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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第2章 ロダ村編
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収穫祭とそのツケ

 翌日からハルトは自然乾燥させたヤキトンボの粉を固着剤に少しずづ増やして実験を重ねた。

 

「やっと火が消えない蚊取り線香が出来た!カトーリのかーんせーい。っと」


 ケビンとカール、ミックにも手伝って貰い、楠の木の粉とヒナギクの粉の割合を変えたものを何種類か作った。次は効果を試す実験だ。

 庭先の木々の間に蚊帳状に張った投網の中にノエルに採ってきてもらったクチナガを10匹ほど放つ。

 虫が苦手なノエルが「わたしが採ってくる、ハルは作ってて」って用意してくれたクチナガだ。逃さないようにしないと。

 革の上着に革の布をズボンに巻きつけてブーツを履き込み、頭と首も革の布で覆いゴーグルを着けた完全装備のハルト。クチナガが外に出ないように慎重に蚊帳に入ってカトーリに火を点けた。


「それなら流石に刺されないよ」

「でも農家さん達がやらないのにも納得。動き難いし暑い」


 カトーリを近づけるとクチナガが逃げた。

 でもまだ狙ってくる奴も居るな。

 

 色々試した結果、カトーリを両足に2つ。腰の後ろに一つ、胸に一つを着ければクチナガが寄りつかないことが解った。楠の木の粉4にヒナギク粉6の割合の物が良いようだ。

 8時間くらいは保つから頻繁に火を点けなくてもいい。ケースにベルト通しをつけてベルトやゴムバンドで固定出来るようにして、アベルの家族に試して貰った。実用的に使えるそうだ。その夜アベルとその父がやって来た。


「あれは素晴らしい!今まで二人掛かりだった収穫が一人で出来る。刈った麦をすぐに干す人手が出来るから麦の品質も上がりそうだ。是非あと3人分作って貰えないだろうか?」

 そう意気込むアデルの父にジュノーは「お安い御用だ」とケースを作り次の日に届けた。カトーリ本体は型枠を作って簡単に形作れるように工夫した。炉の上に吊った四角い籠の中で乾燥させたカトーリが次々と出来てゆく。


 噂が広がって注文が止まらなくなった。毎日どこかしらの農家さんがカトーリを譲ってくれ!とやって来る。マーガレットが「ご注文ですね?」ニコッと受付嬢になっている。ハルトとケビン、ミックはカトーリとケース製作に追われる日々を送った。ノエルとマーガレットにカールがヒナギクを刈っては干し、乾いたものから水車小屋の臼で轢いて粉にしてくる。ケースの軸の部分はミックのアイデアで錆燐貨のワッシャーで挟む形状にしてカトーリがしっかりと固定できるようになった。


「カトーリはみんなで作り上げたんだな」

 ハルトは感謝を仲間に示した。

 

 秋風が身に染みるようになり、麦の収穫もそろそろ終わろうかという頃になって、カッツェがブロック工房に姿を現した。

 

 「守りの森に蟲が出て遅くなったけど、これからはロダ村勤務だ。あらためてよろしくな」


 カッツェにくっついてきたフィレーネに足を癒して貰ったハルトは、ノエルとカッツェの家に手伝いに行く道すがら守りの森での話を聞いた。蟲は氷結ゾウムシで問題なく鎮められて被害は無く、かき氷大会になったそうだ。「夏だったら嬉しかったんだけどな」とカッツェは余裕の表情だ。ノエルは胸を撫で下ろしていた。ノエルとカッツェが住む家は歩いて5分程。カッツェは街で騎士見習いという準騎士の身分を得てロダの森の蟲監視担当になったらしい。

 カッツェは外出する時はヘッドホンを頭の後ろから着けたような革の耳当てをして羽耳を隠している。常に剣を携えているので防具に見えないこともない。


 家の中はマーガレットがコツコツと掃除をして綺麗に整っていた、荷物を整理を終えると飼育小屋にモモとキスカと名付けられた二人のコボルの飼育小屋に藁を敷き詰める。一段落したハルトはカッツェとキックボクシングと相撲を合わせたようなレスルという競技の練習をした。教会で行われる収穫祭でトーナメント戦があり、それは男の誇りをかけた戦いなのだそうだ。

 フィレーネが祭り間に合って良かったよ。次はもうちょっと早く来てね。



 錦の旗が立ち並び、太鼓の聞こえる教会へ道をハルト達はウキウキした面持ちで収穫祭に向かった。

 教会から立ち並ぶ出店でみせのテントに向かって色とりどり三角形の旗が弧を描き、あちこちから音楽で音楽が奏でられている。バザールがフェスティバルになった教会前の出店の中を歩くマーガレットは両手でお菓子を持ち、ノエルは「吟遊詩人さんはどんなお話をしてくれるのかなぁ」と期待に目を輝かせている。ジュノーは早くも酒盛りを始めた人達を羨ましそうに見ている。

