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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第2章 ロダ村編
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ロッキの巣

 降りしきる雨に翌日の出発を見送ったハルトは準備を徹底した。ザイルを確認し、鉈を研ぐ。獣対策に弓と矢も用意した。ロッキは危険な部類では無いと言っても毒を吐く巨大な蟲だ。ジュノーに見て貰いながら、いざという時の為に小さな蟲の管に火炎蜂のガスを詰めた。

 洞窟があるなら地下で繋がってるかも知れない。

一旦灯ると暫く消えないという光石の光をすぐに消すことが出来る様に蓋のついた懐中電灯を作り、松明にする木の棒に巻きつける布と油を入れた瓶を装備に加えた。食料を多めに用意しロッキの巣の探索に備えた。


 雨が上がり澄み上がった秋空となった翌朝、コボルに乗ったハルトとノエルはフェリーネと共に滝を目指して森に入った。

 崖に着いたハルトはザイルを崖から生える木に結んで降りてゆく。

「だいじょうーぶー?」

「大丈夫だー。ノエルも降りて来い」

 一段目を降りきったハルトとノエルは次のザイルを結んで更に下ってゆく。

 近くの木や岩に次のザイル結んでは降りを繰り返し、滝壺より数メートル上の滝の裏側を除くとロッキの胴回りより一回り大きい洞窟を見つけた。水しぶきが虹を作る滝の裏でハルトとノエルは頷き合って洞窟に入る。陽の光が途切れ、暗くなると光石の懐中電灯を灯た。フィレーネがそれを持ってロッキが折ったらしい鍾乳石が転がる洞窟を三人は警戒しながら恐る恐る進んで行く。


 前方に六つの赤く鈍い光が灯った。口元の管を前に向けたロッキが歩いて近づいて来る。洞窟にはロッキが羽を広げたり向きを変える幅はない。フィレーネが光石の蓋を閉じると打ち合わせていた通りにノエルに渡した。ハルトとノエルは両側の岩陰に身を隠し、粉袋に手を入れてロッキの顔が真横に来るのを待つ。

「今だよ!」

 洞窟の天井に張り付いたフィレーネの合図に、碧い粉をハルトとノエルが両側から振り撒いた。ロッキの有機的な模様に挟まれた六つの目から赤い光が消えてゆく。ロッキは姿勢を変えぬままゆっくりと後ずさり後退してゆく。ハルトは火炎蜂のガスが入った蟲管とライターを両手に持ち、ノエルは鎮めの粉袋に手を入れたまま懐中電灯で足元を照らしながらロッキとの距離を保って歩いてゆく。ロッキの姿が消えた所に辿り着くとそこは開けた空間で大きな広場になっていた。その奥まった所で口元の管を収めたロッキが何かを隠すように前を向いてうずくまっている。


「卵を守ってたんだね」

ロッキの後ろには乳白色の卵が並んでいた。ロッキの体の後ろにあって正確には分からないが10個程あるようだ。

「ごめんね。卵は捕らないから大丈夫だよ」

 ノエルはロッキに話しかける。ノエルが筒から出した光石を持って広場全体を照らすフェリーネがハルトに教えた。

「ロッキは卵を産んで暫くすると死ぬんだよ。このロッキも大分弱ってる。もうあんまり飛べないんじゃないかな」

「卵はほっといていいのか?」

かえる卵は多分二つか3つだからいいんじゃない?孵ったら土に潜るし。春になったら孵らなかった卵を採りに来ればいいよ。マナがまだ流れてたら何かに使える」

「ロッキってどのくらい生きるんだ?」

「よく分かんないけど50年くらいじゃない?」

「えっ、わたしは大人になってから10年くらいって聞いたよ」

 ノエルの方が信用できそうな気がするな。幼生の時に40年ってことか?

