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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
アントナーラ編
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来訪

 守り鴉を森に残し、水車小屋まで歩いて戻るとデニスが待っていた。


「デニスさん、ご無沙汰しています。パッカード商会で来てるのは誰ですか?それに騎士団長が直々に来るなんて」

「パッカードからはジェルマン様とアリシア様、ステュアートです。今回は騎士団の話しにパッカード商会がついて来た感じですな」

 アントナーラの騎士団長とジェルマンさんって、家の中が大変な事になってそうだ。急がないと。


 ハルト達が家に入ると一階の廊下の脇の応接室からジュノーの声がする。ハルトは扉を開けた。

「父さんただいま。いま帰ったよ」

「ハルト戻ったか」

「ハルベルト君、お邪魔している。ああ、ハルト君で良かったんだったな」

「ベンヤミン騎士団長、ご無沙汰しています」


 テスト飛行のパイロットを務めた騎士団長とハルトには面識がある。ある、とはいっても当然のごとくハルトにとって気安く話せるような立場の人間ではないのだ。立場だけでなく如何にも将軍、という威風を自然にまとったベンヤミンに自然と背筋が伸びる

 

「今日は次の飛甲機の製造が始まる前に話したいことがあって来た。パッカードの皆にも集まってもらったから開発組織についても話がまとまると良いと思っている」

「そういう事だ。人数が多いからミックが工房にテーブルを用意してくれている。カッツェ、ミックを手伝ってあげてくれ。ノエルはマーガレットがテーブルに掛ける布を探しているからリビングに上がって手伝ってやってくれ。ハルト、お前もパッカードさん達がリビングにいるから行って来い」


