を過ぎると生徒達が学園の生徒から通常の身分に戻らなければならないことも影響しているのかもしれない。

「仕事場でも筋トレかぁ」

「いいじゃん、便利で」

 ハルトからこぼれた愚痴に軽く返したのは焚哉だ。ベンチに片膝をかけ、石のダンベルを持った腕を上下させている焚哉の横でカッツェがその隣の鉄棒で黙々と懸垂をしている。ノーラとノエルもいつの間にかハルトの部屋に入り浸るようになり、課外授業と称してなにやら研究の話しをしている。そこにソフィーが加わるのもいつもことだ。珠絵はハロルドの研究室に入ったまま出てきていない。

「僕の部屋にもトレーニンググッズ用意してもらおうかなぁ。本格的にやってもいいかも」

「そういえば焚哉って水泳部で筋トレルームにも行ってたもんな」

「大石くんとはそこで仲良くなったからね」

「カッツェとそうやってるのを見ると、多分こういう感じだったんだろうなぁ、って思うよ」

「あの時は鉄だったけどね」

 焚哉は30キロの石のダンベルを使った背筋トレーニングをハルトと同じようにこなしている。小柄な焚哉だが意外にも細マッチョなのだ。

「それに筋トレしてたらマナの量が上がったんだよね」

「そういや焚哉のマナっ今どれくらい?」

「グランノルンの騎士でいうと中級の真ん中くらいかなっ、よしっ!終わり。ふぅ」

「まじでか。意外とあるな」

「本山でもトレーニングしてたからね、癖で。だからさ、教えてもらえれば飛甲機にも余裕で乗れると思うんだよね」

「そういえばノーラも乗れるようになりたいって言ってたな。王都でも飛甲機の量産が始まってるから訓練用に一機まわしてもらうか」


「なになにー、 呼んだぁ」

「飛甲機の数が増えてきたからノーラや焚哉の訓練にまわせないかな、って話し」

「そういえばそんな話もしてたね。湖の上でやろうか、とか」

「飛甲機を壊されちゃかなわないからな」

「じゃあさ、合宿しようか?」

「合宿?」

「湖に面した別荘的な施設があるんだよ。もう少しすれば泳げるようになるみたいだし週末に一泊二日で行ってみない?」

「いいねいいねっ! 水着回来たーーっ!」

 ダンベルを置いてガッツポーズを取る焚哉。

「そうだねぇ。水着も用意しなきゃだね。 うん、カタログ取り寄せようっと」

「カタログショッピングですか。優雅だねぇ」

「だってお店でお買い物なんて出来ないんだもん。ポチれるわけでもないしそれしかないでしょ。服は仕立ててくれちゃうから水着くらい選びたいよぉ」

「ごめんごめん。ノエルとソフィーのも頼むな。それと珠絵のも」

「うん、女子会やっとく。話変わるけど新型の名前は決まった? 人型の方の」

「フォルマージュの改良型ってことでキザイア様を説得したんだから人型は確定なんだけど、モビルスーツって大きさでもないしなぁ。アーマードトルーパーだと長いし、マナバトラー? なんかピンとくるのがないんだよなぁ。ノーラに何かいいアイデアはない?」

「うーん……なんとかゲリオンでもないしねぇ。――そういえばさぁ、ニルバーナって仏教用語だよね? 焚哉くん。ニルバーシュっていうのが出てくるアニメがあるんだけど」

「ニルバーナはバンドの名前にもあるけど、涅槃、って意味だよ」

「ねはん?」

「悟りの境地、みたいな感じかな」

「へぇ、そういえばあのアニメ、DJとかサーフィンとかお坊さんが出てきて精神世界っぽい話だった」

「そんなアニメがあるんだ。僕も見とけばよかったな。そのアニメに他のロボットの名前はないの?」

「タイプ・ジ・エンドとか、量産型っぽいのは確かL・F・Oだったと思うよ」

「L・F・Oは多分シンセサイザーの波形をいじるコントローラーのことだね。ローフリケンシーオシレーターの略だと思うよ」

「焚哉くんって物知りなんだね」

「音楽は好きだからね。仏教の話しに戻るけどアバターっていうのもサンスクリットなんだ。化身っていう意味だよ」

「そうなんだ。化身、それいいじゃん。アバターとニルバーシュを足してアバターシュっていうのはどう? ハルトぅん」

「おっ、それいいんじゃない。うん、いいよ それ。フォルマージュとも似てるし。そういえばフォルマージュって名前はどこから来たんだ?」

「フォルマージュはわたしがつけたんだけど、ロシアの物語論にフォルマリズムっていうのがあるんだよ。形式を具現化する、みたいな意味なんだけど具現化と形式ばってる感が似合ってるなぁ、と思ってつけてみたの。厳密にいうとフォルマリズムは物語の骨格を浮き彫りにするって意味だし、フォルマージュが形式ばってるのは装飾的な部分だから意味的には違うんだけどそこはそれ、語呂もいいし雰囲気で、な感じで」

