アントナーラ騎士団VSフォルマージュ
アントナーラ騎士団が三つの陣を敷いてゆく。 固まって乱戦になる愚を犯さないためだ。
コートの脇で、フォルマージュの観察を主な任としたハルト、カッツェが単独で飛甲機に乗り込んだ。ジョナサン機にのみ後部座席に狙撃手が搭乗を始めている。対フォルマージュ攻略としての飛甲機の役割は、フォルマージュの弱点と有効な攻撃の発見である。だがその前にフォルマージュを好きに動かさせてしまえば地上部隊が全滅してしまう。観察よりも先に撹乱、そして更に重要なのは甚大な被害が予想される騎士達の救急搬送だ。ベンヤミンは本陣に身を置き、状況の応じての作戦変更を意識しつつ指揮を取る。
手合わせは20分、勝敗の判断基準はない。
そうきたか。やっぱりフォルマージュには時間的な制限がありそうだな。それとも勝敗にこだるほどのことはないってことか? この対戦が見た目にフォルマージュが圧勝するのは目に見えてる。今のところ飛甲機には攻撃する手段がない。なら戦術の中で飛甲機の価値を最大示す、それが正解だ。王都軍と戦になるわけじゃない。蟲からの防衛に飛甲機が役立つことを証明すればこの手合わせにも意味が生まれる。
ハルトは装備を確認する。しかし後ろに狙撃手が乗るまでは、コクピットから操作できるようになった煙幕しか使える装備はない。
爆雷のガス管に射出は蟲除け。これも狙撃手が乗り込んで使えるようになっても威嚇くらいにしかなからないかもな。マナの流れを阻害する粉なんてないみたいだし。嫌な臭いはするからパイロットへの嫌がらせにはなるかもしれない。でもフォルマージュのコクピットまで届くかどうかは試してみないと分からない。嫌がらせなんて姑息な感じもするけど、味方への攻撃の妨害になるなら価値はある。それに粉が少しでも操縦に影響するなら装甲の下の人間に届いてるってことだ。それが判明すればめっけもんかもな。ともかく射出と機雷の投下は団長からの指示が出て射撃手が乗ってからだ。まずは撹乱と観測に専念しよう。
ジョナサン隊長の零号機を先頭に三機の飛甲機が空に浮いた。自陣の地上には陣を構え終えた九十六人の地上部隊。対する王都騎士団は三騎のフォルマージュのみだ。しかしフィールド上を見つめる観客席の人間の興味は、いかにアントナーラが全滅を防ぎ、制限時間を超えることができるか?に集約されているように見える。
観客席は、物質化されたマナの装甲と武器を持つ身長六メートル近いフォルマージュ一騎に対し、三十人程度の人間の騎士に何ができるのかを見物してみよう、という物見遊山の雰囲気が支配している。
膝をついてたたずむ三騎のフレーム姿のフォルマージュに対峙するアントナーラ騎士団の陣は三陣とも同じ構成をしている。盾と剣を構える前衛には槍を装備した騎士も含まれる。その後ろには手持ちの機雷を投擲する中衛、弓矢を装備する後衛が続き、救護部隊の施術師達がその後方に控える。ベンヤミンの指揮する本陣は防御に特化しつつ、いつでも移動、合流、解散のできるフレキシブル体制だ。
観覧席では、またも一般席の声がノエルの耳に届いていた。
「剣を構える騎士が少ないな。騎士の誇りはないのか?」
「二機の飛甲機とやらには一人しか乗りませんな。戦う気がないと見える」
「怖気づいたのではないのですか?せめて壊されないように飛甲機を逃がすつもりなのでは」
相変わらずの論調に顔をうつむけるノエル。デニスも浮かない顔だ。しかしデニスは腹をたてているという風でもなく何かを訝しんでいるようだ。腹芸を得意とするデニスにしてはめずらしい。
「どうしました?デニスさん」
「あのような物言いの中に時折ニンディタ訛りが入るのです。王宮の中にも入り込んでいるのか、と、思いましてね。王都の政治も一筋縄でいかなのだな、と」
「「おおっ!」」
デニスとノエルの会話が大きな感嘆の声に遮られた。キザイアと黒騎士の二人がイリス、マティス、グレースの三騎のフォルマージュに搭乗し、起動した人型のフレームに装甲が現れたのだ。その美しいシルエットを誇るように立ち上がるフォルマージュに喝采が飛ぶ。
「やはりグランノルンの技術の粋を集めたものだ。荘厳ですな」
