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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
セントラル編
143/148

空白

 哀悼を告げるトランペットが鳴った。

 マティアス・ウィルソンの名を囲む花輪の前に出たハルトが拳を胸にあて敬礼を捧げる。

 惜別せきべつの敬礼を捧げる騎士達が列をなし、ゆっくりと動いてゆく。

 礼装服に身を包み、騎士団総長の位置に立つキザイアは終始普段と変わらない冷たい目をしていた。しかし腫れた目元は隠せていない。

 楽団員の白い手袋の先から葬送曲が流れ、棺の搬出が始まる。マティアスの棺を持つ親族の中にはエレオノーラ派をまとめる大公の姿があった。甥の棺を持つ老人の手に力はなく、冷たい雨に濡れて途方に暮れる子犬のように震えていた。


 戦没者墓地に掘られた地面にマティアスの棺が下ろされる。牧師に合わせて十字を切る。喪服の上に被ったハットから黒いレースのベールを下げたキザイアにハルトは呼ばれて歩きながら話した。

「ハルト、マティアスはお前に何と言っていた。何を覚えいる?」

 キザイアがマティアスと呼ぶのをはじめて聞いた。しばらく考える時間が必要だった。何を覚えておくべきなのか。師匠と崇めた男から何を受け継いでゆくのか。それを忘れないことが弔いになるような気がした。

「自分の名を大事にしろ、と……」

「そうか。――結局あいつは私には何も言わずに逝ってしまった。私は待っていたのだがな。私とあいつは幼なじみだったんだ……」

 今は亡き男を偲ぶ一人の女がそこにいた。重い梅雨空から滴る霧雨の中に二人が土を踏みしめる音だけが続いた。

 戦没者墓地の門まで無言で歩いて、キザイアはハルトに言う。

「ハルト、マティアスのフォルマージュを使って新しい機体を作れ。しばらく大掛かりな侵攻はない。決戦はセントラルだ。イーシャは全力でセントラルを取りに出る。次の夏を越えられなければ我々に未来はない」


 

 葬送に目隠しをした馬に引かれた黒い馬車が王宮に近づいてゆく。爆撃の被害は王都全体に及んでいた。王宮に近い貴族街の被害が大きく有力な政治家にも死亡者があった。機銃掃射は一般市民の住まう下町に達し市民の怒りが最高潮に達している。それでも少しずつ落ち着きを取り戻すと、次の戦いに備える気運が高まっていった。


 一般市民がそうであるなら騎士の魂をもった軍属は尚更なおさらである。破損したアバターシュや航空機が修理工房に運びこまれ、新たな機体の生産も活発になってゆく。奉仕を申し出る一般市民の職人も多く戦力の復旧に弾みがついた。

 各部パーツをアッセンブリー化されている量産型アバターシュは予備のコクピットブロックに手足が再接続され、新たな機体として蘇がえってゆく。それと同時にカスタムを含めた全ての機体に改修が施され、大幅なスペックアップが行われた。

 フレームの情報伝達部と各関節に小型にカットされ磨きあげられた貴石が組みこれ出力と反応速度の大幅な改善に成功。量産型でも剣にマナを流すリアリアブルソードを持てるようになり攻撃と防御力が増強された。冷却ライフルの使用可能は戦術の幅を広げている。ノエルの貴石研究の成果が現れ始めている。赤だけではなく七色の貴石の魔術的配置転換や粉末を散布して使う場合の多層散布の実験が積み重ねられてゆく。


 損壊したアバターシュ・オーディーンは改修というよりリビルドされている。解体されたフォルマージュ・マティスのパーツを用いてフレーム自体から組みなおされた。

 ハルトはミック召喚し、ノエルの研究成果を応用してフォルマージュに近いアバターシュを生み出そうとしている。

 ズオゥザを凌駕する機体にする。

 目標を見つけたときのハルトは強い。セントラルで譲り受けた古参の飛龍の骨や翼の一部を取り込み、人口マナが担っている思われる機能は貴石の組み合わせで補う。しかしそれでは満足しない。

