厄災
予約投稿にミスがありました。昨日投稿できていませんでした。すいませんm(_ _)m
先行したエレオノーラ小隊は、赤い飛龍が座する時計塔に飛んだ。イーシャ軍上陸地点から一番近い時計塔だ。到着したときには夜の帳が降りていた。
アバターシュ・イリスを乗せたサポート機、ハロルドが操縦する白いサジウスの補助席から空中に飛んだ幼女が金狼の姿になる。ラフィーが時計台の頂上で翼をたたみ佇む飛龍と挨拶を交わすと次に話しを始めたのはノーラだ。
「今年も来たのだね」
ノーラは神殿に入る許可を願い、世界の終わりが来るならば止めたいと伝えた。
「うむ。私は決してここから離れないし、仲間が手伝うことこともできないが、頼もう」
「ありがとうございます。それと、」
イーシャの軍が今年も来ることを告げると、飛龍は人型が上陸していることも把握していた。ノーラは武力が格段に上がったイーシャの飛甲機や人型がワイバーンを狩るだろうと伝えて相談に出た。
「なるほど、協力して戦おうというのだな……良かろう。ワイバーンにそう伝えよう」
飛龍は共闘を受け入れ、ひとつ大きな役目を果たしたノーラはそのまま飛んで神殿を目指す。
神殿探索隊は三機のアバターシュとサポート機で編成されている。騎士団総長の妹であり、第三王女が乗るアバターシュ・イリスは元々キザイアが乗るために作られた機体だ。グランノルンの威信を象徴する機体は女性らしいフォルムと金細工の装飾が美しい。大きめの指揮官機ブレードにシャンパンゴールドの機体に追随するカスタム型と量産型の機体色は白い。右肩が同一部隊を示すピンク色に塗られ統一感を生んでいる。
警護隊長を担う士官は「どんな事があっても搭乗者の命と共に守り抜け」総長直々に命を受けたアバターシュ・イリスを見つめる。アントナーラ領辺境での遺跡防衛戦において前人未到の領域での戦いを彼の眼前で繰り広げたフォルマージュをスペックダウンしてまで戦力を整えたアバターシュ。そのフラッグシップに位置する機体を軍属でない実妹エレーノーラに割り振ったことを揶揄し、酷評して総長の正気を疑う声も暗にあると聞く。護衛部隊長としてエレオノーラ小隊に配属された際にはごく親しい間柄の友人に「本土防衛戦では中隊指揮を取り、尚且人型撃墜3という功績を上げたお前が乗った方が活きる機体」とまで言われたものだ。
しかし彼にはこの部隊が近衛だとの認識はない。
職務に対し至極忠実、己の命を捨てる覚悟も辞さない総長の決断が親族の保身に向けてのものではないことは友人にも伝えてある。普段は命令を公に発する際にはもちろんのこと、指揮官クラスに直接指示を出す時にも激励するがごとく荒々しく厳しい口調で命令を下すキザイアが、厳粛に、怜悧な口調で「命を賭して守り抜け、それが使命だ」と静かに言ったのだ。歴戦を掻い潜ってきた自負を超えて冷たいものが背筋を走った。僚機のパイロットも本来なら小隊長を任されていい技量の持ち主。自身のアバターシュはカスタムとはいえ幾通りかあるパターンのうちのひとつでしかない。しかしそれを気に留めることなく右肩が桜色に塗られた白き機体に誇り持って重要任務に臨んでいた。
神殿にたどり着いたエレオノーラ小隊は一度高度を下げた。方位を確認し、黒い壁の手前を垂直に上昇する。
獣神、転移者、翼人と獣人、人と種別を表す魔法陣の光を浴びてから一旦離れた。
円柱状の神殿外周を西回りに移動して森の中に機体を隠す。神殿の地上あたる円筒形の屋上には機体を隠すものが何もない。神殿に人が入っていることを伏せるためにアバターシュ・イリスを降ろした白いサジウスで上がるのはノーラ、ノエル、ハロルドの三人。本や食料と水の運搬に付添うサジウスのパイロット二名が量産型のサジウスで上がって行った。白いサジウスを神殿に残して彼らは戻ってくる。二機のアバターシュはイリスと残る機体を隠す作業と警護に就いた。
