研究機関
ハルトとノーラは王宮に戻ります。
「これに乗って飛ぶのね」
一日を馬車に揺られ古宮島に戻ったハルトとノーラに同行した胤月と焚哉は飛甲機の前に立った。4人の前には一夜明けて朝日に照らされた初号機が古宮島の神殿の前に鎮座している。
「たしかに初号機のカラーだね」
「でしょー。分かりやすいよねぇ」
「焚哉、乗ってみるか?」
飛行服を着込んだ遥斗が操縦席から声を降ろした。
「ほんと!」
「ノーラが着てきた飛行服、ちょっと大きめだから着れるんじゃん。焚哉体ちっちゃいし」
「嬉しいような、傷ついたような、なんかビミョーな……でも、うん、乗ってみるよ」
大きめ革の外装の下に羊毛が敷き詰められたジャンバーを着込み、首のベルトを締める拓哉。
「ノーラちゃんの匂いがする~、ってクンカクンカしようと思ったけどそんなこともないね」
「だってまだ一日しか着てないし……。焚哉くんは変態さんなの?」
ジトー、胤月にも冷たい目線を送られる焚哉。
「くだらないことやってないで早く乗れよ」
「ごめんごめん。ここでいいの?」
「うん、大丈夫だ。そこから昇ればいいよ」
後部座席のタラップを昇り、シートベルトを締めてゴーグルを降ろした拓哉を乗せて浮上する初号機。
「思ったりより揺れないね。滑走路がいらないっていうが凄い。ヘリみたいだ」
「向こうの飛行機だと考えられない動きも出来るからな」
ハルトは空中で斜め前に初号機をゆっくりと進ませてみせた。
「いくぞ」
本格的にスピードを出して上昇する初号機。上昇を終えるとハルトは初号機をホバリングさせた。
「すごいね。かなり早い。それに高っかー。島があんなに小さいよ。あっ、本山が見える」
焚哉が指差すキャメル色の手袋の先には、うっすらと春霞の向こうに盆地のシルエットが見えている。その一番高い山の頂きに人工物の影が小さく見えた。
「馬車で一日の距離なら見えるさ。こうやってみるとキラナは川と川の間にある国って感じだな。日本っぽいといえば日本っぽいか」
グランノルンから見てキラナより先のニンディタとの境の川幅は大きい。ニンディタとの堺にまたがる森は河口あたりの湿地帯に広がり、森の中のあちこちに橋が見える。地形的に境界線があいまいな区画の一部に焼き払って作られたような畑が点在し、森を分断している。
焼き払われたっていうのは陸地側のあのあたりか。
「馬車で一日っていってもキラナの本山までは意外と近いな、道がつづら折れになってるから距離が延びてて時間的にかかるんだ。空撮された地図なんかないんだろうし、航路を決めたりするにはそうい地図が必要になるかもな」
「ボクが見たキラナの地図も二次元に正確に落としたものじゃなかったよ」
「やっぱそうなんだ。地図が必要があるな。よし、そろそろ降りるぞ」
「オーケー」
初号機が下降を始めるとみるみる島が大きくなってくる。
「あっ、でかい船が見えるよ」
「キラナって海運っていうか湖をほとりを伝う船での運送が発達してるんだよな」
「グランノルンとの堺になる河口は広くて大きいからそうらしいけど、話で聞いてただけだからさ。やっぱり自分の目で見ると違うよ」
「現場を見て感じることは大事だなって思うよな」
「でも遥斗だってけっこういい身分なんだろ? 管理職っぽいのやらされない?」
「いや、俺は仮の身分で騎士になってるだけだから。物が作れれば俺はそれでいい」
「そういうところも遥斗っぽいよ」
そうは思ってるけど帰ったら正式に身の振り方が決まるっていってたな。グランノルン公認の貴族になったら王都勤務もありえるっていってたし。でも焚哉じゃないけどオーブや守りの森の人達への恩もあるからアントナーラ所属は譲れない。それに王都の政治にはできるだけ巻き込まれたくない。
「はい、タクヤルちゃん」
飛行機からお降りた拓哉におしぼりを手渡す胤月。
過保護だなぁ。いや愛情か? ふふふ。
「でも凄いわねこれ。確かにこんなのがあったら交通も軍務もとても楽になりそうだわ」
ひたひたと初号機に触れる胤月。
「厄介ごとの種でしかなかった蟲にこんな使い道があったなんて。感慨深いわ……」
「マナの通った殻は奥森やその付近には結構あるそうです。量産されるようになればキラナとグランノルンも随分近くなると思いますよ」
「そうね。これは国をあげて取り組む価値のあるものだわ」