 出店の通りを歩いているとアベルの家族四人に出くわした。


「いやぁ今年は本当にカトーリのお陰で助かった。あれからクチナガにほとんど刺されなかったです。ハルト君本当にありがとう」

「いえ、お役に立てたのなら嬉しいです」

「ジュノーさんも立派な息子さんがいて誇らしいでしょう。本当にありがとうございます」

「私としても我が家からブロックの名前に恥じない物をお届け出来て嬉しい限りですよ」

「それとあの値段では安すぎます。私達が得る利益と釣り合いません。これを受け取ってください」

 カトーリ28個とケース4個の一人用一週間分セットで青燐貨1枚、一万円で売った。ジュノーが原価や手間賃を考慮して決めた値段だ。

 結構高いな、と思ったんだけど……。

 革袋を渡されたジュノーが中を見て驚いている。

「――こんなに頂けませんよ」

「いや、正当な報酬ですから。これぐらいの価値が在るものです」

 いやいや、いやいや、結局半分受け取るということになって青燐貨を6枚ジュノーは返した。

 12万!四人分で4万受け取ってるから16万だ。そんなに価値のある物だったの!? 蚊取り線香だよ? でも収穫に見習いを雇う人件費として考えると一週間で一人4万は安いか。両親がクチナガに吸われるマナの量のこともあるんだろうし。でも正当な報酬って言ってるからそうなんだろう。作る側と使う人の感じる価値が違うってことか。


「ジュノーさん、カトーリはギルドに権利を登録した方が良いですよ。来年はギルドを通して買わさせて下さい。農家の皆もそう言っています」

 そう言われてアベルの家族と別れた。


「あなた、あなたは権利など、と言いますけど、ご先祖様がどうであろうとハルが作ったものなんですからきちんとして下さいね」

 マリエールにそう言われたジュノーは、

「一度商人ギルドに行かないといかんな。ギルド長でもあるパッカードさんの馬車の仕事が遅れ気味だから行き難いんだが」

 馬車の仕事を長らく離れていたハルトは申し訳なく思った。

「ごめん、父さん、俺、しばらく夜も仕事するからさ。頑張ろうよ」

「久しぶりに追い込み体制で仕事するか!」

 

 臨時収入でお菓子を追加して貰いご機嫌の様子のマーガレットとノエル。女性陣は「ハルのレスルは見に行くから」と吟遊詩人の歌と講談を聞きにいった。

 レスルのトーナメントに参加するハルトとカッツェはジュノーとストーンサークルの石畳の中央に盛り土された土俵に向かう。

 上半身裸になってグローブを借りて着けた。手の平側が薄いグローブは握ったり腕を取ったりする事が出来そうだ。キック有りの足は素足だ。


 勝敗は相撲のように土俵から出たり、倒れたら負け。ギブアップもある。

 ハルトは年下の子供を二度土俵に転がすと三回戦に進んだ。

 

 土俵の向かいに黒いローブの男を引き連れたスネイルが立っていた。

 二人が土俵に上がって向きあう。

「先日はやってくれたな。この日の為に、あ奴らにみっちり仕込んで貰って来た。覚悟しろ」

「そのお強い先生方は出ないのかよ」

「あ奴らは俺より強いからな。出るを禁じた」

「とことん嫌な奴だな。ご自慢の父上はどうした?」

「父上がこのような庶民の戯言ざれごとに顔を出す訳がなかろう」

「その庶民の祭りにお前は平気で出るんだな」

「お前達をブチのめして恥をかかせるのだからな。些細なことだ」

「そうかよ」


「それでは よーい、始め!」


 スネイルは足を使ってフットワークをしながらボクシングスタイルでジャブを出してくる。

「どうした?あの獣人のメスがいないと一人では何も出来んのか?」

 ハルトは誘い乗らずに体を揺らす。まだだ。スネイルのモーションが大きくなるのを待つ。スネイルも冷静だ。ジャブを入れながら足を狙って蹴りを出してくる。空手の受けの型が身に染み付いているハルトは膝を上げ袋萩の側面で蹴りを受けつつジャブを返す。

 スネイルの伸び始めたジャブが顔を掠める。まだだ。もう少し。

 スネイルがフェイントの左の蹴りを地につけて軸足にした。右ストレートが来る。

 今だ!!

