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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
セントラル編
142/148

本土防衛戦ー魔の翼ー

 情報局付きとなったデニスを交えてのミーティングがマティスの執務室で行われている。

 王都騎士団の権威を象徴するキザイアの執務室のような豪壮華麗な装飾はなく、質の高い材で作られた部屋は合理的で実務的。騎士団総長である第二王女のごく近しい側近であり、次期婿王候補という地位よりも質実剛健な人柄が滲み出ている部屋だ。

 黒革のソファーに座る三人の意見は一致していた。

「毒を使ったと考えるの妥当でしょう。農村での手段はまだわかりませんが、都市部で急増した死亡者の多くは、酒場、男性専用の浴場、娼館、そういった所への出入りが多い男性でした。働きざかりの男性を狙った、と見るのが正しいでしょう」

「やはりな」

「ニンディタに潜入しているティムが、仕事を探している外国の人間がいる、と人材ブローカーに扮して接触を試みています。不自然に高給な仕事の斡旋を頼まれたと報告が来ているので引っかかる可能性はあります」

「イーシャはニンディタに罪を被せるつもりか」

「捜査員はことが終わったら始末される可能性がありますね」

「はい、私もそれは理解しています。――それとここに来る前のキザイア様にお話ししてきたのですが、イーシャの軍が動きます。おそらくこの王宮を狙ってくると思います。龍神の力を手に入れた我々が勝つ、と兵や民衆を鼓舞しているので注意して下さい」

「敵のアバターシュが本格的に出てくるってことですね」

「イーシャの孤児院から大量の子供が消えています。そう考えていいと思います。これは個人的な意見ですが――人の血や臓器を利用するのを厭わない連中に世界を取らせてはいけません」

 仕事柄、政治的な意見を述べることを控える傾向があるデニスでさえもが危機感をあらわにした。

 

 ほどなくしてキザイアから敵の本土侵攻作戦に備える、と通達が届いた。

 訓練場に集合した騎士達の前で金髪の巻き髪を揺らし、毅然とした碧眼の双眸を向けてキザイアが告げる。

「敵は本拠地の制圧を勝利条件としている。王都及び王城の防衛が主任務となる。しかし今回の狙いは王城の占拠というよりも我々の戦力を削ぐことにあると考えられる。各人その意識を持って対応に当たれ」

 キザイアは命を賭してでも王都と王城を守れ、とは言わなかった。パイロットの数こそが戦力だと、生き残ることを優先する訓示を与えた。

 ハルトと綾乃が中心になってまとめた進言が防衛戦略の中心になっていた。

 機動部隊でのブリーフィングとなり師団長であるマティスが壇上に立つ。ここでも特にパイロットの生存戦略が強調され語られた。

「だが敵は逆に人材を使い潰す前提で来るだろう」

 その理由が話される。戦死したパイロットの家族に出る多額の救済金を目当てにしたパイロット志願兵が多いのだという。

 貧困を利用した支配者の欺瞞でしかないな。

 ハルトはそう思う。同意を求めなくても周囲のパイロットもそう思っていることが分かる。そして同時にこうも思った。明君賢将、聡明な智将が知恵者を使いこなし、それを君主が認めることを言う。騎士団象徴である総長とその側近がそれであることをハルトは実感した。非常時の政治的配慮は人の命を失わせる。人道的な配慮は性善説に基づいた考え方だ。理念が異なる相手に通用するものではない。ハルトは戦争を肯定してはいない。しかしこれは侵略戦争ではない。危機管理の問題なのだ。ユージンを失った痛みがやっと分かった気がするハルトだった。

