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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第2章 ロダ村編
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ノエルの誕生会と友達

「お兄ちゃん、ちょっとちょっと」 

 元の世界だと小学学校5年生くらいのマーガレットに手招きされて妹に部屋に入った。


「あのさ、なんか忘れてない?」

「色々忘れすぎてて、何の事か分かんない」

「しょーがないなぁ。明日ノエルの誕生日だよ」

 

 ノエルって誕生日もノーラと一緒なのか。お祝いしてやんなきゃ。献身的に世話をやいてくれるノエルには感謝してもしたりない。


「お兄ちゃんまだ色々思い出せなくってさ、どういう風にお祝いすればいいと思う?」

「お母さんがご馳走作るから一緒に作ろうよ。私は漫画をプレゼントするからお兄ちゃんは何か作ってあげれば」

「何がいいかな?」

 ハルトはこれまでのノエルと過ごした時間から考えようと頭を捻ったが、なかなかピンと来るものが思い浮かばない。


「ノエル、赤い石が好きだし、なんかそれ風なモノが良いんじゃないかな?」


 マーガレットにそう言われたハルトはジュノーに相談した。


「赤い石は貴石だからそう簡単に手に入れられるモノじゃない。ーーちょっと待ってろ」

 工房で汗をかくジュノーが何やら茶色い半透明な塊を持ってきた。

「これは木の樹脂だ。溶かす時に赤い燐粉りんぷんを表面につければ赤い石みたいに見えるようになる。熱で溶かして何か形を作ってあげればノエルも喜ぶと思うぞ」


 ジュノーに「ここら辺のを使ってみればいい」と言われたハルトは、棚から型の掘られた厚めの木板を取り出してゆく。馬車の装飾に使うブローチより少し大きめの菱形の枠を選んだ。


 とにかくやってみよう。


 見よう見まねで炉の中に樹脂を置いたスコップを入れ、溶けた樹脂を燐粉を塗った型に流す。 それをもう一度炉に入れて馴染ませてから枠ごとおけに沈めると樹脂が固まった。琥珀色の表面に赤い輝きが玉虫色にきらめいた菱形が出来た。


 けっこう綺麗だな。

 ちょっと気泡が入ったけどこれはこれで味だろう。手作り感があっていいくらいだ。


 ハルトは樹脂を型から取り出して、足踏み式の研磨機で一回り小さく削ってから仕上げてゆく。

 目の細かい研磨剤で仕上げて先の方に穴を開け、マリエールに貰った絹糸をった紐を通した。


 翌日は午後から料理を手伝った。

 ハルトは干し茸の出汁に木の根の出しを加え、トメトを煮込んだスープに蒸した芋を擦り潰してマッシュポテトを浮かべた。

 マーガレットは「それいいね」と言いながらマッシュポテトをクッキーのように星型に抜いてノエルの皿に浮かべた。


 いつもより多く灯された蝋燭が輝くテーブルでノエルがついた。

 

 あんなに目をうるうるさせちゃって。可愛いなぁ。


 ノエルはハルトの作ったスープを「ちょっと変わってて凄く美味しい!」と味わいながらマリエールが腕によりをかけて焼いたお肉を頬張る。

 やっぱ肉食なのね。しっぽもあるしそうだよなぁ。


 リンモのデザートが終わると木箱に入れてリボンをかけたプレゼントを渡した。


「うわぁ、綺麗~。ありがとーハルっ!!」

 興奮すると顔をスリスリしてくるも同じだなぁ。髪から花のいい匂いがするよ。


「あらあら、ノエルはハルとお似合いね。お嫁さんに来る? ノエルなら私は大歓迎よ」

「ノエルがお姉ちゃんになったらいいなぁ」


「ちょっ、結婚なんてまだ早いでしょ」

「あら、もうすぐ成人なのよ。成人したら婚約するのは珍しくないでしょ」

 

 

