王都グランノルン
翌朝の早朝、まだ人気のないコボルの繋ぎ場にハルト達はいた。
王都に着いたら王宮が見たい、というノエルの意向を汲んで早めに出発し王都を観光することになったのだ。
ハルト達が準備しているとソフィーとナターシャが繋ぎ場に現れた。
「おっはよーん。お兄さんたち」
「ソフィーちゃん達も早いんだね」
「あたし達は南に行くんだ。初めての場所だからうっきうき」
「そうか、また会えるといな」
「会えるも会えぬも天使様の思し召しぃ。天使様の祝福をねがいましょう! あたしはたんぽぽって意味の名前だからね、どこ吹く風かもしれないよ? でもお兄さん達にはまた会えたらいいなっ、て思うよ」
「また会いたいなぁ、ソフィーちゃんがんばってね」
「あたりきしゃりき、にきにきにん。じゃあねぇー」
ナターシャが頭をさげ、ソフィーは元気に旅立って行った。
「ソフィーも凄かったけどナターシャさんは流石だったな」
「うん、聞き惚れちゃったよ」
「俺もいいアニメ見て感動した感じになった」
「アニメ?」
「元の世界の絵が動いて声も出る絵本みたいなもん」
「それ見たいっ!ハル作って!!」
「それはちょっと無理かもなぁ……」
十字路を越えて両側に延々と続く麦畑の中を進む。前方には遠くに森が見えている。
「王都の前に森があるんですね。道は真っ直ぐだって言ってませんでしたっけ?」
「森の中に道があります。人が育てた森で王都に入る道はこれしかありません。王都は西側が森に、東側は100万人都市の王都が何百個入るか分からないと言われる『果てなき泉』という湖に接しています。天然の要塞ですな」
「戦って今でもあるんです?」
「大昔に人が争った時の名残ですよ。政治で揉めることはあっても戦になることなどありません。国境も落ち着いたものです」
「キラナっていう国ですよね」
「キラナは南でグランノルンに接する小さな国です。グランノルンとは同盟関係で最初の宿場町で別れた道の先まである横に長い国ですね。その向こうキアナよりも小さいニンディタというセルドの祖国があります。ニンディタの向こうにはイーシャという大きな国があるんですがグランノルンとは国交がありません。ニンディタは一応グランノルンの同盟国ですが扱いに困っているというのが正直なところでしょうね」
ニンディタは問題ある国な感じなんだ。セルドやスネイルを見てればそうなんだろうな、とは思うけど。
「北はどうなってるんですか?」
「北はどこまでもグランノルンですよ。蟲の森に阻まれますが。北東で幾つかの小国とルーシーという大国と接してますけどほとんど人の交流はないですな。別の湖と山脈に阻まれてますから」
麦畑が牧草地になり刈り取られた牧草が収まってる納屋の周りでヤギや羊を追う人々も見え始めた。長く続いた牧草地の次に冬にも関わらず数種類の花が咲き乱れる花畑に王都の豊かさを感じられるようになると森に入った。今日の道のりの半分くらいだろうか。森の中には時折鹿が走る姿も見受けられる。
広い牧草地があるから麦畑に鹿の被害が出ないようになってるんだ。緩衝地帯になってるんだな。
ここから先は人の地では無い。と言わんばかりの暗さをまとったロダの森と違い、命を育み、その恩恵を人々に与える森に日差しが注いでいる。
兎や大きな魚を下げた狩人の姿も見かけるし、蟲がいない森だと普通に恩恵を得られるんだな。
その森も終わりを告げ、開けた草原の先にどこまでも続く王都の高い石の壁。その中央の門前に続く道の先の広場には幾つも列が出来ていた。獲物を下げたハンター、籠に花を積んだ農夫に小綺麗な身なりの住民がするすると門の中に吸い込まれてゆく。魔道具でのカルドのチェックが改札のように並んでいるのだ。一番多い列はコボルや馬で荷車を引いた商人の列で、荷の点検がある為列の数が多くなっている。
ハルト達は荷のない商人の列に並び「天使様のお導きがありますように」と言われて門をくぐった。
衛兵やチェックをする役人は皆、天使の羽の徽章をつけている。農夫やハンター達が「では天使様のお導きを」と挨拶をする所にも信仰の深さが見て取れた。
ハルトはカッツェに小声で囁いた。
「天使様に会ったって、もの凄いことだったんじゃないかって思った」
「今頃気がついたのか。だからあの時言っただろ。まっ、俺もハルトのお陰で館に入ったんだ。感謝してるよ」
ベルダンティア様かわいいー、とか思ってる場合じゃなかったっぽいなこれは。
