王宮の中
続きます。
この後すぐコロシアムに行くのは確定なのね。オーブ鼻息が荒いですよ?
模擬戦が行われるコロシアムを超え、全員が揃って寝泊まりをする宿舎の前に馬車が止まると側仕え達が先に降りた。側使え達の足取り軽い。王都の側仕えと思われる女性達に先導されつつ迅速に荷物を運び込み始める。仕事を終えたことを伝えるかのように女性の側使え達が玄関に並ぶ中、オーブとその側仕えから入館してゆく。オーブの側仕えは男性ばかりだ。女性が圧倒的に多い側仕えの中で敢えてそうしているのもアントナーラの特徴だという。航空運用部隊でまとまったハルト達は騎士団上層部の次に入館した。ジョナサン隊長を先頭にしたハルト達を案内する王都の女性がちらちらとハルト達を振り返ってくる。
何を気にしてるんだろう?ちょっと不自然なくらいの気にかけようだ。
「こちらのお部屋から順にジョナサン様、ハルベルト様、ハロルド様、カッツェ様、デニス様の個室となります。その先が後の方々の二人部屋となっております。扉にお名前が記してありますのでお進み下さい。女性の方はこちらへ」
案内をうながされたノエルをじっと見つめる女性。
「ノエルと言います。よろしくお願いします」
その定まった視線に何かを返さないといけないと思ったのか、ノエルが桃色の髪を下げて自己紹介をした。慌てた様子の女性が答える。
「失礼いたしました。ノエル様。こちらへどうぞ」
ニ階への階段を上がるノエルを見送って各自がそれぞれの部屋に入った。
宿舎っていってもホテルより綺麗だな。王宮の来客施設すげー。花も活けられてるしフィレーネも退屈しないだろう。フィレーネ用に活け花の追加ってお願い出来るのかな?
側仕え達によってクローゼットに収められた服に着替え終わるとノックが鳴った。
扉を開けると着替えを終えたミックだった。
「飛甲機が気になるんだろ?」
やっぱりミックだったか、そう思いながらハルトが口にすると「当然だろ」と、さも当たり前のように答えるミック。
「馬車から降される前に技術庁舎に着いておきたい。カッツェも一緒に行く。許可も取ってある」
「ユージンは?同室だろ」
「ユージンは騎士の方の打ち合わせに出るって」
「分かった。俺も行く。その前にノエルの部屋に行きたいんだけど」
「フィレーネが気になるのか?ならカッツェと行って来るといい。俺は先に行って作業してるから」
ミックを見送り五分ほど待つとカッツェが現れた。
「先にノエルの部屋に行ってから、と思って」
「フィレーネのことだろ。その件でハロルド様のところに行ってたんだ」
「ん?」
「まっ、とにかく行こうや」
二階に上がる階段の前で警護に立つ王都の騎士にノエルの部屋に上がることを告げると先程の女性が呼ばれ案内に就いた。男性のみでニ階に上がることは禁じられているそうだ。
女性がノエルの部屋をノックすると開いた扉からノエルが顔を覗かせた。ノエルの部屋に入ったハルト達は花の周りを飛ぶフィレーネを呼び、カッツが話しかけた。
「フィレーネ。今日はこの部屋でおとなしくしていろ。ハロルド様がオーブにフィレーネのことを話してくれた」
「えー、この部屋から出ちゃいけないのぉ」
「お前たち妖精からしてみたらどう見えてるか分からないけど、人間界では長い間妖精の姿を見ていないんだ。結構な騒ぎになるぞ。ちゃんと話しを通す必要がある。それとこの笛が聞こえたら十分以内にハロルド様か俺のところに戻ること」
カッツェは人には聞こえない守り鴉を呼ぶ笛を吹いた。
「えー、それじゃ花畑にも行けないじゃん」
