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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
王都編
81/148

変人タマエル

長くなってしまいました。ごめんなさい。m(_ _)m

「すいませんね、琴音さん。また別のところにも付き合ってもらうことになっちゃって」

「いえいえ、お役に立てるのなら喜ばしいことですよ」

 本山から尼寺あまでらに向かう馬車の中でハルトは、狐人族の長である琴音と向き合っていた。キラナの本山所有の馬車は、パッカードの馬車と違い、和風、というか優雅な牛車が進化したような馬車だ。

「琴音様には先程のお話はお伝えしてあります」

 胤月の言葉は、席を外されたていた琴音にハルトとノーラ、焚哉との関係を伝えてあるという意味だ。なぜ琴音が同席しなかったのか疑問に思うハルトを察したのか琴音が話し出した。

「グランノルンと鳥の人との関係と似ているとはいっても、キラナの中での私達の地位は少々異なります。今でも天使様を直接お守りになっている鳥の人とは違って、私達は長らく天界との直接的な接触がない扉を守っているだけですから。今ではキラナの政治的なお話に言及する機会もそれほど多くありませんし」

「それでもこのような一大事を琴音様にお伝えしないほど不敬ではございません。今回のご協力も大変ありがたく思っております」

「構いませんよ、胤月。それに男性だけで尼寺に向っても何もできないのですから」

「えっと、どういうことですか?」

 ノーラの疑問にも優しい顔で答える琴音。

「尼寺は男子禁制なのです。要件を伝えるのにも、まずは女性が出向かなければなりません。その役目を王女様にやって頂くわけには参りませんから」

 カッポカッポと馬の足音が伝わってくる。

 パッカードの馬車と違い、宮大工が腕を振るったような馬車は見かけは優雅で豪華なのだがスピードは遅く揺れも激しい。

「ショックを改善すればもうちょっと乗り心地がよくなりそうなんだけどな」

 ひとりごちたハルトに隣の席からノーラが突っこむ。

「ハルトぅんは仕事人間だねぇ」

「馬車を改良? ハルトって騎士なんじゃないの?」

「騎士団に所属はしてるけど開発者としてなんだ。仕事内容はエンジニアっていうか開発の取りまとめっていうか。パッカードっていう馬車を作ってる商会が母体の商会にも所属してる」

「あら、あなたパッカードの人なの? あの馬車はいいわよねぇ,揺れないし。でもキラナの様式とは美的感覚がそぐわない所があって正式には採用されないのよ」

「外見と大まかな部分はそのままで、揺れないように、とか、性能部分だけを改良することは出来ると思いますよ」

「ほんとに! それならこの国の職人の仕事を減らさずに導入できるかもしれないわね。この馬車はお尻が痛くなっちゃうんだもの。あなたお話を通せるかしら?」

「出来ますよ。揺れを少なくする部分を作ってるのは父ですし、会長のジェルマンさんに話しておきますよ」

 これは馬車事業再建の手がかりになるかもしれないな。ここは推しとこうっと。

「それに夜でも道を明るく照らせる部品とかいろいろ新しい技術も取り入れているところなんでかなりいい馬車を作れると思います。数を発注してくれればお安くできるだろうし、作るだけじゃなくて技術供与って形でお付き合いするのもありだと思いますよ。キラナの木工の技術は素晴らしいしからお互いが高めあうことが出来るんじゃないでしょうか」

「あなた出来る子ね。それにいい子じゃない、ハルトちゃん。見直したわ」

「へぇ、ハルトは馬車作ってるんだ」

「それだけでもないんだけどね」

 ハルトはノーラの振り袖を引っ張って耳打ちする。

「飛甲機のことを話してもいいかな?」

「うーん。一応軍事機密だからね。同盟国だからそのうち政治的に話が行くとは思うけど私達からその話をキラナの人に話すんだったら、ここぞ、って時の交渉材料にした方がいいかな」

