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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第一部・第一章 プロローグ
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撃ちたいのです。

工学部、夏の大会のミーティングです。


大会レギュレーション<新設・チャレンジの木>はメンドクサイ文章なので飛ばしてもらっても構いません。文章にすると……から読んで下さいね。


「どうもです」

 遙斗が工学部の部室の扉をガラガラと開けると既に何人かがくちろいだ様子で座っていた。

 部室は他の教室と同じ大きさの生物準備室という名の倉庫だ。動物の剥製に昆虫の標本、人体模型やらに工学部の備品に工具と雑多なものが並んでいる。後ろには使っていない机と椅子が積まれ、部員が11人しか居ない工学部でも工作するのに3班に別れるのが精一杯。今日はミーティングっぽく机を先に来た部員がなんとなく丸く並べてくれていた。

 大会が終わると5人の三年生が抜けて弱小文化部になる事が確定していることを考えればこの部室でも贅沢なのかもしれない。


「おっ、みんな早いな」

 青山部長が入ってきてプリントを教卓に置いた。

「今年の大会のレギュレーションだ。昼休みが終わったらミーティングを始めるから目を通しておいてくれ」


 今年も去年と大して変わらないんだろうな、多分。ロボットを作ると言っても毎年先輩から受け継いだ箱型のロボットを整備したり、ちょこっと改造したりがこの工学部の伝統ってやつだ。

 それでも遙斗は一応プリントに目を通す。


<全国ロボットコンテスト高校生の部・レギュレーション>

・ロボットは一台とする。

・制限時間は3分間とする。

・フィールド内に用意されたピンポン玉30個を指定の位置に置くことで一つ一点とする。指定位置は3ヶ所とする。詳細は別図を参照の事。

・評価は獲得点数、経過時間、技術点で決定する。


・ロボットの規制。

ピンポン玉の外径と同じ内径のパイプの使用は60cm以内とする。

…………


・入賞

 ・総合優勝 全国大会出場権

 ・技能賞

 ・仮装賞

 ・特別賞(アイデア賞)


 指定位置が一ヶ所減っているけどそれ以外は去年と変わらない。段差を乗り越えてピンポン玉を回収、坂やガタガタ道を越えて筒状のペットボトルの中にピンポン玉を入れれば得点。マンネリ化しているのかロボットにゆるキャラなんかの仮装をさせて笑いを取りに行く学校も結構いる。特別賞?こんなんあったけ?


<新設・チャレンジの木>

 ―フィールド内に新区域を設置する。―


・高さ2mのポールに直径25cmのステンレス製のボウル(料理等で使うもの)を設置しボウル内に留まったピンポン玉を1つにつき2点とする。

・ポールは直径3.2cmの塩化ビニール製のパイプを使用し、土台として幅、奥行き30cm高さ10cmの箱に固定されているものとする。

・ポール高45cmを中心に指定のゴムジョイントを使用する。

・ポール高150cmに直径50cmの鼠返しを設置する。固定金具は仕様に従う。

・ボウルに直接触れた場合は失格とする。またワイヤー長及びベルトコンベア形式の運搬機の長さに制限を設ける。詳細は仕様書参照の事。また射出機構を使用する場合は鼠返しの高さ以上での射出を禁じる。

・ポールから6等分された位置、半径1.5mの外円に高さ2mを底辺とした6基の送風機にて送風を行う。送風機は常に<中>の強度で送風を行い5秒ごとに順次1基が<強>の風力で送風を行う。


 