「さすがは王都だな」
建物が立派なのもあるが何処までもそれが続いているのだ。王宮のシルエットが遠くに小さく見える。
あそこまではかなりあるな。早く出発して正解だった。
幾つもの路地を曲がりハルト達は大通り沿いのエレベーターがあるホテルに入った。
「王都の大通りは湖に流れ込む地下水脈に沿って出来ています。だから大通りの建物にはエレベーターが有る所が多いんですよ。ここからは個室にしました。上がりましょう」
部屋はシンプルながらもベッドのシーツは白く清潔で、一流ホテルのように見えるがビジネスホテルなのだという。マナで伝えるのだろう。ボーイを呼ぶボタンもあった。
「メイド服、ちょっと期待してたんだけどなぁ」
赤い絨毯の上を行き来する働くお姉さんはパンツルックに白いシャツのお姉さん達だった。メイド服じゃないけど身なりが整っているのを差し引いても綺麗な人が多いな。
髪型もそれぞれ個性があって自由な国のようだ。
「王宮に向って出発進行ー!」
ノエルは本当に嬉しそうだ。旅装を解いたハルト達は王宮に向かった。
王宮の正面に辿り着くまでは王宮を囲う壁に沿って進んだ。
「外からはみえませんけどここの辺りは騎士団の訓練場らしいですよ」
「騎士団は王宮にいるんですね。それにかなり大きい、というか広そうですね」
「王宮の敷地は中に町が1つ入ってしまうくらいの広さです。中には研究施設や技術庁舎と政治以外の施設も数多くあります。王都の中には騎士団の施設が数多くありますが王宮には位の高い騎士が詰めています。というより上級貴族は騎士団に所属する貴族の方が多いくらいですから騎士団の本拠地と言っても良いでしょう。この訓練場では各領地の騎士団が呼ばれて手合わせも行われるそうですよ。ね、カッツェさん」
「聞いたことはあるけど、俺は見習いですからねぇ。呼ばれることなんて無いと思いますけど」
「カッツェさんは騎士団でも期待されていると聞きました。正騎士になられたらどうです?」
「自分の意思だけで決められることでもないんで」
お茶を濁すようなカッツェの返答にデニスは含み笑いを返す。
デニスさんは何処まで知ってるんだろう?
商人であり情報屋でもあるデニスははっきりとした物言いをしない事も多い。職業柄なのだろうが使い分けが鋭いのだ。ハルトはそこにデニスのプロの気質を感じていた。
王宮の中心部が壁の上に見えて来る。ピンク色のガラスの基部から如何にもお城、という幾つかの白い石作りの丸い塔がそびえている。ガラスの基部は幾つもの六角形の小部屋に別かれ、ピンク色に薄く透けるガラスの小部屋の中に人がいるのが外からも見える。
「王宮って蜂の巣出来てるんだったよな」
「女王雀蜂だよ」
王宮の正面に着いて更に進むと周囲が庭園のように整えられた空間になり、ついに石の外壁が途切れた。ガラスの小部屋の群衆の間に、まるでそのものが装飾かのような格子で出来た門が高くそびえている。積み重なった薄いピンクに色づくの六角形の小部屋の中には階段があり、人が行き来しているのが見える。
円錐状に渦を巻くガラスの螺旋の城。ハルト達は正面の公園になっている広場からその全貌を眺めた。
「綺麗だよねぇ、うっとりしちゃう」
「俺も初めて見たけど見事だな。守りの森の仲間から聞いてはいたけど」
「グランノルン連邦を束ねる王族の城ですからな」
これ前の世界だったら確実に世界遺産だわ。この世界って中世ヨーロッパって感じではないんだよな、とは思ってたけどバイオニカルで斬新なデザインが逆に未来っぽい。丸い塔は相変わらずだけど。王族ってやっぱああいうのが好きなのかな?でも白い塔は高級感がある。
「あの一番高い塔が王族が執務を行う所らしいです。ここからは見えませんが元老院の間が階下にあるそうですよ。議会はそこでひらかれます」
「王族が政治を決めるんじゃないんですか?」
「王族には大きな決定権がありますが国民から選ばれた元老議員が法を立案するのです。それに沿って法が定められます。元老院には平民もいますよ」
結構民主的なんだな。単純に王家が実権を握っているという訳では無いらしい。
公園の敷地を挟んで王宮の向かいには荘厳な神殿が鎮座していた。結婚式を終えたのだろうか、白いドレスに白いスーツを着た若い男女を囲んだ人々は皆花束を持っている。
「王宮の前の神殿で結婚式をするのは女の子の憧れなんだよ。お姫様もあの神殿で結婚式をするの」
