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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
アントナーラ編
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赤い花

「こちらをお借りしてもよろしいですか?」

 そう申し出たパッカード商会の面々を応接室に残し、ハルトはジュノー達とリビングに上がった。

カッツェとノエルは騎士団が詰めている元ノエル家族の家に団長、中隊長と共に向かい、代わりの騎士が警護についた。それぞれのチームが騎士団長の話を受けて個別に話しをはじめる。


「父さん。ブロック工房と新工房はどんな関係になるんだろう?」

「ブロック工房はパッカードの馬車事業を支えることになるだろうな。今パッカードさん達もそのことを話してるんじゃないか、と思うが」

「そしたら俺が開発に専念するなら街の工房で働くことになる。離れることになるね」

「お前はもう成人したんだ。自分がどうしたいのかをまず考えなさい。それに領主様の希望もあるだろ?それも自分の意思で決めなければ。お前が職人の道を行きたいと言ったことは嬉しかったし、貴族という身分よりも世の中の為に発明した物の権利を開放して貴族にならなかったご先祖様を尊敬はしてはいる。しかしこれはお前の自身の事だ。ハルベルトという一人の人間として考えれば良い」

「そうよ、ハルト。あなたが何を選択しても私達が家族であることには変わりがないもの。自分の気持ちを大事にしなさい」

「ありがとう」

「お茶が入ったわ。パッカードさん達に持っていってくれるかしら」

 トレーに乗せられたポットと茶器を持ってハルトは応接室に入った。


「失礼します」

「ハルトさんありがとう」

「ハルトくん、少し良いかな?」

 ジェルマンの言葉にハルトは腰を降ろした。

「領主様がハルトくんを貴族としてアントナーラに迎えたいと思っていると初めて聞いたのでね」

「僕も最初に聞いた時は驚きました」

「先程の鎮めの粉の射出機能の提案はいずれ王都にも届くだろう。その辺りの事も考えて決断した方が良いと思う」

「お父様はハルトさんが貴族になった方が良いとおっしゃるんですか?」

 ん?アリシアは反対な感じか?

「後々のことを見据えることは大切だ、と言ってるんだよ。アリシア」

「確かにそれはそうですけれど……」

 やっぱり何かあるな。

「アリシアはどう思う?」

「それは……。この場では言いにくいです」

「アリシア、ハルトくんと散歩をしておいで。今日は陽も出ていて温かい。ハルトくん、アリシアに村を案内してあげてくれるかな?私達はジュノーさんと話したいことがある」

「分かりました。アリシア行こう」

「はい!」


 上着とコートを着たハルトとアリシアは外に出た。

 二人に駆けよったショコラのお腹をアリシアが擦っている。

 アリシアも犬が好きらしくショコラも一緒に行くことになった。

 

「ハルトさんは動物を可愛がっているんですね」

「昔から犬には助けられてて」

「そういう謙遜したところも素敵ですよ」

 アリシアは両手を後ろ手組んで顔を傾け、ハルトを見つめた。

 あの時みたいだ。ハルトは吊橋での綾乃を思い出していた。


「あの、新工房のこと、どうなるんだろう?」

 うわっ、照れくさくて話題変えちった。何やってんだ俺!

「そうですねぇ……」

 少し残念そうな顔したアリシアがすぐさま真剣な表情に戻して答える。

「こちらの工房よりは連絡が密に取れるようになりますし、警護の面においても安心出来ます。これから飛甲機製造の規模が大きくなることを考えればハルトさんがアントナーラに移ることも仕方がないことかなと思います」

「アリシアはうちの家族の事を考えてくれてるんだね」

「それはそうですけど……私はハルトさんが街に来てくれたら嬉しいわ」

 おおー、これはいい感じなんではないだろうか?これで地雷だったら泣くよ?