 ハロルドとカッツェを応接室に残してハルトとノエルは階段を上がった。

 見慣れたリビングのテーブルにアリシアにジェルマン、ステュアートが座っている光景にハルトは嬉しいような、むず痒いような何とも言えない感じがした。

 アリシアが家にいる!それは嬉しいけどお父さんが一緒。んー、緊張する。


「遅くなりました」

「お帰りなさい、ハルトさん。私たちがこんな早い時間にお邪魔しているのです。気になさらないで」

「とは言ってもジェルマンさんまでこの家のリビングで良いんですか?」

「すまないね。騎士団長とジュノーさんで先に話しがあるようでお邪魔させて貰っているよ」

「ハルトさんも体が冷えたでしょう。ハルトさんのお母さま、お茶を入れさせて頂いてもいいかしら?」

「そんな、パッカードのお嬢様にそんな事をさせるわけには」

「お気になさらないで下さい。アントナーラの工房では皆さんにお茶やお菓子をお出ししてましたもの」

 立ち上がったアリシアをキッチンに案内するマリエール。

 キッチンに並ぶ二人の姿。それを見るノエルの顔がこわばって固まっている。

「マリーお母さん、マーちゃんは?」

「マーガレットは星見台よ。テーブルクロスを探しているわ」

 ノエルはそこから逃げる様に星見台への梯子を昇り姿を消した。


「突然の訪問で申し訳ない。守りの森から呼び戻すことになってしまったとか」

「はい。しかしむこうでも開発ついての手がかりをつかめなくて……。ハロルド様と相談出来たのは良かったんですけれど」

「今日はその開発の体制についてもパッカードとしてもお話しをさせてもらいたい。どうぞよろしくお願いします」

ハルトに対しての腰の低いジェルマン丁の寧な口調に、戻ってきたマリエールは目を丸くし、アリシアは2人を見て微笑んだ。

 マーガレットとノエルが星見台から降りて来る「工房のテーブルの準備してくる」2人は誰とも会話することなくそのままリビングを出ていった。


「星見台があるのですね」

「アリシア、ブロック家のご先祖様は神の武器、神具のつちを神殿に納めらた偉大な方だ。その報奨として下賜された半球のドームが屋根になっているんだよ」

「昇ってみる?今は昼間だけど」

「素敵ですね、今すぐにでも見てみたいです。けれど大事なお話が始まりそうですもの。また今度星が見える時に誘って下さる?」

「わかった。また家においでよ」

 アリシアとハルトの関係を悟ったマリエールは更に驚いたようだ。

「アリシアお嬢様、私にまでお茶を入れて頂いてしまって、ほんとに申し訳ございません」

「あっ、すいません。差し出がましい真似をしてしまったかしら?」

「母さん、もういいって。逆にアリシアにプレッシャーかけてるよ?」

「あら、私ったら。ごめんなさいね、アリシア様」

「様を取って頂けると嬉しいです。マリエール様」

「マリエール様なんて呼ばれたことがないから恥ずかしいわ。そうね、アリシアさん、でいいかしら。私も様は困ります」

 うふふふ、笑いあう2人。少し打ち解けた様子の二人を見るジェルマンとステュアートの顔にはその光景を見守るような優しい笑顔が浮かんでいた。


「準備が整いました。工房にお移り下さい」

 そう伝えに来たデニスと共にハルト、アリシア、ジェルマン、ステュアートが工房に入る。

 ベンヤミン、ジュノー、ミック、ノエル、カッツェは既に席に着いている。

 工房の出入り口の警備に中隊長騎士のジョナサンが就いた。

 中隊長には話しを聞かれても良いってことだな。


「では始めようか。先程ジュノーさんから現在の状況は聞いた。出掛けていたハルト君からその後の進展がれば聞かせて欲しい。それからあらためてこちらの話し伝えたい」

「僕の話しは少々混み合うのと僕自身がミックと話せていない状態なので、先にミックから話してもらっても良いでしょうか?」

「了解した」

「では。私が今考えてるのは基本性能と整備性の向上です。基本性能については主に冷却システムの再度検証し改良することになるので季節柄今すぐにというわけではありません。次号機製作に直接関わる事項としては、信号の伝達を行う接点の改良です。零号機はケーブルを溶接しています。点検の簡易化、ケーブルの劣化や中枢のチェックの為にも簡単に脱着できる接続方式に変更したいと思っています」

 ミックは隣のオレンジ色の機体と頭上に吊られている次号機の殻を見上げた

「線蟲のケーブルは熱で劣化するかもしれんな」

「整備性と耐久性の向上ということだな。理解した。ではハルト君」

「僕が今考えてるのは次号機から機体の構造を変えられないか?ということです。騎士のかたから矢が打ちづらいという話しがあったのと操縦席付近の気流の安定の為にも羽を胴体の下に出来ないかなって」

「おいそれ根本的に構造が違うだろう。別のものを作るのに近い……。」

 ミックが頭を抱えた。

「出来んことはないかもしれんが調べにゃならん事も多いし、設計が終わって作業に入っても失敗の連続になるじゃろうな。失敗してどこがいかんのか調べてまた失敗、を繰り返すことになる」

「開発にはつきものですよ。それも開発のうちだと思うんですけど」

「しかしそうとも言ってもおれん事情があるのだ。今日来て良かった。矢が打ちづらいと言ったのは若手の騎士ではないか?」

「そうです、ユージンさんをはじめ若い騎士からの要望ですね」

「うちの騎士団は早い段階で人との戦を想定した訓練を叩き込む。若い騎士はその意識が大きいのだろう。しかし飛甲機が早急に必要とされるのは奥森での結界付近での運用だ。それも蟲が活性化する春までに出来るだけ数があった方が良い」

「春ですか。けっこう急ですね」

「うむ。良い機会だから騎士団での運用プランを話そう。これは領主オーブ・アントナーラも同意見だと思って貰っていい」

 ベンジャミンが語りだす。


「飛甲機は蟲との戦闘にも役立つとは思うが、先頭そのものよりも重要なのは早期の蟲の異変の発見だ。上空からの哨戒が出来れば対応速度に大きな差が出る。出来るだけ戦闘状態に入る前にことを収められればそれに越したことはない。それでも戦闘になった場合の負傷者の搬送、もしくは施術師の運搬にこそ飛甲機はいきる。そう考えている。命が絶えてしまった兵を癒やすことは出来ない。後方支援が迅速に空路で出来るのなら陣形の取り方を大きく変えられるだろう。人に有利な形で」