 結局答えは出なかった。


 広場の中に卵から孵った幼生が掘ったものと思われる穴が幾つかあった。

 モグラにしては大きいし多分ロッキの幼生が掘った穴だ。けど幼生が掘ったものだとしたら親の殻と孵らなかった卵は何処に行ったんだ?採集されたのか?ハルトは広場の壁を丹念に見て回る。「蟲の殻は百年ぐらいは平気で保つ。強い蟲の殻は二、三百年は保つ」とジュノーに聞いていたからだ。

 うずくまるロッキの左手に沿って進むと、崩れた鍾乳石が岩を覆い隠している。横穴が埋もれているようだ。ハルトは鍾乳石の山を登り、何とか手が入るくらの隙間から奥を照らした。やはり洞窟の横穴が奥に続いている。

「フィレーネ中に入って見てきてくれ」

 横穴を塞いている大きな岩の下の鍾乳石を外せは岩は転がりそうだ。ハルトとノエル体くらいなら入れる。

「ハル、もう十分だよ。もう帰ろう」

「聖地の地下に繋がってるかもしれない。ここまで来たんだ。行けるとこまで行ってみよう」

 俺をこの世界に引きずり込んだ繭の女神様の言葉だきっと何かある。

 そう自分に言い聞かせたハルトは諦めなかった。

 光石を持ったフィレーネが中に入ると大量のコウモリが飛び出して来た。ハルトは手でコウモリを払いながらロッキの様子を伺ったがロッキはまだ落ち着いている。松明を持ったノエルが「ハル大丈夫?」と心配そうな顔をハルトに向けている。

「白いのが行った!気を付けて!」

 フェリーネの声にハルトは身を屈めた。白いコウモリの翼は刃物のように鋭く動物を切る、と聞いていたハルトは火薬の入っていない虫除け玉に火をつけた。白いコウモリは煙を避けて洞窟の入り口に向って飛び去った。ロッキを必要以上に刺激したくないハルトは煙る虫除け玉を皮の布で包んで火を消した。

「まだ白いのは居るか?」

「もう居ないみたい」

ハルトは岩から降りて岩の下の鍾乳石を渾身の力を込めて引き抜き抜いてゆく。

「ぬおおおお」

 三本目を引き抜くと岩が転がり始め、岩の隣に飛び退いた。

 鍾乳石の山を滑り落ちると道が拓けていた。

 ノエルに更に鎮めの粉をかけられたロッキは動かない。

 どうやら進んでも大丈夫なようだ。

 

 松明を掲げた二人が横穴に入る。

「なぁ、この世界は白い奴がボスって決まってるのか?」

「確かに白いのは位が高いのが多いよね。私の服も白いでしょ」

 フィレーネはハルトの前を白いレオタードとその肢体を見せつけるように飛んだ。


 洞窟の更に奥に向って横穴を進む。長く暗い通路の先にも広場があった。その広場にはニ体のロッキが卵の前で横たわり、殻の破れた卵が2つづつあった。ロッキの目には光は無く、厚い土埃を被っている。随分と時間が経っているものようだ。

 フィレーネはロッキの周りを飛んだ。

「このロッキたちは死んでるけど生きてるよ」

「どういうことだ?」

「ここはマナが濃いの。だからロッキの体にマナがまだ少し流れてる」

「生き返るのか?」

「それは無理だろうね」


 気を引き締め直して更にその先の横穴を進む。ノエルは常にしっぽを立てて歩き警戒しているのがよく分かる。

  その先にも似たような広場がもう3つあった。

 次の広場の2体のロッキは殻だけになっていて埃を払うと透き通っていた。一体の羽は完全にガラス化していて半分崩れている。ハルトは七色に光る宝石のような羽を破片を採集した。

 2つの横穴があったが一つは岩で塞がっていて通れない。

「この岩は無理だな」

 ハルト達はもう一つの横穴に入った。

 その次の広場にも2つロッキの殻があり、一つは体ごと崩れて土に帰ろうとしていた。

 どれくらいの時間が流れたんだろう? 