「それでノエルは王宮を見たかったんだな。ノエルはお姫様が好きだもんな」
「えへへ」
「それに王宮と神殿は新婚旅行でお参りするとこだから……」
赤くなったノーラの耳がピクピクしている。ハルトはどう答えていいのか解らなかった。
王宮前の敷地を出て各自買い物をすることになった。王都の案内ガイドは既にデニスから手渡されている。地図を探しに出ようとするハルトにデニスが「私もご一緒しましょう」と付き添った。
「本屋は、と」
「本屋には簡単な地図しかありません。地図はこっちです」
コボルを繋いで階層の高い建物が並ぶ通りを歩いてゆくと2階建ての敷地面積が大きい店に連れてゆかれた。入場時に身分証が必要で入り口でのチェックが厳しい。
「なんか物々しいですね」
「情報の流通が管理されているのです。他領や他国の詳細図を手に入れるには申請して審査を受ける必要があります。下手に他領や他国の地図を買い漁ると戦を企んでいるのか?と目をつけられます。蟲狩りなどは結構な兵力をもっていますからな。他国で手に入れた地図の売買や詳細な地図を勝手に書くことも禁じられています。商人はその辺りの見極めをしないと大変なことになるんですよ」
地図を扱う店の中にはガラスケースの中に地図が一枚一枚見本として収められ、入手ランクごとに分けられて展示されていた。他国の詳細な地図は申請して別の部屋に入らないと見られないようになっている。
ハルトは地図を見て回り、世界の全体図を探したが見当たらない。左端がロダの森、下はニンディタとイーシャの一部、右上がルーシーとの国境までの地図が一番大きいもので、右側の3分の2は果てなき泉だ。その泉も全貌が入りきってなく、右半分は上にグランノルンの北の大地と下の方にイーシャの沿岸部があるだけだ。
「世界の全体図は見られないんですね」
「国境を越える商人でも必要がありませんからな。世界の全体図など王宮でしか見られないと思います」
ハルトは購入難易度が低い要所だけが書かれた広範囲の地図と王都の詳細図を買った。
地図屋を出るとデニスがハルトに話しかけた。
「私はまず蟲狩りと蟲殻の運搬商人と会い、その間にハルベルトさんに職人達を訪ねてもらおうと思っていましたが一緒に行動した方が良さそうですね」
「蟲狩りは初見の人とは会ってくれないんじゃなかったでしたっけ?」
「そうですね。なのでその間ハルベルトさんは図書館などで調べものをしていてくれませんか?職人達への訪問には私が同行しますので蟲狩りら情報を集めた後に一緒に動きましょう」
「それは何故でしょうか?」
「ハルベルトさんが商人としての常識をお持ちでない、というのもあるのですが、発想が違うというか奇抜なところがあって少々危なっかしいのです。例えば先程もですが、世界の全体図を見たいとあの場で言ってしまうのも注意が必要なことでした」
「……すいませんでした」
「商人は情報が命です。話す相手が職人だとしても、金になりそうな話はすぐに広がります。ましてやここは王都です。王宮で何かを秘匿しながら作っているようですし王宮に庶民から情報が流れるのは避けた方が良い。私が話をしますからハルトさんは職人の視点としてのアドバイスを私にする、という立場で職人と接して下さい。そこから始めましょう」
「常識が不足してるってことですね。分かりました。色々と教えて下さい」
「とは言っても職人は面白そうな話には飛びつきますからな。ハルベルトさんと職人が盛り上がって何か良いアイデアに繋がるような事になるかもしれません。慣れて来たら臨機応変に行きましょう。あなたあってこそのこのプロジェクトです。私の目的はハルベルトさんが開発を成功させることなのですから」
ハルトに注意をしながらも敬意を示すデニスを大人として尊敬したハルトだった。
前回長めだったので短く感じますね。前回はすいませんでした。
8000字を越えたら有無を言わさず分割にしてるんですが7923字でギリギリでした。
歌詞があるのとまとめた方が流れが良いので一話で投稿してみました。
ちなみに今回ので5154字です。これくらいの長さで毎回書けるといいんだけどなぁ。笑
さて、王都に到着したハルト達。ノエルの念願が1つ叶いました。ソフィー達はまた登場します。きっとそのうちに。笑
次は素材集めに奔走します。「奔走」金曜日に投稿します。
登場人物紹介にデニスを加えました。活動報告でも更新をお知らせしました。




