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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第2章 ロダ村編
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ロストテクノロジー

 神父の執務室に入ると扉を閉めたカッツェがアルフリードに尋ねた。

「何故火炎蜂が出たのでしょうか?あれが人里出るなど聞いた事がありません」


「私も予見していなかった。天使様にお会いしに行く最中に蟲がロダに向ったとラフィー様から知らせ受けて取る物もとり敢えず飛んだのだが、網を焼かれてしまってな。結局森では押さえられなかった。其方がロダにいて助かった。礼を言う」

「いえ、頑張ったのはハルトとノエルです。ところで奴は何故守りの森ではなくロダまで来たんでしょうか?」

「火炎蜂は見かけによらず好んで人を襲わない。しかし何故だかは解かってはおらぬ。今回の件の詳しいことは追々ラフィー様から報告があるだろう」

 カッツェとの話しが終わるとアルフリードはフィレーネを呼び神父と向き合った。

「フィレーネ。神父殿にも私にした話しを伝えなさい。神父殿、ここからの話しは他言せぬように」

 神父は黙って頷いた。


「えっとねぇ。私、繭の中に閉じ込められた仲間が気になって妖精の森に帰ったんだけど迷っちゃったの。自分の森でだよ。何日もかけてやっと繭を見つけたぁ、って喜んでたんだけど繭が濃くなっててるみたで誰も応えてくれなかった。でも繭の中の女神様の声が何とか聞こえてハルトをロダの聖地の地下に連れてけって言ってた」


「ベルダンティア様は妖精の森の繭の中にいる女神というのはスクルディア様ではないかとお考えだ。スクルディア様は未来を司る。未来を司る天使様がそう言うのならば,何か意味があるのだろうと私も思う。神父殿、あの石碑の地下に通ずる扉が祭壇の下にあろう。我々をそこへ通して頂けぬか」

「ですが、あの扉は鍵もなく開けられた者がおりませんが」

「鍵の言葉を天使様から頂いている。これからハルトとカッツェ、ノエルを連れてゆこうと思うのだが」

「ハルベルトは何者なのですか?カルドも貴族のものでしたし」

「ハルトはイクリスの夜に女神様の命を受けたこの妖精に目醒めの粉を掛けられたのだ。何かしらの使命を帯びた祝福を受けた可能性がある」

「そういう事だったのですか。――村人達が帰ったか確認して参ります。暫くお待ち下さい」



 神父が戻り、鳥の人が扉を守るだけになった教会の中に連れ立って入った。

 神父が祭壇に鍵を差し込んで祭壇を前に動かすと階段が隠されていた。

 階段を下りると扉があるだけの小部屋になっている。神父に戻って貰い四人だけになるとアルフリードが唱えた。


「ノルンサラノルン エントルトノア シクレアルヒストリカ」


 重々しい扉の縁が光アルフリードが手を掛けると扉が開く。

 その先は石作の階段になっていた。光石を持ったアルフリードを先頭に階段を下る。階段から先は下り坂の暗く冷たい通路が続く。


「ハルうぅ」

「ノエル、大丈夫か?」

 袖口を掴んで来たノエルの手を引いてハルトは辺りを見回しながら歩く。

「何もいないよ、大丈夫」

 危険な何かどころが鼠一匹いない。完全に封鎖された空間のようだ。教会からストーンサークルまでと同じくらいを歩いたころで広間に出た。フィレーネが高くなったドーム状の天井付近に光石を持って上がっってゆく。

 何かが幾何学模様を囲んで壁一面を彩っている。その壁にフィレーネが近づいてゆく。

 それは壁画だった。

 六人の神が三角錐を囲み幾何学模様になっている壁画の広間の中央に石版が入った棚が一つ鎮座している。画風は西洋のものだが曼荼羅を意識したような壁画と同じ模様が床にも描いてある。

 