 悠久の時を思いながら最奥の広場に向った。それまでのどの広場にも地面の柔らかい所に地中に向かう靴が入りそうな位の穴の跡が幾つかづつあった。卵が孵って幼虫が地下に向かった痕だ。それに寄り添うように横たわるロッキの殻。その光景が時間の幽玄さを物語っているようにハルトには思えた。最奥の間の横たわる一体のロッキの殻と7つ卵にはまだマナが通っているとフィレーネは言う。

それ聞いたハルトは、殻に手を当て「マナよ通れ」と言葉にして念じると殻全体が淡く光った。

 

 最奥の間を調べて回ると土埃で埋もれかけた壁に、人が通れるくらいの扉を見つけた。汚れを払うと扉は蟲の殻で出来ているようだ。ノエルと溜まった土をどかし、ハルトは力いっぱい押してみたが全く動く気配がない。取っ手は無く引く事も出来ない。

「教会の扉ってこれのことかな?」

 ハルトの問にノエルが答えた。

「流石に教会までの距離は歩いてないと思うんだけど」

「そうだよな。この先が気になるけどビクともしない」

 念入りに最奥の間を調べたが他には扉も横穴もない。

「戻ろうか」

 ハルトはマナが通っている卵をひとつ抱えて洞窟の入口に戻った。

 垂れたザイルの先で卵を背中にくくりつけて崖を登り、伊右衛門のバッグに入れて三人は無事に家に戻った。



 ハルトがジュノーに卵を見せながら応接室で洞窟で見たことを話している。

 ノエルは「詳しい報告書を書いてくる」と2階の部屋に上がった。ハルトはノエルがTバードで送る用に書いた短い報告文に「詳しくは伝書鳩で」を付け加えて既にアルフリードに報告していた。

『了解した。ロッキの巣の中の様子はむやみに口外しないように。マナの通ってない殻と卵は自由にして良い。マナの通った卵は半分は売っても良い。王都の方が高く売れるであろう。マナの通ったロッキの殻は検討するのでしばし待て。明後日カッツェを村に送る。』とすぐにレスがあった。

 アルフリードさんってお金持ちなの? このレスは伝書鳩でも良かったのに。そんなにすぐには売らないって。

 と思いながらも心の中で感謝していた。ノエルによると守りの森では蟲の巣で見つけたものは共有財産になるのだそうだ。


「ロッキの殻と卵か。しかもマナの通った物があるとはな」

「お金になるかな?」

「ロッキの殻はそう高価な部類ではないがそれでもかなりの額になる。問題は運ぶ時の運賃だ。森の中を運搬商人に運んで貰うのは金がかかる上に、崖の下から村まではかなり大回りになる。それかどうにかして引き上げるかだな」

 農家の人達にロープを引くのを手伝ってもらうか……とぶつぶつ言いながら考えるジュノー。

「カッツェが来るから守り鴉で運んで貰えば良いと思う」

「守り鴉はロッキの殻を運べる程大きいのか?」

「マナが通ってないやつはある程度バラせば大丈夫だと思うよ。胴と胸から上を別けるとか」

「そいつはありがたい。でかしたぞハルト。これで新しい取引先を探す時間が稼げる」

 ジュノーの顔が久しぶりに綻んだ。

「マナが通ってる殻は高く売れるかな?」

「俺は魔道具には詳しくないから分からん。卵は何かの魔道具に使えると思うが殻は見当がつかん。卵なら俺達でも運べるから街の魔道具屋に売りに行ってみるか?」

「デニスさんに相談した方がいいんじゃない?王都の方が高く売れるだろうって。良い魔道具屋を紹介してくれるかもしれないし」

「それが良い。その方が良いな」

 父さんは職人としては一流だけど商才は怪しいな。密かに気を付けよう。

「4日後は教会で税を納める日だ。ハルトお前も一緒に行って納税の仕方を覚えろ。それまでに俺はパッカード商会の仕事がごちゃごちゃした帳簿を纏める。それが終わったら冬支度だ。肉の燻製を作るぞ。今年は肉の質を落とさねばならんと思ってたが、いつも通りの肉を買っても大丈夫そうだな。その時にデニスさんに連絡を頼もう。よくやったぞハルト」


 ジュノーとの話しが終わり、希望が見えてきたハルトは部屋に上がって久しぶりにラノベに手を伸ばした。しかしベッドに横になるとぐっすりと眠ってしまっていた。


体制を立て直す光が見えて来たハルト。落ち着くと手が伸びるのはやはりラノベでした。

次は「聖地」です。月曜日に更新します。

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