「フィレーネ、ここは王宮だ。妙なところに入り込んで機密を見られた、なんてことにでもなってみろ、大変なことになる。王宮では何やら魔道具の実験が盛んらしいぞ? 研究者達の実験台になりたいのか? 王都の外の花畑にも時間を見つけて連れてってやるから」
「わかったわよ。おとなしくしてりゃいいでしょ」
「よし、オーブとハロルド様が何とかしてくれるまでの我慢だ。ちなみに約束を破ったら飯抜きの上、鳥かごに幽閉だからな」
「ええー、そんなぁ」
「お前を守るためでもあるんだ。気をつけてくれよ」
「わかったわよ!」
「もしかして大変なことをしちゃったのかな? わたし」
「フィレーネが自由に動けるようにするには上の方に話しを通さないといけないからな。ハロルド様は笑ってたけど、オーブは「やることが増えた」って頭を抱えてたそうだ。それにさっきここ入る時フィレーネがノエルのポケットでもぞもぞしてたろ。案内の女性が気にしてた感じもあったし」
「それでか。俺も気になってたんだよ」
ハルトの言葉にノエルは首を横に振った。
「それだけでも無いような気がするんだよね。あの人のわたしを見る目がちょっと怖いの」
「何かあったか?」
「この部屋に案内してくれた時も部屋の中まで入ってきたんだよ。色々教えてくれたのはいいんだけど只の親切にしてはちょっと……。私が上着を脱いだ時に驚いてたから獣人だって分かってなかったんじゃないかな」
ノエルは不安そうにしっぽを動かした。
「他には何かなかったか?」
心配そうなカッツェにノエルが答える。
「そういえば着替えを確かめに開けたクローゼットの中を見て『やはりピンクのお召し物がお好きなんですね』って言ってた」
「それは髪がピンク色だからじゃないのか?」
「でも髪の色に服を合わせるって普通のことをわざわざ言うかなぁ? それに持ってきた本にも興味があるみたいでジロジロ見てたし」
「「うーん」」
「まっ、考えてもしょうがないんじゃない?何かあるならそのうち分かるって。それより私が自由に飛べるようにちゃんとしてよね」
「そうだった。フィレーネ、今からハロルド様と一緒にオーブのとこに行くぞ。ハロルド様が連れてこいって」
「よし!オーブを味方につければ良いんだね。行こ行こ」
「わたしも一緒に行く!」
ノエルのポケットに隠れたフィレーネを連れて一行はハロルドの部屋に向かった。
「王宮の詳しいもんならフィレーネの白いレオタードでフェルンだと解るじゃろうからな。上位種の妖精なんぞがフラフラ飛びまわとったら直ぐに捕獲されてしまうわい。オーブにしっかり話してもらうように頼みにゆくぞ」
ハロルドを加えてオーブの部屋を訪ねると、アントナーラの警護騎士が中に声を掛けて扉を開く。執務を行う見慣れた服装に着替えたオーブは自室が割り当てられて間もないにもかかわらず既に仕事を始めていた。二組の執政官と書記に指示を出している。オーブの指示が一段落すると一列に並んだハルト達からフィレーネが翼をはためかせてオーブの前に出た。
フィレーネは他の人間より少し高めのオーブの顔の高さでゆっくりと近づき、4,50センチ手前の空中で止まると左胸に右の手のひらを当て優雅な口調で名乗る。
「あらためましてオーブ・アントナーラ。フェルンのフィレーネと申します。ご指示に従い約束を守りますので王宮での滞在をお許しください」
少し折った身体を持ち上げてから、まるで履いているかのようにスカートの裾のあたりを摘んで片足を下げてちょこんと礼をするフィレーネ。空中でのカテーシーだ。実際には常に白いレオタード姿のフレーネはスカートは履いていない。しかしそれがまた優雅さを強調するような雰囲気で、指先まで意識が通った美しい所作を元に戻すと、にこやかな視線をオーブに送った。
