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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第2章 ロダ村編
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アリシアの協力


「ハルト、ランディング・ギアの支柱なんだけど新しい素材はどうなった?」


 制動テストの一応の成功をみた飛甲機開発は改良と修正を重ねていた。差し当たって問題になっているのは鳥居型を逆にして組んだランディング・ギアの強度的な不安の解消だった。

「強度不足を補うのに新しい素材を支柱にして、接地面はロッキの口の管のままで、と思ってるんだけどロッキの管はやっぱり切れないよな」

「頑張れば切れない事もないけど……。ロッキの管は硬い上に切るのはもったいない。管の構造のままのしておいて後々試してみたいたい事があるんだ」

「新しい蟲の殻の支柱を探すには時間がかかるし、使わなかった足のパーツをトラス構造にしてみる?」

「トラス構造?」

「支柱を何本か組み合わせて三角形を作っていくんだ。負荷を分散させるように」

 ハルトは簡単な平面イラストを書いてミックに説明していく。

「なるほど。軸をお互いが補強する形にするのか。これを応用すれば胴体側の軸の強度も高められるな」

 ミックはその構造を三次元的に使おうと提案した。

「溶接する本数は増えるけど……」

「新しい素材が出てるのを待ってる時間が惜しい。取り掛かっていいか?」

「ミックの案で行こう。ロッキの管はそのまま活かす方向で」

 まるで飛行艇のフロートみたいだな。US-2のプラモ作る時に苦労したっけ。US-1とか大艇ちゃんのフロートってどんなだったけな?プラモ作ったりして実際に手を動かしてないと覚えてないないや。



 何度も吊り上げられては降ろされてを繰り返す零号機の機体のフックに掛けられたロープが男手で引かれ、ロッキの頭が天井の滑車に向ってゆっくりと上がってゆく。頭部を上げ、胸部、腹部と順持ち上げられ、それを繰り返して体全体が少しずつ上がってゆく。人数が少ない為に同時には持ち上げられないのだ。


「オッケー!もう作業出来る」

 ミックの声にロープが最終的に固定され、機体の揺れが収まるまるのを待ってランディング・ギアを取り外す作業に入る。ロッキの腹に下で顔をガードするスーモクガラスの覗き窓からミックのバーナーの火花を見つめるハルト。

 ミック溶接の腕も上がってるな。外すのに苦労してる。強度不足は俺の設計ミスだ。トラス構造はミニチュアの模型を作って試してから取り掛かろう。

 ハロルドという心強い仲間を得て制御とコントロール系が思いの外順調に進んだ割に、特に問題にあるとは思っていなかった外装関係の停滞が目立っていた。

 飛べるようにはなりそうだけど、実用的に使えるようにするにはまだまだ考えないといけないことが多い。これから寒くなるし、キャノピーどうしよう?

 聖地の飛行機の間に描かれていた壁画と石版にはそれらしい記述はなかった。

 古の時代って暖かかったのか? いや、夏でも高度が上がれば気温は下がる。せめて正面に風防がないと厳しいだろうな。


 

 「ハルト、お客様よ。ルシールさん達が見えたわ。私はマーガレットを連れて先生のところに出るからお願いね」

 マリエールが工房の扉を開けてハルトを呼んだ。

 飛甲機を見られるのは不味いな。何処で誰に伝わるかわからない。応接室のカーテンは次号機のカバーに使って工房が丸見えだしリビングに上がって貰おう。

 工房を出るハルトにハロルドもついて来た。

 玄関に出ると相変わらずセクシーな衣装のルシールと金髪幼女のベルーナがいた。

 長い銀髪に紫紺の瞳の美貌と露出度の高い褐色肌の肢体を見て固まってしまったハロルドにルシールが投げキッスを返すとハロルドはへにゃりんと体から力が抜けてしまったようだ。

 ただのスケベジジイだな、こりゃ。


「お久しぶりです。どうかしましたか?」

「なぁに、暇だったもんでな。森で狩りでもしようと思って近くまで来たから寄ってみたんだ。ハンター稼業は冬を越すのも一苦労なのさ」

「取り敢えず上がって下さい。お茶くらいなら出しますよ」

「そいつはありがたい。ここのお茶は美味しいからな。お邪魔するよ」

 

