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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
アントナーラ編
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 早く繋がってくれ!

 コール音に 焦燥を被せたハルトはアルフリードが出る事を祈る。


『ハルトか?どうし、た』

 まだ寝ていたのだろう、語尾がはっきりしないアルフリードの声が聞こえた。

「村の工房が襲われて零号機が強奪されました」

『何っ!』

 声色が変わったアルフリードだがすぐに落ち着いた声で続けた。

『状況を教えなさい。出来るだけこちらが対応するのに必要な事を意識して』

 ハルトは村のあちこちに火の手が上がった事。騎士団が対応に当たった直後に工房が爆破された事などを順を追って伝える。

『そのまま暫し待て』


 ツツ、ツツ、保留音が鳴る。

 早く追わないと逃げられる。早くしてくれ!

『待たせたな。オーブ・アントナーラと繋いだ。今聞いた話しは伝えた』

『オーブだ。ロダにジョナサン中隊の残り6個小隊24名を足の早い馬で送る。もう一個中隊32名を馬車で送って増援に出す』

『我々も守り鴉の準備をさせている。アントナーラから先発する騎士団より早く到着するだろう。ハルトはカッツェと強奪された飛甲機を追いなさい』

『では俺は指示を出す。失礼する』

 招集をかけろ!! 咆哮する声が割れ、プツッと一つ音が聞こえてオーブとの通話が途切れた。

『ハルト、カッツェを呼びなさい』

 ハルトはジュノーと共に初号機に倒れかかった棚に肩を入れるカッツェを大声で呼ぶ。

「うおおおおおおお」

 初号機の上で持ち上がった棚がバタンッと逆側の床に倒れた。ジュノーが細かい物を投げ捨て、ミックがコントローラーのチェックに座席を飛び越える中をカッツェがタラップを滑り降りる。ハルトはカッツェと入れ替わり初号機のタラップを上がる。ハルトに「任せた」と言い残したミックは初号機を降りた。

 大丈夫だ。飛べる!

 初号機が動く事を確認したハルトは飛甲機から飛び降りた。羽を広げるには周囲に散乱した周囲の物をどかさなくてはならない。ジュノーとハルトで翼を広げるスペースを作る。

 アルフリードとの通信を終えたカッツェがそれに加わり重い棚を三人で引きずり動かす。

「ハルト、Tバードを気にしていろ。アルフリード様やオーブから連絡が入る。レーズを呼んですぐに俺も出る」

「分かった」

 飛行服を着込んだミックがハルトの飛行服を持って来た。ミックはガス管の入ったケースを後部座席に詰み込んで降りてくる。ハルトは飛行服を着込みながらミックの声に耳を傾ける。

「投網の射出機が左右のランディング・ギアのロッキの管の中に設置してある。照準器の左右の十字が網の照準だ」

 革のスボンとブーツを履いたハルトは上着の袖を通しコクピットに上がる。

 上着の首のベルトを締めながら更にミックに説明を聞く。コクピットの正面にガラス板がが2枚連なったアナログの照準器が取り付けられており左右と中央にに十字が3つ切ってある。

 レーザーポインターはまだないけどミックがしっかり考えてくれてある。

「真ん中のは?」

「顔の下、口の部分に射出機をもうひとつ装備してある。今は蟲除けの粉が噴射される仕様になってる。発射は後部座席の俺がやる。撃つ物の十字が重なったら声をくれ」

「分かった。行くぞ!!」


 薄紫色に塗られた初号機が浮上した。正面の扉を開いたジュノーが誘導する。

「急げ!!」

「父さんマーガレット達を頼む!」


 工房の外の生け垣ギリギリを急上昇でかわして初号機か空に飛んだ。高度を上げると7本の煙が村の家々から立ち登り、教会に向かうコボルの集団が眼下の道を走っている。それと逆走し工房戻る中隊長と二人の騎士団の姿も見えた。

 どっちだ!?

 更に高度を上げてフィレーネの光を探した。鉛のような空は雲が厚く視界は悪い。

「あっちだ!」

 ミックが南に立つ青い光を指した。


 ハルトは全力で初号機を駆る。


 麦畑を越え、まだルシールと名乗っていたウルデらと走った街道を下に南に向かう。

「カッツェが追ってきてる」

「分かった」

 後ろからのミックの声にハルトは振り返らずに答えた。

 どこだ?

 前方を集中して見ながら、もっと早く! 念を送るが細かい振動に震える機体のスピードはもう限界だ。前方にまた青い光が立った。

 近い。

 光の先に見つけた黒い点を目指して突っ込む。


 オレンジ色の零号機が視界に入ってくると零号機の挙動が怪しい。更に近づくとフィレーネが操縦席の黒装束にまとわり付いて邪魔をしていた。

「フィレーネ良くやった!」

「やっと来た……」

 何度も光を立てたせいもあるのだろう。フィレーネは力尽きたように地上に向けて降りてゆく。

 零号機の周りを旋回しミックが煙幕を流して視界を塞ぎ進路を阻む。

 そこに胸当てだけの鎧と兜を被り、弓矢を携えたカッツェの守り鴉が合流した。

 レーズが初号機と並走する。

「俺が囮になる!網を絡ませて動きを止めてくれ!」

「「了解!」」


 カッツェに煽られた零号機は高度を上げ旋回しようとする。

 何とか後ろに付きたい。


 零号機と初号機のドックファイトが始まった。上昇、旋回、下降を繰り返し、何とか逃げようとする零号機。ハルトは後ろにつく機会を狙いつつ零号機の動きの癖を見抜こうとする。

