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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第2章 ロダ村編
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ノエル先生 コボルと教会

またもや長くなったので2話に別けて投稿します。

 ハルトとノエルが工房に入ると、窓が開け放たれた仕事場で皮のエプロンに皮の手袋、ゴーグルをつけたジュノーが炉に長い棒を突っ込んで炉を見入っていた。大人がもう一人、如何にも職人な装いで大きなハンマーを振っている。

 工房の中はハンマーや様々な長さのペンチ、使い方がよく分からない道具が所狭しと壁に掛けられ、作業台や棚に材料の蟲の殻や木板にロープ、ゴム紐、等々が整理されて置かれている。天井付近には大きなロッキの殻が吊り上げられ足場が囲っていた。


 ジュノーは赤く焼けた細長い棒を炉から出すと刀鍛冶が使いそうな長いペンチで直径15センチ程の丸い棒に器用に巻きつけゆく。

 バネだなあれ。素材は何だろう?

 ジュノーが巻きつけ終わった棒を四角い水桶に入れるとジュンと水蒸気が上がった。ジュノーは水蒸気にまみれながらも片時も目を離さずに見つめ続ける。良しっ、と声を上げたジュノーが丸棒を取り出すと巻きつけられたバネには鱗が生えていた。


「あれはメデサっていう蛇だよ。メデサは死ぬと石になるけど蟲の幼虫を食べたメデサは蟲のけんみたく硬くて弾力があるものになるの」

「よく知ってるな」

「前にこの工房で見たからね」

 それにしても暑い。立っているだけで汗が出る。働いてる二人は長袖に手袋、皮のエプロンだ。倒れないといいけど……


「こいつはいい出来だ」


 曇ったゴーグルを外したジュノーが丸棒から外したバネを回して見つめる。

 ハンマーを置いた職人が「またはじまった」と言いながらジュノーに近づいた。


「次はブロックの名に恥じない仕事だ!だろ?」

「もちろんだ。神具を作り上げたご先祖様にも、いにしえの王に下賜かしされた星見のドームにも誇っていい一品だ」

「自画自賛のガンコ職人ここに極まれりだな。お前のご先祖様が権利を開放しなけりゃお前は貴族だったろうに」

「俺はお貴族様より職人の方が性に合ってるさ。何か新しいものを発明したいって気概はあるが、良い仕事をして世の中の役に立つ、これがブロックの家訓だ」

「もう聞き飽きたよ」

 そう言い合いながらも笑みを浮かべる二人は良いコンビのようだ。

 職人さんはベントさんで、同い年の息子がいるんだよな。ケビンは仲の良い友達だ。

 ハルトはハルの記憶を思い出す。

「コイツはいいサスペンションになるぞ」

「お貴族様の馬車に打って付けだな」

「パッカード商会が良い値で引き取ってくれるだろう」


「なぁノエル。ここの人は馬車で移動するのか?」

「馬車なんて持ってるのは貴族だけだよ。普通はコボルに乗るよ、馬は沢山食べるから」

「コボル?」

「走る飛べない鳥。陸オウムのコボルに乗るの」

 あー、あのモヒカンかぁ。確かにあれなら乗れるよな。


「あら、ここに居たのね」

 マリエールが工房に入って来た。

「ハル、ノエルちょっと来て」

 マリエールに続いてリビングに上がった。


「私は仕事に出なきゃいけないから、お買い物をしておいて欲しいの。今日はバザールが立つ日だから」

 マリエールは戸棚の鍵を開け、革袋から銀色のコインを10枚出してハルトに手渡した。コインは思ったより軽かった。そう言えば金属がないんだよな。

 次に引き出しから出されたメモを受け取る。


「これをお願いね。それからマーガレットにも何か必要なものがないか聞いて頂戴。それとマーガレットの隣の部屋をノエルが使うから掃除をしたら夕食の下準備をしておいてと伝えて」

「わかった」

「マリーお母さん行ってらっしゃい」

「そうそう、教会にも行ってらっしゃい。お前の行方が知れなくて相談に行った時に神父さんが心配してらしたから。渡した燐貨りんかの半分はお布施しておいで」

 教会の中の記憶はあるけど道が分からない。ハルトはノエルに目配せをする。

「神父さんに挨拶したいからわたしも行くね。コボルを借りてもいいかな?」

「私のコボルを使って。じゃあ頼んだわよ」

「「行ってらっしゃい」」


 マリエールを見送った二人はハルトの部屋の一つ手前の部屋に向かい「マーちゃん開けるよー」とノエルが声を掛けて扉を開けた。ハルトの部屋は引き戸だが残りの2つの部屋は扉になっている。ハルトは大きい蟲の殻を自分の部屋で磨こうとわざわざ引き戸にしてもらったことを思い出した。

 部屋に入りながらハルトが机の上に本を広げるマーガレットに伝言を伝えると本の表紙を見せた。

「それじゃ、これの今月号買ってきて、もう出てるはずだから」

 本じゃなくて漫画だった。

 別冊ひまわり8月号……。分かるけど、分かるけどぉ。

 マーガレットは引き出しの皮袋から茶色いコインを5枚出してハルトに渡した。

「買ってくるから読んだら貸して」

「いいよ、お兄ちゃんもあの話の続きが気になるんでしょう?むふふー。あっノエルも読む?前の号も全部取ってあるから部屋に運んどくね」

「きゃーありがとう!わたし三年も読んでないから嬉しいなぁ。さすがに森には漫画は届かなかったんだぁ」

「そんじゃノエルが森に引っ越してからのを古いのから順番に運んどくねぇ」


 マーガレットの部屋を出て階段を降り、外に出て家の裏側に回る。木で出来た小屋の扉を開けたノエルが「こっちだよ」と手招きした。

 小屋に入ってまず目に付いたのは御者台の付いた荷車だ。これで行くのかな?と思いながら柵を開けるノエルに続くと4羽のコボルが寄ってくる。一羽はまだ小さい。マーガレットのコボルだろう。