「まだまだ課題は多いですが。改良したいところが沢山あります。素材の殻はあっても種類が違えば考え直さないといけないこともあるだろうし、個体差も大きいんで。でも操縦は難しくありません。マナを使えればほとんど思念で動きますよ。胤月さんもすぐに乗れるようになると思います」
「これは動かし方を教えてもらいに私も早くグランノルンにいかなくちゃね」
胤月は焚哉を見た。ハルトとノーラと一旦別れることになる焚哉を察してのことだと知れた。
「出来るだけ早く進めます。楽しみに待っていて下さい」
「エレオノーラ様、宜しくお願い致します」
慇懃に頭を下げる胤月。その姿は真摯なものだ。
「僕もまた会える日を楽しみにしてるよ。ノーラちゃん」
「うん、胤月さんと二人で来てね 」
うふふ。そう笑うノーラに焚哉はやられたぁ、と困っている。
「それとタマちゃんとも仲良くね。幼なじみなんでしょ」
ノーラ被せてくなぁ。慈悲のかけらもない。くくく。
ほとんどがノーラの物の買い物が入った木箱を積み込み、そこに姿を現した琴音と舞衣に礼を述べてハルトとノーラは飛び立った。焚哉がいつまでも手を振っていた。
「さあて、帰ったらいろいろやんなくちゃー」
上空でノーラがハルトに聞こえるように声をあげた。
「ソフィーとナターシャさんのこともあるしな」
「全部まとめて上手くやるよぉ。おーー」
ノーラは大空に向って歓声を上げる。
「またなんかたくらんでるな」
「なんでわかるの!?」
「そうやって前向きにテンション上がってるときのノーラはいつもそうだったからさ」
「えへへ、ハルトぅんはわたしのことよく分かってるね」
周りの人の方がよく見えてるって本当なんだな。自分のことが一番見えてなかった。周りの目を気にして考えてたのがバカバカしくなってきたは。
「スピード上げるぞ」
「おーーっ!」
遥斗はグランノルン王宮に航路を取った。
王宮に帰還したハルトはしばらくの間仕事を置いてキラナに出かけたツケが回ってくることになり多忙を極めた。アントナーラで3号機が完成した報告を受けた翌日にはハロルドとミックがそれに乗って王宮にやってきた。アントナーラの製造工房には第一便として8体のロッキの素材が運び込まれたという。ミックはハルトが見慣れた油や蟲の体液で汚れた作業でもなく、小綺麗な技術者全とした服装でハルトに与えられた執務室にあらわれた。
「デニスさんのおかげで素体の搬入も無事に終わった。製造の方は軌道に乗りそうだ。王都から派遣された技師は飲み込みが早いどころか俺達の知らなかった知識も持ってる。彼らも加えて第一陣の制作は改良と実験をしつつになるだろうけど、第二陣、三陣が届くころには仕様を確定して量産体制に入る予定だ。閲兵式の時はなかなか戻れなくてヤキモキきたけど雨降って地固まるだったよ。みんないい仕事をしてる」
そろそろ俺も開発に加わっていいかな?そういたげにチラチラとハルトとハロルドを見るミック。
「大型機の開発は王都でやることになったでな。大きい設備をアントナーラに持ち込むより手間が省ける。小型機は今のところ素体の確保が順調で全てロッキ型でいけそうじゃ。人員輸送用の中型機開発はアントナーラの工房でもやることになるが今いる人間でなんとかしちまうじゃろう。王都も随分優秀なのを送り込んできておる。ステュアートも実務で動いとるで問題なかろう。問題があるとすればはわしの射出機の方じゃな」
「それなんですがキラナで再会した友人がそういうことに詳しいんです。ノーラは王宮に呼ぶって言ってます」
「お前がいた世界の友人か。ならしばらく様子を見るとしよう。マナの通った卵の殻に注入した鎮めの粉の実験は成功じゃった。効果が見込める。じゃがどこまで王族に話すかは何かと見極めねばならん。しかしお前とエレオノーラの関係が明らかになってから随分と風通しがよくなったわい。わしは状況が見えてくるまでここに滞在する」
コンコン、ノックが鳴り扉を開かれると近衛兵が敬礼をした。
「ハルベルト殿、キザイア様がお呼びです。ハロルド様もいらっしゃいましたか、ご一緒いただけますか?」
「いや、わしは遠慮しておく。やることがあるでの」
「了解いたしました」
近衛兵と廊下に出たハルトの背中で扉が開いた。お風呂セットの入った革袋を持ったハロルドがそそくさと逃げるように廊下の逆側に小走りに消えていった。
あんの爺さん! 解せぬ!