「まるで天使様の化身のようではないですか」
仕立てのよい衣裳に身を包んだ王都の貴族が集う一般席の空気が晴れ晴れとしたものになる。
「本物の天使様はもっと綺麗だよ!ふんっ!!」
そう言いながらもフォルマージュの胸に輝く赤い石を見つめるノエル。
「赤い貴石を使った魔術であのおっきな騎士の形をしたものができてるんだ。お父さんは間違ってなかった。今は戦う相手だけど、いずれは協力して一緒に蟲に立ち向かうんだもん。今はしっかり見て勉強しよなくちゃ」
デニスは独り言を呟いたようなノエルに温かい笑顔を向けフィールドに視線を戻した。
皆の視線が集まるフィールドで対峙する両軍、その数、百対三。開始のホイッスルが鳴った。
相手は蟲じゃない。フォルマージュに乗った人間だ。心理的に追い込めばあるいは。
先に仕掛けたのはアントナーラ軍。三機の飛甲機が煙幕を張る。視界を塞がれたフォルマージュに炸裂する爆発音。アントナーラの地上軍から機雷の投擲が絶え間なく続く。噴煙の中で幾つかのガス管の直撃を受けたイリスとマティスが盾を出し、防御の姿勢を取る中にグレース足元からローラーの回転音が鳴る。猟犬グレースが煙幕から飛び出した。
鮮血のごとき鮮やかな赤い装飾を漆黒の装甲に靡かせて騎士の集団に突っ込むグレース。中央を開けてそれを避けたアントナーラの部隊はグレースを追わない。しかし後衛の弓矢が冷静に足元のローラーを狙った。しかし鏃でどうこうなるローラーではない。ローラーの本体も装甲に守られている。しかしそれは分かっていることだ言わんばかりに、弓兵達が冷静に狙ったは地面だ。矢先に装着された小型のガス管の爆発が地面をえぐる。弓兵がグレースの足元の行く先を狙って次々と矢を放つと些かな間をおいて起こる爆発が地面をえぐってゆく。路面状態の悪化にローラーでの滑走を諦めて自走を始めるグレース。
「猟犬の足は抑えた。これでひとつ武器を奪ったな」
「これからが本番じゃ」
フィールドを見つめるハロルドとオーブの視線は戦況の変化を認めた。
巨大な盾を振るい、巻き起こした風で煙幕を振り払ったマティスが動く。マティスに対応する部隊の弓兵達が機雷付きの矢をマティス胸を狙って放った。しかしその爆発も盾で受け防いだマティスが部隊に接近。盾を消して鎌を構えた黒く巨大な騎士が前衛をまとめてなぎにゆく。疾風を巻き起こす鎌の刃をなんとか盾で防いだ騎士達の身体が宙を舞う。その場からマティスを引き離そうと背後に回って仕掛ける弓兵。負傷者が倒れた場所に煙幕が張られ重傷者が飛甲機で搬送されてゆく。再び濃い煙幕に視界を塞がれたフォルマージュは闇雲に動けない。霞の中から癒やしが終わった騎士が戦線に復帰しに駆け出してくる。本陣では飛甲機に搬送された負傷者を複数の施術師が取り囲んで必死の癒やしが行われている。
「なるほど、飛甲機を撹乱と後送に用いたのですね」
「まずは戦闘区域を分断、負傷者の救護を行う場所を作り、迅速な戦線復帰で部隊の消耗を避けることを初段の目的としました」
「それに加えて観測も行っていますね。諦めてはいない、と」
「蟲との戦いにおいては諦めたらそこで終わりです。どんな状況であれ我が騎士達に諦めるという選択肢はありません」
オーブと王妃の会話は現場を知っている者のそれであった。
しかしマティスの鎌の猛威は止まらない。暗く濃い血の色の装飾をまとった腕が空を切る度に幾人かがなぎ倒される。
「一旦引け!」
撤退を始める部隊。ここが好機とばかりに追うマティス。その背後から迫るジョナサンの二号機がしこたま機雷を落とした。爆風を瞬時に出した盾で防ぐ黒いフォルマージュの足が止まる。今は牽制担当の二号機だけが攻撃手段を持っている。重症者の搬送を終え、ジョナサンの攻撃を観測していたハルトの初号機が再び濃い煙幕を張ってマティスの視界を遮った。
ハルトの耳には搬送した重傷者のうめき声がまだ残っている。
ハルトが本陣を見ると零号機を示すオレンジ、初号機を示す紫の旗と共に本陣への帰還を促す赤い旗が掲げられていた。
一足早く本陣に戻ったカッツェに続いて初号機を降ろしたハルトの後部座席にユージンが乗り込みつつ、ミックが煙幕の補給を行っている間にベンヤミンに報告するカッツェとハルト。