「うっ、ノーラがなんか政治家してる」

「そりゃ、あんなとこにいたら自然に身につくって」

 そっか。そんな素振りは見せないけどノーラも苦労したのかもしれないな。よしよし。

 大粒のつつじの髪飾りを差したノーラの頭を撫でるハルト。

「?」

 ハルトの心中は分からずも、嬉しそうに受け止めるノーラの姿を見る焚哉は不満そうだ。

「なんかやな感じ~。ひそひそ話してスキンシップとかさぁ」

「別にそんなんじゃないって。ノーラもいろいろ頑張ったんだなぁ、って思ってさ」

「それにしても仲良すぎじゃねぇ」

「幼なじみだからね。わたしとハルトぅんは」

「でもさぁ」

「あら、タクヤルちゃんは寂しいの? なんなら今夜から私が添い寝してあげましょうか?」

「だーかーらー、やめてよ、そのうっとりした目つきで僕を見るの」

「そういうところもかわいいのよねぇ」

「「ははは」」

 なんとなく人間関係のポジションが出来てきたな。胤月さん意外といいかも。お姉で坊主な僧侶だけど場を和ませるのが上手い。けどこの人もやり手なんだろうな。頭良さそうだし。ノーラの言う通り交渉材料になるものを安売りする必要もないか。それにタマエルが珠絵だったら珠絵の知識が開発方面で役立つことになりそうな気がする。切り札は取っておくべきか。


 そうこうしているうちに馬車が尼寺の参道の麓についた。周囲に建物はなく新緑の匂いにつつまれた参道を満開のつつじがを彩っている。キラナの本都はそう大きくない盆地である。一番標高が高い本山を中心に左右に連なるいくつかの山はじっこ、東側の小山の上に尼寺はあった。本山のような威厳や品格はないが石畳の階段には落ち葉ひとつなく、よく手入れされている。


「では私が行って参りますので待ち下さい」

 琴音が一人参道を登り茶色い木の門を開いて入っていった。降りてくる時には頭からすっぽりと帽子もうすの布を被った尼僧を伴っていた。

「胤月さま。お久しゅうございます。離れの方にお上がり頂いてよろしいでしょうか?」

 再び参道を登る尼僧をおいて馬車は移動し、別の小さな参道を登って離れのお堂に入った。お堂の先に壁と門があるところを見ると尼寺の外にある、ということになるらしい。


 通されたお堂の中で座布団に座りタマエルを待つ。

「どんな顔して来るかな?あいつ」

「まだ珠絵だと決まったわけじゃないんだ。先入観を持たない方がいい」

「けど絶対タマちゃんだよ。わたしはそう思う」

「俺もそうだと思うけどもし違ってた場合のことも考えとかなきゃ、って話し」

「ハルトって意外と用心深いんだね」

「一応な、一応」

 


「失礼いたします」

 白い帽子ぼうずの布から顔だけを出している比丘尼が襖を開けた。

 黒い袈裟の後ろに隠れるように女の子がプルプルと震えている。

 紺絣こんがすり作務衣さむえを着た女の子は、高くない背に短め茶髪、前の世界の珠絵そのままが年相応の派手やかさはない。モノトーンに近いセーラー服の制服の中でポイントになっていた赤いフレームの眼鏡は古風な丸眼鏡になっていた。

「先輩?ノーラなのですか?それと……」

 怯えていたような震えの質が変わる。

「あっはははは! たくやん! たくやんではないですか! 坊主姿が似合ってますよ!特にそのツルツルの頭が!!俺はミュージシャンだー、寺の息子じゃない!とかいってたのにっ!あっははははー」

 床に腹をつけて笑いごろげる珠絵。床を叩いて笑い続ける珠絵の尻を冷たい目で比丘尼が見下ろしている。

「これ! タマエル! 聖人様に何ということを」

「聖人様!? この男がですか?ぷーくすくす」

 焚哉を指差してあざ笑い、再びお腹に手をあてて腰を折る。

「なんという失礼な!! 胤月さま申し訳ありません。この者はやはり連れ帰ります」

  相変わらずだな珠絵。それとも久しぶりに俺達に会って興奮しちゃったか?