「どうかしましたか?」
「いえ」
帰ってきたらとっちめてやる。いや、やっぱり切り替えよう。キザイア様はノーラとキラナに行ってたことを知らないはずだ。何かと受け答えを想定しておかないと。政治ってメンドクサイ。
王城に入ったハルトは近衛兵に扉を開けられて騎士団総長室に入った。意外なことにノーラが白地に黄金の細工が施された壁際でソファーに座っていた。総長室はグランノルン騎士団の気風をそのまま形したような部屋だ。ところせましと黄金色の燐粉細工がほどこされた豪奢な部屋だ。金属類が極端に少ないのを蟲の資源で補っているが、美的感覚は前の世界と全く遜色ないどころかブラッシュアップされた近世の貴族的な部屋の中に掲げられたグランノルン国旗と騎士団旗を背中に、純白の執務席に座る白いのスーツ姿のキザイア。胸に抱くネクタイ代わりフリルの中で輝く、瞳の色と同じ青く大きな宝石が王族としての位をあらわしているようだ。その後ろには全身が黒い鎧に屋内用の簡易兜を被ったマティスが立っている。
黒騎士っていつもキザイア様の側にいるし、どんなときでも鎧なんだな。
「よく来たハルベルト。警護は外で良い」
ハルトを案内してきた近衛兵だけが退出し、黒騎士は席から立ったキザイアの背後を歩む。金髪の巻き髪を揺らしながらキザイアがテーブルの上座に腰を下ろすとハルトとノーラが腰を下ろした。マティスはキザイアの後ろに立ったまま控えている。その両側にハルトとノーラがむきあっている。キザイアの美貌の中で輝く赤い口紅に彩られた口が開いた。
「今日呼んだのはフォルマージュのサポート機の試作についてだ。故にエレオノーラにも来てもらった。マティスのことは気にしなくてよい。ここで聞いた話は命令しない限りグレースにすら話さん。忌憚ない話がしたい」
「今日はマティスさんだけなんですね」
「グレースはわけあって故郷に戻っている。お前たちにやられたのもあってか調子がよくないのもあるがそれとは無関係だ。気にするな。猟犬を手なづけるには褒美も必要なのでな」
「狂犬と猟犬ってあだ名いいでしょ。わたしがつけたんだよ」
やっぱりか。狂犬マティスってアメリカ人のあだ名だもんな。
「ハルベルト、ここだけの話だが私はエレオノーラの出自とハルトとの関係、一緒にキラナに行っていたことも知っている。父上と母上は私は知らないと思っているだろうが」
「お姉さまはわたしの理解者だから」
「そういうことだ。包み隠さず話をしようではないか」
「わかりました」
いろいろ考えたのは杞憂だったな……
「まずは最近エレオノーラの顔が明るくなったことに礼を述べよう。異変があってからこっち妹は苦労をしたのでな」
「いえ、再会できて心強いのは僕も同じなので」
凄く厳しい人だと思ってたけど意外だな。シスコンって感じでもないし元は優しい人なのかも。
「では本題に入ろう。フォルマージュのサポート機の試作に入ってもらいたい。素材の確保は出来ている。三機製作することを前提で話をしたい」
「お姉さま、予算は大丈夫なのですか?」
「試作機作成の予算は承認が降りた。フォルマージュ量産とともにサポート機の量産にもこぎつけたかったのだが」