うっはー、難易度急に上げてきたな。文章にすると


・玉入れコーナー作ったよ。得点2倍ね。

・ゴールのポールの根本には段差があるから乗らないと登れないよ。

・登ってもゴムジョイントより上に行くとロボットの重さでポールが曲がるから。

・それでも登ってくるなら鼠返しがあるよ。ちなみにゴールより大きいからそこから狙って打っても入りません。腕伸ばしたりして鼠返しより上で打つのもなしね。

・ゴールに触ったら失格ね。ゴールに届くベルトコンベアとかパイプ使って入れるのも禁止な。

・床から打っても6ヶ所から風吹かしてエアカーテン作るからね。 5秒ごとに風向き変わるから打つなら移動してね。結構狭いけど。



「無理ゲーだこれ」

「急にどうしちゃんたんだろね」

 部員の揃った部室がざわめく。

「もう始めてんのかぁ。俺も一緒に飯食っていい?」

 顧問の渡辺先生が入ってくる。先生というより気さくなお兄いさん的な28歳独身。ちょっとれてるけど。

 ちなみに遙斗たち2年の数学教師でもある。


「今年は随分と変わりましたね」

 部長が代表して尋ねた。

「今年からベンチャーの人材の育成がどうちゃらで文科省だけじゃなくて経産省からも予算出てるんだってよ。送風機に繋ぐ回路入りのコンセントやらゴムジョインもさっき届いた、新設やるなら申請するから部費もっと増えるぞ。まっ話しは後にして飯食お、飯」

 

 カイゼンもいいけど発想もね。ってことか。まぁ面白そうっちゅあ面白そうだけど……この部に新設にいどみしましょう!っていうモチベショーンは無いだろうな。堅いところで去年までの区域でいいんじゃね?な展開で終わりっしょ。三年生は大会が夏だから仕方なく残ってる感じだし。


「じゃあそろそろ始めるか」

 部長の仕切りでミーティングが始まる。

「まずみんなの意見が聞きたい。三年から教えてくれ」

「新設無理ゲーでしょ。大会まで一ヶ月で新型作るとかありえない。模試もあるし」

「高専でもないんだし確実に得点狙うで良いかと思われ」

「旧区域やって時間あったら新設行ってギャンブルかなぁ。入って!お祈り。みたいな」

 思った通りの反応だ。


「じゃあ二年」

「だいだい同じ感じで」

 遙斗も無難に合わせておくことにする。

「一年はどうだ?」

「ちょっといいですか?」

 珠絵が手を上げた。

「新設、面白そうだと思うのです。撃つ方向で何とかならないでしょうか?私は撃ちたいのです!」

 やっぱな、と皆が珠絵を見て呆れる。珠絵は射撃部の新設を提唱し「どれだけ予算が必要になるか分かっていますか?」と断られ、サバイバルゲーム同好会(女子限定)の募集も見事にすべって、金属を加工するならエアガンの改造とかに役立つかも知れませんし、何かを撃てる可能性が一番高い部活なのです、と工学部に入って来た。エアガン改造しちゃダメでしょ……。帰宅部は親的に無いらしい。そんな珠絵は工学部で案の定浮いている。


「考えるだけでも良いので時間を頂けないでしょうか?」

「そうだな、せっかくの機会だしその時間はあっても良いと思う」

「でもなぁ。やっぱ無理臭くない」

「なしよりのなしっしょ」


「一度問題点を整理してみよう」

 障害になる点。黒板に箇条書きに上げる部長。

「ああメリットも出しておくか」

新設:メリット:高得点。

 確かにギャンブルでも入れは二倍だ。でもそこに活路を見出すには時間的に旧区域を捨てることになる。ギャンブル性を下げるにはどうしたら良い?


「撃てないのだったら、もういっそのことポールを爆破して落ちたボウルに玉を入れましょう!爆発物生成の資料を図書室に探しにいってもいいですか?」

 それスナイパー超えてもうテロリストだよ?