「いいえ、それにはおよびません。タマエル」

 胤月の低い声に一瞬で場が引き締まった。

「はい」

「お前はタクヤル様だけではなく、このお二人も知っている。そうですね?」

 正座の位置から問いただす胤月が珠絵に向ける視線は鋭い。

 うわー、声は小さいけど迫力ある。珠絵も一発で黙ったし。

「ぞ、存じておりますぅ」

「ごめんなさい。タマエルをここに残してちょっと外してもらえるかしら?」

 柔らかくいくぶんか高いトーンに戻った胤月の言葉に、そそくさと無言で引き下がった比丘尼が襖を閉め、足袋が廊下の床板を擦る音が遠のいてゆく。胤月はハルトに顔を向け話を促した。

「珠絵だよな?」

「遥斗先輩、ですよね?」

「そうだ。それにノーラと焚哉だ、間違いない」

 うっ、うっ、うわーーーん!! 堰を切ったように珠絵は泣き出した。そしてそのまま遥斗に突進。遥斗の膝に顔をうずめた。

「よかったぁ、よかったですよぉぉぉ。どうなることかと思いましたぁ」

 うえーーーん、大泣きする珠絵。しばらくなすがままにしておいた珠絵が落ち着いたのを見計らってハルトが声を落とす。

 すぐ泣いちゃうのも相変わらずだな。

「大変だったな。でももう大丈夫だ」 

 止まらないしゃっくりを交えながら珠絵は顔を上げた。

「ひっく、ホントに大変だったのです。このままだと坊主にされるところだったのですぅ」

「あら、そこなの……そうじゃなくてねタマエル、ハルトちゃんはこっちの世界に来てしまって大変だったわね、って言ってるんだと思うわよ」

「それも大変でしたけど、女が坊主にされるのはもっと大変なことなのです!!」

 きっ、と胤月を睨み返す珠絵。

「尼になるのだから頭を丸めるのは当たり前でしょ」

「当たり前ではないのです! 私たちのいた世界ではっ!」

「そうなの? ハルトちゃん」

「そうですね。女性が頭を丸めるということは出家してもめずらしいことだったと思います」

「あらそうなのね」

「珠絵、坊主は回避してやれるように出来るだけ頑張る。だから話しを聞かせてくれ」

「ほんとですか?タクヤンみたくならないで済むんですか?」

「お前なぁ」

 耐えかねた焚哉が近づき珠絵のこめかみに両手の拳あてグリグリとまわし出した。

「痛いっ、痛いですってばタクヤン!!痛いーー」

「ほれほれー。やめてほしければ落ち着け!」

 焚哉が離したこめかみを手の平でこする珠絵の頬がついでにぷにぷにと上下する。

「わかりましたよ。ちゃんと話しますって」

 珠絵は正座をして平たい胸元のゆるみを直してからハルト達と向き合った。

「タマちゃん、久しぶりだね」

「ノーラ、会えて嬉しいです」

 たまちゃん、ノーラ! がしっ、抱き合う二人。

 まだやんのかよ?

 呆れたハルトを置いてノーラが続けた。

「タマちゃんも転移しちゃったんだね」

「転移? やっぱそうなのですか。アニメじゃないんだから、と思いながらもその可能性が一番高いんじゃないかとは思ってましたけど」

「わたしは分かってたし、ハルトぅんも分かってたみたい。最近ハルトぅんと再会して日本文化なキラナに何かあるんじゃないか? と思ってキラナに話しを聞きに来たらたら焚哉くんと再会できたの」