 こっちは二人だ。初号機の方が出力が上がってるとは言え、降下する時の方がスピードが乗る。

 ハルトは追随しながらも、上昇を終えてから下降を始める零号機の動きを待った。

 首のベルトを締めていても厚い羊の毛を内側にした革のジャンバーに冷気が入り込む。ゴーグルが曇らないように息が下に出るように作ってもらった革のマスクの下から白い息が漏れる。 

 上昇を終えた零号機が下降を始めた。狙ったような動きにハルトは初号機を零号機の後ろに付けて照準を睨んだ。

「右の網から行くぞ」

「いつでもいいぞ」

「撃てっ!!」

 右のランディング・ギアから射出された白い網が真っ直ぐに伸び零号機のランディング・ギアにかかった。網に繋がれた二機の飛甲機が錐揉きりもみ状態で失速する。

「左、撃てっ!!」

 もう一本の投網が操縦席の男を捉えた。

「良くやった!網をパージしろっ!」

 網を切り離し、失速した零号機をカッツェに任せ初号機が離脱する。

 態勢を立て直そうとする零号機にカッツェが矢を放つ。

 操縦者が倒れると同時に、後ろにつけ直していた初号機が加速し零号機の横に並んだ。それと同時、後部座席からミックが零号機に飛び移る。

「間に合え!」

 地面に吸い寄せられてゆく零号機。地上擦れ擦れで向きを変えた零号機は草むらにバウンドしながら不時着した。

 フィレーネが零号機のミックに向かって飛んゆく。

 初号機を降ろしたハルトが駆け寄る。

「大丈夫かっ!?」

「ランディング・ギアが折れたけど、飛べる、と思う」

「そうじゃなくてミックが!」

「俺?俺は大丈夫、みたいだ」

 自分よりも機体を気にするハルトの呆れた顔の横でフィレーネが手を翳した。

「大丈夫じゃないでしょ、火傷も治ってないのに」


 フィレーネの癒やしの光がミックから消える頃、落ちた男の所からカッツェが合流した。

「乗ってた男は?」

「首の骨が折れてたからな。とどめを刺して来た。あれじゃ喋れんし苦しむよりはいいだろう」

「そっか……」

 人の死に思う所があるあるハルトは小さく答えた。

「ミックはレーズに乗れ。マナが厳しいだろうから俺が零号機に乗って帰ろう」

「ちょっと待って」

 ハルトはTバードを出した。

 アルフリードからの着信履歴にコールを返すと直ぐに出た。

「零号機を奪還しました」

「賊は死亡しました」

『了解した。だが悪い知らせがある。ロダは囮だ。アントナーラの工房が襲われている。オーブは増援の中隊を戻そうとしているが何時伝わるか分からん。アントナーラに向かえるか?零号機の回収とロダに必要な者を残して我々もアントナーラに向かう。カッツェ、零号機の位置を教えろ』

 何時になく言葉の荒いアルフリード。

「ハルト、新工房に行こう。あっちには射出機開発用に用意した物もある。戦力にはなる」

 ミックの言葉を聞くまでもなくハルトはアントナーラにすぐにでも向かいたかった。アリシアが新工房に泊り込んで仕事をしているのだ。

「アントナーラの工房に向かいます」

通信を切って初号機にカッツェとハルトとが乗った。ハルトのマナの消耗を避ける為にカッツェが操縦席に座る。

「良いか!」

「行って!早く!!」

「レーズ付いてこい!!」


 再び離陸した初号機にミックを乗せたレーズが追随する。

 焦燥感にアドレナリンが体中を駆け巡る。

 しかし上空の凍てつく寒さがその気力をも萎えさせる。

 風防がなかったら今飛べてない。飛甲機を作るのに携わってくれた人達のためにも何とかしないと。そうは思いながらもハルトが一番気になるのはアリシアの安否だ。

 無事で居てくれ。

 祈るようにハルトはB-3フライトジャケットを模して作ってもらった飛甲服の上からベルダンティアのペンダントを触った。

 アントナーラとロダを繋ぐ62号線を走っているであろう増援部隊への連絡をアルフリードに頼まれたカッツェは北上しつつ東に飛ぶ。ジョナサンの中隊は既に今の初号機の位置よりロダの近辺のはずだ。街道沿いに増援隊の姿を意識しながら低空を飛ぶ。

 4人乗りの馬車団の土煙を見つけるとカッツェはハルトにTバードを出してオーブに繋ぐように指示を出した。ハルトのポケットに入っていたフィレーネがTバードを出してハルトに手渡す。飛甲機の接近に一旦は警戒した中隊だったが守り鴉の姿を見て足を止めた。急な動きに馬達が荒ぶる。


「隊長は!?」

 馬車から下りて剣を鞘から出した騎士達にカッツェが声をあげた。

「私だ」

 髭をたずさえた屈強な男が答えた。

「ハルト」

 ハルトはオーブと繋がったTバードを出した。

「アントナーラの飛甲機工房が襲撃されている。直ぐに引き返せ」

 オーブの声を聞いた隊長が聞き返した。

「街に侵入されたのですか!?門を守る隊は何をやっていたのだ」

「聞こえなかったのかっ!直ぐに戻れ!!私はすで現場だ!西門の兵に指示を出してある、詳しくはそこで聞け!」

「はっ!」

「オーブ、アリシアは無事ですかっ」

「無事だ。ハルトも直ぐに来い」


 規律を持った動きながらも回頭に時間のかかりそうな騎士団を残して初号機とレーズは再び飛んだ。



零号機を奪還したものの事は単純ではない模様。

アリシアの無事にひとまずホッとするハルト。

次回、守るべきもの、週明け月曜日の投稿になります。


一週間がたつのが早いが早いです。師走ですね。

だがしかし投稿は続くのですw 良い週末をです☆

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