 先端が白いグラデーションの深い緑色のモヒカンを立てたコボルが寄ってくる。

 あの時は暗くて黒いやつだと思ってたけど抹茶色って感じだな。

 腹と首が琥珀色のコボルがハルトに擦り寄り、ハルトは首を掻いてやった。首の周りには白い模様があって如何にもオウムという感じだ。

「この子がハルのコボルだよ。鞍の付け方は分かる?」

「えっ一、人で乗るの?乗れるかな?鞍の付け方も分かんないんだけど……」

「取り敢えずやってみようよ。鞍はこっちだよ」

 荷車の脇の棚から皮の鞍を2つ下ろし、柵の中に運んだノエルが二羽に鞍を乗せてベルトを締めてゆく。コボルは大人しくされるがままにしている。

「まずは乗ってみて。慣れてるから乗るだけなら乗れるよ。私が手綱を引くから」

 ハルトは鞍の足掛けにつま先を掛けてコボルにまたがった。コボルは嬉しそうに体を上下させる。

「外に出すね」

 ノエルは入ったのと反対の方向に手綱を引いて小屋の外に出る。篝火に向かって走った柵の中に出た。乗っていると感覚を思い出す。どうやら体が覚えているようだ。

「ノエル、多分乗れるわ。ちょっと練習してみる」

 ノエルから手綱を受け取ってコボルを歩かせる。手綱を引くと止まった。二度手綱をしならせると走り出した。上下に揺れる視界に興奮しながら右に、次は左に、それから止まれ、出来た。乗れてる。

「ちゃんと乗れるね。流石はハルだよ」

「自分でもびっくりだよ」

 ノエルはハルトが乗るコボルよりも明るいグリーンにブルーの腹と黄色いトサカのコボルに乗った。ノエルと柵の外に出るとショコラが走って近づいてくる。

「ショコラも連れてっていいかな?」

 柵の扉を閉めに降りたハルトはショコラを撫でながら尋ねた。

「羊を追う時間には帰って来れるから連れてって大丈夫たよ」

 二羽と一匹で家の外に出た。



「ハルの練習を兼ねてゆっくり行くね」

 ノエルに続いて羊達の牧草地を抜け、麦畑を超えると小川が見えてくる。水車小屋の向かいの空き地にテントが並んでいた。テントの後ろには荷車が列び、様々な色のコボルが繋がれている。テントの中には台が並んで幾人かが買い物をしているようだ。

「まだ始まったばかりだね。先に教会に行くよ。買い物は後でゆっくりね」


 水車小屋を過ぎると広大な麦畑に挟まれた田舎道になった。穂先が小麦色になり始めた麦の草原が風に波打っている。

「なぁノエル。コボルに名前はついてないのか?」

「ハルはその子をエモーって呼んでたよ。この子はエルー。ジュノーお父さんのはウーノだよ。マーちゃんのはまだ生まれてなかったから知らない」

「エモーかぁ。呼びにくいな」

 エかモに掛かって呼びやすい名前……トサカ、抹茶色。お茶。ピコン。

「このコボルって雄?雌?」

「男の子だよ」

「よし!今日からお前は伊右衛門な」

 グエ 伊右衛門が上下に揺れた。

「変な名前」

「前の世界の緑色のお茶の名前なんだ」

「へえー」


 麦畑の先に石造りの三角屋根に十字架がついた建物が見えてくる。その前の広場には大きな石が立っていた。2つの石の上にまたがるように石が横たわった門構えが六つ、円を描いて広場を囲うようにたたづんでいる。

何かで見たことあるな。何て言うんだっけあれ。

 ハルトはストーンサークルと呼ぶことにした。


「あそこで成人式をやるんだよ。結婚式もあそこの中でするの」

「成人式っていつだっけ?」

「収穫祭が終わってからだからあと二月ふたつきくらいだね」


 教会の前で伊右衛門から降りて木陰になっている繋ぎ場に繋ぐ。ポンプを押して水を桶に汲んで置いてやった。ショコラも水を飲むとコボル達の横に寝そべった。

 二人が教会の中に入ると教会の中には誰もおらず、教会の中の記憶があるハルトは右側の壁の扉を開けて廊下を歩く。一番奥の扉まで歩くとノックをした。


「どうぞ」


 中から神父の声が聞こえ、ハルトは扉を開いて「失礼します」と断りながら入る。

 部屋中では柔和な顔をしたロンマンスグレーの神父が執務をしていた。


「ハル、帰ってきたんだね。良かった」


 丸眼鏡を掛け直してハルトを見た神父は立ち上がってハルトに近づいた。


「ご心配をおかけしました。無事に戻りました」

「無事で良かった。ご両親が心配していたよ」

 ハルトは両親に説明したように神父に経緯を告げる。

「それでノエルも一緒なんだね。ノエルはまたこの村に住むのかい?」

「暫くはブロックさんのお宅にお世話になります。ロダ村に住みたいなぁって思ってますよ」

 てへっとノエルは笑いながら神父に告げた。

「ノエルの成人式を楽しみにしているよ。もちろんハルの成人式も」

「その時はよろしくお願いします」


「二人に神の祝福を」


 ハルトがお布施を渡し、二人は挨拶を済ませると教会を出て元来た道を戻った。



物の名前やコボルの乗り方をハルトに教えるノエル。

次は、ノエル先生 お買い物編、です。

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