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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第2章 ロダ村編
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守りの森とノエル

長くなったので2話に分けました。2話投稿します。

 教会に着くと片膝を立ててひざまずく人達に迎えられた。通路の両側に右手を胸に当てこうべを垂れる楽師とその後ろに鎧の騎士が並んでいる。

 そういえばアルフリードさんがここの森を治めてるって言ってたな。

 遥斗はビエラから降りてアルフリードとカッツェに続き、出迎えの列を抜けて教会の外に出た。こずえからのぞく空が赤く染まっている。夕暮れ時に根城に戻った小鳥たちの声が響き、フェリーナも色とりどりの鳥たちの集う森の中に消えていった。


「あー緊張した」

 カッツェが表情を緩めて背伸びをした。

「カッツェさんでも緊張したんですね」

「当たり前だ。天使様の館に立ち入ったなんてこの森の住人でも数えるくらいだ。人間族で入ったことがあるのはグランノルン王と大司教様くらいじゃないかな。俺とお前は大変な経験したんだよ。ハルト」

 カッツェは羽耳をピクピクと動かしながらニカッっと笑う。

 こっちで目が覚めてからトンデモナイことばっかでそんなに珍しいことじゃないのかと思ってた。

「そう言われてみれば天界にお招きなんてことが普通なはずないですよね」

「ハルト、其方はこの世界の常識を知る必要がある。だがそろそろ体力が限界であろう。癒しを行った部屋に食事を運ばせる。カッツェを就けるから安心して休むと良い」

「カッツェ、ハルトの警護に就け。それとハルトの話し相手になってやるように。食事はジルとノエルに運ばせよう」

「はっ」


 ハルトとカッツェが部屋に入りると窓ガラスから赤い明かりが差し込んでいた。

「ゆっくりしてて良いぞ。俺は警護の任もあるから立ってるけど気を使わなくて良い。食事もそのうち届くだろうし」

 ハルトはテーブルに用意されているガラスの水差しからコップに水を注いで飲み干すと椅子に座った。

「あの、この森は『守りの森』て言われてましたけど」

「この森は天使様へ通づる扉を守る森だ。蟲や悪意ある人間族や他種族から扉を守るのが我々の役目だ。まっ、そんなことはめったにないんだけどな」

「カッツェさんやアルフリードさんは人間ではないんですか?」

「正式には翼人族ということになる、人間族には鳥の人と呼ばれてるけど。けど俺は羽があるのとこの耳ぐらいで人間とそう変わらんよ、天界以外では飛べないし。アルフリード様のような高位な翼人になるとまた少し違うけど」

「他にも種族がいるんですよね?あの狼様喋ってたし」

「ラフィー様は獣族けものぞくの若き王で神界では天使様と同じ地位になるそうだ。我々は天使様と呼ぶが主神様に仕えるノルンという階位になるな。獣族は普通の獣と違って知恵と言葉を持ってる。人の姿にもなるぞ。獣族とは別に獣人けものびと族がいる。人間は人間界で、それ以外の種族は大体森で暮らしてる。数は人間族が圧倒的に多い」

「まだまだ知らなければいけないことが沢山ありそうですね。時間がかかりそうだ」

「天使様がアルフリード様に渡していたものがあったろ?あれでこっちのハルの記憶と繋がれば色々分かるんじゃないかな。詳しくは俺にはわからんけど。ハロルド様が儀式をなさってくれると思うよ。ハロルド様はこの森の前のおさで優秀な呪術じゅじゅつ師だから任せるといい」

 

 コンコン、とノックが鳴って生成きなりのローブの男が入ってきた。教会の扉の前で何かを書いていた男だ。パンとスープに水差しが乗った木のトレーを持っている。

「私はジルだがロダ村に居たことがあるのを覚えているか?」

 ジルは遥斗に訪ねながら入って来た。

「残念ながら記憶がなくて。別人だと思って貰った方がいいと思います」

「やはりそうなのか。それはノエルも残念がるだろう」

 ジルの後ろに隠れていた女の子が顔を出した。ピンクの髪に人懐っこそうな大きな桃色の瞳。ふくよかな体のライン。

 ノーラにそっくりだ。

 けれど大きな違いがあった。白にピンクのしま模様のペルシャ猫のような尻尾がふわふわと動いている。

 ノエルは両手に本とその上にゲーム板のような板、白と黒の駒が入った箱を2つ持っていた。

「ハルはもうわたし達のことを覚えてないの?もう物語を聞かせてくれたり、一緒にゲームをしたりしてくれないの?」

 ノエルは目に涙を浮かべていた。

「天使様がハルトとハルの記憶を繋げるものをアルフリード様に渡してくれた。ハロルド様が何とかしてくれるさ」

「ほんと!?」

 くるくると表情が変わるノエルに遙斗は益々ノーラに似てるな、と思う。


「まぁ食べながら話せば?着替えついでにもう一つ椅子を持ってきてやるよ」

 カッツェが出てゆくとジルは食事をテーブルに置いた。ジルが椅子に座りノエルはベッドに腰掛けた。食べながらポツリポツリと遥斗とジルの会話が進む。


「私たちは昔ロダの村で暮らしていたんだ。両親がジュノーさんの一家の仕事を手伝っていたから近くに住んでた。ノエルは入り浸ってよくマリーさんに可愛がって貰ってたよ」

「俺にも似たような幼なじみがいたから元の世界とこの世界がそんなに違わないんじゃないか?と思うようになってきたよ」

「ほんと!? じゃぁ後でチェルトしよっ」

 チェスのような駒を手に取って振るノエル。

「ごめんな、ノエル。チェルトっていうのがどんなゲームなの分からないんだ」

「そうなんだね……」

「そう言えば物語を聞かせたって言ってたよね。どんな本をハルはノエルに読んだの?」

「王様キリギリスのお話しとか蟻の門番が騎士になってお姫さまを助ける話とかだよ。それとコオロギのバイオリン弾きが白鳥に乗って旅をする話も。他にも沢山話してくれたよ」