 ハルトが二人を連れてリビングに入ろうとするとルシールはリビングの入り口を右に曲がってハルトの部屋に向かおうとした。吹き抜けの廊下からは工房が見下ろせる。

「こっちですよ、ルシールさん!」

「なんだハルトの部屋じゃないのか」

 見られたかな?でも一瞬じゃ何やってるかまでは分かんないだろう。多分。


 ハルトは炭のコンロのボタンをカチッと回して火をつけてお湯を沸かし、ガラスのポットに茶葉を入れてテーブルに置いた。茶が入るのを待たずにルシールが話しを始めた。

「ヤキトンボの虫除けは随分評判だったみたいだな。噂を聞いた。どうだい、あたし達に一枚噛ませてくれないかい?」

「――残念ながらカトーリは権利をある貴族に持っていかれちゃってもう作れないんです」

「そうなのか……それは残念だったな」

「そうですね。色々あったんですけどもう大丈夫です。今仕事が立て込んでるんでノエルを呼んできますね」

 ハルトはニマニマしたままのハロルドを置いて工房に降り、カッツェとロッキの口管を運んでいたノエルに2階にルシールさん達が来てるから相手をお願い、と頼んで仕事に戻った。


 ランディング・ギアが取り外され丸裸になったロッキの腹の下でミックが取り外された支柱の跡を均している。

 新しいランディング・ギアが付いてハッチの開閉を改良したらテスト飛行だ。

 ハルトはロッキの足に細かく生える棘を丁寧に切り取り小さな支柱の材料を切り出すとトラス構造のランディング・ギアの設計図を書き始めた。棘の切り取られた足のパーツを何も言わずにジュノーが引き取って整面し研磨してゆく。模型ではない本体に使うためだ。阿吽あうんの呼吸で開発作業が続いてゆく。


 取り外した支柱の後処理を終えたミックが小型の溶接機でトラス構造の模型を溶接しはじめた頃に工房の上からハルトを呼ぶ声がした。2階の廊下でルシール達とノエルが手を降っている。

「お邪魔さまぁ~、あたし達は帰るなぁ」

 うわっ、ノエルに気をつけろって言っときゃよかった。

「お気をつけてー」

 ハルトはその不安を隠すように素知らぬ顔で手を振り返した。


 ノエルが工房に戻って来た。

「ノエル、俺が言わなかったのも悪いんだけど飛甲機のことはできるだけ隠しておきたい。これからは気をつけてくれ」

「あ、ごめん。でもベルーナさんもルシールさんも悪い人じゃないよ?」

「人の口に戸は立てられない、って俺のいた世界じゃ言うんだ。噂はすぐに広まるって意味」

「わかった。これからは気をつけるね。ごめんなさい」




 一週間ほどの改良を積み重ねる日々が過ぎ、朝焼けの裏庭に飛甲機が運ばれた。

 試験飛行にこぎつけたのだ。開発に関わった全員と家族が集まっている。


 翼の振動が胴体に伝わり牧草が揺れる。

 ロッキの羽が巻き起こす風の中でタラップを昇り、腹部前方に設置された操縦席にハルトは座りゴーグルを下ろした。複座の飛甲機には後部座席もあるが今回は単独での搭乗だ。いざという時の為にハロルドとカッツェが守り鴉で飛ぶ事になっている。

「壁画の絵は人が立ってたけどこれが現実的だよな」

 キャノピーはまだない。ハルトは星見のドームのような透明で大きな素材はないのかをジュノーに尋ねてみたが「あれはもうこの世にはいない蟲の殻だ。ご先祖様が作った武器で神がこの地から追い払ったと云われる大山蟲の目の殻だ』と言われ、取り敢えずキャノピーは保留になっていた。

 中枢と駆動系に流れるのマナの量を表示するアナログ計器が並ぶコクピット。その左側には燃料計としてカルドを設置するスペースが設けられている。ハルトのカルドは補填され、ゲージは満タンの状態だ。