「日本文化?」

「そう、わたしとハルトぅんが暮らしてる国はヨーロッパな文化圏だから」

「そうなのですか。でも調べに来たっていってもよく胤月さんのところになんて行けましたね? 私なんか何度言ってもここから出してもらなえなかったのに」

「キラナにはキラナの事情があるとは思うんだけど、わたしは王女だから」

「はっ? 王女!?ノーラは頭わいちゃってるんですか?」

「あっはは、フツーそう思うよね」

「珠絵、ノーラはグランノルン連邦王国の第三王女エレオノーラだ。俺はハルベルト・ブロック」

「マジなのですか!? なにそのかっこいい名前、ぐぬぬぬ。そういえば立派な着物きてますもんね。それに先輩も髪の毛の茶髪具合が心なしか外人風になってますね」

「珠絵の髪はほとんど変わらないな。ノーラは元々ピンク髪だったし」

「お前ら、髪、髪、言うなよ」

 とほほほ、落ち込んだ焚哉をノーラが励ます。

「焚哉くんはそれ似合ってるって。キャラ立っていい感じだよ。励ましてあげるよお。激しく誉めたげるよぉ」

「そ、そうかなぁ」

「ばっちり似合ってるって。法衣と袈裟には坊主頭が似合うって前にも言ったでしょ。わたしは好きだよ」

「す、好き……まじで!?」

「たくやん、ノーラは袈裟と坊主頭のセットが好きって言ってるだけで、別にたくやんのことが好きって言ってるわけじゃないでしょうに。何わけわかんないことに照れてるんですか」

「男ばっかに囲まれて暮らしてたからそんなことでも嬉しいの!」

「――ほんと男って。汚らわしい」

 ぷいっと横を向く珠絵。

「変わんないなぁ、お前ら。安心したよ」

 ホー、ホケキョ。庭先でうぐいすが枝を渡った。

「時に遥斗先輩。聞きたいことってなんですか?」

「そうだ。忘れるところだった。珠絵がこっちに来たのも部室の前で俺たちが会った次の日だろ? そのときこっちに来る直前、珠絵は何を考えてた?」

「あのときですか? うーん、とにかく、ヤバい、って思ってタクヤンの腕にしがみついてました。何これ!? でもなんにも出来ない! こんなの撃ってもどうこうできない。その前にいま銃もってない。撃てない、撃てない、撃てない!って思ってましたね。しょうがないのでタクヤンがお経みたいのをブツブツ言ってるから私も目をつむって祈ってました。ナンマンダブ、ナンマンダブ、ナンマンダブって」