ノーラ達を乗せたパールホワイトのサジウスがビルにして十階分ほどの黒曜石の壁に沿って上昇する。魔法陣の光を浴びているので神殿区域内に入ることは出来る。だが中心に近づくほど飛甲機やアバターシュは機能しなくなる。外壁付近で白い大理の床と保護色になっているサジウスから降りて中心までの半分を歩くと、ラフィーが人には見えない侵入防止結界の前に立ち、人と獣人で異なる入り口の位置を示した。そこで三人と別れたラフィーは術式が発動している神殿の床を金髪幼女の姿のまま歩いて戻る。ひし形の貴石が埋め込まれた外壁付近の菩提樹の木に登って壁を越えて外に飛んだ。
空中で金狼の姿となったラフィーは森の中に配置された貴石保護のために白狼との合流地点に向かった。
夜が明けた海岸付近の森の上空ではイーシャの飛甲機群がワイバーンの集団に向かって編隊を進めている。周囲にグランノルン連邦軍の機影は見えない。
ワイバーンは敵の上陸地点よりも東側、ひりゅうと逆側に陣取っている。ガトリングを装着したイーシャ軍にとって今年は狩り放題の気分だろう。
勇んだ飛甲機群がワイバーンの群れに接近する。突如として地上から火線が走った。高射砲の集中砲火を浴びて九機の戦闘機が墜ちてゆく。それを合図に灌木に身を隠していたグランノルン航空隊が離陸し、さらに黒い大きな鳥の集団も上がってゆく。想定外の事態に空が混乱した。
森が開けた視界の良い湿地帯に高射砲装備の戦車が隊列を組んでいる。ワイバーンの集団に紛れこんでいる観測機からの報告でしっかりと狙いを定めることができた。湿地に敵の機銃掃射が走る。戦車隊は一旦巨大な灌木群に身を隠した。
「補給を終えたら移動を開始するのです」
珠絵の指揮に弾薬運搬専用の個体が補給物資を配ってまわる。
あまり堕とせませんでしたね……悔しそうな珠絵をよそに隊員たちは感服している。
「しかし隊長とパンサーのコンビネーションは見事だな。一切余計な動作がない」
「パンサーは隊長しか乗せん。隊長も『使い慣れてるのがいい』とあの個体にしか乗らないしな」
言った男は顔の泥と脂汗をぬぐう。迷彩服は汗でびっしょりだ。
自然、と聞けば心地良いものとイメージしがちだが実際は厳しく不快なことの方が多い。その上沼地を越えての夜通しの行軍、湿った熱気、蚊の襲来などが重なりおちおち寝てなどいられなかった。身を潜めた鬱蒼としたジャングルには湿気と硝煙の臭いが漂っている。通信を受けた珠絵がインカムで答える。
「了解です、綾乃っち。次のポイントに移動します」
見上げた灌木の枝の間に一瞬、巫女服に似たカラーリングのアーヤノルン改の姿が見えた。
「私もただ撃ちたいだけじゃないのです」
ひとりごちた珠絵は高射機関砲装備のパンサーに搭乗している。戦況を有利もっていくことに専念しているのだ。大型砲が搭載された戦車らしい個体は主に海岸沿い配置して一部は内陸部に進軍を開始している。
上空が乱戦になってしまえば高射砲の出番はない。しかし綾乃からの連絡でワイバーンとの共闘作戦に次があることが分かった。戦闘機は双方弾薬補給に戻る。ワイバーン、戦車隊とも場所を変え、再度待ち伏せするのだ。
「隊長、補給完了しました」
「では移動開始なのです」
「隊長、いつもあれ、言ってくださいよ」
珠絵は渋々と、敢えて低い声を出した。
「次回も私と地獄につきあってもらう。行くぞ」
有生多脚戦車隊が森の中に消えた。
上空では《ひりゅう》所属のアバターシュ隊が空中で隊列を組んでいる。敵アバターシュが接近してくる。ワイバーンの集団を後ろにして戦端が開かれた。双方から火線が伸びる。
戦闘が始まってしばらくして敵パイロットが首をかしげた。
「当たったはずだ。なぜ爆炎があがらん」
ハルトは物質化して現出させたオーディーン改二の盾を構え、敢えて前に出て挑発する。カッツェとの絶妙のコンビネーションで敵を煽る。細かい振動を受けるだけ機体は捨て置いて別の機体へ。盾に強い衝撃。