「ノーラってネーミングうまいかも」

「かも、じゃなくてちゃんと褒めて欲しいな―」

「分かった。分かったよ。うん、いいセンスしてる」

「なにその棒読み……でも、ありがと、えへへ」

「なんだよ。せっかくいい感じだったのに。結局ハルトに持ってかれちった」

「焚哉くんのおかげだよ。 ありがとね」

 拗ねた焚哉の手を取ってブンブンと上下するノーラ。焚哉は「ノーラちゃんの手って柔らかい」と顔を真っ赤にしている。

「くくく、普段あんなに軽々しくアピってるのに、いざとなったら純情くんかよ」

「何がだよっ?」

「顔、真っ赤だっつーの」

「いやいや、そんなことないって」

 火照った顔を冷やしたいのもあるのかフルフルと顔を横に振る焚哉は「そういうところもかわいいよ、タクヤルちゃん」とノーラに追い討ちをかけられて撃沈した。三人のやり取りを見て笑いながらも、ソフィーはしっかりとノートにその様子を書きとめている。

「さて、俺は珠絵の様子でも見に行ってこようかな」

「僕も冷やかしに行ってみようかな」

ノーラとノエルは「もう少し考えたい」と乗り気ではないようだ。カッツェは筋トレに夢中な模様。

「じゃあ 俺達だけで行ってみるか?」

「僕やっぱやめる~」

 ノーラとノエルが気になる様子の焚哉を置いてハルトは一人廊下に出た。



 アバターシュと呼ぶことになった人型魔導ガーディアンの開発はフレームの基礎設計に入っていた。竜の骨を中心に魔獣の骨を組みれたフレームの構造設計にハルトの知識が大きく貢献している。

 動きを作る部分はノエルとノーラがやってるけど、まさかロボットプラモの趣味が役立つとはな。内部フレームから作ってたから関節の構造はわかる。もしかして美少女デバイスのプラモも発想に役に立つかもって提案したら飛行ユニットを分離して別開発にしたところは実際役に立ったしな。そういえば美少女ギアアイリスとかなにで飛んでるんだろう? マナを使って接続や装備が出来るんだったらサイコミュ的な制御もできるのかもしれない。でもさすがに時間がかかりすぎるよな。挑戦するなら大型改修のときだ。改にするのは簡単だけど改ニにするには愛情かけないと、が俺の中で定説だし。


 コンコン、ノックをして学園区画内にあるハロルドの研究室の扉を開けると、珠絵がホワイトボードに何やら書き込んでハロルドに説明をしている。

「――ですから、弾の形をこのように『砲弾型』というのにすることと、砲身の中に螺旋状になるような溝を切ることで弾を回転させるのです。そうすることで安定した弾道を生み出しているのだと思うのですよ」

「なるほどな。じゃが筒の中に溝を切ると空気が漏れてしまうぞ」

「ですよねぇ。エアガンにはライフリングの溝はありませんでした」


「何の話しをしてんの?」

「先輩、いえ部長。ハロルド先生と弾道を安定さするにはどうすれば良いか、という話しになっておりまして」

「マナの通った卵の中に、鎮めの粉を入れて破裂させれば蟲に対して効果があることは分かったんじゃが、いかんせん卵じゃ。大きさが揃っておらん。空気で打ち出すとなると隙間ができてしまって飛ばんのじゃ。丁度よい大きさのもので打ち出してみたが、明後日あさっての方向に飛んでいってしまっての」

薬莢やっきょう内部の爆発で圧縮ガスが弾丸を打ち出す構造を圧縮空気に置き換えれば撃つのは撃てるようになると思うんですけど。こっちの圧縮技術は凄いらしいんで。なので弾道を安定させる仕組みをですね、考えていたわけです」

「はい?」

「先輩でも分かりませんか? 言葉で説明するのが難しいので絵を書きます。ちょっと待ってくださいね」

 んー、と、何やら考え込みながらホワイトボードに図を書いては消しながら、幾つかの図を書きつらねてゆく珠絵。

 ハルトはハロルドの横に座り耳打ちする。

「火薬を使った本格的な銃は作らないって言ってましたよね?」

「簡単に人を殺傷することが出来るような物は作りとうない。急激な変化は世界に混乱をおよぼす、わしもそう思うておる。じゃがせっかく鎮めの粉を飛ばすというアイデアが生まれておるんじゃ。いい落とし所はないかと思うてな。あのむすめには火を扱うよりはマナを使った圧縮空気を使うほうが簡単じゃというて丸め込んでおるのじゃが」

