表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甲殻の翼  作者: 月弓 陽
王都編
69/148

謁見

長くなってしまったので2話にわけました。今日は2話投稿になります。

 春の陽光に朝の寒さが和らいだ街道を王都に向けて馬車団が進む。温まってきた風が心地ちいい。新緑の牧草地や、冬の間に撒かれた種の芽吹いた麦畑にモンシロ蝶が舞っている。早朝にもかかわらず雑草取りに余念のない農夫たちが手を降って礼を向けてくるのが車窓から見えた。暮らしを守ってくれている、という自覚が強い国民に騎士達は尊敬されているのだ。

 日本の自衛官に対する空気もこういう感じだったら良かったのにな。戦争を厭うことと守ることに命をかけてくれている人への感謝は別であるべきだ。

 ハルトはつい前世で思っていたことを思い出してしまう。

 農地を越えて王都の前面に広がる森の入り口には、王都騎士団の出迎えの馬の一団が控えていた。一般の通行が規制された王都へ続く森の中、王都の騎士団達に先導されて道幅の広い一本道を進む。早馬が軍用路の開門を知らせに先発した。王都の正門が見えてくる前に、普段は使われていない脇道への門が開かれ軍用路が開放される。その道の両脇には石積の壁が築かれていて進路を変えることはおろか森の様子をうかがうこともできない。要所々々(ようしょようしょ)に砦が構えられ、進行と防御、両方の機能に対処するように配置された要塞にも、グランノルンとアントナーラ両方の徽章が染め抜かれた旗が掲げられていた。砦の前に整列し敬礼を送る普段からそこに勤務しているであろう兵士達のマントも色鮮やかな式典用の物だ。「貴族達とは何かとあるだろうが騎士同士の信頼関係は揺らぐ事はない」オーブの話を聞きながら、ハルト達を乗せた馬車団が事前に開かれたいた軍用門から王都に入った。

 軍用門を抜けた先は日差しを遮っていた森の木々がぷっつりと途切れ、開放的な景色を見せた。その空き地に西に傾きはじめた日差しが注ぐ。戦時に街との緩衝区域となり被害を軽減するための空間だという。そこでも停車することなく馬車団は進む。街へと繋がる道の両側から歓迎の声を上げる住民達に旗を振られて見送られ、建物がひしめき合う街中に入ると観衆の数が膨れ上がり歩道が群衆で埋まっていた。紙吹雪が舞う中を進む馬車団。群衆の最前列で憧れの視線も向ける子供の姿も見える。

 軍事パレードって言うと元の世界では良いイメージがない。独裁国家のプロパガンダとかそういうイメージ。日本では戦争や軍備はとにかく一括ひとくくりに悪! っていうイメージだったし。当時に事情があったにしても侵略戦争は良くなかったんだろうし、戦争自体も無いに越したことはない。でもそこで暮らす人達を守っている人に感謝や尊敬を向けないのは違う。こっちの世界は蟲対人っていう分かりやすい構図があるからにしても凄い熱気だ。

「王都の領民もグランノルンの西側を我々アントナーラの騎士が守っていることを知っているからな」

 窓の外の熱狂を見つめるハルトにオーブが言葉をかけた。

「しかし王都の貴族の中には実務的なアントナーラの騎士を『田舎騎士』と蔑む傾向があるのも事実だ。軍事と政治はまた別のものだが渾然一体とならざるを得ないこともある」

 ベンヤミン騎士団長の補足にハルトがたずねる。

「僕が政治的な場面に出くわすことがあるんですか?」

「オーブと共に行動する際には政治的な色合いも入っていると認識した方が良いな」

「しかしそれは模擬戦と手合わせが終わってからのことだ。それまでは今日の歓迎式典があるだけだ、細かいことは追々説明する」

 騎士団長と領主の言葉にハルトは一旦それを脇に置くことにした。眼前にある模擬戦と手合わせの件だけで頭がいっぱいなのが正直なところだ。

 ますは飛甲機のチェックと射出機の調整。明日一日で完璧なコンディションにしないと。

  街中のパレードが終盤に近づき薄いピンク色のガラスが螺旋を描く王宮が見えて来た。前回ハルト達が訪れた神殿と王宮の正門の間にある整備された公園のような敷地に馬車が到着すると整列が始まる。オーブが最前列の中央に立つ。それ以外は出発の時と同じ隊列が整えられてゆく。入場許可を受けた一般市民の列が警備の騎士達に遮られて見守る中、歓迎の式典が始まった。