「戦術に影響を及ぼす、ということなんですね」

「そうだ。哨戒や後方支援こそが戦の要なのだ。早期発見ができれば守りの森の騎士との連携が取れる状況も考えられる」

「確かにな。守り鴉なら間に合う状況もあるじゃろうな」

「ということは機体の構造を変更するよりも、飛べる機体の製作が優先、と」

「そうなる」


 なるほどな。自分達がこういうものを作りたい、ということよりニーズを知ることが重要ってことだ。でも戦況自体を有利にするアイデアもある。

「少し脱線するんですけど、騎士団長もいることですしこの場をお借りしてお話したいことがあるんですが良いですか?」

 ベンヤミンは頷いた。

「爺さん、守り鴉に乗った騎士がロッキを鎮める時に網を足に絡めるのを見たんだけど、あの網どうやって投げてるの?射出してる様に見えたんだけど」

「あれは大気を圧縮して打ち出しとる。マナで圧縮した大気を詰め込んだ筒で打ち出しとるんじゃ」

「それを応用して鎮めの粉の噴射機を作れない?」

「今まで何故それが出来なんだかと言うとじゃな、貴重なんじゃよ、鎮めの粉は。だから騎士達が危険を冒して蟲の傍に寄って拘束せねばならん。怪我人も出る。アルフリードの頭痛の種じゃ」

 あの時も鎮めの粉にもっと余裕があれば……小さな声でハロルドは独りごちた。

「当時、私はまだ駆け出しで後方にいましたが、あのスタンピードの事は思い出したくもありません」

 騎士団長とハロルド爺さんは同じ戦場にいたことがあったってことか。スタンピードって大量暴走のことだよな。だったら余計に粉を撃てた方が有利なんじゃ。

「鎮めの粉を無駄にしないように目標にあたって割れたら粉が出るような柔らかい殻……卵の殻とかに鎮めの粉を入れて撃つっていうのはどうかな?」

「鎮めの粉はマナを流した人の手て直接撒かんと蟲が反応せん」

「人の手じゃないとダメなの?」

「――何を考えとる?」

「マナの通った卵の殻なら?」

「…………試してみる価値はあるの」


「ちょっと待って下さい! 飛甲機から直接蟲を狙って鎮めの粉を飛ばせるという事か!?そんな事が出来たら騎士団の運用そのものが変わるぞ」


「それが人の手で持てる物になったら守り鴉でも下手したら単独でロッキぐらいなら鎮められるようになるの。少なくとも今の半分くらいの動員で済む。結界の方にも人員をまわせるようになるやもしれん」

「そうなったら奥森に詰める騎士の負担が減る分、結界により多くのマナを回せる。結界が強固になってさらに余裕が出来ることになる。領地の体制そのものが変わりますよ」

「守りの森からも奥森付近に常時派遣できる余裕が出来るかもしれん。こりゃオーブとアルフリードにも話しに入って来て貰わにゃならんの」

「これはもうアントナーラと鳥の人で、と言うよりグランノルンの連邦国家プロジェクトとして検討すべき事項なのでは?」

「王都の騎士団ならまだしも王族が絡むと後継者争いの種になるぞ。無駄な事に振りまわされとうない。わしらだけで進めた方が早いわい」


 次号機の話しからとんでもない所に飛躍してしまった感。ええーい、こうなったら全部乗せだ。


「一種類の粉だけじゃなくて、蟲が嫌う粉とか誘導する煙とかも装備すれば良いんじゃないですか?弾倉を回転させて適時有効な粉を選んで撃てるような機能を作って。鎮めの粉も蟲の種類によって配合が違うんでしょ」

 リボルバー方式は作ったことあるし。空気を使って撃つから簡単じゃないだろうけど。エアガンの装填の仕組みを珠絵に聞いとけばよかった。でも小さいものじゃないし何とかなりそうな気もする。

「それと粉が貴重なら外さないように真っ直ぐな光を弾道の先に出せば命中率も上がるんじゃないですかね?蟲って昼間でも見える光を立てますよね」

 レーザーポインターも追加乗せで。


「「「………………」」」

 

 どうやらやっちゃったくさい。沈黙いやだよ?


「オーブと相談する。事が大きすぎて私には判断出来ない。ハルト君、やはりあの話しを真剣に考えてはくれんか?」

 騎士になれって話か。まだパッカード商会には伏せてあるんだけどな。アリシアには相談してみたいんだけど。


「あの話しとはどのようなお話なのでしょうか?」

 こらえかねたようにアリシアが尋ねた。

「オーブの許可が出たので後ほど開発組織について話す時に、と思っていたのだが、オーブはハルト君をアントナーラの正騎士として迎えたがっている。私も今の話しを聞いて納得した」

