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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第一部・第一章 プロローグ
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部屋のベッドで

ノーラが遥斗の家に泊まります。


「お兄ちゃんノーラ泊まってくって、ノーラ私の部屋で一緒に寝よ!」

「うん」

「ホテルより落ち着くかもな。ノーラゆっくりしてけよ。俺先に風呂入ってくるな」

 父親に現実に引き戻された遥斗は風呂に入って気分を変えた。さっぱりして風呂から上がると入れ替わりに真櫻とノーラが入ってゆく。


「お兄ちゃん覗かないでよね」

「覗くかあほ」

 楠木のお風呂だーと言いながら真櫻まおについてゆくノーラは真櫻のパジャマを持っていた。

 背格好は同じくらい。真櫻の方が背が高い。真櫻の背が高いのもあるけどまだ中二だ。ノーラは日本人にしても普通より少し高いくらい。まぁその分大きく育ったところが目立つわけではあるが。 


 部屋に戻ると遥斗は椅子に座り、志望校を上げたいと咄嗟に出してしまった言葉を思いだす。綾乃に近づきたい、その想いが言わせたことだった。

 遥斗は父と同じエンジニア志望だ。蛙の子は蛙なのだろうが「エンジニアは大変だぞ。リストラの対象にもなるし」と両手もろてで賛成された訳でもない。どの道今の日本で安穏あんのんとしていられるところは少ない。ならば出来るだけ自分の自分の好きな道を行きたい。取り留めのない考えを何とか遥斗はまとめようとした。


 本棚の上には模型やフィギュアが飾ってある。

 プロペラエンジンが剥き出し出しになった飛行機の横には国産戦闘機のF2B、海難救助挺US-2と国産の飛行機の模型が並び、青い洋上迷彩色が丁寧に塗られている。その隣のフィギュアの中には美少女+メカやパワードスーツのプラモもある。

 ついつい趣味の世界の夢想にふけってっていると、きゃっきゃっという声が廊下から聞こえてきた。その声が隣の部屋に入って暫くすると遥斗の部屋のノックが鳴った。


 ドアを開けると牛柄の真櫻ののパジャマを着たノーラが「入ってもいい?」と一応尋ねながら入ってくる。

 やっぱ、ぱっつんぱっつんだなぁ。

 半乾きの髪の毛の艶めかしさにもちょっと胸がドキドキした。


「わぁ、本増えたねぇ。しかもラノベの占拠率もなかなかだね。クールだよハルトゥん」

 本棚に見入るノーラ。

「このラブコメ面白いよねぇ、ネタが盛りだくさんで勉強になった。結構名作揃ってるね。大変結構。これも好きだなぁ。痛そうだけど。青鬼メイドさん可愛いよね」 

 ノーラのラノベ愛が炸裂した。


 それには同意するよ。ラノベは最高だ。物語にもぐって、何度死ぬほど痛い思いをしても諦めない主人公や、ぼっちながら冷たい令嬢の心を惹いていく主人になりきって帰ってくると俺も頑張ろうって思える。それにどのヒロインも可愛くて、切なくて、やっぱ最高だ。ライトノベルでもヘビーめなのが好きなんだどね。


「そういえば借りてたラノベ、部屋決まったら持っていかなきゃな」

 結構量がある。よく一度に持って来てくれたもんだ、重かったろうに。

「ゆっくりでいいよ。どんなお部屋になるかまだ分からないし……本棚が大きくなったのは嬉しいけどサッカーのポスターはもう無いんだね。タマちゃんに楠木先輩はサッカー部ではありませんよ、工学部ですよ。って聞いた時にびっくりしちゃった。やっぱりあの怪我が原因なの?」

「――まぁそんなようなもんだ」


 中二の夏休みに遥斗は怪我をした。左足足首の骨折と靭帯損傷。暫く入院した。入院中に日本を離れる直前のノーラが「暇でしょ」と大量のラノベを持って来てくれたのだ。懐かしい思い出と暗いものが遥斗の頭をもたげる。

 無意識に机の上のシャーペンを取って回していた。


「ふふ、その癖は相変わらずだね。フィギュアもあるねぇ!メカと美少女は萌えますなぁ」

「パワードスーツ系ばっかだけどな。俺あの時入院してたろ。暇だろうからって母さんの友達が病院の中案内してくれてさ。その時にリハビリをしてる女の子が医療用のパワードスーツで訓練してるのを見たんだよ。人の役に立つ技術をの当たりにしてちょっと感動したんだ」