 虫に関わる話しが多いな。元の世界でも多かったけど偶然とも思えないな。

 

 ノエルに本を持って来て貰った。

 英語?じゃないな、似てるけど。単語単位だと英語だよなって思うのもあるけどギリシャ文字?ロシア語?みたいなのや象形文字っぽいのも混じってて読めないわ。


「ジルさん、大きい蟲って沢山いるのかな?俺が見た蟲は蝉みたいな奴だったけどそれ以外にもいるの?」

「それは俺から話そう」

 椅子を持って入ってきたカッツェの肩にはフィレーネが乗っている。ノエルが椅子に座るとカッツェが話しを引き継いだ。

「人や獣人けものびとの居るこの辺の森にはロッキしかいない。ロッキは顔が平たくて羽が長いから蝉に見えるけど獣の血を吸うあぶに近い。怒らせない限り人を襲わないけど結界を超えた奥森には凶悪なのが沢山いるぞ。無防備に人が立ち入れる所じゃない。たまに結界を超えて来たヤバイ奴が森を荒らすことがあって、その蟲どもからこの森を守るのが俺たちの仕事だ」

「でも最初に目覚めた家では襲ってきましたけど」

「あーあれはねぇ、あれはロッキだけどロッキじゃないよ」

「フィレーネ、もうちょっと分かりやすくプリーズ」

「あの家にあったのはロッキの抜け殻。何で動いたのかは分かんないけどロキアの気配がしたから神様の悪戯なんじゃない?ロキアっていうのは神様の名前ね」

「フィレーネ、それアルフリード様に報告しとけよ」

「わかった」

 よく分かんないけど今は追求するのはよしとこう。余計混乱する。

 後はと、そうだ、これは聞いておかねば


「あの、――蟲って世界を浄化してたりしませんよね?」


「ん? 何のことだか解らんがそんな事は聞いた事が無いな」

 良かったぁ。青き衣の人がいる世界なら自分の愚かしさに凹むとこだったよ。


「蟲は蟲だ。危険な存在だがこの世界の暮らしに無くてはならないもんだよ。ほれ、これも蟲の殻で出来てる」

 カッツェが鞘から抜いて差し出した剣は明るいところで見るとガラスのように薄っすら透けていた。

「鉄、じゃないんですね」

「鉄?なんだそりゃ?ここじゃ硬いものは大体、蟲の殻か石か焼き物かのどれかだな」

 素材からして違うらしい。う~む……。素材に興味あったから蟲の殻はちょっと気になるな。ん?ってことは

「電気も無いって事ですか?」

 照明器具はランプと蝋燭しか見ていない。

「電気?」

「物を光らせたり動かしたりするエネルギーみたいなものです」

「マナで物は動くことは動くけど……」

「エレベーター、昇降機は何の力で動いてるんですか?」

「ああ、あれは地下水脈の水車の力で動いてるんだ。昇る、とか降りる、の指示はマナで送ってるけど」

 どうやら電気も無いらしい。

 遥斗がマナについて尋ねると「マナは何をどう動かすかによって使い方が変わってくる。簡単には説明出来ないから、追々(追々)話すよ」と話しが止まってしまった。 

 

 食事が終わってしばらくするとジルが食器を下げて部屋を出た。カッツェも俺は扉の外にいるな、と一緒に出て行った。

 遥斗はノエルと二人になった。

「あのね、ハル。アルフリード様が話しておきなさいって言ってたから話すね」

「うん」

 もじもじする癖まで一緒のノエルに、いつの間にかノーラと話している気分になっていた。

「私、変な夢を見たの。変なものが沢山ある四角い大きな部屋に真っ白なシャツに黒いズボンのハルがいて、私がこんなちっちゃな蝉に驚いてる夢」

 ノエルは親指と人差し指で元の世界の蝉くらいの大きさを示す。

「そしたらね。緑色の模様が光って魔法陣が広がったの」

 あの時のことだ!

「それでどうなった!?」

「綺麗だな~って思ったところで終わっちゃたんだけどその子の気持ちが直接流れ込んで来て……」

「その子はノーラって言うんだ。ノーラはどう思ってた?」

「ごめんね、それは言えないの。アルフリード様が言っちゃダメだって。キンソクジコー?にするって。それとね、ハルトに気を落とさないように伝えてって、アルフリード様は言ってた」

 ノーラのことが気になる。でもやっぱりその後の事は知りようがない。ノエルにノーラの魂が転移しなかったってことは集団転移じゃなかったことだ。一人なのか……けど、ノエルと表情の乏しいアルフリードさんが気遣ってくれてるのが分かって温かいものが胸に湧いてくる。

 この世界でやってくしかないんだ。


「ありがとうな、ノエル。また一緒に遊べるといいな」

「うん!じゃぁ今日はゆっくり休んでね。また明日来るね」

 ノエルは短い蝋燭に火を付けてから部屋を出て行った。

「ノエルには癒やされたな」


 蝋燭が消えると暗がりに眠気を誘われて遥斗は深い眠りについていた。


守りの森にはノーラの夢を見たノエルがいました。集団転移ではなかった事が判明。

次は。ハルベルトの記憶、です。


ノエルが出て来たのでサブタイトルとあらすじを変更しました。

ジャンルは悩んだのですが文芸・ヒューマンドラマにしました。


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