「やはり胸の貴石への攻撃は嫌がってますね」
「それと武器の同時使用をしているところを見ていません。盾か武器のどちらかしか使っていません」
「それが確実かどうかを確かめたい。盾と武器を両方使用しなければならない状況を作れ。地上部隊にも伝令を出す」
再び空に舞った零号機はマティスに、初号機のハルトはグレースに向かった。イリスは動くことなく騎士達と対峙している。
ハルトは高度を上げて戦況を俯瞰する。
指揮官機は動かないな。自信と誇り、というかプライドなのか? 取り敢えず膠着してる。マティスとグレースは……。
グレースはローラーの滑走と自走を織り交ぜながら投擲斧を繰り出して投げ込まれる機雷と矢による攻撃を避けつつ間合いを詰めている。マティスの方は、鎌を振るえる距離に近づけさせないように威嚇を絶やさない中衛、後衛の対処を考がえている様な動きだ。
ハルトはグレースから少し距離をとった位置で初号機の高度を下げ、部隊の指揮官に声をかけた。
「グレースの胸の貴石を集中的に狙ってみて下さい。どう反応をするのかを確認したいです」
「了解した」
ローラーの駆動が武具の使用と同義ならグレースの方が隙ができやすいかも。盾が出しづらいはずだ。
敢えて攻撃の手を緩めた騎士に接近するグレース。引き寄せたグレースの胸の貴石に集中的に矢が放たれる。グレースは両腕をクロスさせて防御し、滑走して前衛を蹴散らしつつ駆け抜ける。その経路に先回りしていた初号機を警戒したグレースが進路を変えた。
やっぱり盾とローラーの同時使用は出来ないくさいな。飛甲機の機動力ならもしかして。
ハルトは初号機を本陣に向けて飛ばしベンヤミンに叫ぶ。
「零号機のカッツェを戻してして貰えませんか!」
「何かひらめいたか?」
「カッツェに俺の後ろに乗ってもらって零号機の操縦をユージンと交代して欲しいんです。グレースが胸の貴石を腕でガードしてる時、頭の貴石ががら空きです。カッツェならパチンコ、小型の投擲器で額の貴石を狙える。弓を持ってなければ油断するかもしれない」
「分かった。ユージン降りてこい。零号機の操縦者としての指示を出す」
「ミック!予備の装備箱からパチンコと爆ぜ弾、それと石弾を持ってきてくれ」
「了解」
帰還指示に従って戻ってきた零号機からカッツェが降りてくる。ハルトが作戦を説明するとカッツェは「まかしておけ。パチンコの腕はノエルにも負けん」と、自信ありげだ。そこにミックが戻り幾つかの革袋を手渡す。
「カッツェ、これが爆ぜ弾、こっちが石弾だ。そしてこれが石の周りに爆薬を被せた爆ぜ弾だ。俺が作った。両方のいいとこどりが出来る。状況に応じて使い分けてくれ」
「いつの間にそんなもん作ってたんだ?」
ミックの用意周到さに驚くハルト。
「ハルトが事件のあとアントナーラに残ってた時に暇があったから。俺に出来ることは何かないのかって考えた時に少しでも飛甲機から出せる武器を作りたいと思って……。試験もしてある。打撲と爆発、両方の効果のバランスは取れてる。重い石を核にしてあるから重さ的には石弾と変わらない。すぐ使えるぞ」
「よっしゃ。ナイスミック」
カッツェはGJサインを出しつつ弾を受け取り初号機の後部座席のタラップを昇る。
「出すぞ!」
ハルトの声と共に舞い上がる初号機。それを見届けるとユージンが零号機を空に浮かべた。
「そろそろ時間切れだ。我々もグレース対応の応援に出るぞ」
補給部隊と救護員を残し出陣する本陣。救護要員である施術師はユージンの零号機が搬送してくる重傷者の対応に余念がない。
「そろそろ大詰めか。ハルトの進言で編成を変えたようじゃな」
「せめて一矢報いれば良いのだが」
腕を組むオーブ。客観的に見れば劣勢は明白だ。防御に徹し、なんとか部隊の維持に成功している、と見るのが正解だろう。
初号機がグレースを追う。何種類かのパチンコの弾を得たといっても不意打ちという効果が最も有効だ。カッツェはミックが新しく作った石の周囲に爆薬を被せた弾を選んだ。地上軍の集中砲火と同時に、上空からグレースに向かって降下し機雷を投擲する初号機。グレースが睨みつけるようハルトを仰いだ。
今だ!!