「珠絵、ストップ」

 場が凍った。


「……タマエ?楠木、そういうことに、なった、のか?」


 そういうこと?あー、彼女になったのかってこと?んなわけないでしょ。


「部長、脱線しますけどちょっといいですか?みなさんも聞いて下さい。最近クラスの友達が花家はなうちの幼なじみだという事が判明しまして、話していたらどうやら花家はみんなから名前で呼ばれたいみたいなんですよ。コイツ性格こんなだしもうちょっと打ち解けてあげた方がみんなの気分的な被害も少ないじゃないかなぁって。笑って許せる的な」


 珠絵はジトーっと遙斗を見ている。遙斗と目が会うと、ふんっと視線を外した。

 何だよ援護射撃してやってるのに。


「そ、そうだな、花家がその方が良いんだったらとは思うが……花家はそれでいいのか?」

「はい……その方向でお願いします」

「分かった。俺もこれからはそう呼ぼう。みんなも呼び方を急に変えるのは難しいかもしれないけど意識してみてくれ」

「まっいんじゃない。一応紅一点なんだし。マスコット的なポジションって事で」

 三年の部員が言うと一応場が落ち着いた。

「一応はひどいですね」

「珠絵、一旦流れ切ろう。本題に戻そう」

 


 「うほん、では本題に戻るぞ」

 さてどうしたものか?遥斗は巻き戻して思索に潜る。メリットとデメリットをぶち抜くアイデアを探せ。記憶を探れ。意外な物の組み合わせに活路があるかも。ピンポン玉が入るイメージを膨らませろ。風船みたいに。ん?風船?


「なぁ珠絵。エアガンって風船割れるか?」

「割れますね。ライフルだと20m位でほぼ割れます。ハンドガンでも5m位なら確実に割れるんじゃないですかね?」

 となると後は


「風船の中にピンポン玉入れた後にヘリウム入れて飛ばせないかな?それをゴールの上に上げて撃って爆ぜさせれば数も稼げる。風向きで風船がボウルの内側に傾いた時を狙うんだ」


「「「なるほど」」」


「……出来なくはないかも知れませんね、楠木先輩。玉と同じ径のパイプに風船にを固定しておいてピンポン玉を押し込むんです。押し込む物の先端からヘリウムを出して膨らませた後に紐の付いた金具みたいので口を閉じれば……」

「風船の口を閉じるのは結束バンド的なのでいけるかもな。それなら単純に引っ張れば済む」

「紐よりテグスっしょ。釣りの電動リールをコントロール系に繋げられないかな?」

「長さは固定でいいでそ。高さ決まってますしおすし。車体を微妙な位置調整できるギア比を追加すればオッケー的な」

「新設までは障害物ないしイケるかもですね」


 具体的な目標が出来るとアイデアがポンポンと出てくる。なんだかんだ言いながらみんなモノ作りが好きなんだな。


「移動とピンポン玉のピックアップは既存の使い回しでいけるな」

 部長が良いこと言った。受験を控えた三年の負担は少ない方がいい。


「面白いじゃない。いいねぇ、青春だねぇ、おじさん応援しちゃうよ。自転車通学で買い物行けるやつ、風船買ってこい。とりあえず実験してみよう。花家珠絵、エアガンの校内持ち込みを許可する!自転車借りて取りに行って来い。家、近いだろ?」

ニタっと先生が笑う。

「了解しました!!」

 敬礼をして珠絵は出て行った。

「残りは備品倉庫へ。ワックスがけに使う送風機運ぶぞ。清掃業者にはここから持っていってここに返すように伝えとく。部長、モマタローにポールとゴールの資材とヘリウムの発注よろしくな」


