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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
王都編
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フォルマージュ支援機

予約投稿が確定できていなかったようで遅くなってしまいました。ごめんなさいm(_ _)m

 今朝はベンチプレスの筋トレが休みの日で体が少し楽だな。

 筋トレは休息を挟むことで効率的な効果を生む。上級騎士になるための早朝のトレーニングを終えたハルトは廊下に出た。

 フォルマージュを支援するサポート機の外殻の加工が始まっていた。

 まずはコーカサスからだな。コーカサスは一体分実験用にまわせる余分がある。羽の下の胴体をくり抜く大まかな加工は終わってる。フォルマージュの搭載に干渉しないように操縦席を胸の一部に食い込ませないとだからからその部分の加工は自分でやろう。自分で手を動かすのはやっぱり楽しいし。

 アントナーラから丁重に移送されてきた陸オウムの伊右衛門に乗り、深まった春の日差しの中で工房に向かいながらハルトが今日の作業を頭の中で確認する。学園の時間は午後からだ。

 工房に入ると作業着に着替え、ジュノーから譲られたコテを持ってコーカサスの素体が収まるハンガーに登った。羽が広げられた形でハンガーの骨組みに囲まれたコーカサスの素体は腹部全体と胸部の一部が大まかに切り取られている。腹部の床に移動式の小型の炉をクレーンで降ろしたハルトは作業の準備に取りかかった。床は炉の重さにも耐えてしっかりしている。炉を操縦席にするために切り込まれた胸部に寄せてコクピット壁面の基礎を整形してゆく。その上から張るプレートは切り取られた蟲の外殻を熱して板状にプレスされたものがすでに用意されていて、コントローラーや計器の設置部が丸や四角く切り抜かれている。炉で熱したコテをあてて湾曲したコクピットのカーブにあわせてプレートパーツを張りこむ工程の下準備の作業にハルトは入った。ハルトが熱を与えている胸部のすぐ先には、羽を動かす筋肉や熱に弱い神経が集中しているため慎重な作業が必要だ。道具の火入れをする炉は腹部の壁の下地を作る職人と共用になっている。炉に入れたコテ先を見つめ、感覚を研ぎ澄まして炉から出し胸部の曲線を整形してゆく。ハルトの姿を後ろからのぞき込む職人がいた。

「兄ちゃん、いい腕してんな。初めて扱う殻でその曲線を一発で決めるなんざ、若いのにいい仕事だ」

 作業着を着てコクピットの曲線を整形するハルトを見て中年の職人が声をかけた。ハルトの素性に気がついている周囲の職人が、おい、と声をかけて止めようとするが、ハルトはその職人の言葉に職人として答えた。

「いえ、まだまだです。父の領域には全然追いつけてないんで」

「ほう、まだ上を見てるのか。向上心があるじゃねぇか。親父さんはなんていうんだい」

「ジュノー・ブロックというロダの職人です」

「ジュノー・ブロック! あのブロック工房のブロックさんか。あの人の加工の腕は一流だからな。俺は会ったことはないが、物を見ればそれがどんな技術で作られたものかはわかる。兄ちゃんは良い師匠を持ったな」

「はい、そう思います。ハルベルト・ブロックと言います。よろしくお願いします」

「ハルベルト・ブロック。どこかで聞いたような……」

 たまりかねた周囲の職人のひとりが声を出した。

「おい、まだ気が付かないのか。この人はこの工房の責任者だ。工房の、というか開発そのものの責任者のハルベルト様だぞ」

 言った職人はどうなることかと心配そうにハルトの顔色を伺う。

「えっ、あっ、その、失礼しましたっ」

 慌てる職人の後ろで、隣の職人に首元で親指を横にすべらせて見せた職人が「こりゃ首か?」と案じている。

「気にしないで下さい。みなさんにはみなさんの流儀があるでしょうから。俺も職人として仕事をする時には一職人として扱ってもらった方がやりやすいんで。気の抜けた仕事をしたらゲンコツ飛ばしてもらいたいくらいですよ。僕はそうやって仕事を教えてもらってきましたから」

「開発の責任者が職人の流儀をわかってくれるのか。そいつはいい。よしっ、今まで以上に腕をふるって最高の仕事をしようじゃないか。良い給金を貰って家族も喜んでるがそれ以上にやりがいがある。あらためてよろしくお願いします」