 そういえば父さんと母さんは30過ぎに見えるな。こっちだと結婚が早いのかも。

 ノエルは顔を真っ赤にしながらしっぽが嬉しそうに揺らしている。


「その前に腕を上げろよ。ブロックの名に恥じないようにな」

「もう、お祝いの席で仕事の話しはしないで下さい。あなたはまったく」

 笑い声が上がってノエルを囲んだ夜が更けていった。




 夜の明けた窓から爽やかな風が入ってくる。

 登った瞬間からやる気満々だった朝日も随分と和らいで、涼しさを感じるようになるとノエルのお陰もあってハルトは村での暮らしにも大分慣れていた。

 

 朝起きるとまず牧草地に向かう。羊を放つとトレーニングがてらにショコラと走る。

 鶏小屋で餌をやってヤギの乳を絞りコボル達の世話をしてから朝食。朝食が終わると職人見習いという身分のハルトは仕事場に降りてジュノーの仕事を手伝う。

 大変だけど充実はしてるな。友達も出来たし。元々はハルの友達だけど。

 ベントさんの息子のケビンに弟のカール。それに時々工房に助っ人に来る一つ年上のミックも良い友達になった。

 今日はケビンとカールも午後からこの工房にベントさんの手伝いに来るから楽しみだ。


 仕事始めは炉の火入れから始まる。作業する内容によって使う炭が違うため指示された炭を探してから分量を守って炉に入れて火を点ける。


 ここのところハルトに振られた仕事は馬車の車輪の泥除け、フェンダーの加工だ。

 材料は蟲の外甲殻。

 セラミックのアイロンの底を取り外して炉に入れて熱し、コテのように当てて殻の形を整えるのだ。火入れの時間、出してから加工にかける時間、逐一ニュアンスが変わってゆく。ハルの感覚が有って、ハルト自身も模型を作っていたくらいで不器用では無いのだか一朝一夕に出来るものではない。


「また失敗したのか」

 ジュノーにまたゲンコツを貰った。


「痛ってー。直線は大丈夫なんだけど均等なカーブは難しいよ」

 元の世界だと虐待だなんだと騒がれそうだけど、愛情が籠もってるが分かるし、職人の世界の厳しさを体験してるみたいで嫌いじゃない。それに次は失敗しない!っていう決意も湧いて来るし。

「後5回か6回失敗したらその材料は使えなくなるぞ。最近蟲の殻の値段が上がってるんだ。無駄にするなよ。5回以内で決めろ」


 馬車に使う蟲の殻は奥森の結界を監視する騎士や蟲狩りという命知らずから買い取った専門の商人が運んでくる高価なものらしい。蟲殻は養殖もするが養殖すると蟲はあまり大きくならないみたいだな。慎重にやらないと。でも時間をかけると上手くいかない。

 気を取り直して再挑戦するハルトは再び道具の炉入れからやり直す。汗が落ちる。失敗する。またやり直す。五度目でなんとか納得するものが出来た。

 

 どうだろう?今度は大丈夫そうだけど。


「良し、これなら研磨に入っていいだろう。あと2つだ頑張れ」

「よっしゃああ」

 ハルトは水を飲んでから次に取り掛かろうとするとジュノーが止めた。 

「少し息抜きして来い。中途半端な集中力で仕事をしても無駄だ。それが良い仕事をするコツだ」

 今日はそのまま昼休みに入っていい、そう言われたハルトは茶色い皮のボールを持って外に出た。

 

 コボルの小屋とは逆側の裏庭の家の壁にバスケットゴールが付いている。ハルトはそれにシュートをしたりタイルの外壁にボールを蹴ったりして練習する。それには理由があった。この世界のポピュラーなスポーツ、サッカルはサッカーとバスケットのハイブリッドなのだ。