 ブリーフィングが終わり、パイロット達が退出する中でハルトはマティスに呼び止められた。

「今回も良い仕事をしてくれた。礼を言う。――ハルト、死ぬなよ」

 視線を合わせた二人の顔には師弟であることを越え、騎士の使命を固く誓い合った盟友めいゆうの意識が現れていた。


 王宮の外壁の上に馬車の荷台に乗った対空砲が増設されてゆく。市民から徴収された馬車の予備車輪で組まれた荷台をコボル達が引いている。ハルトの伊右衛門も徴収され、王宮内の移動は定期ルートを巡回する乗り合い馬車になった。自由な移動が制限されハルト達とノーラとの距離はますます離れていく。

 時間的な余裕もなかった。アバターシュの部隊編制が臨戦体制に再編された。

 王都守備隊は東西南北の四つの部隊に分けられた。

 王城に近く敵から見て正面にあたる南側をハルトが指揮を取るアバターシュ二個小隊が守る。同戦力の正門西側をオーブ・アントナーラ。東側の湖面に面した護岸防衛に綾乃の二個小隊と珠絵の戦車隊。敵からみて裏側に当たる北側をオプシディスや北部の領地を中心とした一個小隊が受け持つ。ここまででカスタム7量産型14。アバターシュ小隊は近衛を除いてカスタム1と量産型2で構成される。

 マティスとキザイアは本部機能を維持しつつ近衛のカスタム3量産型2と共に王城防衛が主任務となる。アバターシュ隊総数はカスタム12量産型16の計26機の本土防衛体制。

 これに加えマツスガ基地からはマサルが先行して進行阻止に三個小隊で出る。

 アバターシュ総計35、航空機144機で迎え撃つ。

 キラナの本山守備にカスタム4、量産8など他区域の要所にも戦力が分散しているのを考慮すると総力戦といってもいい布陣となった。

 アバターシュ隊には人型と対峙する同機種間戦闘訓練が課せられ、緊張感のみなぎる日々が続いた。

 そんな状況でもノエルの脳波実験に可能性を感じてたハルトは、中断をせずに実験を続けるようにアドバイスをした。キザイアのフォルマージュ・イリスの物理装甲化と飛行ユニット装着の改修を終えたノエルは自分が望む方向の実験を続けた。

 

 王宮内で着々と防衛体制の整備が進む中、王都での一般市民の死亡者報告数が跳ね上がった。成人男性に限ったわけではないのだが圧倒的に比率が高い。

 ティムの潜入捜査により確証を掴んだ王宮は敵性国家によるテロと認定。盛り場への外出自粛要請が出された。要請に留まったのは禁止令に反対する人権保護を謳う政治的な勢力があったためだ。

 時を同じくして資材徴収を契機に反戦プロパガンダが展開されのだが効果はなかった。

 これはメディア報道を市民が信じなくなったことが大きい。一部の既存メディアが敵性を帯びた工作員の支配下にあることが暴露され、それに対して言論弾圧だと主張されたが、報道を逸脱した敵に都合のいい思想展開に誘導され続ける人間は少なかった。自分達の身の安全に直結するのだ。当たり前の話だ。

 

 ある朝、短くなった夜が白み始めた頃。キザイアの寝室に伝令兵が入った。

「マツスガ基地より入電、大規模機動部隊進軍あり。交戦に入りました」

 ネグリジェのままキザイアは王都守護隊全軍に出撃命令を下した。


 アバターシュ格納庫に入ったハルトが綾乃と走る。

「綾乃、気をつけてな」

「ええ、ハルトくんも」

 緊張感が個人的なすれ違いを葉隠はがくれさせている。それでも同じ目的に向かう気持ちは共有している。皮肉なことに戦闘が仲間意識を連れてきていた。

「南部方面アバターシュ隊、出撃どうぞ」

「ハルト、オーディーン出るぞ」

 護岸防衛が主任務の綾乃の隊に続いてハルトの隊が出る。進発済みのカッツェのサジウスに騎乗しランデブーポイントを作りに先行して飛ぶハルト。

 航空機直掩(ちょくえん)隊と戦闘機型サポート機が集結する王都南側の森の上空に陣取ったオーディーンにカスタム1機と四機の量産型が合流した。量産型のサポート機はミヤマ型とヒラタ型に置き換えられている。東側の湖面から朝日が昇ってきた。