ハルトは初号機のライトのスイッチを入れる。
意表をついたハイビームが目潰しになり、一瞬動きを止めるグレース。地上から胸の貴石への集中砲火。腕をクロスして防御するグレースのローラーが回り始める。
「カッツェ!!」
「ほいよー」
緊張感に欠ける声を発するにも関わらず、信頼するカッツェをグレースの顔に向けて全速力で運ぶハルト。グレースを追い越して離脱するハルトの後方で小さな爆発音。
「やったか!?」
「カッツェそれフラグ!」
しかしグランノルンにフラグは通用しなかったようだ。グレースの動きが沈黙している。
「ハルト!俺をやつの頭に運べ!切り込む!!」
旋回を始めた初号機が動きを止めた黒いフォルマージュを小さく半周し、正面からグレースの顔に突っ込んでゆく。すれ違いざま剣を構えたカッツェが空中に飛び出す。大上段から振り下ろされたカッツェの剣が黒いフォルマージュの額の貴石にひびを入れた。
グレースの胸の装甲を滑り降りるカッツェ。
「ついでにこれも!」
逆手に持ち替えた剣で胸の貴石をカッツェがえぐると装甲が消えた。「うわっ」体重を支える拠り所を失ったカッツェは地上に落下した。
「そこまで!!」
対戦の終了を告げる声とともにホイッスルが吹かれた。
内部フレームだけの姿になったグレースの中央で黒騎士が「信じられない」、と、震える両の手の平を見つめている。カッツェに駆け寄るアントナーラの騎士達。差し出された手を取ったカッツェは「痛ててて」と腰に手を当てながらも起き上がった。
「この短時間でのフォルマージュの弱点の判別と的確な攻撃、見事でした。あの紫色の飛甲機には発案者のハルベルト・ブロックが乗っているのでしたね。一連の動きは彼の指揮に見えましたが」
「はい。私も彼とその友である若い二人の活躍に驚いています」
「こちらに来たら紹介して下さるかしら」
「もちろんです」
王を挟んでの王妃とオーブやり取りは王家の実権を表しているようだった。
王族や領主が身を置く貴賓席の後ろの区画に座るノエルに、更に後方の一般席の感想が聞こえてくる。
「一騎やられてしまいましたが圧勝でしたな、もう少し時間があればアントナーラの騎士を全滅させていたことでしょう」
「フォルマージュの有用性が証明されのではないでしょうか?」
それが苦し紛れであることはノエル達の隣で腕を組むんだまま微動だにしない王都の騎士達の表情を見れば明らかだ。アントナーラ騎士団が閲覧席に上がってくる。オーブに手招きされたハルトはカッツェと共に貴賓席に入った。王より前に出た王妃マリアに紹介されたハルトが名乗った。
「ハルベルト・ブロックと申します」
「ハルベルト、赤い貴石が弱点だとなぜ見抜けたのですか?」
「それは」
ハルトは貴賓席の後ろのアントナーラの席を見上げる。
「彼女、ノエルが赤い貴石の知識を持っていたのです。彼女のアドバイスとフォルマージュの戦い方を観測しての予想を試してみたのです」
ノハルトが指差したエルを見た王妃だけではなく王族一同が驚いている。
「彼女はアントナーラの人間ですか?」
「いえ、私と同じく守りの森で暮らしていました」
「カッツェ・サラノルンですね。鳥の人の勇気を讃えます」
そこにマントを纏ったキザイアが貴賓席に姿を現した。何かを言おうとしたキザイアを静止し王妃マリアが続ける。
「彼女を呼んで貰えませんか?」
ハロルドが動きノエルと共に王族に近づくと頭を下げ、傅いて名乗るノエルに謁見の許しを与える王妃。
「頭をあげてお立ち下さい。ノエル」