フルアーマーか。
火薬式機関砲を装備している機体を割り出しているのだ。カスタムタイプのアバターシュは全て同じ挙動を取り、観測機に続々と報告を上げてゆく。
不発弾かと思った敵が乱射を繰り返し、上空から予備弾倉が投下された。守り鴉がパラシュートで減速した物資に火薬無効化物質を射出して浴びせる。その行動がフルアーマーの補給物資に集中してゆく。
同じ状況が航空機戦でも起こっていた。火薬無効化コーティングは生きている個体を用いる戦車隊を除いた全ての機体に施されている。余裕が生まれた守り鴉はワイバーンへの攻撃無効化を狙って敵航空機の機銃へのピンポイント射出を試み始めた。
アバターシュ隊は接近戦の斬り合いになっている。
盾を消したオーディーン改二の腕には巨大な鎌が握られ豪快な動きを見せていた。マティスが残した大鎌がフルアーマーの腹を割いた。
「やるじゃん」
コクピットの中の妖精が「次が来るよ」と言うの同時、通信回線が開いた。アーヤノルンからだ。
「ハルトくん、本隊の到着よ」
続いて黒いカスタムアバータシュから通信が入った。
「待たせたな」
マサルのオーレイ改に続いて、焚哉のインドラ、アバターシュ・アントナーラの改良型が新型の量産機を引き連れて姿を現した。
海岸の入り江、光石の鉱脈に照らされた洞窟の中ではひりゅう戦闘ブリッジでアリシアが通信を聞きながら黙々と手を動かしている。敵戦力の分析を終えたアリシアは報告資料をキザイアに届けに立つ。
「火薬式は約四割か。思ったより多いが対応しきれない数じゃない。しかし仕事が早いなアリシアは」
「商人の娘ですから」
「平時に戻ったら有能な人材を平民から登用する道を開かねばならんな」
ありがとうございます。軽く敬礼をして戻るアリシアの耳に通信兵の大声が届いた。
「時計塔方面に別動隊、龍翼がいます! 同区域に展開する観測機からの通信が途絶えました」
「第一、第二小隊、グレース小隊を向かわせろ。インドラも小隊から分離させて向かわせろ」
緊迫したキザイアの声にアリシアは胸のペンダントを握った。
海岸と時計塔の間、巨木が茂る森の中に金狼と白狼に姿があった。ノエルが予想した通り、時計塔より外側でも神殿の中心から東西南北とそれを二分割した八本の直線上に貴石があることが判明していた。獣神達が言うには、土を被り、苔に覆われていたり、木の根の中に抱かれているが確かにマナを蓄えた石があると言う。
「術式とは繊細なものだ。どれかひとつが欠けても全体に影響を及ぼす可能性がある」
ラフィーは森の神獣達に貴石を守るように伝えた。大鹿、キツネ神、白蛇、不死鳥に白い巨猿など、様々な神獣が森の貴石に向かって散った。
気配を感じたラフィーが上空を見上げる。ヘビトンボを追う赤備えのアバターシュが見えた。焚哉が乗るインドラだ。
ラフィーは白狼を連れて統計塔に向かった。
「タクヤルより本部。ヘビトンボは火薬式。伝達を願う」
キラナ本山戦で嫌というほどヘビトンボ型の大型航空機と対峙した焚哉は射速が段違いなのを見て報告を入れた。ヘビトンボ型は二門の砲を備えている。もう一発撃たせようとした焚哉に、騎乗しているフルアーマーの人型から火線が伸びる。インドラは距離を詰められず、そのまま牽制し合いながら時計塔に飛んだ。
アバターシュ隊チャンネルにも流れた通信にハルトは盾を出した。
装弾数1の大口径砲塔ならおそらく全機火薬式だろうな。
時計塔周辺のヘビトンボ型の高度は高い。しかし時計塔の頂上に陣取る飛龍の体からは爆煙が上がっている。
動きの早いライトアーマー四機が取り付いて絶え間なく弾丸を打ち込む。ブレスを吐いて反撃する飛龍の目は既にうつろだ。バイオ弾の神経毒に侵されている。中距離からフルアーマーが実弾を打ち込み、ヘビトンボ型が降りてくると赤く固い皮膚に黒煙を上げさせる。ワイバーンを飛甲機に釣り出され孤軍奮闘、いや、いいように蹂躙されている飛龍の姿がそこにあった。