 同等じゃだめだ。自分が作れる最高のアバターシュを作る。

 ハロルドは依然キラナから戻って来ない。ノエルと協力しながらアバターシュ改二を形づくる。ひたすら汗を流してひとつひとつのパーツに魂を込めてゆく。

 ノエルは技師達に研究結果を渡した後も自身の研究を続けた。これまでの発想から離れて一見無駄とも思える実験を寝る間を惜しんで重ねている。ある現象に注目しているのだ。

「この効果を何かの物質に転写できれば」

 うっしゃ、ノーラとよく似た気合をいれて、コーヒーカップに口をつける。研究室の扉が開いた。

「ノエル、来たぞ」

「あっ、ハルお疲れ」

「あまり無理するなよ、昨日もほとんど寝てないだろ」

「これが間に合えば戦局が一変するかもしれないから」

 ノエルが見せた資料はある貴石の配列の中に置かれた火薬が爆発しない事例だった。

「ルドラが火の魔女なら、神殿の結界に火をおさえる術式があるんじゃ思って調べてたの。この効果を転写できる粉の配分か液体を作ることが役に立つよね? ハルならどう使うか考えて欲しいの」

 ハルトはノエルのわき目を振らないまっすぐな視線に感服して、その場で思い浮かぶ限りのアイデアを出した。

 装甲にコーティングすることができれば炸裂弾の直撃被害がなくなる。敵にはまだ火薬式の武装は少なく性能もよくない。精密かつ複雑なものは前世の知識がないとそう簡単に大量生産できないのだ。

 噴射できる粉や液体なら、接近さえできれば敵の武装そのものや空中に落とされる弾倉を無効化できる。

「いいね。それ前提で実験する物質の優先順位を考えるよ。ありがとう!」

 桃色瞳がランと輝いた。ノエルは意気揚々と実験の優先順を書き出していた。


 忙しさに悲しみが薄れてゆく。

 それぞれが出来ることに奔走する中、ノーラは王都から姿を消していた。天使の館をはじめ気になる遺跡や聖地を巡っている。ハルトぅんがハルベルトとして暮らしたロダの聖地の地下にも行く、と聞いたハルトはロダの家族に伝言を頼んだ。ハルベルト・ブロックの名前とマティアスの言葉が繋がった。ハルトは残されたアバターシュ・マティスの大鎌をオーディーン改二に持たせることにした。

 ノーラは戻ってきてもしばらく姿を現さない。集めてきた貴重本や資料が山と積まれた私室でルドラクシアの言葉の解読に集中しているらしいと聞いてハルトはノーラの部屋を訪ねた。