「でもフォルマージュはマナを使う量が多すぎます。少し冷静になって下さい」
「ちょっといいですか? フォルマージュのマナの消費に関する具体的な数字を聞かせて下さい。そうですね、模擬戦の時では短すぎて参考にならないんで一回の出撃でどれくらい消費するんですか?」
「エレオノーラ答えてやれ」
「そうだね。んーと……。マナリーでいうと30分稼働で一機10万マナリー。三機動かすと30万マナリーくらいだね。一機一時間あたりで20万マナリーって考えればいいかな」
「ちょっと待って。桁が大きくて換算できない」
「単騎一時間あたりの消費をお金に換算すると2000万ドル、ざっくり日本円だと20億円、他にも移動やメンテナンスやらに経費がかかるよね。20億円は純粋に稼働するのにかかる金額」
「……それはいくらなんでも大きすぎないか?」
「だからわたしはそう思ってるよ。飛甲機の燃費を換算してみたけど、わかりやすくざっくり一時間あたり20万円だとすると、フォルマージュの20億に対して1万分の一だもん。すんごい大雑把だけどそれくらい違う。量産するとはいっても上級騎士の数もそれほどいませんよね、お姉さま」
「もう一個小隊、いや二個小隊六騎までの増産は可能だと思っている」
「お姉さまはフォルマージュにこだわりすぎだと思います。これから改良してマナの消費量を下げるとはいっても限界がありますよ?」
「しかし騎士の魂を具現化したような魔導兵器なのだぞ。お前も模擬戦を見ただろう。蟲の殲滅にはことかかない。しかも妹のお前が開発したものだ」
やっぱシスコンだこの人……
「お姉さまがわたしのことを気遣ってくれてるのうれしいです。でもそれだけでもないですよね?」
「確かにアンナの陣営に予算を取られたのは後継者候補としては気になるところだが……」
「そうでしょ。でもお姉さまは大局を見ることが出来る人だと思いますけど」
「確かに軍務全体を考えれば飛甲機の有用性に納得はできる。だから私の派閥の政治家を説得もした。しかし、いざ国民の命を救う場面になった時にフォルマージュが有用なことも確かなのだ。私は騎士団を統べる立場にある。国民を守ることに全てをかけている。そのためには王妃という立場につくことも必要なことなのだ。理解してくれ、エレオノーラ」
殲滅とか物騒な言葉が気になるけどキザイア様にも彼女なりの矜持があるってことか。
「ハルトぅんはどう思う?」
「飛甲機開発者としての立場を外して話します」
「うむ」
「フォルマージュが飛甲機に対応できない場面で切り札になることは確かです。しかし広大な地域に及ぶ結界の防衛全てをまかなえるわけじゃありません。予算のことは詳しくはわからないので規模については意見を述べませんが、既に存在する一個小隊がより良く動けるようなサポート機を作りたいと思います。そしてここからは開発者としての気持ちですが、これから作るものが人の暮らしを守るものになるのならば喜んで作ります」
「うむ。その気構えは気にいった。ハルト、でよいのだな。私もこれからはそう呼ぼう」
総長様からもハルトって呼ばれるのか。義理の弟として、とか言い出さないよね?