 ゴーグルを頭から降ろして装着し仲間と家族を見渡す。

 計器が並ぶコクピットの両脇のコントローラーのカバーに手を入れ素手を添える。


 「行ってくる」


 翼の振動が唸り飛甲機が浮いた。


 先発して上空で待機しているカッツェとノエルを乗せたレーズに向かって飛甲機を上昇させる。


「飛んだ!」


 ハロルドのレヴンが追いかけてくる。


 森の上をあまり高度を上げずに30分ほど旋回し、テスト飛行は成功した。かに見えた。

 異変を感じたハロルドが指示を出す。

「降ろすんじゃ。出来るだけ早く」


 何とか裏庭に降り、ゴーグルを取ったハルトの顔は青ざめていた。体が冷え切って動けないのは寒さのせいだけではないだろう。激しい動悸に目眩も酷い。


「マナの使いすぎじゃな」

 しかし燃料計として据えたカルドのゲージはまだレッドゾーンまで余裕がある。


「カルドにマナがあっても体の中に流れるマナの量とは別じゃ。それでも飛んだんじゃし一応成功じゃろう」

「カルドにある量のマナを逐次体に流せないの?」

「それが出来たら苦労せんわい」

「それが出来るのは上級騎士だけだ」

 ハロルドの言葉にカッツェが付け加えた。

「そうじゃないと誰でもマナをいくらでも使うことが出来てしまう。もしそうだったらこの世界は別の形のシステムになってただろうな」


「――俺のマナの回復にどれくらいかかるんだろう?」

「坊主の量と練度だと丸2日くらいかの。もうちょいかかるか」

「それじゃ一般の人には実用的じゃないな」

「貴族なら問題ないじゃろう。下級貴族で平民の倍。中級騎士の扱うマナの量の下限は下級貴族の10倍じゃが、中級の上限までには更に3倍程の差がある」

「そんなに!?中級騎士の上限は平民の60倍ってこと?」

「それぐらい蟲から人の地を守る為に多くの力が使われておると言うことじゃ。その殆どは結界に食われておるが」

 中級騎士なら長時間飛行も出来そうだけど……。農作業なんかで平民が飛甲機を使える時は15分くらいか。燃費改良できないかな?それよりも先にちゃんとした燃料計を作んないと。


「操縦者が実際に使えるマナを計測してゲージに出せる計器を作らないとな」

「それはコントローラーの脇に計測器を置いて計器につなげればいい。左手の小指なら操縦中にも添えられるだろうからそこがいいかな。人の体全体に流れるマナを測る小型の計測器は値が張るけど……。それより差し当たって改善しなきゃならない問題がありそうだ」

 頭部に昇りハッチを開けたミックが中を覗き込む。

「中枢周辺に熱が籠もってる。もっと長く飛ぶなら駆動系にも冷却が必要だ」

「ロッキの殻は熱をあまり通さんからな」

 ジュノーも様子を伺いに行く。


「特製馬車の空調機が応用できればいいんだが……」

 降りてきて頭を捻るジュノー。

「爺さん、熱が出るってことはマナが熱にエネルギーに変換されてるってことだ。それをなんとかして燃費、マナの消費効率を上げられないかな?」

「簡単言うが、そりゃ根幹から考え直さにゃならんの。魔道具の基礎理論から見直すのと同義じゃ」

「そっか……。父さん、冷却系に使う材料と魔道具って手に入らないかな」


「パッカード商会の紹介状がないと難しいな」


 ハルトがパッカードの名を聞いてまず思い出すのはアリシアだ。

 結婚式が行われたという話しは聞かない。村長の息子の結婚式だ。あれば聞かないはずがない。まだ間に合うかも。


「父さん、俺ステュアートさんに相談してみようと思う」

「確かにステュアートさんなら協力してくれるかもしれんな」

「それに飛甲機を完成させても直接貴族に売ったりできないでしょ。飛甲機がパッカード商会を救うかもしれない」

「――分かった。お前が話しに行って来い。この件はお前に任せる」




 ハルトはコボルでカッツェと街に走った。

 街に入ると商人ギルドの前でステュアートが現れるのを向かいのカフェで待つ。

 黒塗りに金色のパッカードのロゴの入った馬車がギルドの前で止まり、執事服に身を包んだスチュアートの姿を見つけるとハルトは駆け寄った。

「ご無沙汰しています。突然で失礼なのですがお話をさせて頂く時間を頂けないでしょうか?」

「私と、ですか?」

「はい」

「何故、私に?」

「アリシア様の力になると言葉に出して答えたのは父ですが、僕もそれ以上の気持ちを込めて答えたつもりです。あの時のステュアートさんを見ていてお話がしたいと思いました。出来れば二人だけで話せないでしょうか?」

