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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第2章 ロダ村編
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狩りと武器と星空と

 水車小屋の前に開ける広場にテントが並び、休日の買い物を楽しむ家族で賑わっていた。バザールは娯楽の少ないこの村では小さい子供達も集う社交場になっている。その中をハルトとノエルは人気の少ないテントを目指し歩いていた。

 兄弟、姉妹、服装でそうと分かる幼い子ども達が走り回っている。それを見守る両親。ふと気がついたようにハルトはノエルに尋ねた。

「なぁノエル。ここって四人家族が多いよな。俺が知ってる家族はみんな四人家族だ。ノエルもそうだしこれって偶然なの?」

「子供は二人までって決まってるんだよ。三人目が生まれると孤児院に入れなきゃいけない決まりがあるから一人っ子か二人兄弟かのどっちかになるね。ほとんどが四人家族だと思う」

「何でなんだ」

「う~ん、理由は気にしたこと無かった。そういうもんだと思ってたから」

 産めよ増やせよっていう世界では無いんだな。八男とかに転生しても困っただろうし、まぁいっか。

 

 ノエルがコボルを予約したテントに近づくと案内の商人がテントに入り、二人がテントに着く頃にはコボルを扱う商人が出迎えに出ていた。

「お待ちしておりました。良きコボルとのご縁がありますように。ささ、此方へ」


 商人についてテントの裏側にまわるとグレーのコボルが3羽、白にピンクが3羽の6羽のコボルが繋がれていた。どのコボルも毛並みが良いようにハルトには思えた。

 

「まずはカッツェのからかな」

 ノエルはグレーの三匹に近づいて首を撫で、足をじっくりと検分するノエル。

「この子は人懐っこいけど歩き方に癖がありそう。爪の減り方が左右で違う。1羽はこっちの子にします」

 全身グレーで首元に黒い模様のあるコボルを指した。体格が良くつぶらな黒い瞳に愛嬌がある。

 ノエル、カッツェに似てるコボルを選んだな。ふふ。

「承知致しました。次はメスの方ですね。こちらに3羽おりますが実はもう1羽連れてきております。ご覧になりますか?」

「お願いします」

 商人が隣に立っている飼育テントからもう1羽を出して来た。

 白が基調で胸と腹、翼の裏がピンクなのは同じだが風格が違うのがハルトでも一目で分かった。

 白と真紅のトサカの真ん中に黄色いラインが入り、胸元の一層濃いピンクの毛並みが輝いている。尾は長く地につきそうだ。

「うわぁ、立派な子ですねぇ」

「第三王女様に献上したコボルの妹になります。お値段は張りますが如何かと思いまして」

 ノエルが首とくちばしを撫でると「頭も撫でで」というように頭を下げ、ノエルは笑ってそれ答えた。

「残念ながら予算が決まっているんです。それにわたしにはもったいないですよ。でもこの子に会えて嬉しいです。連れてくて頂いてありがとうございます」

「そうですか、この三羽もこのコボルと同じ血筋です。どうぞゆっくりご覧になって下さい」

 ノエルはしっかりと足や羽を見た後1羽づつ順に見つめ合っていく。最後のコボルがノエルに頬ずりをした。

「この子にします」

 ノエルはトサカにピンクのラインが入り、尻尾の羽も白とピンクのコボルを選んだ。

「ノエルとおんなじだな」

「相性も良さそうだよ」

 商人とテントに入ったノエルは「あの立派な子を連れて来てきてくれたお礼に」と、追加注文した干し草をハルトの家に運んでもらう手はずを整えると支払いを済ませてテントを出た。

 テントの出入り口に連れて来られていた二羽の手綱を引いて二人は繋ぎ場に戻り、伊右衛門がグレーのコボルを、エルーがピンクのコボルを引き連れて「明日の鹿狩りに間に合ってよかったよ」と嬉しそうなノーラとハルトは家に戻った。


 

 ブロック家のコボルの飼育小屋の横には、既に2羽が仮住まいをするテントが立てられている。そこに2羽をなじませてから、ノエルは再び連れ出して牧草地に出し遊ばせた。2羽のコボルと一緒に走るノーラも、ノーラを追いかける2羽のコボルも楽しそうだ。そこにショコラが合流した。