 最初にハルトに声をかけた職人に差し伸べられた手をとって握手を交した。

「実際に手を動かしてみてわかったんですけど、移動式の炉はもっと数があった方がいいですよね。予定の作業をこなすには十分だと思ってたんですけど次の人が待ってると道具の火入れに集中しづらい」

「自分の仕事に集中してれば影響されることはないが、気にならないといえば嘘になるな」

 他の職人も同意するように頷く。

「新しい炉を発注しておきますよ。すぐに届くわけでもないんで他の工房で空いてる炉がないかも調べてみます」

「そいつはありがてぇ。みんな、この配慮に応えよう」

 少し距離をおいて事態を見守っていた寡黙な職人も強い眼差しで同意した。


 ここの職人さん達の目と仕事を見てれば、誇りを持って仕事に打ち込んでいるのが分かる。良い仕事をして、それに見合った報酬をもらって奥さんや子供を幸せにする。この世界のこういうところは本当に気持ちがいい。前の世界は技術的にはここよりも全然進んでたけど技術者や現場で働く人が軽んじられてた気がするんだよな。元の世界の方が実はヤバいんじゃないのか? ここの人達はいきいきとして表情が豊かだし。前の世界では『働く』ということに良いイメージは持てなかった。働く=我慢する、みたいな。おじいちゃんが言ってた昭和の経済成長期はそうでもなかったんだろうけど。想像でしかないけど活気と希望があったのは何となくわかる。もっと暮らしが良くなる、って期待を胸に仕事してたんだろうなっていうのは想像がつく。

 それにしてもみんな腕がいい。素体はデカいけどそれ以上の人数がいる。きっと外殻の加工は順調に進む。俺は内部とフォルマージュの固定機構に意識をもっていった方が良さそうだ。


 一通りの作業を終えたハルトは工房の執務室に戻り、炉を確保する指示を出した。それからハロルドとミック、王都の主要な技術者に会議室への招集をかけた。会議室の円卓にそれぞれが着席すした。

「外殻の加工は順調です。みな腕がいい。そこで内部の制御系について話したいと思います。ミック、ロッキ型の構造の伝達は済んでるよな」

「王都の設計技師はみな優秀だ。何人かアントナーラの工房での経験者にも来てもらったから問題はない。今、今回の素体に詳しい管理官から特徴を教えてもらいながらすり合せをしつつ本体の開発計画を立てている。基本的なことは今週中にはまとめられると思う」

「わかった。それと並行して行いたいのがフォルマージュの固定機能です」

 ハルトは王都の技師に向いた。

「フォルマージュのフレームと飛行体そのものへの固定は物理的に行うとして、ロックと解除の指示はフォルマージュ側でも行えるようにしないと緊急時に対応できませんよね」

「フォルマージュの足元と膝を固定する器具にマナで指示を受け取る魔道具の機能を内蔵してもらい、プロトコルをフォルマージュ側からの送信系統と一致させれば可能です」

「まずは輸送形態としてフォルマージュが両膝を着いた姿勢での足元と両膝の4点の固定機構を板状の物の上に作ります。その状態で荷重バランスを計測して本体への設置場所を確定するのですが、立った状態でも飛行できるようにするには別の位置に足元を固定しなければならない。輸送形態の足元の位置では荷重バランスが悪いので。しかし立位での固定は飛行体が飛べるようになってどれくらいの負荷に耐えられるのかを見極めてからになります。その為にコーカサスの素体を一体実験用に用います。過負荷を何度もかけることになりますし、実験と改修を重ねてから実用機を新規に製造にした方がコスト的にも優れています」

「了解した。固定機構のマナの指令を受け取る部分を設計する魔道士との情報共有を行いながらフォルマージュの改修を進めておきましょう」


「ハルト、提案があるのじゃが」

 ハルトと呼んだ白衣を着たハロルドが発言する。

「なんでしょう?」

「サポート機となる飛行体はそれそのものも貴重なものになる。フォルマージュを降ろした後にそいつだけ隠れてるわけにもいかん。戦況によっては危険な状況で飛行を続けることになる。護衛の飛甲機をつけることになるんじゃろうがサポート機単体でも戦力になるものにした方が良い」