 長い一日になりそうだな。

「キラナ方面連合軍から通信。マツスガ基地の部隊は航空機一個大隊48機程度と戦闘継続中。敵の人型は現在9機を確認」

「戦闘航空隊、第三、第四中隊は先行してインターセプトに入る」

 通信が入り乱れる中、護岸方面部隊の別回線から通信が入った。

「東南東から敵機接近、別働隊です。航空機二個大隊96機以上。人型の存在は……ちょっと待ってください。今確認が取れました。27機の人型を確認」

 二方向からの進撃に航空隊の配置転換指示が出た。哨戒機の観測をすり抜けてきた東側からの侵攻の方が早い。

 迂直の計は健在か。マサルの隊が対応してるのは囮だな。

『アバターシュ隊は現状を維持』

 キザイアの指示に一旦通信が収まる。

 観測機が高高度を飛んでいる。状況を見極めた采配はキザイアの判断になる。

「東部方面第三航空隊観測機より本部へ。爆装している機体は少ない。戦闘力重視の編成です」

 事前に知らされている敵の戦術予測。想定内の展開に動揺はない。「釣り出されることなく冷静な対処を」何度も訓練で聞いてきた言葉がパイロット達に染み付いている。

「護岸部観測機より本部、三機の敵アバターシュの接近を確認。航空隊との戦闘に入ります」

 西部、北部の一部航空隊に護岸方面への転換指示が出た。

「インターセプター観測機より本部。敵アバターシュに新型を確認」

 新型?

「ハルトより本部へ。新型の情報が届き次第送ってほしい。小さなことでも構わない」

「了解しました」


『ハルト、準備はいいか?』

 カッツェの声だ。

「そろそろだな。分離する」

 サジウスから離れたハルトは隊に指示を出す。

「第二小隊は現状を維持、S-01(エスマルヒト)02(マルフタ)はサポート機より分離。俺についてこい。南部東側をカバーする」

『了解』

 量産型の増強を終えた今回は混乱を避けるために部隊別にナンバーが振られている。ハルトの隊は南を表すSが頭文字だ。

 S-01、02が分離した。これが第一小隊になる。第二小隊、グリーン系のカスタムに率いられる小隊はS-03、04とタッグを組む。

 南部航空隊は既に交戦に入っている。通信の頻度が減り、戦闘に集中しているのが分かる。ハルトは第一小隊を率いて人型を索敵しつつ空戦に入った。


 護岸方面でも湖上での戦闘に突入していた。まだ珠絵の戦車隊の出番ではない。王宮への接近を許さぬ幾筋もの火線が上がる。その後方では戦車隊が三重の防御体制を敷いている。戦闘機とアバターシュが乱舞するさらに上空にはサポート機群、その上に観測機と多層的な展開がなされ、考え抜かれた布陣が機能していた。

「戦車隊よりアバターシュ隊、戦車の出番はありそうですか?」

「航空勢力は何とかなりそうだわ。ライトアーマーの動きが速いから抜けられるかもしれない」

「了解です、綾乃っち。ズーサ型にはバイオ弾が効きますね。部隊を入れ替えます」

 珠絵は現実的な判断をしている。高射砲装備の個体を中心に機種転換を指示した。

 空中での対アバターシュ戦に綾乃は神気を使うことなく戦う。大型の盾を持たないアーヤノルンはアームガードで防弾しつつ、足元のヒールに装備されたパイルバンカーをヘビトンボの背中に打ち付けて飛んだ。


 南部では航空隊の編成はさほど崩れてはいない。しかし人型との戦闘は乱戦が続いていた。ライトアーマーと対峙するハルトは牽制攻撃を繰り出しつつ乱数をイメージして回避、自分にも予測できない動きでアバターシュが跳躍する。直感が思考のスピードに勝る。