「話は聞いている。飛甲機開発の立役者でもあることだし開発協力者として歓迎しよう。しかし身の危険が起こる可能性があるところには近づくないように。後で王宮の見取り図をノエルの部屋の届けさせるからしっかりと確認しておくとよい」
「はい。オーブってやっぱり優しいね。だーい好き!」
オーブの顔に赤い小さな髪の毛が舞いこんで横から武骨な頬にキスをした。
あっけに取られたのはオーブだけではなくハルト達も同様だ。
「ま、まぁ、まかせておけ」
オーブが顔を真っ赤にしてピント外れの返答をし、それを見た周囲は固まってしまったままだ。
開いた口が塞がらない、って本当になるんだな。
あんぐりと開けてしまった口を閉じても愕然としたままハルトは、「飛甲機を降ろしてきます」と伝えてそそくさとオーブの部屋を後にした。
「お前、あんな喋り方も出来るんだな」
「だって味方になってもらった方がいいんでしょ?」
「そりゃそうだけどさぁ」
「オーブにチューしちゃうとか凄いよね。びっくらこいた」
「ノエルのその言葉にびっくりだよ!? 実はね、オーブ・アントナーラは妖精族みんなから感謝されてるんだよ。ねっ、ハロルド」
「もう随分昔の話しじゃがな」
「なにそれ!もっと、く・わ・し・く!」
「またの機会にな。わしはわしで今日は忙しいんじゃ。ほれ、技術庁舎に行ってこい。ハルトはコロシアムの下見にもゆくんじゃろ?急げ急げ」
ノエルのポケットに隠れたフィレーネとノエルを見送って男3人で技術庁舎に向かった。
広々とした倉庫の一角では既に荷馬車上の木枠のコンテナが四方に開かれ、飛甲機のフックに天井の滑車から垂れるロープが仕掛けられていた。荷台から降ろす作業を行っているのはアントナーラの騎士達だ。
「遅くなりました。すいません、騎士の皆さんにこんなことをさせてしまって」
「王都の連中にやらせる訳にはいかんからな。それにこれは我々の任務だ、気にするな。ハルト達はその辺りで見ていてくれれば良い。何かアドバイスがあったら教えて欲しい。せっかく磨き上げてもらったんだ。模擬戦の前に傷をつける訳にはいかんからな」
「そのままで大丈夫です。宜しくお願いします」
任務とはいえ今王宮にいる騎士はエリートばかりなのだ。しかし騎士達がそれを気にする様子は全くなくハルトから見ても的確に作業が進む。飛甲機の外殻に繋がったロープが地下の水力を利用している歯車に巻き取られて零号機が中に浮いた。
「要望しておいた道具も全て揃ってるな。さすがは、というよりすごい高級品ばかりだ」
ミックの言葉に作業を監督する騎士が答えた。
「王都の連中も興味津々だったぞ。模擬戦までは見せるわけにいかんと追い払ったが、それでも道具からどんな作業をするのかを推察しているようだった」
「技術屋なら気になるでしょうね。ところで向こうのことを何か聞きませんでしたか?」
ハルトの問いに作業を監督している騎士は首を横に振った。
「さすがに俺達の前ではそんな話は微塵もしなかった」
「お披露目までお預けかぁ」
「手合せも大事だが我々の戦いは飛甲機によって大きく変わる。そしてそれは今後の防衛力の向上に確実に繋がる。俺達は俺達の出来ることを胸を張って見せよう」
「そうですね。頑張りましょう」
信頼してくれる仲間がいる。胸を張って堂々とやるべきことをやろう。
ハルトは丁寧に降ろされた三機の飛甲機を騎士たちと共に見つめた。
王宮内でフィレーネの滞在を認めて貰うのは意外と大変な模様。
オーブも仕事が増えて大変な様子です。
次回、飛甲機を王宮に持ち込んだハルトが生きた蟲と対峙します。
「模擬戦」水曜日の投稿になります。