「飛龍さん。そこから離れて」
懇願にも似たハルトの叫びに飛龍は返す。
「我々はここを動かん。それが使命だ。人が我々を倒す存在になったのならば従うよりない。できるだけ多くを道連れにしてはやるが」
飛龍の喉元が光り、大きなブレスを吐いた。何機かの敵飛甲機が煙を上げて墜ちてゆく。
サジウスから空中に落とされた冷却ライフルを量産型が受け取って炎上する森に冷気を放つ。
「ハルト、すまんが先にゆくぞ。西側から侵入された。背中に大量の兵を乗せたトビムカデ型じゃ」
ラフィーが白狼と共に時計塔の西側の壁を越えていった。
飛龍の後方。壁の下から姿をあらわした機体があった。かつては若い飛龍だった翼を持つ機体がゆっくりと高度を上げてくる。胸には二つの赤い星のマーク。正面のフルアーマーに気を取られている飛龍の首元に取り付いたランベルジュが赤く光る。ハルトが撃ったガトリングは赤と黒の人型をかすめ、飛龍の首が落ちた。そのまま神殿方面に飛ぶ龍翼を追う。飛行ユニットの発熱が空気を曲げる。
時計塔の壁から神殿はそう遠くない。全速力なら10分程度だ。
時計塔内部も広大な森になっている。放射状に河が流れ豊かな生態系が息づいている。中心にある円柱形の神殿、直径約八キロを除いたドーナツ型の森はこの世界の人の地を縮小したものにも思える。果てなき泉と本土沿岸の境はきれいな円ではないが、この世界の外周である蟲が住まう奥森と人の地を分ける結界ラインはおおむね正円なのだ。
世界の中心、セントラルと呼ばれる島の中心付近。最重要区域での戦闘が始まった。
敵航空機も侵入し、神殿を巡る空域が決戦場となった。
神殿の外円にほど近い森に身をひそめるエレオーノーラ小隊にも状況を伝える通信が入っている。ノーラ達を神殿の上部に上げた白いサジウスが駐機場所に戻って来ている。ただひとり戻っていたハロルドはそのまま待機となって神殿に戻れなくなった。アカシックレコードで新たな文字群を発見し、駐機場に置いていった古文書が必要になって取りに来ていたのだ。ノーラとノエル。よく似た二人の女の子が神殿の地下に取り残された。しかし魔法陣を光らせなければ飛甲機やアバターシュは神殿には入れない。魔法陣を光らせる行為は第一の結界に入る鍵であると同時に、第二の結界の種族判別を兼ねている。
エレオノーラ小隊警護隊長は量産型を残して偵察に出た。周囲に白樺の林が多いのもこの森を駐機場所に選ん理由のひとつだ。白い機体が白木の林を飛ぶ。
距離がある区域の上空で虫のように航空隊が乱舞している。そのうちの幾つかはアバターシュだろう。劣勢を伝える通信や撤退命令は出ていない。エレオノーラの警護という重要任務を遂行する為に、戦友達の無事を願いながら駐機場の森に戻った士官はいつでも発進できる体制のまま待機を続けた。
龍翼のアバターシュ、ズオゥザを追うハルト達からそう遠くない位置にトビムカデ型から降下した兵士達がパラシュートが開いた。湖がある草原地帯の上空だ
蒼い奴と赤星の人型が三度相まみえる。ハルトは試しに赤星のパイロットと交信したチャンネルにコンタクトを入れてみた。オンラインサインが灯った。
「人を降ろしてどうする? 無意味だ」
「我が国の人間がこの地に入植すればここは我が国だ。水と食料はある」
神殿に辿り着くと同時、ハルトは虹色の火線を繰り出す。神殿の外周で乱戦になった。航空機とアバターシュ、それに守り鴉が入り乱れる。マンツーマンに2対1、ツーマンセルの編隊維持もクソもない。右肩が黄色い量産型はアントナーラに所属する機体だ。健闘している。しかし味方のアバターシュも確実に堕ちている。急造の機体がマナを暴走させ爆発四散し煙を上げた。マサルの隊の機体だった。