「ナンマンダブってお前、それお経にもなってないじゃん」

「私がお経なんて知ってるわけないでしょう。一般人なんてそんなもんです」

「そうだよねぇ」

「俺もそんなもんだよ。大事なのはその前だ」

「その前とは?」

「珠絵は、撃てない、って強く思ってた。違うか?」

「違いませんね。そのとき撃てないことを激しく悔しく思ってました。禿死ぬくらい」

「ハゲハゲ言うな!」

「さっきノーラが被せてたのはスルーしたくせになんですか?撃ちますよ?」

「珠絵、続けて」

「すいません。ともかくあのとき撃てたとしてもあんなものどうしようもないでしょう?その無念を抱いて念仏となえてました」

「念仏がこの国に珠絵を導いた。でもお経じゃなかったからはじっこだった。そしてこの世界には銃がない。これが珠絵の思念だろうな」

「そっか」

「なるほどねぇ」


「ちょっと待ってください! この世界には銃がないのですか? 撃てないのですか?」

「この世界に銃はない。そもそも鉄がないんだ」

「そうなのですか……」

「銃と鉄がない……」

「どうしたノーラ。考え込んでるみたいだけど」

「ハルトぅん『銃・病原菌・鉄』っていう本知ってる?」

「ベストセラーになってたからタイトルだけは知ってる。でも読んでない」

「ピュリッツァー賞が与えられた本なんだけど、著者はわたしのアメリカの地元、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授で、UCLAはお父さんの勤め先でもあるんだけど、それはともかく、その本の内容はヨーロッパの文明論なんだよね。ヨーロッパ文明は銃、病原菌、これはぺストのこと、それと鉄の3つを軸にして考えると、文明の発達とか民族紛争や勢力圏の移り変わりとかそういのが分かりやすいよ、っていうのが書かれた本なの。わたしはこれ読んで『もしこの世界にそれがなかったらどうなってたんだろう?』ってかなり考えた。物語が作れるんじゃないかな?って思ってね。お父さんに勧められて読んだんだけど一般図書であんなに読み返した本は無い、くらいに読んで考えてた時期があるの。それがこの『異世界』をイメージする時に無意識に反映されたんじやないかなぁ、って思うんだよね」

「……鉄がないから銃がないんだと思ってた。でも簡単な火薬は作ろうと思ったら俺でも作れたんだ。偶然だけど。そう考えたらこの世界の技術なら銃があってもおかしくはない……病原菌は、確かに怪我や蟲の毒の被害は身近にあるけど病気のことはあまり耳にしないな」

「わたし、調べられるだけ調べたんだけと、脅威になるほど病気に苦しめられた。っていう記述がどこにもないんだよね」


「僕はその本読んだよ」

「焚哉って意外に読書家なんだな」

「僕も(、)世界の成り立ちに興味があるからね!」

 胸を張ってノーラに視線を送る焚哉。

「わたしは物語をつくるネタになるかなぁって思ってただけなんだけどね!」

「ぐあああ」

 ノーラにしっかり打ち返されて、悶えるハメになっただけの焚哉だった。

「お前ら、なんだかんだ良いコンビだよな」

「ほんとかな!?」

「見てて笑える」

 ええー、落ち込む焚哉と、うけるー、お腹を抱えるノーラ。珠絵は、銃がないなんて……それじゃ撃てないじゃないですか……かなり落ち込んでいる様子だ。


「ハルトちゃん、その、じゅう、っていうのが何のことだか分からないけど、それは打つものなのね?」

「そうです。この世界には存在しないものです。武器ではあるんですけども、おもちゃやスポーツで使うこともあるものです。多分、珠絵の言ってる撃つ、と、この世界の打つ、とは別の言葉になると思いますよ」

「なるほどね。タマエルが『打ちますよ、打ち殺しますよ』とか言ってたのはそのことなのね。撲殺を口にするなんてなんて怖い女なの、なんという危ない変人なのかしら、と思っていたのだけれど」

「撲殺……タクヤンにならやってもいいです」

「珠絵ストップ。お前は聖人タクヤル様に害をなす危険人物の可能性があるってことで軟禁されてたらしいから。聖人様が現出する時にそういうのが一緒に現れることがあるらしい。不利になることは冗談でも言わない方がいい。今のは冗談だよな」

「は、はい! もちろん冗談です! タクヤンとは昔からの幼なじみでとても近い間柄なのでついつい甘えてしまうのです。ほんとですよ?」

 上目つかいに胤月を見る珠絵。胤月は焚哉に真偽を確かめる視線を送った。

「珠絵はいろいろ問題あるけど悪い奴じゃないよ。幼なじみっていうのもホント。こいつ素直じゃないんだよね」

「ふむ、ツンデレってことね」

 微妙に違うような気がするけど。それよかこの世界にツンデレって言葉あるのにびっくりだわ。

「ツンデレって言葉があるんだぁ」

 ひゃっほいなノーラ。

「やっぱそう思うよな」

「ツンツンデレデレは最近の言葉よ。グランノルンの若者向けの本から流行った言葉ね」

「やっぱラノベは偉大だね! ハルトぅん」

「そうだな。てか王族がラノベなんて読んでていいのか?」

「あるのは知ってるけどあんま読まさせてくれなくてさぁ」

「じゃ今度貸してやるよ」

「ほんと! やったーーー!」

「ノーラちゃんと遥斗ってホント仲いいなぁ」

 ジトー。嫉妬マックスの焚哉に笑みを浮かべるノーラ。

「でも蒸し返すわけじゃないけど今の焚哉くんはカッコいいよ。若手でやり手の僧侶さまって感じで。その袈裟?っていうんだっけ? デザインもかっこいいし」

「ああ、これね。これは三頭右巴さんとうみぎともえっていってね、高野山ってお寺の紋なんだ。家の寺の紋じゃないんだけど、紋をを選べって言われた時にどうせなら真言宗の開祖である空海さまにちなもうと思って」