 ALSという病名とその過酷さを隠してノーラに話す。自分がそれを知った時はショックだったから。だからこそ、そのパワードスーツの存在が大きく見えた。


「そっか、ハルトゥんは前向きだね」

 ノーラは遥斗のベッドに座った。そして遠慮なく寝そべった。

 ドクンと遥斗の心臓が一つ鳴った。

 以前は幼なじみとして過ごした時間の長さと慣れが感じさせなかった異性をノーラに感じていた。


「懐かしい天井。小さい時にこの部屋で三人で寝たこともあったねぇ」

 天井を見上げたいたノーラは遥斗のベッドで横向きになって遥斗に顔を向けた。

「そ、うだったけか?」

「もー覚えてないの?ハルトゥん、赤くなってる?」

 心臓の鼓動がやばい。思春期の男に今の状況はやばい。


「私ねぇ、日本に戻って来れて本当に嬉しいんだ。ほんとはジミーが大学に入る時、私が小学校6年生の夏に家族でアメリカに帰ろうって話しがあったんだよ。でもせめて日本の小学校を卒業したい、少しでもいいから中学校にも通いたい、って説得して一年延ばしてもらったの」

 そんなことがあったのか。

「これからはアニメもリアルタイムで見れるしラノベもちゃんと見て買える。ほんとに嬉しい。――アニメもゲームもラノベも楽しいことをわたしに教えてくれたのはハルトゥんなんだよ。また一緒にいれて嬉しい」

 一際ひときわ大きな鼓動が聞こえた。

 ちょと待て、勘違いするなよ。ラノベで学んだだろ、勘違いは地雷製造機!


「と、とにかく秋からよろしくね!」

 がばっと起き上がったノーラが赤くなってる気がする。だから勘違いだってばよ。

「こっちには何時戻ってくるんだ?夏休みぎりぎりまでアメリカにいるわけじゃないんだろ?」

「学校始まる5日か6日前には戻ってくるよ。ちょっとギリな感じもするけど、ジミーもイギリス行くし家族で一緒に居られる最後の夏だから。だから本当はコミケには行けないと思うんだ」

 でも冬コミもあるし!ノーラぐっと拳を握った。

「お邪魔しちゃったね。お休みハルトゥん」

「お休みノーラ」

 ノーラが出ていくと椅子に後ろ向きに座ってさっきまでノーラが寝ていたベッドを眺めた。

 それからベッドに寝そべると嗅ぎなれたシャンプーとは別のいい匂いがした。




 網戸から聞こえ始めた蝉の声に目を覚ます。カーテンを開けると眩しい光が飛び込んで来た。鏡も無いのに寝癖を直す。いつもはしないのに。やっぱり昨夜のノーラがどっかで気になってる?


 時間はまだ早い。リビングに降りて水を飲みチロルを散歩につれて出た。軽く走りながら朝の日差しを堪能する。今日も暑くなりそうだ。

 家に戻ると家族とノーラがリビングにいた。真櫻とノーラはもう着替えを済ませている。

「ノーラよく眠れた?」

「うん、実は入学試験や転入のあれこれで緊張してたみたいで寝不足だったんだけど昨日はぐっすり寝れたよ。あっお母さん私も手伝うね」

「ほんとノーラは人懐っこくて可愛いわね」

 テーブルでは「朝練に遅刻するー」と真櫻がパンをかじっている。

「はいマオマオ牛乳」

「ありがと、私朝練だから先に出るけどまた遊びにきてね」

「もちのろんだよ」

 バタバタと真櫻が出ていくと玄関から「行ってらっしゃーい」のノーラの声が聞こえた。順能力高いわぁ。


 遥斗は朝食を終えると部屋に上がって制服に着替えた。制服を着ると今日どんな顔で綾乃と会えばいいんだろうと考えてしまう。まぁ話す機会はないんだろうけど。

 リビングに寄って両親とノーラに

「行ってきまーす」

と声を掛けるとノーラが

「私も出るよ。また来ます。ありがとうございました」

 ペコリと両親に挨拶をして出てきた。


 玄関から出ると水色のポップなデザインの軽自動車が通り過ぎた。

「あのマークって綾乃ちゃんの会社の車だよね。かわいいね」

「最近の軽ってデザイン丸いからな。女性が乗ることが多いからああいうデザインは受けるかもな」

 神宮路は自動車メーカーの創業家なのだ。そして自動車メーカーは本社に工場、部品メーカーや関連会社、下請け、孫請の町工場に販売店に保険と裾野が広い。この街で何らかの形で仕事として関わる人は少なくなく遥斗の父親の会社も取引がある。その巨大産業の総本山の娘である綾乃に迂闊に近づく人間はまずいない。

綾乃の一見キツイ人当たりもあるんだろうけど『孤高』と呼ばれるのにも訳がある。そんな綾乃に男として側に居たいともだえるのをドMと言われるのはある意味正論なんだよなぁ。


「アメリカでも日本車は人気だよ。全然壊れないって」

「カイゼンにカイゼンを重ねた結果だからな」

「ほんとジャパンクオリティーって凄いと思うよ。今だって道にゴミひとつ落ちてないでしょ」

「また話しが逸れてるぞ」

「ごめんごめん」てへ

「不動産屋にこんなに早く行っていいのか?」

「うん、急いでいるようだから早めにいらっしゃいって言ってくれた。9時には待ってますからって」

「まだ時間あるな、どうするんだ」

「私、ちょっと歩きたい。やっぱり懐かしくて」 

 バス停に着いた。

「私行くね」

「気をつけてな」

「うん、ハルトゥん行ってらっしゃい、それじゃバイバイ、バタフリー」

「切なくなるからそれは止めて」

「大事なことだから2回言います。バイバイ、バタフリー」

「だからやめろって」

「あはは、じゃあねぇ」

 遥斗はノーラの背中を見送ってバスに乗った。

   