「正騎士ということは貴族になるということですね」

「ハルトさんが貴族に……」

「ハルト君、マナの量はどうなっている?」

「零号機の完成が影響しているのか増えています。下級貴族のボーダーラインは越えました」

「マナを貯められる量も問題ないところまで来ているのか。後は君次第だな」

「オーブにお話したように僕は自分の手で見て、触って、感じて開発がしたいんです」

 さすがは俺の息子だ、という顔したジュノーは誇らしげだ。

「その気持は解るとオーブもおっしゃっていた。話しが前後したな、この話しは組織形態について話してからもう一度話そう。パッカードからの今後の体制について話しを聞かせて欲しい」


 ジェルマンがそれに応えた。

「パッカード商会としては、ご要望通り飛甲機の開発・製造を別の組織にしようと思います。その指揮にはアリシアを就かせます。私は本業の馬車を立て直すことに専念し、飛甲機事業はアリシアに一任しようと思っています。もちろん商会を上げてのバックアップ態勢を取ります」

「賢明な判断だと思う。それでは新たな商会を仮に新パッカードと呼ぶことにしよう。これもまだ仮称だが領主直属の組織、航空運用部から開発・製造の依頼を新パッカードに出すことになる。新パッカードの役員は準貴族とし、安全と予算を領地が保証しよう。強固な秘匿義務が生まれるが」

「情報の秘匿は承知しています。それとハルトくんはもちろん、ジュノーさん、ミックさん、ノエルさんにも新パッカードの役員になって頂きたい。考えて頂いてもよろしいでしょうか?」

 アリシアと同じ会社になる。しかも役員だって。

「ここで先の話しに戻るのだが、オーブはハルトくんに航空運用部を任せたいとおっしゃっている」

 そういうことかぁ。

「そういう事なのですか……」

 アリシアは納得したような、残念なような浮かない顔した。

「その話を決める前に次号機の製作を始めても良いんですよね」

 どこに所属するのかも大切だけど開発を進めていいのかどうかはもっと大事だ。

「もちろんだ。騎士団入りの話しは春までに決めてくれば良い。君次第でポストを空けられるように統括代理を立てて航空運用部は開設される。美人の秘書もつけるぞ。どうだ?」

 どうだって言われても……。大人のやり方を持ち込まないで下さいよ。

「家族との話しもありますし、もう少し考えさせて下さい」

「良い返事を期待している」

 けっこうゴリ押しされた。でもこうじゃないと騎士団長なんて勤まらないんだろうな。


「ほいじゃ、わしは射出機の方をやるかの。騎士団長、アルフリードとオーブに会いに行く。日程を調整したい」

「了解しました」


「今日はもう一つ話しがある。次号機以降についてだ」

 全員が姿勢を正してベンヤミンに注目した。

「ロッキ型の量産態勢の確立と共に別種の蟲での開発実験を依頼したい」

「ロッキの殻を新規に手に入れるという事と、ロッキ以外の蟲の殻で作るってことですよね?新型の目的は?」

「ロッキの殻の新規入手については新バッカードと相談の上航空運用部で行なう。蟲狩りと蟲商人には打診してある。既に幾つか候補があるそうだ。定期的な入手が可能と判断された場合、アントナーラに生産工房を新設する事を検討している。この工房では同時に作れる数と安全確保に限界があるのでな。新型の目的は多人数の輸送だ。大型の飛甲機の開発を頼みたい。情報漏えいを防ぐ為にも生産工房と開発工房を分けることになるだろう」

「新工房の出資についても話し合う必要がある、という事ですね。お父様、この件はわたくしの担当でよろしいでしょうか?」

「うむ、アリシアに任せる。パッカードの財政状況は領主様に報告してある。それを解った上でのお話だろう。しっかりやりなさい」

「はい」

「生産工房の人員確保に技術指導、開発工房の開設とやることは山ほどある。このブロック工房との関連も含めて今後相談してゆきたい。カッツェにはアルフリード様の意向もあり引き続きハルト君の身辺警護の任にあたって貰う。アントナーラに移動する場合はこちらで手続きをしよう。こちらからは以上だ」


「父さん、ブロック工房の方向性を話さなきゃだね」

「俺なりに考えてある。ハルト、お前は自分の身の振り方を考えろ。それから話しをしよう」

「わかった」

 身の振り方。ここで何を選択するかは大きい。

 皆が立ち上がる中、ハルトは一番最後に席を立った。


飛甲機をとりまく事態が大きくなってゆきます。

身の振り方、という大きな選択を迫られるハルト。

次回、アリシアが動きます。「赤い花」 月曜日に投稿します。

良い週末をです☆

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