顔を上げたノエルに向けるキザイアの表情は険しい。
「あなたは赤い貴石のことを知っているのですね?」
王妃からノエルにかけられた言葉を聞いたキザイアの目が大きく見開かれる。
「はい、父が研究をしていたもので……。我が家に伝わる古い文献に赤い貴石を用いたマナを物質化する魔術の記述があり、父はそれを信じて研究をしていました。でも小さな欠片しか手にいれられていなくて発動するところは今日初めて見ました」
「そうですか。――エレオノーラ」
白に桃色をあしらったプリンセスラインのドレスに白いベールで顔から上を隠した第三王女が近づいてくる。
ノエルと背格好がそっくりだ。体型も。
ノエルに近づいたエレオノーラを見て驚くハルト。
「フォルマージュを発案した第三王女エレオノーラです。ニ人は良く似ています。そのニ人が赤い貴石に興味を持ち、知識を持っていることはとても偶然とは思えません。エレオノーラ、挨拶を」
ゆっくりと前に出る第三王女。
「第三王女、エレオノーラ・リーレ・グランノルンと申します」
カテーシーの挨拶をするエレオノーラ。オーブ、ハロルドの順に挨拶をしたエレオノーラがハルトと向き合った。
「ハルベルト・ブロックですね。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
やべ!思わず癖で頭を下げちゃった。
拳で胸を叩く敬礼を慌てて捧げるハルト。ノエルとカッツェとも挨拶を交したエレオノーラが下がる。人前に出ることが少ないせいなのか緊張しているようだ。足が震えている。
やべー、俺がこっちの人から見たら妙な態度をとっちゃったから失礼にあたって怒らせちゃったかな?
「一騎とはいえまさかフォルマージュを攻略するとはな。恐れ入った」
流れを変えるように入ってきたのはキザイアだ。その表情は完敗を喫したそれに近い。
「うむ。今夜は騎士達の懇親会を兼ねたパーティーだ。オーブ、そこでまた会おう」
王の言葉に王族が下がり、緊張感から開放された面々がほっと息をついた。
「ほえー、お姫さまと挨拶しちゃったよ?わたし。これは現実なの?」
頬をつねるノエル。
「どうやらノエルもややこしいことに巻き込まれそうじゃな」
「またお姫さまに会えるかな?」
「会えるというよりいろいろと聞かれそうじゃがな」
「やった!赤い貴石のお話も聞けるかも!」
あくまでも前向きなノエル。
「しかし良くやった。ハルト、カッツェ」
「そうじゃな。まさか仕留められるとは思うとらなんだ」
「そうだよ。カッツェもハルもかっこよかったよ」
「宿舎に戻って着替えよう。今夜の懇親会はパーティー形式だ。俺は王族に呼び出されると思うが……」
「ここからはお主の仕事じゃ。頑張れよ」
腰をビシっと叩かれたオーブの表情は辟易としながらも目には希望の光が浮んでいる。
「うーん」
背伸びをしてノエルのポケットから出てきたフィレーネ。
「そうだ。フィレーネもおつかれさん」
「なに?ハルト。その今まで忘れてました、てへ、みたいな言い方。隠れてるのも大変なんだからね。ふんっ」
周囲に笑いが起こった。
「フィレーネの話しも貴重だったぞ。やつが飛べん、というフィレーネの話は役に立った。蜜がうまそうな花を届けさせよう」
「やっぱりオーブは優しいね!」
一般席の貴族達が退出し終わった頃を見計らってアントナーラの一行は宿舎に戻った。
フォルマージュとの対戦を終えたハルト。
王族とフォルマージュを発案した第三王女との距離が縮まりました。
次回「交流」
水曜日の投稿になります。