 良かったよ。巨人が世界を焼いてる絵とか人を食べてる壁画じゃなくて……


 これは相当に古いな。いにしえの文明よりももっと古いものかも知れない」

「古の文明より古い?」

「人の世は既に2度滅んでいると言われている。今世こんせいの文明より古いものかも知れぬ。実に興味深い」

 アルフリードは石版を手に取って読み始めた。

 フレーネが光石を持って手元を照らす。

 ハルトとノエルも石版を取り出して読もうと試みた。カッツェは「一応」と言いながら入り口を見張っている。


 読めるな。ノエルは読めないみたいだけど。

 ハルトは幾つかの神話のような抽象的な話しが書かれている石版の解読を諦め次に手に取った。

 系譜図?王家の家系図かな?何のことださっぱり分からない。もう一度神話を読んでみるか。

 『聖なる三角錐を巡る神々の争いに世界は崩壊の危機に陥り…………戦に明け暮れる人々…………排除しようと蟲が産まれた。人々は貴重な金属を全て集め、砲を撃ち尽くした後に蟲に破れ、その地を蟲の森にのまれた」

 昔は金属があったっていうのが神話になってるんだ。

 蟲がどの神にもたらされたのか、とかは書いてないな。

 オーディン、トール、ヴァリキュリア、ロキア。ギリシャ神話の神様っぽい名前もあるな。アポロン、アルテイミス、あっ、ヘスティーアってヘスティア様だよな。ツインテ巨乳とは書いてないけど……。


「これは研究の価値がある。其方そなたが此処に導かれなければ私も知ることがなかった。礼を言う」

「自分が何かした訳じゃないですし。それより何か繭の女神様に繋がることはありましたか?」

「今のところは無い」

 フィレーネは広間全体を照らすように天井近くまでに昇った。

「通路があるよ」

「うむ、行ってみよう」


 松明を持ったカッツェが先導し、アルフリード、ノエルの準で奥の通路に入ろうとするとフィレーネが通路の入り口に近い壁を見つめている。

「フィレーネ、思ったより道が悪い。俺より先に先導して道を照らしてくれ」

「う~ん、分かった」


 フィレーネの光石が淡く視界を開けさせる。緩いS字を描くカーブの先が見えず緊張が高まる。

 しかし呆気なく突き当りにえいになり、そこにはロッキの洞窟の最奥の間で見た扉が佇んでた。

「これロッキの巣の一番奥にあった扉だね」

 フィレーネが光石を寄せて照らす。

「やっぱり繋がってた」



 しかしこちら側にも取手がない。呪文で開くものだろう、とアルフリードが祭壇で唱えた呪文を唱えてが扉は全く動かない。

「蟲の命を使うんです。何かそんな呪文じゃないでしょうか?」

「うむ、試してみよう」

 アルフリードは幾つかの呪文を試した。

「フェッシン、ライフ オ サクレアル インセクティア」

 古代の発音で、神聖なる蟲の命と向き合う、という意味だ、と言う言葉に扉が反応した。


 ロッキの巣窟の最奥の間の埃っぽい冷えた空気が入ってくる。


 風が入ってくる。

 扉を開けたことで気圧が変わったか?


 最奥の間に入り一周してみたが当然の如く前回と変わったところはない。

「これだな。ノエルとハルトが見つけたのは。確かにマナがまだ通っている」

「でもさっきの部屋との関連性が分かりませんね」

「私も何か繋がりがあるのだろう、とは思うが……」


 扉と通路は殻を運べるほど大きくはないけど大分近くなったような気がするな。ちょっと何かを取りに来る時には楽になる。

 最奥の間を一回りして何も無いことを確認すると四人は元の通路を戻った。

 