 ゴールエリアではバスケ、それ以外のフィールドではサッカーで、職人チーム、農家チーム、木こりチームと村でも盛んで試合を見に行ったこともある。


 壁打ちしていると二階のキッチンの窓からノエルが顔を出した。

「休憩?」

「このまま昼にしていいってさ」

「わたしも降りるねぇ」


 降りてきたノエルとサッカーのパス練習やバスケの1オン1をやる。

 さすがは獣人けものびと。運動神経めちゃくちゃいいな。負けそうなんだけど……。


 「そろそろお昼ご飯よぉ」


 マリエールの声にハルトとノーラがリビングに上がるとトメトソースのパスタとフルーツスムージーがテーブルに並んでいた。ジュノーとマーガレットが席に着くとお祈りをしてから待望の昼食だ。

 マリエールにいさめられたばかりのジュノーは食事時に仕事の話しはしない。

 雑談の中にもハルトは何か覚えておいた方が良いことはないか聞き耳を立てながらフォークを回した。


「ご馳走様でした」

 ハルトとノエルは食べ終わるとまた外に出た。


 この世界の昼休みは長くて2時間ある。その分6時まで働くが残業はない。

 これくらいが人間らしくていいよな。ちょーホワイトじゃん。

 ボールを蹴り始めるとケビンとカールが茶色いコボルに乗ってやって来た。


「ミックはまだ来てない?」

「まだだよケビン。先にやってよう」

「オッケー」

 4人になったのでバスケスタイルで2オン2だ。そのうちにミックもやってきてサッカーのパス練習になった。サッカルは5人1チームでこれでチームが組めることになる。

 

 一段落して芝生に座り込むとケビンが、試合の申し込みがあったんだけど、と切り出した。

「農家のせがれチームなんだけどさ、収穫に入ると暫く何も出来ないからどうよ?って言われたんだけど」

「いつなのかな?わたし今度の日曜日はバザールに行かなきゃなんだよね」

 ノエルのコボルがやってくる日だ。

「それじゃ土曜でいいかな?一応運動場予約しとく」

「予約するの?みんな順番守って仲良くやってるから予約ってあんまりしないんじゃなかったっけ?」

 ノエルが不思議そうな顔をした。

「聞いた話しなんだけどスネイルがさ……」


 スネイルは村長のセルドの息子だ。ハルトは一度見ただけだが取り巻きを引き連れて威張り散らしているスネイルを好きにはなれない。

「他のチームがサッカルやってるとこに来て『今から俺が使う、どけっ!』とか言って乗っ取るらしいんだよね。取り巻きと奴隷連れて来て2チーム作って占領するの」

「許せないな」

 ハルトはスポーツで理不尽なことをする奴を二度と許すつもりが無い。

「予約入れとけば大丈夫だと思うんだよね。それよか試合なんだけどさ、今やってる練習隠さない?」

 今やっている練習はハルトが提案したものだ。ハルトが観た試合のサッカーの部分はハルトの目には未熟に映った。バスケが混じっているのもあって、サッカーの部分は基本ゴールエリアまで蹴り飛ばすだけなのだ。

 まぁ、早いことゴールエリアに蹴ってバスケスタイルで点取ろうっていうのは分かるけど、パスを回して相手チームを引きつけておいてロングパスが通ればゴールは容易たやすい。勝てばいいんだよな。

 ハルトが鳥の人に聞いた戦術ということにして提案したら「それはいいアイデアだ」と乗ってきてパス回しの練習をしているのだがケビンはそれを封印しようと言う。

「何でだ?確実に勝てそうだけど」

「春の大会の賞品凄いだろ。今見せちゃったら真似されると思うんだよね」

「あー、納得」

 カールとミックが頷いた。春の大会というのは大人のチームも混ざって行われる大会で優勝賞品が凄いらしい。ケビンはこの作戦なら優勝狙えるって豪語してるし。

 「そういうことならそれで行こう。ゲームを楽しめればそれでいいと思う」

 ハルトも納得して農家のせがれチームとの方針が決まった。


ノーラとノエルの誕生日は同じ日でした。

友達も出来て仕事にサッカルにと勤しむハルト。

次回、事件がおこります。尊厳、です。

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