 風船を嬉々として割りまくった珠絵はご満悦だった。

 一年が射撃を含めた風船関連、二年が全体の制御系、三年が移動と玉の回収から風船までの送りと大まかな役割分担が出来た。今まで浮いていた珠絵も皆と馴染んだ模様。


 街灯が点き始めた坂道を下る遥斗と珠絵の足取りは軽い。

「先輩、ありがとうございます」

「ん?何が」

「これで念願の部活で撃つ、が叶います。――あの、どうして先輩は私に力を貸してくれたのですか?」

「うーん、今回のアイデアは珠絵が撃ちたいって言い続けてた勝ちっていうか、それが印象が残ってたっていうのが大きいんだけど」

「先輩が撃つことを援護してくれるとは思いませんでした」

「珠絵の撃ちたいはちょっと何だなとは思うけど、こないだの焚哉の弟との話しを聞いて思う所もあったんだ」

「それはどのような?」

「珠絵はさ、焚哉の弟からいじめられた時に撃つことで自分の尊厳守ったんだな、って思ってさ」

 あの時(、、、)自分に守れなかったものを珠絵は守った、と遥斗は思ったのだ。その方向性がどうであっても。そんなことを考える遥斗を他所に珠絵は耳を赤くしいた。


「そ、その……部員のみんなも乗ってきて面白くなってきましたね」

「俺もこんなにやる気になるとは思ってなかったよ」

「これまでけっこうドライな感じでしたからね」

 ドライな感じっていうのは学校全体の雰囲気な気もするけど。

「人って分かんないもんだな。和田が金属の精密加工が得意なんて知らなかったよ。一年が入ってきてから随分経ったような気がするけど」

「彼の家は金属加工の工場こうばらしいですよ。私も和田っちがラジコン好きなのを初めて知りました。戦車もあるぜとスマホを見せてくれたんですけヒトマル式にキュウマル、ナナヨン式と3つもありましたよ」

「詳しいな」

「ミリも全体的に好きですからね。エアフェスタにも行ったことありますよ」

 この街には航空自衛隊の基地がある。

「俺もブルーインパルスを見に行ったことあるよ、国産の飛行機が好きなんだよ。F2はアメリカのF16ベースだけど国産ってなんかロマンなんだよなぁ」

「わかります」

 家からも時々自衛隊の練習機を見かける。遠いジェット音が聞こえるとベランダに出て飛行機雲が流れるのを見るとワクワクしたものだ。

「まぁ来週にはロボットのベース部分の改修が終わるだろうけど、まだまだ考えなきゃいけないことがありそうだな」

「わたしは風船の何処を撃てば玉が入りやすいのかとか考えてみますね。提案してくれた先輩のためにもがんばります」

 遙斗は一学期を終えた学校を後にした。

 この時、二学期を迎えることが無いなどとは遥斗は全く考えもしなかった。


「お兄ちゃんお帰りぃ」

 真櫻は今日も通常運転だ。ソファーでガリガリさんをかじりながら漫画を読んでいる。横で寝ていたチロルが起き上がり、散歩なの!?という目を遙斗に向けた。

「ただいま」

「お兄ちゃん、頼まれてくれる?」

「何を?」

「夕方の花の水やり。今日買ってきた漫画まだ読み切れてなくてさ」

「分かったよ。終わったら貸せよ。クイーン戦始まった?」

「教えなーい」

 遥斗は窓際に並んでいる母が好きな花の鉢植えたちに水をやる。花の水やりは嫌いではない。


「あっ、そうだ」

 真櫻が漫画を置いて遥斗を向いた。

「お兄ちゃん森林公園の案内ガイドみたいなの持ってない?明後日から隣の運動公園で合宿なんだ」

「そういえば合宿がどうとか言ってたな」

 森林公園か。ノーラと綾乃、將の小学校時代の顔が思い浮かぶ。

「探してみるよ」

「サンキュー」

「チロルちょっと待っててな」

 2階に上がって廊下の突き当りの物置を開ける。幾つか書類ケースの引き出しを開けて探しているとスマホがポロンと鳴った。ノーラからだった。

『お家決まったよ。管理人のおじさんもいい人だった。そのマンションに住んでるんだって。楠木のお家からも遠くないよ。綾乃ちゃんパワー最高』

 早いなぁ。さすがというか。それに管理人さん常駐なら安心だ『よかったな』と返す。

『うん、明日、東京行くね』

『楽しんで来いよ』

『また連絡するね。マオマオにもメッセージ入れとくねぇ』

 スマホをポケットに戻し、次の引き出しを開けると森林公園のパンフレットを見つけた。

パンフレットの下からプリントされた写真が出てきた。それを部屋に置いてから妹にパンフレットを渡しにリビングに降りた。


遥斗のアイデアで工学部は夏の大会にむけて盛り上がることになりました。

次回は、甲殻の翼、です

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