「撃つことへの執念が凄いでしょうからね。珠絵は」

「こりゃ、わしがおらんでもそのうち自分で何か作り出しよるかもしれんな」

「俺も気をつけて見ておきます」

「頼んだぞ」


「出来ました。説明を初めてもよいですか?」

「お願いします。珠絵先生」

「先生? いいでしょう。銃に関しては私の方が詳しいですから」

 ハルトのよいしょに素直に反応し「おほん、では」と得意げに話を始める珠絵。

「要はですね。直径が不揃いな『卵』というのをそのまま弾にすることに無理があるのです。これは規格統一したの弾頭の中に卵を埋め込みつつ先端部を露出することで問題は解決します」

 最初の図を指しながら説明する珠絵。

「弾の中に埋め込む、って考えればいいのか?」

「そうですね、その方向です。要は当たった時に先端部分が弾けて粉が飛散すれば良いのですから」

「うむ、それこそが目的じゃからな」

「ですが、前の世界の空気銃のように丸い弾をガンガン撃つ構造だとそれが出来ないんですよ。なので薬莢と砲弾という構造を取り入れます。薬莢の中で火薬が爆発して圧縮ガスが弾を押し出す構造がこれです」

 珠絵は薬莢内の爆発によって引き起こされた圧縮ガスが弾を押し出す構造を書いた図を示す。

「なるほどのう。発射する機能を本体と分離して弾と一体構造にするということじゃな。考え方はわかった」

「こうすることで砲身内を密閉する必要がなくなります。この構造なら次の図のように砲身内の螺旋状の溝、ライフリングを作って弾を回転させて直進性を生み出すことが出来そうな気がしてます」

「本体の方は弾の軌道を安定させるために用いる、ということか」

「その砲身をバレルというのです」

「あれか、スパイ映画のオープニングみたいなやつ」

「そうです。しかし正面から見ると螺旋を切ってあるように見えますけど、実際は直線の斜めの溝なのです」

「どういうこと?」

「えっとですね、ちょっと待ってください」

 珠絵は長方形の紙に斜線を引いてゆくとそれを二人の前にかざして丸め始めた。

「このようにですね、実際にはただの斜線でも丸めて正面から見ると螺旋に見えるのですよ」

「なるほどなぁ、さすがは銃マニア。でも圧縮空気を使った射出機だと結構な大きさになるよな。バズーカってそういう溝あったっけ? 内側がツルンとしてるイメージがあるけど。大きさ的にはバズーカクラスになるよな」

「三センチ以下のマナの通った卵の殻を集めてもらって三十ミリ口径に規格を統一するのでそこまで大きくはならないです。それにバズーカっていうのは言ってしまえばロケットランチャーなんですよ。弾自体が小型のミサイルみたいなものなので回転させる必要がないのです」

 ミサイルなんて作られたら終末時計が凄い勢いで進みそうで怖いわ。

「ですがあいにく私にはミサイルを作れるような知識はないのです。すいません」

「謝らなくてもいいよ」

 むしろその方が都合がいいくらいだ。

「でもですね、規格を統一すれば何の弾丸を薬莢に装着するのか、を割と簡単に変えられます。それこそマガジンを変えれば違う種類の弾を撃てるようにはなると思いますよ。でもマガジン式を作るとしたら小さくて精巧なバネがないことが壁になります」

「鉄製品が発達してないからな。精密部品を作るは難しい。バネだと車のショックくらいの大きさが精一杯だろうな」

「ですよねぇ」

「だったらさ、やっぱり回転構造で何を撃つかを変える方が現実的だよな」

「そうですね。銃も最初はリボルバー式でしたから」

「マガジンというのはなんじゃ?」

「弾倉のことです。弾をまとめて入れとく倉庫みたいなものですね。こう弾を縦に並べて入れておいて上に押し出していって装填するんです」

 きゅきゅ、とマジックをすべらせて簡単な図を書く珠絵。

「なるほどのう。しかしこれをやるとなると本体の方もかなり複雑になるのではないか?」

「そうですね。多分何かと解決しないといけないことが沢山出てくると思います。出来るまでにかなり時間がかかるんじゃないかと」

「とにかくじゃ。単発でも撃てるものを作るのが先決じゃな。弾の入れ替えはそれから改良していけばよいじゃろう」

「わかりました。とにかく早く撃ちましょう!」

「ほんじゃ今日はここまでじゃ。具体的なことを考える時間が欲しい」

「了解しました」

 おつかれさまでしたぁ、ぺこりと頭をさげる珠絵。

「そういや珠絵、ノーラが合宿がどうこうとか言ってたぞ。今俺の部屋にいるけど話しに行かないか?」

「合宿ですか!? 行きます、行きます!」

 珠絵と共にハロルドの部屋を辞してハルトの執務室の前に戻ると、中から仲間達の笑い声が響いていた。

 


仲間達とともに新たな開発が始まりました。人型ってやっぱりロマンよねぇ。

飛行機を作っています。のサブタイトルも変えなきゃですね。

次回、「紫陽花」月曜日の投稿になります。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