 牧草地の柵の下にはマーガレットの花とよく似たヒナギクが延々と咲き続け、家に近い柵の上はマーガレットとノエルに刈り取られたヒナギクが束ねられ干草にされている。このヒナギクは除虫菊と似て虫除け効果があり農家に売る事でブロック家の副収入になっている。

 ノエルとコボル、ショコラが赤とんぼを交えて草原でたわむれていのを、ハルトは痛み出した足首を気にしながら眺めていた。


「フリスビーとかあればいいのにな。あれなら作れるかも!」


 ハルトは工房に向かい、軽く柔らかい木板を取り出すとコンパスのように折れ曲がる長い定規で微妙に角度の違うVの字を2つ引いた。

 ノコギリクワガタのツノを薄くしたものだというノコギリの刃を木の柄につけてVの字を切り出し、足踏み式のローラーが回転するヤスリ台で面を取ると「確かこんな感じだったよな」と、飛行機のプラモの翼をイメージして揚力が生まれるように表面にカーブを作ってゆく。

「出来た、かも」

 ハルトは出来たばかりのブーメランを手に取って牧草地に戻った。


「ハル、それはなぁに?」

「見てろよ」

 ハルトがブーメランを投げると「ウォン!!」ショコラが全力で追いかけてゆく。ブーメランはしっかり近くに帰ってきた。キャッチは出来なかったが。


「すごぉい!!」


 ノーラが目をキラキラさせている。ノエルに投げ方を教えるとブーメランはハルトの時よりも近くに戻ってきた。

「練習すればキャッチ出来るようになると思うよ」

 いつものように喜びはしゃぐかと思いきや、真剣な表情でブーメランを見つめるノエル。

「これ、もっと重い木だったら武器になるかな?」

「元々は武器として生まれたものらしいよ。俺はおもちゃしか飛ばしたことないけど」

「ハル、わたし用に武器として作ってくれない?」

「ノエルは武器が欲しいのか?」

「――自分の身は自分で守れるようになりたいの」

 何時になく真剣な眼差しを受けたハルトはその想いに答える事にした。

「わかった。作るよ。――けど、ノエルは俺が守るからな」

「ありがとう!!」

 ノエルはハルトに抱きついた。

 ほんと、いつも思うけどノーラにそっくりだ。



 明日はこの村総出で鹿狩りだ。伊右衛門、頑張ってくれよ。

 ハルトとノエルは伊右衛門をはじめコボル達の毛並みを整え、鞍に油をなじませて入念に手入れをしてゆく。麦の収穫の季節になると鹿が人里に入って来て畑を荒らす為、数を減らす為に狩るのだ。狩りと言っても狩るのは街から来る騎士やハンターで、村人は森から逃げ出てくる鹿をコボルで柵の中に追い込むのが役目になっている。


「ちょっと足が気になるな」

 ジクジクと痛みだした左足首の靴下を下げると紫色に変色し始めていた。

 フィレーネあいつ何やってるんだろう?連絡取れないしなぁ。

 そう思いながらハルトは胸からベルダンティアから貰ったペンダントを取り出した。

「安易に頼っちゃダメだよな」

 そう思い直し、作業を終えた二人はそれぞれの部屋に戻った。

 

 ハルトが部屋に入ると窓をコツコツと叩く音がする。


「呼んだ?」

 窓の外にゆらゆらと飛ぶフィレーネの姿があった。

 ――なんで伝わったの?偶然?まぁ考えるのはやめよう。


「フィレーネ、足がそろそろ限界」

「あー、忘れてたぁ」

「忘れんなよな、頼むよ」

「あはは、ごめんごめん。ってほんとは覚えてたら来たんだって」

「ホントかなぁ?」

 フィレーネに足を癒してもらったハルトは、床をトントンと鳴らして感触を確かめる。

「大丈夫みたいだ。ありがとう」

「どういたまして、またねぇ」

 フィレーネは、うんしょ、と網戸を開けて窓から外に出ていった。

 相変わらず自由だな。

「今度はちゃんと来てくれよーー」

「わかったぁー」

 窓に外のフィレーネに向かって叫ぶとハルトはノエルの部屋に向かった。


「ノエル、明日は自分のコボルで行くの?」

「うん、もう大丈夫だと思うんだ。名前も決めたし」

「なんてつけたの?」

「モモちゃん!」

 あの子は円形劇場で時間の花を持ってる子なの?