 真っ直ぐ伸びてくるスネイルの右手の拳を左手のガードで流し、手首を掴んで腰を回す。腰で背負って投げた。

 土煙の上がる土俵にスネイルが仰向けに沈んでいる。何が起こったのか解らないという間の抜けた顔でハルトを見上げている。

 ハルトは言葉をかける事無く、巻き起こる拍手と歓声の中で土俵を降りた。

「ハル、すごおおおい!」

「やったな!!」

 抱きついてきたノエルにケビンにカール、ミックにアベルにと数え切れない男達に囲まれて頭を掻かれた。気がつくとスネイル一派は消えていた。


 ハルトのトーナメントは次の対戦で当たった腰の翼を腹巻きで隠したカッツェにボコボコにされて終わった。 

 痛ってー、本気で殴らなくてもいいじゃん。でも流石は騎士だな、基礎が違う。

 ハルトは納得をして優勝したカッツェを祝った。


 その後も祭りが終わるまで、狂喜乱舞、夢見心地の晴れの日を村人達と楽しんだ。




 翌日の朝、工房に入ると意識を切り替えて馬車の仕事の遅れを取り戻そうと仕事に集中し、昼食を終えていつもより一時間早く午後の仕事を始めようとしたちょうどその時、物々しく鳴る玄関のドア・ノッカーの音が聞こえた。異変を感じたジュノーとハルト、カッツェが階段を降りる。

 ドアを開けると黒いローブの集団の真ん中にスネイルが、その横に丸々と太った豚のような村長のセドルが立っていた。


「これは村長、何用ですかな?」

「この村に不穏な噂が立っておる。お前の息子が農民に怪しげな物を渡して税を誤魔化させようとしているとな」

「あなたは一体何を言っているのですか?」

「お前の息子が農民に税を誤魔化すようにそそのかしておると言っておるのだ!!取り調べを行こなう。わしの館の牢に連行する」

「言いがかりも甚だしい!ふざけているのかっ!!」

「お前も貴族を侮辱した罪で燐窟りんくつ送りにしてやろうか?ブロック。名持ちとはいえお前は平民だ。貴族のわしにはそんなことは容易たやすいのだぞ」

 ニヒヒと笑うセルドにジュノーは言葉を返せない。


「ハルトに罪はない。鳥の人である私が保証しよう」

 カッツェが堪りかねて返えした。

「鳥の人だと。この辺りの者どもにはあがめられておるようだが、生憎わしはこの地の出身ではない。恐るるに足らんな。この国の貴族であるわしの方がここでは身分は上だ。引っ込んでいろ」

「どうにもならないという事ですか?」

 ハルトが声を出す。

「まぁ、今回はわしの温情に免じて許してやらんこともないぞ。お前達が編み出したという虫除けの権利を全部よこせ。それならば今回は見逃してやっても良い。明後日にまた来る。犯罪者として燐窟送りになるか、どちらが良いかよく考えておけ」

 黒いローブの集団に囲まれたセルドとスネイルはきびすを返してして前庭を出て行った。

 

 玄関の中でマーガレットとマリエールが抱き合って怯えている。怒りに尻尾を毛羽立てて震わせるノエル。


「大丈夫だ。考えるより動こう。マリエール、これからハルトとカッツェを連れて街に行ってくる。戻るのは明日になるからしっかり戸締まりをしてここに居なさい。マーガレットを頼んだぞ。ノエルも今日は家に泊まりなさい。ベントに今日は家に泊まって貰うように頼んでくる」

 ジュノーの言葉に皆が頷き、三羽のコボルが家を出た。


 三人は街に着くとます宿を押さえ、ジュノーは商人ギルドへカッツェはセルドの情報を集めに騎士団に向かった。ハルトは何時戻るか分からない二人の為に軽食を買い込んで宿で待った。ジュノーの方が先に戻って来た。

「明日の午前中にジェルマン・パッカードさんとの面会の予約が取れた。実際には執務を纏めるステュアートさんと話してからジェルマンさんと会うことになる。短い時間だがギルド長としてのパッカードさんにお会い出来るのは幸運だ」

「俺も行くんだよね?」

「当たり前だ。カトーリはお前が作ったものだ。権利の登録はお前の名前でやる。俺は後見人という立場でついて行く。話しは俺が進めるからお前は一緒に居れば良い」

「分かった」


 カッツェが帰って来た。

「セルド・ゲ・スーノの評判が良いのは徴税官の一部、ということみたいですね。税を多く搾り取って来るから、というのが理由みたいです。正騎士の貴族の間では、ゲ・スーノは一代限りの下級貴族の身分を金で買った卑しい奴と言われていて評判はよくありません」

「そうか、なら何とかなるかもしれないな」

「ただ噂を流すことに長けていて自分の都合の良いように嘘も含めて噂を操るのが得意なようです。気を付けるに越したことはありません」

「とにかくギルド長に面会出来るんだ。明日に備えて今日は休もう」


 眠れない長い夜が続いた。

 


村祭りではなく収穫祭にしました。

本性をあらわした村長セルドとその息子のスネイル。

次回、アリシア・パッカード、です

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