 騎士団総長である第二王女のキザイアが、白銀に黄金の装飾が彩る鎧で首から下を包んだ姿で壇上に上がる。その背後には二人の側近の黒騎士。漆黒の鎧に赤い装飾、それと揃いの兜をかぶった黒騎士は王都騎士団の中でも異彩を放っている。その黒い影をまとうように白銀と黄金のキザイアが中央に立つ。

「国王陛下への閲兵式に王都を訪れたアントナーラ騎士団を歓迎する。お互いのこれまでの訓練の成果を披露すると共に、騎士団員を始め呪術者、技術者との交流が更なるグランノルンの発展に繋がることを期待する。また合同訓練には私自身も参加する。よろしく頼む」

 キザイアが簡潔とも言える挨拶を終え、その鋭い碧眼をアントナーラの騎士団に向けた。プラチナブロンドの巻き髪を揺らしながら壇上の後ろに下がると王族達が横に長い舞台の上に姿を現した。観衆から歓声が上がる。

 がっしりとした体躯に短い銀髪の王の装いは、礼装軍服を思い起こさせるが王の正装である。テールの長いコートの下の黒いスラックスにはニ本の黄金のラインが入り、同じく黒を基調にした上着には白いパイピングが施され、首元の赤いカラーに繋がっている。両の肩に輝く金色の肩章かたしょうの左肩からは同じく金色の飾り紐、飾緒しょくしょが垂れ、それと対をなす右胸をグランノルンの意匠である天使の羽が飾る。

 堂々とした王の歩みに続くのは、王の威厳にすら霞むことのない燃えるような王妃の姿だ。太く結い上げられた赤い髪。その上に花飾りのような帽子を乗せ、髪と同じ色合いの、力強い赤のドレスに肘の上まである白いレースの手袋に包まれた手上げられる。

 王よりも装飾が控えめの二人の王子が王妃の次に続くと、民衆に手を振りながらその優しさと美しさを披露するようにあらわれたのは第一王女のアンナだ。上品なベージュのたて襟のドレスを引き立てる大粒のホワイトパールのネックレスとイヤリング。その横に流れるサンディーブロンドの長い髪。頭上には透けるような素材でできたドレスと同色のつばが広めのハットが揺れている。

 最後に第三王女エレオノーラが姿をあらわした。白を基調にピンクをあしらったバルーンスリーブのプリンセスラインのドレスの上に大きな白いベールを被っている。彼女は体格の良い王族の中では一段背が低く、幾分かふくよかに見える。背も平均的な身長のハルトよりも低いだろう。

 優雅かつその威厳が重みとなったような足取りで王族達が進む。昼間の正装のため肌を露出しているのは男女とも顔だけだ。王族とはその国の力強さを表すものだというグランノルン連邦の王族である。腐敗や後ろ向きな印象を許さない荘厳さがその姿に見て取れた。


 オーブに初めて会った時には武闘派だなぁ、と思ったけどグランノルン王にも近いものを感じる。でもまた違った意味での威厳もあって、まさに<王>って感じだ。その王よりも威厳を感じさせる王妃様。実権を握ってるのは王妃様って話だけど実際に見ると納得するな。そしてやっぱり王子達は優男やさおとこって感じ。第一王女は三姉妹の優しいお姉さま、第三王女はいかにも末っ子って感じか。ドレスの趣向がそう見せるのか、顔が見えないのにそんな雰囲気が伝わってくる。顔どころか髪も見えない。かなり厳重に隠すんだな。ところで王妃のマリア様と第一王女のアンナ様の名前を混同しそうだ。マリアンナで覚えて、マリア、アンナの順番で覚えよう。ノエルは今頃憧れのお姫様をじかに見られて感激してるだろうな。騎士と技術者は今は離れて整列してるからその顔を見れないのが残念だ。