通信も混乱を極めている。連邦軍第三陣の展開開始。地上軍と戦車隊の時計塔内部へ移送完了。第二の龍翼の出現。
アバターシュ・アントナーラが戦闘状態のまま到着。ワイバーン共闘区域での第二の龍翼確認報告と入れ違いだった。
アーヤノルン改はフォルマージュの機能により神気を使わずとも弓矢を出せる。敵アバターシュを光の矢が貫く。
龍翼と対峙するハルトは両手で握る大鎌に意思を送る。「出来るって信じて」フィレーネがささやく。マティスの鎌が巨大な戦斧に変化した。
マティスが残した「自分の名前に誇りを持て」という言葉。神の武器ミョルニルを打ったブロックの姓を受け継ぐハルベルトの名は戦斧ハルバートを意味する。「できたじゃん」コクピットで妖精が微笑んだ。
「うおおお」
菩提樹の木を蹴って龍翼に斬りかかった。ライトアーマーから狙撃されるが気にしない。
ズオゥザの左腕に装着された小型の盾がハルバートを受ける。ハルトは強引に震える敵の腕を押し込んだ。
龍翼の腰から近接用砲弾が炸裂。オーディーンの後翅から煙が上がる砕けたアームガードを捨てたズオゥザが退避した。
オーディーンのダメージは大したことない。
再び追った。
戦闘が長引くにつれて敵の航空機が神殿内部に侵入するようになった。偶然魔方陣を光らせた機体が情報を共有したらしい。こうなれば敵機が神殿に上がり込むのは時間の問題だ。しかしまだ神殿上部での機能低下と第二の結界が残っている。
戦い方次第ではこのまま行ける。
ハルトは神殿内に入る。しかし予想に反して神殿の敷地内でもアバターシュの動きが軽い。
何でだ?
本部に神殿全体の戦況を訊いた。『神殿の床や壁に埋め込まれた貴石も掘り出そうとしているとの報告有り』敷地内に侵入した敵が飛甲機を降りて外壁の貴石を砕いて持ち去ろうとしてた。このままではルドラの封印が解けてしまう。
それを知ったキザイア小隊がフォルマージュと共に出撃したとの通信が入った。
ハルトは敵を叩くよりも神殿を守ることを優先するように指示出しを願おうとした。しかし敵機にかまっているうちに同じ内容の指令を受けることになった。
ライトアーマーを堕としたハルトはアカシック・レコードに向かう龍翼を追う。人には見えない第二の結界に立ち往生する龍翼に突貫。結界とオーディーンの盾で挟んだ。苦し紛れに剣をオルテガ模様の貴石に突き立てるズオゥザ。
床の貴石が割れた。
よろけたズオゥザが結界の中に入る。龍翼が開く。剣と斧の打ち合いがアカシックレコード近づいていく。
やばい、中にはノーラ達が。
ハルトは黒い円形の中に赤い三角形がある床を背にした。剣と斧を交えて守る。黒い龍翼の向こうに何かが見えた。白いサジウスが突っんで来る。
誰だっ?
鳥肌が立った。サジウスは速度を殺すこと無く突貫し、頭部の角を龍翼の背中に差し込んだまま動かない。背中に刺さったサジウスを抜いて機体を叩き落としたズオゥザが飛ぶ。残骸となった白いサジウスの横には流血したハロルドが横たわっているのが見えた。
憤怒、戦慄、怨嗟、追憶、全ての感情をアドレナリンが掻き消す。龍翼のボディを蹴り飛ばした。
傷ついた龍翼が神殿の中心、赤い三角形に降り立った。
側面同高度から火線。龍翼が被弾。今度はカッツェのサジウスだ。カッツェは機体を捨てて空中に飛んだ。
ハルトは全出力を開放。ズオゥザに激突した乗りなれたサジウスの逆側からハルバートを振るって惨撃を叩き込む。龍翼の体が上下に割れた。
赤い三角形の上に散ったズオゥザから人の血に似た液体が流れ出る。
その時、三角錐が地面から浮いた。
緩慢な動きながらも巨大な質量は動きを止めない。
赤い貴石の三角錐、アガルタがルドラの指輪を従えて空中に浮いてゆく。
それを背中にしてハルトは白いサジウスの残骸にアバターシュを飛ばす。コックピットハッチを開ききる前にフィレーネが飛び出した。