「元気か? ノーラ」

「ほよお。ハルトぅん、ひさしぶりい……」

「大丈夫か? フラフラじゃねぇか」

「何とか生きてるから大丈夫だよ」

 側近に整えられている身なりに相反して不健康な顔色を乗せているノーラは明らかに憔悴している。寝不足なのが目に見えて分かる。

「ごめんね。せっかく来てもらったんだけど余りゆっくりできないの。もうちょっとだから心配しないで」

「分かった」

「ハルトぅん?」

「どうした?」

「ううん。いい顔になったな、と思って」

「悲しんでばかりもいられないからな。それに俺には守りたいものがあるのに気がついたんだ。ノーラも含めてみんなを守りたい。だから俺は俺でやれることをやるよ」

「うん。わたしもがんばるよ。もしかしたら今年の夏で最後かもしれないから……」

 キザイア様と同じことを言うんだな。

 そう思いながらも、来るべき決戦に向けて手を動かし続けた。

 それからも自室にこもりきりだったノーラから書面が届いた。本土侵攻以来開催されることのなかった学園の時間の開催通知だった。制服着用にて旧教室に集合と書かれていた。


 夏が近い。

 梅雨が明けた空から注ぐ光はすでに夏の到来を告げている。

 ハルトの執務室にカッツェが入ってきた。

「なんでこんな時間にやるんだろうな?」

 午前中、執務時間の真っ只中に着替えているとまた扉が開いた。入って来たのは焚哉とマサルだ。

「全員集合なんて久しぶりだね。ハルト」

「――焚哉、その、本山のときは悪かった……」

 開口一番にハルトは侘びた。キョトンとした焚哉は

「――稲穂に聞いたんだね……僕もどうかしていたよ。綿密な打ち合わせがあったわけじゃないし、何も伝えずに価値観を共有しろっていう方がおかしな話しさ」

 焚哉が差し出した拳に拳をあわせた。すこし間があってからそれはハンドシェイクになった。

「マサルも葬儀以来だな」

「そうだな。これ以上花を手向けることがないといいけどな。けど今回護衛してきたのが配備されたら風向きも変わるだろう」

「何を護衛してきたんだ?」

「後で分かるよ」

 連れだって教室に入ると懐かしい面々が揃っていた。生徒だけではなく教師陣までもが全員集合している。この状況で重要な役職を担う人物が集うのは異様な光景に思えた。アルフリードまでもが参加している。しかもハルト達は制服なのだ。セーラー服を着た稲穂は心なし肌が黒くなって巻き髪の銀髪を盛りまくっていた。

 ラフィー、ウルデ、キザイア、胤月、ナターシャ、居ないのはハロルドとベルダンティアだけだ。ベルダンティアとスクルディアは神界に議論をしにいっているとのことだった。

「みんな席について」

 ノーラが教壇に向かった。教師陣も生徒達に混じって腰を下ろす。

 号令をかけたのは綾乃だ。

「起立、礼、着席」

 教壇に立ち皆を見回すノーラ。表情は真剣そのものだ。

「やっぱり綾乃ちゃんの号令は引き締まるね。今日はね、ここにいる人みんなに伝えないといけないことがあるの。キザイアお姉さまや焚哉くんに胤月さん、ラフィー様なんかには事前に伝えてあることもあるけど、みんなで共有しておきたくて集まってもらいました。それに、もしかしたら学園の時間もこれが最後になるかもしれないから」

 そこまで言って、ノーラは少し表情を緩めた。

「だけど足りない人がひとりいるでしょ。わたし達の良き理解者。まずはハロルド先生を迎えに行くよ」

 制服を着たまま、ノーラに言われるままに馬車に乗った。三台の馬車は王宮近くの軍港を見下ろせる高台に皆を運んだ。馬車から降り、ノーラの手招きに港を見下ろせる位置に着くと感嘆の声があがった。

 巨大な甲板が入港しようとしている。六隻の警護艦に護衛された空母そのものの甲板には、飛甲機が胴体内の格納庫に収容されていく様子がみえた。

 金髪の巻き髪を風になびかせてキザイアが言う。

「航空母艦ひりゅうだ。ハルト」

「まじで作ったんですか……」

「作ったのはハロルドだがな、ひりゅう、は良い名だ。使わさせてもらった」

「やったなハルト。ネーミング初採用じゃん」

「いや、びっくりだよ。マサル」

「それだけじゃないぞ。警護艦は、はるな、きりしま、とね、ちくま、はまかぜ、くまりんこ、だ」

「えー、くまりんこかよ。わざとだろ? マサル」

 マサルは下手くそな口笛を吹いた。

「これぐらいはいいだろう? マジになってばっかじゃやってらんない。俺達に愛着があるものがこの世界に生まれるんだ。俺達でこの世界を守ろう。それが亡くなった人達への手向けだ」

「そうだな」

 二人を見つめていたノーラが微笑みの口調を開く。

「じゃぁ降りよっか。ハロルド先生を迎えに行こう」

 

 港では色鮮やかやな制服に白いシルクハットをかぶった音楽隊が演奏を始めていた。紙吹雪が舞い上がる。空母ひりゅうの軍艦色の舷側に寄せられたタラップに白く長い髭を蓄えたハロルドが降りたった。