「それはそうですが……何かアイデアがあるんですか?」

「別種の蟲殻が保管されておるじゃろ。その一部を組み合わせてなんとかならんか考えてみたい。拒絶反応を起こすものもあるじゃろうがそれが解決できるものなのかどうかも検証しておきたい」

「保管されている蟲殻はフォルマージュ開発の過程で出たものが多いので有効利用できるなら経費の削減にも繋ります。マナを通わせたまま保管するのは維持費が大きいのです。やって頂けますか?」

 フォルマージュの開発技師が、かえって助かります、と許可を出した。

「そんじゃミック、飛行以外でのコントロールが必要になるやもしれん。それを念頭において余裕をもった設計を心がけてくれ」

「もう少しでまとまるところだっのにやり直しか」

 ミックは金髪の頭抱えつつも、やる気に燃えている。

 ミックってMなのかも。難しいものほど燃える的な。でもミックなら何とかするだろうな。向上心の塊みたいな男だし。

「では各自仕事に戻りましょう。週末前にもう一度ミーティングを行います。その時に進捗を聞かせて下さい」

 ミックをはじめ技師達が会議室を退出するなかハロルドはハルトを呼び止めた。

「この後ちょっとええか?」

「大丈夫ですけど、午後の学園の授業は爺さんの講義だよね。その時じゃだめ?」

 ハルトは今日の学園の時間の講義はキザイアとハロルドだということをノーラから配られたプリントで把握していた。

「デニスを交えて話しておきたいことがある。わしの部屋に来てくれんか」

「わかりました」


 工房を出てコボルにまたがり、城内のハロルドの私室に入る。こじんまりとした私室にはデニスが待っていた。

「どうしたんです? あらたまって」

「工房では話しづらかったんでな。この部屋は盗み聞きが出来んように結界を張ってある」

「物騒な話しじゃないでしょうね?」

「今すぐにというわけではありませんが急を要する話でもあります」

 情報屋であるデニスの言葉にハルトは耳を傾けた。

「私も工房には出入りしますし、素材確保の参考のために保管庫にも行きました。そのところどころでニンディタ訛りを耳にするのです。政治家連中の中にもいます。情報漏えいの危険性を危惧しています」

「でも開発工房の人事権は僕のものではないので直接どうこうできるわけではないんですが」

「それでも出来る限り気を配った方が良いかと思います。厳重な機密保持体制が敷かれている、とは言っても国外に情報が持ち出されてしまえば我々の耳には届きません。国内では国外への持ち出しを隠すためにあえて漏らさない、それくらいことはするでしょうから。王都の組織はなにかにつけ規模が大きのでつけ入られる隙きも出来やすくなります。実は私の部下を職人としてフォルマージュのサポート機の工房に潜り込ませて内偵させているのですが、それも比較的簡単に通りました」

「そうだったんですか。全く気がつかなかったです。では査察を入れたりして警戒を強化した方がいいですか?」

「それはもう少し待って下さい。警戒されるとしっぽを掴みにくくなります。査察を行うならば裏が取れてからの方が効果的です」

「わかりました。何か出てきたら僕の方にも報告を下さい」

「承知しました」

「面倒なことじゃな、外にも内にも警戒せねばらんとは」

「内にも?」

「第一王女の陣営がわしらとキザイアとの距離が縮まっておることを警戒しておる。(はなはだメンドクサイ」

「ウルデさまみたいな言い方になってますよ」

「そ、そうか? そりゃ気をつけねばならんの」

 いつになく神妙になったハロルド。

「ところで今日に講義はどんな内容なんです?」

「まぁ楽しみにしとれ。お前にもためになることを話すつもりじゃ。わしの前にキザイアの講義もあるじゃろ。意外な話が聞けるかもしれんぞ。聞き漏らすなよ」

「そうですよね。ノーラがいるとキザイア様は甘くなることがあるから何か貴重な話が聞けるかもしれない。そうでなくてもキザイア様の話を直接聞く機会はそうそうないですからね」

「では後ほどな」

 ハルトはハロルド、デニスと別れて開発工房に戻った。



遅くなってしまい、すいませんでした。汗

フォルマージュ支援機の開発に入ったハルトでした。不穏の動きもありそうです。

次回、キザイアとハロルドの講義から事態は意外な方向に。

「学園生活」 水曜日の投稿になります。

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