先に降りていたウルデが横たわるハロルドの頭に手をまわしている。
守り鴉も降りてきた。首元が青い黒い鳥はアルフリードのビエラだ。
頭から血を流すハロルドにアルフリードが駆け寄る。弱々しい声が老人の震える喉元から絞り出された。
「どれだけ、生きるのかさえ、分からんお前を、この世に生んでしもうた。愚かなわし、を許し、てほしい」
腹にサジウスのパーツが刺さったままの老人に手を翳し、光を放ち続けるフィレーネがハルトを見て目を瞑り、顔を横に振った。
「父上……もうそのことは折り合いがついています」
青い翼をした老人と、青い髪の男が見つめ合う。ハロルドの濡れた黒い瞳がハルトを向いた。
「坊主、後は頼んだぞ」
「ハロルドっ!!」
最後にウルデに笑いかけてハロルドは瞼を閉じた。
巨大な貴石、赤い三角錐アガルタの浮上に戦場の誰しもが目を奪われていた。一機のフルアーマーが近づいて剣を振るおうとした瞬間、機体が燃えた。
「何だだあれは?」
「空にもう一つ出てきたぞ」
誰ともない会話だ。しかし誰しもがそう思っていた。
アガルタの上空。頂点を上にした黒い三角形を見せつけるようにもうひとつの三角錐が高度を下げてくる。底面には金色に輝くひとつ目の刻印がはっきりと見て取れる。まだ青さを残す空の下で近づいてゆうく二つの物体。
「あれがパンゲアだ」
焚哉は古宮島の稲穂に直通ラインを開いた。二つ巨大な物体が面を合わせようとしている。三角形の頂点のひとつが古宮島に向いているのを付け加えて通信を閉じた。
戦いが止まった神殿の上空、お互いを引き寄せ合う二つの正三角錐。
赤と黒がひとつになったその瞬間、三方向に光が伸びた。
放たれた光がどこまでも伸びてゆく。
湖面の水の上を光が進む。
そのひとつがオプシディスとルッシアを隔てる川に達した。
崖下の河向こう、ルッシアの岸から先の大地が溶けてゆく。
計測不可能な深さで大地を溶かしゆく光は延々と伸び続け、北部の山をも削って行った。
古宮島で祝詞を上げ終えた稲穂は赤い瞳を見張った。奉納舞いに合わせるようにして空中に浮かんだ丸い鏡が分裂してゆく。
緩やかな曲線描く巨大なミラーボールの一部のごとくになった鏡に強力な光が当たった。
黄色い光線が分散しほんの僅かずつ角度を変える。一番端の光が干潟を焼いた。どれほどの熱量か解らない光が岩盤を砕き干潟を消した。川の水が流れ込む。果てなき泉とキラナの河を繋いでさらに光は進む。
分散された幾筋もの光が大地を這ってゆく。ニンディタの地を薙いでは水を呼び、人の地だった大地が消えてゆく。その光の束はイーシャまで達した。
神殿の周囲では数機が巻き込まれただけだった。光を放ち終えた赤と黒のデルタ六面体は空中で静止している。敵機が引いていった。後方支援部隊がハロルドの遺体を降ろしてゆく。
ハルトはそのままアバターシュを飛ばした。眼下の森からは煙が幾つも立ち登っている。その中には桜色の肩をした白い機体があった。
ハルトを心配したソフィーの飛甲機が追ってくる。それを知って我に帰ったハルトはオーディーンを降下させた。
そこは地上戦が行われていた湖にほど近い草地だった。いや、元草地だ。
湿った草地に転がる遺体となった男達のほとんどは市民兵。荒れ果てた大地に折れた矢が突き刺さり、兵を運んできたダイオウヤンマ型の警護についていたロッキ型が近隣の森に墜落してあちこちから煙を放っている。
腰から黒い翼を広げた天使ウルデが降りてくる。
「これを見て、お前はこれからどうする?」
「俺は……」
その光景をナターシャとソフィーが驚愕をもって見つめていた。
水を呼び、大地を焼き尽くす光が放たれた。ハロルドの死とウルデの言葉。
ソフィーとナターシャが見た風景。
次回「七色の光」
明日の投稿になります。
ソフィー達が驚愕した理由は48話「クロスロード」のナターシャ
が語った物語に繋がっています。