 もう一度石版を読んでみるか。


 ハルトが壁画の間の中央に向って歩き始めてもフィレーネはまだ通路の近くの何もない壁に向って飛んでいる。

「フィレーネ。暗いからこっち」

「ちょっと待って」


 フィレーネは光石を壁に付くほどに近づけた。


「やっぱ、ここ何かある」


 ハルトが近づいて見ると、風で土埃つちぼこりが少し崩れた壁に、直線の亀裂が微かに見えた。

「アルフリードさん、カッツェ」

 カッツェが亀裂に沿って剣を入れると扉の形が浮かび上がった。

 アルフリードが呪文を唱える。最奥の間の呪文が反応した。


 そこもまた壁画と石版の部屋だった。一回り小さく広間というよりは隠し部屋という雰囲気だ。


 神の回りを飛ぶ蟲達に人間の上半身が立っている。蟲の胴の窪みに立つ人間。蟲というよりも蟲の殻で出来た飛行体と言った方が良いかもしれない。その飛行体の周囲を更に小さな飛行体に乗った小人が飛にかっている絵が書かれている。

 


 壁画の神が誰なのか検分するアルフリードを横目にハルトは石版を取り出した。

  

 これ、あの飛んでるやつの説明だ。設計図は?

 

 ハルトは興奮しながら次々と石版を取り出してゆく。

 次の石版には図面が掘ってあった。空を舞う蟲の殻を使った飛甲機という物体の構造を記した石版をハルトは夢中で読んでゆく。蟲の脳を制御中枢にして人の手からマナの信号を送って制御する構造のようだ。中枢を直接触るのではなく両手で2つ丸いコントローラーから信号を送る仕組みが書いてある。


「アルフリードさん、この丸い物って何だと思います?」

 神話の石版を手に壁画の神に夢中のアルフリードが顔を上げた。

「おそらく蟲の触覚ではないか?微弱なマナを感じ取ると書かれている」

「信号を送るケーブルって今あるんですかね?細くて長い微弱なマナを伝える的なものなんですけど」

「私は機械に疎い。カッツェ、何か知らぬか?」

「マナの信号を送る線ならあるぞ。エレベーターってあるだろ。あれの動力自体は地下水脈の水車の力だけど、その力をどういう風に伝えるか?っていうのは線蟲の神経を包んだ線でマナの信号を送ってるんだ。俺も点検に来た職人に聞いた話しだけど。エレベーターは街にもあるし手に入らんこともないと思うよ」


「そうすると後は制御中枢への接続に……。あ゛ー!この大事なとこ汚れかと思ったら削れてんじゃん。イジメですかぁ? ……の花の……を……にして接続する??………を可能にする……」


「アルフリードさん、これ何だと思います?」

「だから私は機械には疎いと言っておろう。――うーむ、蟲の頭に花を咲かせば良いのではないか?」

「…………」

 この人の機械オンチは重症っぽい……頭に花咲かすってジャッジメントのPC担当じゃないんだからさ。


 かなりの時間を費やして飛甲機の解読にいそしんだハルトだったが全貌は解明には至らなかった。

 でもマナの通ったロッキの殻があるんだ。実現できる気がしないでもない。

 ハルトは飛甲機に関わる文献に強い興味があることをアルフリードに伝えた。

「ハルトの心が求めるままに進めなさい。天使様からの細かい指示はないのだ。それが正しい道のように私は思う」

 アルフリードは静かに言った。


「飛甲機に関わる石版を写本しても良いですか?」

「ノエルにやらせよう。扉は呪文で開けられる。ノエルが写した物を守りの森で正確に翻訳しよう。其方はマナの通ったロッキの殻を工房に運んで試してみよ。しかし情報の管理は確かに行なうように」

 ハルトが飛甲機に関わりそうな石版をまとめると部屋を出た。


 祭壇の底をノックすると神父が祭壇を動かし出口が開く。神父は礼を述べるアルフリードに「祭壇で聖書を読むことは至福の時間ですから」とにこやかな笑顔を向けた。

 

「マナの通ったロッキの殻の全てを其方に移譲しよう。心の赴くままに励みなさい」

 そうハルトに言い残してアルフリードは守りの森への帰路についた。





 

 

 


繭の女神様はベルダンティアの妹のようです。未来を司る女神の指示に従って向った聖地で見つけた壁画と石版。飛甲機の開発が始まります。

次回は金曜日の投稿になります。

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