 ゆっくりと階段を下りてきたハロルドを皆が囲んだ。

「やれやれ、なんとか間に合ったわい。ジェット推進装置が二十四あるんじゃ。統合制御に手間取ってのう」

「おかえりなさい。じいさん」

「おう、今夜は王都に湯に行くぞ」

 ハロルドとの再会の握手が終わったところでノーラが、

「このタイミングになっちゃったけど、転校生を紹介するよ」

 と、タラップに向かって手を降った。

 学園の生徒と同じ夏服のセーラー服を着たアリシアが降りてくる。

「いらっしゃいですよ。アリシア」

「ようこそ、アリシア」

「珠絵さん、綾乃さん」

 再会を喜ぶ三人にハルトは唖然とするしかない。ノエルが以前のように、かしこまった挨拶をするとアリシアは恐縮してからノエルの功績を讃えた。

「あら、そっくりねぇ」

 綾乃とアリシアを前に言った稲穂に、綾乃は「だって双子の姉妹のようなものですもの」と言ってから同じ背丈のアリシア横に並んでみせる。

「ハルトさん、みなさんよろしくお願いします」

 頭を下げてから「しかしかわいい水兵服ですね」と言ったアリシアにノーラは「気に入ってくれて嬉しいよ、アリシアさん。ノーラでいいからね」とふくよかな手で握り返した。

 警護艦の入港歓迎に回っていたいたキザイアが戻ってきて、馬車に乗りこんで戻る。

「カッツェは知ってたのか?」

 男性陣が乗る馬車でハルトは訊いた。

「アリシアさんを外に連れ出したのは珠絵だよ。イセハマ駐屯地にもよく行ってたから当然綾乃ちゃんとも会ってただろうな」

 だから言ったのに、と言うカッツェの横でマサルがニヤニヤと笑っていた。


 教室に戻るとノーラが再び教壇につく。

「アリシアさんに来てもらったのにも意味があるよ。これから話すことはすごく大事なことだからしっかり聞いてほしいの」

 前置きすると、大きな瞳をまっすぐ見据えて話しだした。

「次の神の息休めにセントラルに行ってみないとはっきりはしないんだけど、三つの計器はやっぱり終末時計なんだと思う。この世界の文明は二回滅んでいて一回目が12437年、二回目が13721年で終わってるのが分かったの。Ⅲの表示がある計器の下のデジタル表示は12049と12048。これが年表示だとしたら、今年でこの文明が終わる。『文明の滅び、光が世界を二度焼いた』っていう記述が古文書にあったの。一度目の末期に蟲が暴走してるけど滅んだのは何らかの光が原因なのは間違いない」

 ノーラが言い終わるとキザイアが立ち上がり話しを引き継いだ。

「どちらにしろこの夏、イーシャにセントラルを取られたらグランノルンはもたんだろう。イーシャはセントラルの領有権を主張している。我々は全力でそれを阻止する。一般市民の志願兵も送る。ノルン様が人の地ではないと断言するセントラルを占拠するのを許さない、義憤に駆られた市民も参加しての戦いになる」