「陰陽のマークは三つある感じだな。結構よくみる柄だけど、そうな由緒があるんだ」

「実はそうなんだよね」

「空海は知ってるよ。有名なお坊さんだよね?」

「そうなんだ! 空海はね、弘法大師として日本の仏教の礎を作った人でもあるんだけど、僕が思うに修験者とか魔術師に近いんじゃないかなぁ、と思ってる。シャーマンって言ってもいいかも」

「へええ、空海さんってシャーマンなんだ! それでそれで?この話興味ある」

 ノーラに詰め寄られ、顔を赤らめて照れながらも得意げに続ける焚哉。

「元々そういう才能があった人だと思うんだよね、川で岩を打ったら熱湯が湧いて薬湯になった、とか、いろんな伝説が残っててさ。人にはそういう力が元々あって、それを宇宙や自然の中に流れるものとして説明するのに空海は仏教を用いようとしたんじゃないかなぁ、って僕は思ってるよ」

「その人の考え方はある意味正しいわ」

 焚哉とノーラの会話に加わったのは胤月だ。

「宇宙は命そのものであり、それを理解するために経典があるのだもの。そいう根本的なことを知ってるのがタクヤルちゃんのすごいところなのよ。普通の僧はそこにたどり着くまですごく長い時間を費やすわ。タクヤルちゃんの選んだ紋は、この世界は流れであり巡るものである、ということを表した紋よ。これを選んだ時に、やっぱり分かってるんだわ、と思った。この人をこれまでの形式にはめてはいけない、そう思って法衣も何色にも染まっていない特別な白にしたの」

「そうだったんだ。初めて話してくれたね」

「私色に染まって欲しい、っていうのもあるんだけどね。うふふ」

「ええー……」

「でも面白い話だったよ。 また今度ゆっくり話を聞かせてよ、焚哉くん」

「もちろんさ」


「よかったな焚哉。ノーラ、その前に今話さなきゃ、なことがあるだろ?」

「そうだんね。ごみん、ごみん」

 てへぺろっと舌を出すノーラ。

「胤月さん、このあと珠絵はどうなるんですか?」

「そうねぇ。取り敢えずタクヤルちゃんの敵ではないことはハッキリしたしぃ。でもこの子、身寄りがないのよねぇ。どこの家の娘かが分からないのよ。かといって本山に上げるわけにも行かないから、やっぱりここで尼僧になってもらうことになるでしょね」

「そんなぁ、先輩、なんとかして下さいよぉ」

「何とかって言われても……」

「ハルトぅん。ここだよ。今だよ」

「そうか。――胤月さん」

「はい」

「俺とノーラが古宮島まで何で来たのか知ってますか?」

 胤月は巫女服姿の琴音の顔をうかがうが、琴音は何食わぬ顔でお茶をすすっている。

「いえ。普通に考えたらパッカードの馬車よね。本山を素通りして古宮島に先に行くなんてちょっと変だわ、とは思いましたけど。街道を走って来てわざわざ古宮島に先に行くのは不自然ですから」

「僕たちにとっては自然だったんです。道ではなく空を飛んできたので。王宮から真っ直ぐ南南東に下って」

「空を飛んで来たぁ?」

「すいません。次は焚哉と珠絵に聞きます。焚哉、珠絵、この世界が蟲っていう存在に暮らしを脅かされるのは知ってるか?」

「なんとなくは聞いてる」

「なんかデッカイ虫がいるんですよね?」

「そうなんだ。胤月さん、キラナでも蟲の侵入を防ぐために結界を張っていますよね?」

「もちろんです。僧侶が真言や経典を研究するのもその為と言ってもいいくらいに重要なことですから。キラナは東西に長い国だからグランノルンほど長い距離ではないけれど、予算のうちび多くを割いて防いでいるわ」