 そんなこんなをしてるうちに水車小屋が見えてきた。ぽつんとテントが一つ建ち、その前で小さな子供達が遊んでいる。農家の子供達のようだ。

「あっカトーリのお兄ちゃんだ!」

 子供達がハルトに駆け寄った。

「お兄ちゃん、お父さんがほんとに助かったって言ってたよ、お陰でうちの冬の肉もいいものになったんだ。ありがとうね!」

 ニコニコ顔の子供達がハルトにまとわりついた。

「それは良かったな」

「うん!来年も頼むね」

 ハルトは返答に困った。

「大丈夫よ。来年もお兄ちゃんがもっといいカトーリを作ってくれるわ」

「ほんと!?だったら来年は甘いものがもっと増えるといいな!」

 目をキラキラさせた子供がアリシアとハルトを交互に見た。


 テントに向かって歩き出し子供達が離れた後にハルトはアリシアに話しかけた。

「あれはまずかったんじゃない?変に期待させても可愛そうだし。カトーリはもう作れない」

「カトーリの権利はセルドに渡ってしまったけれど、ハルトさんなら大丈夫だと思うんです」

「それはどういう事?」

「カトーリの権利は、あの製造法、で登録したでしょう。別の製法で同じ効果の物を作って登録し直せば良いんですよ。今のハルトさんなら出来るんじゃないかしら?」

「そういえば蒸留方法も覚えたしもっと効果的なのを作れるかも」

「同じ効果の物でも皆はハルトさんの物を選ぶでしょうし、もっと良いものなら尚更です。領主様と繋がった今セルドはもう手を出して来れないでしょうから」

「そうだな。暇を見つけて考えてみよう」

「実はもう名前も考えてあるんです」

「どんな?」

「カトリーヌ、なんて可愛くありません?」

「そりゃいいや! よし! カトリーヌ、作ろう!」

「新工房には工房には蒸留施設も作るんです。私も手伝いますよ」

「分かった。一緒に作ろう」


「良かった……」

「ん?」

「ハルトさんが貴族になったら遠い所に行ってしまう気がして……」

「――大丈夫だよ。たとえ貴族になっても俺は自分の手で開発がしたい」

「でも貴族になったら、上級貴族のお嬢様から求婚されますよ。きっと」

 そうか。もう成人してるんだよな俺たち。位が上の貴族からの要求は断れないんだろうか。

「貴族社会の事がよく分からないんだ。色々と調べないと決められないな……」

「ハルトさんは貴族になるのではないんですか!?貴族への誘いを断ったなんて聞いたことがないです」

「俺は自分がやりたいことをやりたい。今だって十分恵まれてるから貴族になることにそれほどこだわりはないんだ。けど期待される役割の為に必要なんだったら考えなきゃいけないな、って思ってるよ」 

「ほんとに面白い人なのね。お祖父様みたい」

「アリシアのお祖父さんって元は職人だったんだよね」

「そうなんです。もう亡くなってしまいましたけど私を一番可愛がってくれたんです。だから……」

 その先を言おうかとアリシアが迷うような顔をした時にはテントの前に着いていた。

「あら、綺麗なお花」

 テントの中にはまだ早い春の花が並んでいた。

「花農家さんだったのか。温室で育ててるやつだろうな。見てみる?」

「はい」


「いらっしゃい。おや、ブロックさんとこのハルじゃないか。麦農家さんが感謝してるよ。お陰でうちも去年より売れ行きがいい。花を一つを持って行っておくれ」

「母も喜びます。ありがとう」

「感謝してるのは私も同じさね。ところで綺麗なお嬢さんを連れてるねぇ、さすがだわ。お嬢さんもゆっくり見ていっておくれ」

 がははは、と笑う豪快なお母さんの先に若い男女がいた。

「あれユージンさんとミックのお姉さんだ。いつのまに」

「仲睦まじい様子ですね」

 ユージンはハルト達とすれ違う時に小声で囁いた。

「まだみんなには内緒な。もうすぐ正式に婚約を発表するから」

「そうなんだ。おめでとう」


「そういえばミックの姉さんミックの弁当を届けによく工房に来てたな」

「そうなんですね。それで」

「でも出会ってからそんなに経ってないはずなんだけど」

「年頃の二人ですもの。愛が燃え上がったのね」

 うふふ、アリシアのテンションも上がったようだ。


 生花(せいかに鉢植え、色とりどりの花が並んでいる中でアリシアは赤い花の前で足を止めた。

「ハルトさん、私は以前ハルくんと会っているです。覚えていますか?」

 夢の中で見たハルの記憶。赤い花を湖畔で一緒に見た女の子。アリシアへの気持ちも覚えてる。でも詳しい記憶がない。

「覚えてるよ。でも、実は俺イクリスの洗礼が大きすぎて記憶が曖昧になってるところがあるんだ。でもアリシアと湖畔でこの赤い花を見たことは覚えてる。なんて花だっけ?」

 セルビアとは違う花弁の大きな赤い花。

「ゼラニウムです。――ではこの花の花言葉も覚えていないのですね……」

「ごめん。でもあの時の気持ちは覚えてる」

「聞いてもいいですか?」

「尊敬とあこがれ、そういう気持ち」

「ありがとう。――あの時、花が見たいと言った私をこの花のところまで連れて行ってくれたのがハルくんだったんです。男の子ばかりの中で他の子はあまり花に興味がないのか場が固まってしまて……間違った事をしてしまったかもしれない、とおどおどしていた私を連れ出してくれたんですよ」

「あー、俺だったらやりそう。あの時、綺麗なアリシアを何とかしてあげたいたいって気持ちだったのを思い出した」

 アリシアの顔に朱が差し込んだ。その下の口元を引き締め、意を決したようにアリシアは言った。

「この花をハルトさんに贈ります」

「一つ貰えるって言ってたからおばさんに言ってこようか?」

「いいえ。これは私から贈らないと意味がないんです。花言葉を調べてみて下さい。そしてそれで良かったらこれからは私をアリスと呼んで下さい。もうお父様が家でしか呼ばない名前ですけれど」

「分かった。受け取るよ。ありがとう」

 お付き合いしましょうってことだよな。アリスって呼ぶのは俺の中で確定してるけどちゃんと花言葉を調べてから伝えよう。


 家に戻ったハルトは応接室に入ったアリシアと別れてマリエールにいただき物のマーガレットの花の鉢植えを渡し、自分の部屋の窓際に赤いゼラニウムの鉢植えを置いて花言葉の本を取った。

 ドキドキしながら赤いゼラニウムの花言葉のページを開く。


「君がいて幸せ。家族愛」


 これ求婚ってことじゃん。アリシアと結婚!?そこまで想ってくれてたのか……それにしても俺にとっては早すぎる展開だ。でもこっちの世界だときっとそうでもないんだよな。団長も女性の秘書をつけるって言ってたし、それは貴族の可能性が高い。きっとアリシアも不安になる。

 

 決めよう。




「それでは新工房の目処が立ちましたらご連絡致します。また近いうちにお会いしましょう」


 パッカードの馬車を見送る家族から離れ、車中のアリシアにハルトは近づく。


「また近いうちに、アリス」


「……ええ、ハルト」


 動き出した馬車の中、アリシアの目には涙が浮かんでいた。





アリシアとの縁を結ぶことを決めたハルト。

次回 水曜日に投稿します。

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