 主導権がノーラに戻った。

「取り敢えず話を進めていくね。ルドラクシアの言葉と数列を載せたプリント配るから後ろ席にまわして」


 プリントには神殿あった言葉の解説と詩、最後に数列が記されている。古代語もあるので手書きのものだ。

「詩に目を通してもらったら続けるね。まずは一度読んでみて」


 ◆◇◆◇◆◇

 終末の時

 封印されしもの、天の目に向かう

 昼と夜、天と地、赤と黒、ひとつとなりて災いとなす

 三つの光走り、聖地に水を呼ぶ


 火の魔女放たれるは定められし道

 夢となりて異物は帰る


 三度目は戻らず

 二組の父と子と精霊、星をつくりて永遠なる終焉を呼ぶ


 流れを望む者よ、繋ぎ留めよ

 分け合う魂、混じりて集え

 求めよ、さらば与えられん


 命の根源たる炎

 闇を照らす光

 怒れる軍神

 旅する錬金術師

 全知全能の雷神

 戦の乙女

 時を刻む恵みの神


 螺旋を描いて無に向かへ

 絡みあいて絆を繋げ

 叩けよ、さらば開かれん


 蒼き者ものが力

 天なる地を打ち、時を取り戻さん

 探せよ、さらば見つからん

 伝えよ、さらば救われん


 ◆◇◆◇◆◇


「まず上から四行は()()が起こって大きな災いになる現象が起こる。あの三角錐、アガルタに封印されてるルドラは火の魔女だから、災いは火だとも考えられる。二組の父と子と精霊は三角形が二つ組合わさる六芒星でいいと思う。大事なのは次の二行、定められし道は、運命、って言い換えてもよくて、異物とはわたし達のこと。夢となりてはよくわからないけど帰る、っていうのは元の世界に戻るっていうことのよな気がするの。そこはまだ確証がないけど、結論を先に話すとこの世界の終末を止められる可能性がわたし達にはある。って考えるのは一番妥当なんだよ。だから転移してきた人は全員セントラルに行った方がいい。キザイアお姉さまは認めてくれてて、焚哉くんも了承済」

 ここまではいいかな。次いくね。ノーラは続ける。

「流れを望む者よ、が、わたし達がセントラルに行く理由。最初の行と五行目、それから最後から三行目の言葉から、今回の終末は『時間が止まる』になるんだよ。それを阻止したいならば、っていうのが、流れを望む者よ~さらば与えられんまで」

 ここまで話してノーラは質問を受け付けた。みなの質問を聞き終えて、言った。

「時間が止まる、っていうのは全てがそこで終わりになるってことだよ。絶滅とかじゃなくて、無くなってしまうんでもなくて、そこで終わる。人類は衰退しました。どころじゃないの……」

 ウルデが頷いた。彼女は以前講義で『命とは流れそのものだ』という自分の考えを生徒達に伝えている。

「ある意味完璧な終わり方ね。人類が滅んでオットセイが次の知的生命体になることもなければ、森の木々が街を埋めることもない。全てが止まってしまうのだから」

 ことの重大さを理解したハルト達にノーラは残りの部分の解釈を述べてゆく。

 命の源たる炎~時を刻む恵みの神は一週間を表していた。それぞれが日曜から土曜日に対応していて前世の神話とこの世界の神話の類似性から断言できるとノーラは言い切った。

「でもその後がまだ分からないんだよ。()()をすれば時間が止まるのを阻止できるのは分かるよね?でも、でもそれが何なのかはいくら考えても分からない」

「もうひとつ分かっていないことがあるね」

 焚哉が引き継いだ。

「最初の災いが何なのかが具体的に判明してない。けれど光りの聖地の一つは古宮島だと思うんだ。キラナ本山でも古宮島って呼ぶことに統一したんだけど、キラナは『光差す地』という意味がある。水と光が関わる聖地は古宮島である可能性が高い。稲穂、」

「はい。古宮島の本尊は神具の鏡なの。鏡は光を映すからこれも当てはまるわね。古宮島には災いを払う鏡だという伝承と鏡の力を開放する祝詞のりとがあるわ。だから私は島に残ります。何かがひとつになるのが分かったら鏡の力を開放するわ。キラナに残る胤月様とも連絡を取りながら対処します」

「ということでセントラルとの間に通信の中継地点を置くことにした。キザイア先生もやりますよね?」

「もちろんだ。私は基本的に空母ひりゅうで指揮を取る。本土との通信確保は必須だ。キラナと共用できる部分があるか検討しよう」

「助かります」

 セントラル防衛戦は単なる資源確保をめぐる領土問題ではなくなっていた。

 しかし解明できていない部分も多い。黒い天使ウルデから解釈を教えられることなかった。天使の介入は許されていないとのことだ。それも含めてバルダンディアとスクルディアが神界に直訴に昇ったことが話された。

「主神達は何かを知っている。しかし『神が作りし箱庭』を見て遊んでるようなものだ」

 絶句するハルトにカッツェが「な、だから最初に会った時にやっかいだ、って言っただろ?」と目配せをする。

「現地で起こっていくことを見極めるしかないのだ。――状況によってはアストレイアとヴァルキリアが降りてくるかもしれんが、戦闘に手は出さんと思ってもらっていい」とウルデは告げる。