「その蟲の殻、正確にはマナの通った蟲の殻で空を飛ぶ乗り物を作ったんです。それを俺たちは飛甲機と呼んでます。飛甲機のこうは甲羅のこうな」

「そんな物をあなた達が。――それで?」

「その飛甲機を用いれば結界付近の軍務が大幅に楽になります。グランノルンでは哨戒任務、非常時にける負傷者の搬送、人の移動などの使用目的で量産計画が立てらています。飛甲機の開発者である僕を中心にして」

「そして王女あるわたしはグランノルンで大きな権限をもっています。騎士団長は姉のキザイアですけども新しい物の開発には深く関わっています。その開発アドバイザーとしてタマちゃんを招集させて下さい。見返りと言ってはなんですが、軍務的により一層深い関係を築くべき同盟国の筆頭としてキラナを推薦し、飛甲機の情報公開と共同運用を父と母に進言します。同盟国として仲の良いグランノルンとキラナのことですもの。きっと上手くいくと思いますよ」

 なるほど、そう持っていくのか。やるなノーラ。

「つまりはタマエルをグランノルンで引き取ると」

「完全にとは言いません。タマちゃんが望む待遇をキラナが用意してくれるんならそれでもいいです。でも私達はタマちゃんとゆっくり話したい。友達ですから」

「ぼ、僕は、僕はどうなるの?」

「焚哉は聖人様なんだからそういうわけにもいかないだろ。でもグランノルンとキラナの同盟が強固になるっていうか、お互いに利のある関係がより深まるんだったら交流する機会も増える。また会えるよ。まずは珠絵を何とかしてやろう。俺たち友達だろ?」

「――そうだよね。一番辛そうなのは珠絵だし。うんわかった。胤月、僕からもお願いするよ。珠絵をここから出してあげて欲しい」

「お友達……いいでしょう。分かりました。政治的な立場で話していないところが気に入ったわ。その熱意、この胤月が買いましょう。グランノルンから同盟強化の話しが正式にあり次第タマエルを送るわ。タマエル、キラナの為に一肌脱いでもらうわよ」

「えー、私脱がされるんですかぁ」

 珠絵は慎ましい胸を隠すように腕を組んだ。

「グラビアアイドルかよ、お前はっ!」

「そういう冗談はもうちょっと育ててから言え!」

「タクヤンのスケベ、変態、ゴク潰し!」

「うるさい! ロリっ子爆裂娘を気取っててもお前には色気がないんだよ。べー」

「あー、言ってはならないことを言いましたね! むきーーーー」

 あはははーー、ノーラの笑い声が再び座敷に響いた。 



内容は転載していませんがタイトルを出したので一応

「銃・病原菌・鉄  1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫) 」ジャレド・ダイアモンド (著) 倉骨彰 (翻訳)

 物語のベースにどうこうという前に好きな本です。ジャレド・ダイアモンドは『文明崩壊』も面白かった。宣伝じゃありませんよ?笑

 珠絵が気に入ってるキャラを匂わすセリフが出てきましたが、これもこの物語では大切な部分で「今生きてる人が転移したら意識の中にアニメやキャラクターの記憶がないわけがない」ということで敢えて入れ込んでいます。そういう小説があってもいいんじゃないの? というベタでメタな物語でもあります。ベタメタネタはあらすじに入れ込んでおいた方がいいかな? と思いついたので改変したら報告しますね。

 

 さて、焚哉に続き、珠絵とも再会をはたしたハルトとノーラがグランノルンに帰る前にもう一つの出会いが。

 次回、「歌姫と詩人」 月曜日の投稿になります。良い週末を☆

 


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