 王族達が、礼装用の装飾がメインの簡易的な兜以外はフルアーマーのギザイアと側近の黒騎士を筆頭に、礼装軍服をまとった王都騎士団の重鎮達、上級貴族と思われる宰相と女性が筆頭を務める司祭達の前に揃った。その光景は圧巻だった。アントナーラの騎士となり、この世界の上流階級の様式に慣れようとしていたハルトの目にも殊更ことさらに格調高いものに映る。

 舞台の前に並んだ一団を率いるオーブ・アントナーラが挨拶と号令を掛ける。

「アントナーラ騎士団、只今見参いたしました。グランノルン王に対し敬礼!」

 音が聞こえそうな三拍。右足を踏み鳴らし、右手の拳が左胸を叩き、その右手の指先がこめかみの横に一直線に伸びた。御前に整列した総員の一糸乱れぬ敬礼に王は頷きをもって返し一歩前に出る。

「アントナーラの騎士達の来訪を歓迎する。共に守るグランノルン連邦王国に栄光あれ」

 王の言葉が終わると同時に参列した騎士たちは再び胸を叩き、気をつけの姿勢に直った。

 ハルトは心の中で思う。

 やっぱ訓練て大事だな。息がぴったり合う動作は気持ちがいい。

「王をはじめ我々とは閲兵式の期間中何度となく顔を合わせることになる。本日の謁見の儀は以上だ。ゆっくりと休むが良い。明後日みょうごにちの模擬戦を楽しみにしている」

 キザイアの言葉で閲兵式最初の式典が締めくくられ、王都側の人間が退出すると王都の御者達により再び馬車が回される。アントナーラ陣営が乗り込みを終えた頃には、王宮の高い門が開門されていた。茜色を見せはじめた空の下、格子状のガラス細工の大きな門が開かれた王宮内に馬車が吸い込まれるように入ってゆく。

 ついに王宮の中に入った。ノエルは内心大喜びだろうな。それはそうとあの門もそうだけどこのガラスの螺旋の構造物は強化ガラス並の強度がありそうだ。

 薄いピンク色に透ける六角形の部屋が組み合わさったような螺旋構造物。古の女王スズメバチの巣は何百年と経った今でも輝きを失っていない。ロッカーのガラスの部屋のカーテンは全て開け放たれ、中でこうべを垂れている男女の姿が見える。遮る物は上下が見きれないように敷かれた絨毯のみだ。上下の部屋とを行き来をする階段が各部屋についているのが外からも見えた。

 あれだと昼間の仕事中に照明いらないな。超エコなお役所。

 ガラスの基部の上に建つ白い石造りの城の底を見上げながら、螺旋を描きつつ上階ほど狭くなっていくガラスの構造物を抜けると、横に湾曲してゆく灰色の石壁が見えてくる。

「あそこが騎士達の訓練場、コロシアムだ」

「大きいですね」

 これサッカースタジアムより大きいんじゃないか?

「ここで模擬戦が行われるのだ。中を見たいだろ?」

「はい。飛甲機の状態を確認したら見てみたいです」

「では技術庁舎から戻ったら声をかけてくれ」

 ハルトは場所の窓に顔を寄せ、模擬戦の会場をなるコロシアムの高い壁を見上げた。

王宮に入り王族との謁見式から王都滞在が始まりました。

ここから王都編になります。後で章管理しておきますね。

王都編の登場人物紹介を作りました。ちょくちょく加筆しなくちゃかもですが。

https://ncode.syosetu.com/n7582ft/3/


今日は2話投稿になります。王都到着の場面が続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