「エレオノーラが学園の時間を開いた意味が分かっただろう? こんな重要なことを共有しておかねば編成も組めん」

 カスタム・アバターシュがいつでもフリーになれることを前提に編成を組む、とキザイアは告げた。アリシアは警護艦に乗船しつつ現地では空母ひりゅうにアドバイザーとして乗り込むことになっていた。

「アリシアさんの話しになったから伝えるけど、詩の『分け合う魂』はノエル、アリシアさん、カッツェのことだと思う。だからノエルも行くよ」

「分かったよ、お姉ちゃん」ノエルは頷く。「私達も頑張りましょうね、アリシア」「ええ、綾乃さん」「なんとなくしか似てないけど、まぁよろしく」カッツェとマサルは握手を交わした。

 ラフィーからは「妾はノーラとノエルを神殿に導いたのち、神殿の外、ひいては時計塔の外にも貴石がないか確認して森の中に配置されているはずの貴石を守る。精霊の力も借りる」と告げた。

 アルフリードは火薬を無力化する粉の噴射役を買って出た。

「ノエルのおかげで蟲を防ぐ多くの仕事から開放された。守りの森も全面的に加勢する」と宣言し、ここまでハルトとノエルをよく守った、とカッツェを讃えた。

「ノエルは大活躍だな」

 照れくさそうなカッツェは話の流れをノエルに振った。

「ほんとだね。さっすがわたし妹!」

 まんまと引っかかるノーラである。

「ちょっと、おねーちゃん顔すりすりはやめてよお」

 空気がゆるんだところで珠絵は「私は最後まで撃ちまくるだけです」と息巻いて見せる。

 その後も議論や具体的な相談が交わされた。

 戦闘のない空白の時間が一瞬にして濃いものになっていった。

 窓から入ってくる強い日差し。それにいつの間にか茜が混じっても話は終わらず、夜のとばりが降りきってから銘々が使命を感じながらの解散になった。


 だがひとり、浮かない顔をした少女の姿があった。

 星空の下で揺れる馬車の中でナターシャに理由を訊かれたソフィーは懇願の目を向けた。

「あたし、全部を見たい。ちゃんと最後までみんなを見て、ちゃんと記録したいの。島には行けるけど飛甲機がなくちゃ自由に動けない」

「飛甲機は貴重な戦力になるからね。エレオノーラ様が頑張ってくれても無理だったのしょう?」

「でも……」

「どうしても?」

「うん」

 意を決したような表情のナターシャと馬車を降りると二人は王宮の外に出て人通りの少ない貴族街を歩く。その中でも被害の大きかった区域の屋敷を訪ねた。


其方そなたがここを訪ねてくるとは。――一体どうしたというのだい?」

 エレオノーラ派をまとめる大公爵の臨時の応接室。屋敷の半分が戦火に燃え、息子を失ない急に老け込んだ大公はナターシャとソフィーの話に耳を傾けた。

「確かに先の戦火に倒れた息子が外交に使っていた飛甲機があるが……軍に使ってもらおうと思っていてね。――どうしても行きたいのかい? ソフィー」

 自分の面影を宿したソフィーをじっと見つめる。

「エレオノーラ様から頂いたお仕事を最後までしっかりやりたいんです。どうかお願いいたします。大公様」

「私からもお願いいたします」

「……そうか……ナターシャもゆくのだな。いいだろう。飛甲機を使いなさい」

 頭を上げた二人に立ち上がった大公は握手を求めた。それが彼にできる精一杯の触れ合いだった。

 ナターシャと視線を合わせた誠実な人柄がにじみ出る老齢の紳士と少女が握手を交わす。

「ありがとう、おじいちゃん」

 そう言ってから、振り返った少女の背中を見据えて大公は目がしらを押さえた。


師を失いながらも仲間達に支えられて前を向くハルト。

セントラルの予言はこの世界の終末を意味すると断定したノーラ。

決戦の夏が来ます。再びのセントラルへ。

次回「ひりゅう」 週明け月曜日の投稿になります。

一話が長くてすいません……。

クライマックスに入っているのでガンガン行きます。

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