「あれ?フィレーネ?」

 窓の外のフィレーネに気がついたノエルが網戸を開けるとフィレーネが口笛を吹いた。すると森の際、楠の木の枝から飛んで来た一羽の鳩が窓枠に足を掛けた。

「アルフリードが連れてけってさ。手紙がついてるよ。ここで飼って連絡したい時は飛ばしなさい、だって」

「うわー、ありがとう!」

「そんじゃねー」


 ノエルは鳩の足から手紙を外して目を通す。

「アルフリードさん、何だって?」

「カッツェはもう少しかかりそうだって。あと色々報告してって。お買い物の報告とか書かなきゃ」

 ノエルが小さい紙にすごく小さい字で何やら書き出したのでハルトは部屋を出て明日に備えた。



 秋空の下、茶色くなりかけた草原の上、森の境目に顔を向けた沢山のコボル達が並んでいる。普段は羊達を囲っている柵の一部が取り外され、森から出てくる鹿をそこに追い込むのだ。

 ハルトはジュノーの隣の待機位置についた。女性チームは狩られた鹿肉の運搬係で別行動だ。

 この近辺の追い込み担当は職人と農家の男達で、先日サッカルの試合をした農家のせがれのアベルの姿も見える。

「ハル、俺たちは鹿が出てきたら鹿の右側に回って左に追い込む。柵の中に入れたらすぐに戻るぞ。次が出てくる」

「分かった」

 立派な角を携えた鹿が三頭、森から出てきた。

「うわっ結構デカイ。奈良の鹿のイメージだったけど凄い迫力」

 日本の鹿に良くた角を持つ茶色い毛並みと体格はアカシカに近い。巨躯、という程でも無いが日本の鹿をイメージしていたハルトは意表を突かれた。ハルト達を含めた6羽のコボルが3手に別れた。ショコラを先頭にジュノーとハルトはタッグを組んで角を振り回して暴れる一頭に迫り、柵沿いにコボルを駆って鹿を走らせる。ジュノーの槍を振り回す勇ましい姿と大声に恐れをなしたのか逃げ足を早めた牡鹿だったが、柵の入り口に並ぶコボル達に進路を阻まれて柵の中に入った。柵の中で投げ縄を首に掛けられ鹿を男6人掛かりで押さえつけられ、横たわった鹿のつのがノコギリで切り落とされてゆく。

 それを見たハルトに閃くものがあった。

 

「父さん、あの角はどうするの?」

「槍や矢のやじりにするんだ。装飾品の材料にもなるな」

「一つ欲しいんだけど、貰えるかな?」

「今日は大量に出るからな。狩りが終わったら貰いに行ってくるといい」


「今日はお疲れ様でしたー。今年の鹿狩りは無事に終了しましたー」

 係の声が掛かると男達が帰路に着き始めた。

「今日は焼き肉!」

「狩りの一番の楽しみだ。エールが美味いぞ!」

 ハルトは一汗かいた男達の横を、柵の中に集められた鹿の角を整理している男に向けて伊右衛門を走らせた。

「あの、出来るだけ小さいのを一本欲しいんですけど」

「好きなの選んでを持ってきな。一本と言わずもっと持って行ってくれるとありがたい」

 袋に入り切らない角を見てやれやれという顔する男に礼を言い、ハルトは角の二股部分が手の平くらいの角を三本見繕い持ち帰った。


 夕焼けの前庭に肉の焼ける美味しそうな匂いが漂っている。テーブルの上の大きな七輪には新鮮な鹿肉に野菜、とうもろこしが並べられバーキューが始まっていた。ジューノーは既にエールを2杯空けてご機嫌だ。

「お肉大好き!わたし肉食だから!!」

 ノエルの皿がみるみる空になってゆく。


 ハルトは肉を控えめにしておいた。

 楠木家とノーラの家族で山深い民宿に増えすぎて狩られた野生の鹿肉を食べに行った時に眠れなくなったのだ。野山を駆け回った命を頂いた夜は何故か興奮して眠れず、そこら中を跳ね回りたい衝動が続いたのだ。「命を頂くっていうのはこういう事なのね」朝起きた遥斗の母も「これじゃまるで薬よ」と唖然とし、それから楠木家の食卓には自然農法の野菜が増えた。