 教室に入ると焚哉が遥斗に駆け寄る。周りの生徒も興味深々の様子。

 こんなことだろうと駅でバスを乗り換える時に時間を潰してギリギリで教室に入ったのに。どうやって乗り切ろうか。

「おはよう、ハルトゥん」

「それはやめろ、怒るよ?」

「わかったよ、遥斗」

「兄さんなくなったから許す」

 さすがに昨日の失敗に学んだか。

「遥斗はノーラちゃんの連絡先知ってるんでしょ?」

 やっぱ学んでなかったわ。

「昨日交換したけどさすがに教えられないわ。本人に聞いて」

「だよねぇ。夏休みに入る前にまた会えないかなぁ」

「今日中に会う気かよ!?懲りないねぇ」

 

 先生が入って来て何とかこの時間は切り抜けた感。今日は午前中で終わりだ。問題は体育館に移動の時と部活に行く前だ。移動中も何とか焚哉をごまかしつつ体育館に入ると一年の集団の中に珠絵を見つける。そっと歩くスピードを落として焚哉を視界に入れると珠絵の肩をとんとんと叩いて耳元でささやく。

「焚哉がうるさいんだ。部活が始まる前に出来るだけ早く呼びに来てくれないか?」

「了解です」

 小声の相談が成立した。焚哉に見つかる前に小走りで自分のクラスの集団に追いつく。整列が終わるとテンプレの終業式が始まった。

 先生方の話が終わると生徒会が壇上に現れた。男子の会長が生徒目線の話を始める。後ろ並んだ生徒会の面々の中に綾乃の姿も見える。次からは綾乃が話すことになるんだな。

 終業式が終わり教室に戻ると成績表が渡された。

「それではこれから夏休みだがハメを外し過ぎないように」

 席を立ちチャイムと共に礼をして高校二年の一学期が終わった。


「遥斗あのさぁ」

 やっぱ来るかぁ。

「今日一冊本を持ってきたんだけど借りてくれない?」

「ん?」

「仏教ではないんだけどクリシュナムルティって人のインド哲学の本。ラノベが原作の有名なアニメにも繋がると思うんだけど」

「どんなとこで?」

「それは読んで見てよ、ね」

「わかった。ありがたく借りとくよ」

「読み終わったらノーラちゃんに貸してあげてよ。ノーラちゃんが東京に行く前だとありがたい」

 そう来たか。しかもノーラが出発する前に会うの前提で話してるし。

「俺本読むの早いほうだけど、ノーラの都合もあるだろうから約束は出来ないけどそれでいい?」

「うんオッケー、それでさぁ、」

 遥斗が本を受けって鞄に入れると教室の出入り口あたりで大きな声がした。


「先輩、何やってるんですか?今日は大会前のミーティングですよ」

 つかつかと教室に入って来た珠絵に「早く行きましょう」と腕を掴まれる。

「珠絵、遥斗は俺と大事な話しがあるの」

「そうなのですか?」

 遥斗を向いた珠絵の赤いフレームの眼鏡がキランと光る。

 演技上手いなぁ。

「焚哉ごめん。本ありがとう、チャンスがあったらノーラに渡しとく」

 脱出成功、と。それにしても焚哉正攻法で攻めてきたな。意外とやる。

「珠絵サンキュ。助かったわ」

 工学部の部室は同じ二階の生物室準備室なので二人で歩いていても不自然ではない。 

「お気にせず。タクヤンの本がどうとか言ってましたが」

「何だかラノベに繋がる本らしい。読んだらノーラに回してくれって」

「どうせタクヤンはノーラのおっぱいしか見てないんですよ。汚らわしい。男ってホントにもう――先輩も大きいのが好きなんですか?」

 珠絵は慎ましい胸に鞄を抱いている。

「いや俺はバランス重視派だ」

「ここは女は体じゃない顔だ!じゃない、心だ!って言うとこですよ?」

「そんなに綺麗に間違えながら返せないって」

 フツーに間違ったくさいけど。

「それもそうですね」

 ニコッと珠絵は笑った。こうしてりゃかわいいのに。

 

 大会前のミーティングだというのは本当だ。夏休みに開催されるロボット大会に向けて工学部は何やるのか決めなくてはいけない。

 

 夏休みが始まる。 




ノーラはどうやら……三角形が一つ出来たようです。

遥斗は珠絵の協力もあって終業式も無事に終えて部活へ。

夏休みが始まりました。

次は、撃ちたいのです、です。


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