「三騎のフォルマージュを作るのにも1千万マナリーくらい使っちゃてるし有効利用しないとね」
「開発費か。ちなみに日本円にするとお幾らくらいなの?」
「1千億円くらいかな」
マジでか……規模が大きすぎてもうよくわからん。
「いやぁ、俺は飛甲機作ってて大それたことをやっちゃってるなぁ、ってビビったりしてたけど桁が違いすぎて感覚すらわかんないよ」
「でもそこがハルトぅんのいいところだよ。その感覚が実用的な飛甲機を作ったんだろうし。私はとにかく石版や古い文献やら何やらを読んでお金のことは全然気にしないでやってきたからああいうものが出来た。こっちにきてから自分でお金を使ったこともなくて金銭感覚とかよくわっかんないまんまやってたから」
「ある意味羨ましいよ」
「そうでもないよ。ホントは身長80メートルくらいで空も飛べて使徒をぶっ飛ばす! 的なのを作りたかったんだもん。槍を月に投げちゃったりしてさ」
「それをやっていたらグランノルンは破産しているな。どうだ、ハルト、これでも現実的な落とし所を見つけながらやってきたのだぞ、私も」
「どうやらそのようですね。ご愁傷さまです」
「あー、なんかむかつくー。それじゃわたしが悪者かおバカみたいじゃん。でもしょうがないでしょ、 人型兵器って言ったらそれが思い浮かんだんだから……」
「でも人型である必要もなかったんじゃないのか」
「だってロマンは必要でしょ? ハルトぅんが現実的なんだよ。せっかく異世界に来たっていうのにさ」
ぷんすか、という文字がノーラのまわりに見えそうだ。
「異世界っていえば魔法の剣とか、そういうのを作ろうとは思わなかったのか?」
「ももちろん考えたよ。でもわたしは赤い貴石が大きいものを動かす記述から入ったからおっきいものしか作れなかったんだもん!」
ノーラはさらに口を尖らせて横を向いた。それから何かを思い出したように向き直る。
「そういえば、ノエルちゃんの話だと人が使ってた魔術だった、って言ってたからそういうのもこれから出来るかもしれないね」
ノエルはかなり重要な情報を持ってたってことか。
「ハルト、お前もそうだがノエルも非常に重要な人物になってくる」
「お姉さま。そのことについてお話があります」
「何だ」
「わたしの権限で研究チームを作りたいんです」
「研究チームは既にあるではないか」
「いえ、他国からの研究生も入れて研究学園をつくりたいんです」
「研究学園!? 学園都市を作ります! とか言い出すんじゃないだろうな?」
「あはは、そんな規模にはしないよぉ。わたしだって現実は分かってるつもりだし。学園っていうのも大げさなくらいで実際には部活くらいの規模になるだろうね」
「部活って……じゃあ何で学園なんて言ったんだ?」
「だって高校入ったばっかりだったのにまだ高校生してないんだもん。せっかくがんばって日本の高校に入ったのにさ。わたし、高校生をちゃんとやりたい」
そういえば海外から転入するはずだったノーラにとって高校生活が始まる直前に転移しちゃったことになるんだよな。
「その気持はわかったよ」
「ありがとう。だからハルトぅんもそこに入って欲しいの。お仕事の邪魔にならないようにするし開発とかやることはどうせ一緒だし。それにそうすればタマちゃんも焚哉くんもここに呼べる。ノエルちゃんやソフィーちゃんも一緒にいられる」
「ノーラはそのことを考えてたのか」
「だってせっかく再会出来たんだから一緒にいたいじゃん。それに……」
ノーラはハルトをじっと見つめた。
二人の間にしばらく無言の時間が流れる。ノーラは喉まで出かかった言葉を飲み込むように、不思議そうな顔をするハルトにため息をつくとキザイア視線を戻した。
「お姉さま、ある程度の身分があれば研究員としてここに呼んでもいいですよね」
「施設は既にあるのだし特に問題はないだろう。変更の必要があるのは組織的な部分だけだ。私はお前に友達が出来て嬉しい。私からも母上と父上に進言しよう」
「ありがとう! お姉さま!」
「ハルト、身分の話が出たが、お前はアントナーラの騎士だ。ここに長期間滞在するには名分がいる。開発アドバイザーとしてだけではなく上級騎士候補の研修生としてならオーブも納得すると思うのだがどうだ?」
「上級騎士ですか。でもそれって凄く大変なことなんじゃ」
「なぁに、伝授された訓練をこなせばお前にもなれる。グレースは片田舎の騎士だったがそうしてここの上級騎士になった」
うわぁ、キザイア様の目が俺に訓練させるときのカッツェの目と被るんですけど。
「――わかりました。出来る限りの努力はします」
「えへへ。ハルトぅん、がんばってね」
ノーラの桃色の瞳が学園生活への期待に輝いていた。
みんなと一緒に過ごせる環境を整えようとするノーラ。
どうやら成功した模様。キザイア様はシスコン確定です。
次回、「ノーラのたくらみ」金曜日の投稿になります。