 食べ終えたハルトは顔を赤らめたジュノーに声をかけた。

「父さん、ちょっと工房使ってもいい?」

「なんだ、仕事熱心だな。いいぞっ、行って来い!」

 ガハハと笑いながら「さすがは俺の息子だ」と絶好調のジュノーを置いてハルトは工房に入る。


 鹿の角を手の平より少し長めに切って布を巻き、二股の間に皮を通した硬めのゴム紐を結んだ。

 パチンコ完成、っと。

 玄関先で小石を拾っての試し撃ちもいい感じだ。

 庭のバーベキューは終わったようで、話し声がする2階のリビングに入ったがノエルの姿が見当たらない。

「ノエルは部屋かな?」

「ノエルは星見台だよ」

 マーガレットがリビングの端にある梯子に顔を向けた。

 梯子を上がって星見台に出ると青い星の煌めきが丸い天井一杯に広がっていた。

「どうしたの?ハル」

「これをノエルに、と思ってさ」

 ハルトは窓を開いてポケットから出した小石をパチンコで撃って見せた。

「凄い!!これわたしにくれるの?」

「武器が欲しいって言ってたろ。これなら持っていく時に嵩張らないし石は何処にでもある」

「ありがとーー!」

 飛びつかれたハルトは押し倒された。

馬乗りになって笑うノーラの顔から笑みが消え、艶めいた瞳が近づいてくる。

ドクン、ハルトの心臓が大きく鳴った。

「ちょっノエル、お前、野生のお肉を食べすぎてないか?」


 ハルトはノーラの背中を優しく叩いた。けれども体が動かない。ハルトの肩を押さ込むノーラの力はハルトの想像を超えていた。


「わたしが本気で押し倒したらハルはわたしから逃げられないんだからね」

 胸が、当たってるって。ノエルけっこう大きいんだから……。それにノーラとそっくりで可愛いな。ノーラよりちょっと幼いけど。

 ゆっくりと顔が近づいてくる。

 うわっ。

 柔らかい唇がハルトの頬に触れた。

「ありがとう、ハル」

 笑い顔を作ってノエルはハルトから離れた。


 ノエルが窓からパチンコを何発か撃つとハルトよりもゴムが伸びて射程も延びている。


「これなら小さい動物の狩りも出来るね。本当にありがとう」

 そう言って腰を下ろしたノエルの横にハルトも座る。

「なぁ、どうして武器が欲しいんだ?何かあったのか?」

 ノエルは俯いた顔を上げてハルトにぽつりぽつりと話し出した。

「わたしのお父さんは魔石の研究をしているの。小さい時はお父さんが宝石細工をしながら旅をしていたんだよ。この村について落ち着いたけど。三年前に赤い貴石の話を聞いたわたし達家族は結界のすぐ近くの遺跡に探しに行った。そこで蟲に襲われたの」

「奥森の蟲って結界で防いでるんだろ?」

「普通、蟲は結界を嫌がって引き返すんだけど、人間や獣人を見た蟲は我を忘れて結界を超えて襲って来るの。蟲は全体的に人里に近づきたいみたいで結界のそばで死ぬ蟲も多いんだよ。その時は死骸かと思ってた蟲が急に起き上がって……2日も暗い洞窟の中に隠れてた。肉食の猿が洞窟に入って来たりもして。その時わたしは震えてる事しか出来なくて……」


 結界があるからって安心は出来ないってそういことなのか。それにあの猿はやばい。怖い思いをしたんだな。ハルトはその時を思い出して震えるノエルの肩を抱いた。


「ハル、わたし沢山練習するね。パチンコもブーメランも。ハルは凄いよ。新しいものをポンポン作っちゃうんだもん」

「前の世界の記憶があるだけだよ」

「でも世の中の役に立つことだよ。わたしは凄く嬉しい」

 ハルトの肩に頭を預けたノエルはパチンコを星空にかざした。


 世の中の役に立つ。

 綾乃への想いと共に、忘れかけていた気持ちがハルトの中に浮かんでいた。




明日も17時に投稿します。

次回、ハルトは前の世界の知識をこの世界に役立てようとします。

「マナ食い虫と依頼」です。

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