「――――分かりました。談話室を押さえましょう。カフェでお待ち下さい、テオを迎えに行かせます。失礼ですが裏口からお入り下さい」

「その方が助かります。ありがとうございます」


 テオに連れられて裏口から一人ギルドに入ったハルトは非常階段を昇り2階の談話室に入った。ステュアートが人払いを指示したがテオは「失礼ですが念の為」と、ハルトのボディーチェックを始める。ハルトは黙って従った。ステュアートはテオのボディーチェックに良い顔をしていない。納得をしたテオが出て行き二人だけになった。


「お話しをお聞きする前に謝罪をさせて下さい。ブロック工房には大変失礼な事を致しました」

 ステュアート渾身の謝罪だった。

「いえ、事情はデニスさんに聞きました。デニスさんは工房の力になってくれています」

「それでもパッカード商会がした無礼は許されるものではありません」

 ステュアートはまだ頭を上げない。

「頭を上げて下さい。今日は過ぎたことではなくこれからの話しをしに来ました」

「これから、ですか? ですがパッカード商会はもう……」

「ジェルマンさんと奥様、セルドのことも知った上でご相談があります」

「……伺いましょう」

「パッカード商会が貴族の融資を受けなくても経営を立て直せるかもしれないものを作りました。それを見て頂きたいのです。アリシア様のご結婚も本意ではないのでしょう?」

「お嬢様は塞ぎ込んでしまい部屋から出て参りません。パッカードが持ち直すかもしれないものとは一体どのようなものなのですか?」

「話しても信じてもらえないような気がします。見て貰うのが一番良いかと。人気ひとけのない時間にお見せしたいので早朝に村に足を運んで頂けないでしょうか?」

「分かりました。明後日の早朝お嬢様とお伺いしましょう。ロダの工房で宜しいですね」

「はい、お待ちしています」




 まだ夜も明けきらぬうちに旅装に身を固めたステュアートとアリシアはコボルに乗ってロダ村に入った。ハルトは夜道をコボルでアントナーラの街から走って来たという二人に切実さを感じた。

 久しぶりに見たアリシアは憔悴しきった様子で、美しさが儚さに変わってしまっていた。


 ハルト達は裏庭に二人を案内し飛甲機を飛ばせてみせた。

 短時間の飛行だったが、信じられないものを見た、と、唖然とする二人からは暫く声が出なかった。

「こ、これは、パッカードを救うというよりもこの世界に革命を起こしますよ?ハルベルト様は一体どうしてこのような……」

「天使様のお導きです。でもまだ完成したとは言えないんです。いくつか問題があって……」

 冷却系の問題点を上げてゆくハルトにミックが補足をする。それにステュアートが答えた。

「それならばこちらで段取りをつけましょう。街に王都に引き抜かれた職人の工房が空いています。魔道具を調整したり整備することも出来ますからそこをお使いになって下さい。そちらに資材と魔道具を運ばせましょう。飛甲機を秘密裏に運び出す算段も整えましょう」

「ありがとうございます!」

 希望の光が差した。

「これが出来れば私とスネイルの婚約もきっと解消できます。いえ、何とか解消したいです。お願いします! ハルベルト様!!」

 アリシアがハルトにこうべを垂れて懇願する。固く結んだ華奢な両の手が震えていた。

「やめて下さい。それに様も。そんな感じでもないんでハルトでいいです。みんなにはそう呼ばれてるんで」

「ではハルトさん、私個人としても出来る限りの協力をします。宜しくお願いします。私の様も取って下さいね」

 顔を上げたアリシアから陰が薄くなり、強張こわばっていた顔に朱が戻ってくる。

「権利関係は今回は私自身の手で進めます。二度とあのような事がないように」

 ステュアートが真剣な眼差しでハルトとジュノーを見渡した。ハルトも同じ過ちを犯さないようにと自分を戒めながら答える。

「今回は開発に関わった全員を権利に含めたいと思います。相談させて下さい」

「もちろんです」

 アリシアとステュアートの二人にも権利登録に名を連ねて欲しいことをハルトが告げると、二人の顔にも希望の光が差し込んだ。

 


テスト飛行を終えて次の段階に進んだ飛甲機開発にパッカード商会の協力を得て、アリシアを救う為という目的が。しかしルシールとベルーナの動きも気になるハルト。

ルシールとベルーナの人物紹介を追加しました。


次回「黒い影」 水曜日に更新します。

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