 S-01、02のミヤマ型が補給物資の補充に向かった。その間も戦闘機タイプのサポート機

が予備弾弾倉のパラシュートを落としてゆく。

 第二小隊も戦闘に入っている。南部正面に展開した三機のズーサ型に冷静に対処しているが押され気味だ。高機動型戦闘機の援護が厚い。西部方面からアバターシュ一個小隊の増援が到着。加勢により防衛ラインを押し上げる。しかしそこに敵の後続部隊が到着。人型の加勢に形勢が逆転。W-03が墜ちた。動揺したS-04が敵機の機銃掃射に体を震わせて落下してゆく。


「南部観測機より南部防衛隊、新手が来ます」

 まだくんのかよ。

 ハルトが奮闘する戦域では友軍航空隊の三分の一が墜ちている。しかし敵もほぼ同数を減らしている。人型はライトアーマー4機を撃墜。しかし敵増援の到着と同時にS-01が被弾。

 生きてろよ。

 S-01のパイロットはキラナでGK-03に搭乗していた若手だ。パラシュートが湖面に激突する直前で開いた。安否は不明。そこに通信。

『北部アバターシュ隊は護岸へ、西部は南部に合流。戦力を護岸と南部東方に集結させろっ』

 通信兵ではなくキザイア直々の声だ。ハルトとアヤノの隊が受け持つ激戦区への増援指示。観測機から「S-01パイロットの生存を確認」を聞いたハルトは胸を撫で下ろす。警告を発するARが浮かんだ。視界に集中する。

 初めて見る機体の姿を見つけた。

 あれが新型か。

 ズーサ型と同じ赤と黒の機体だが装甲を全て装着したフルアーマー。四肢が太く、肩の装甲が大きく肩幅が広い。威風堂々とした敵機がS-02からの遠距離射撃を弾き返した。バイオ弾が効かない。

 まずいな。

 ライトアーマー高速型、ズーサを想定したバイオ弾仕様のガトリングは圧縮空気射出だ。ハルトも安定感に勝るバイオ弾仕様の火器を選択している。

 同じことを思ったのかS-02が剣を抜いて接近戦に持ち込んだ。量産型の剣を跳ね飛ばしたフルアーマーの剣がコクピットハッチを貫通させた。剣を伝うマナの液体に血が混じっている。

 なんてパワーだ。

 フルアーマーを乗せたヘビトンボがさらに増える。

 敵後続の最終ラインからフルアーマーよりも巨漢な機体が分離した。

 あいつだ。

 ハルトが感じた赤星の存在。二機フルアーマーを伴った大型のアバターシュが高度を上げる。蒼い空に黒い翼が広る。飛龍の爪と翼を持つ赤と黒の機体はカスタムアバターシュよりも二周りは大きい。


「迂闊に仕掛けるなっ」

 ハルトの叫びが届く前にグリーンのカスタムが墜ちた。カスタムの優位性と若手パイロットを指導する技量が通用しない圧倒的なパワー。龍翼は航空機の機銃掃射にも耐えている。

 フルアーマーのガトリングが火を吹いた。火薬式の射程と破壊力に航空機が破れた紙飛行機のように墜ちてゆく。

 南部方面区域はオーディーンとS-03を残して4機が墜ちる激戦区となった。戦闘機の援護が入る。ハルトは回線を開いた。

「飛龍を殺したのか!?」

 援軍が到着するまで時間を稼ぎたい。

「この方が都合が良いのでな。ズオゥザは龍の翼を人の血そのものが動かす」

 龍翼が応えた。

 図太い下半身。肩の装甲が大きく肩幅が異常に広い機体。巨大な体躯を多関節の尾で制御する人型というよりも獣に近い魔の翼がその姿を誇るように蒼いアバターシュに立ちふさがった。

 龍翼はガトリングを装備していない。左手を覆う盾も剣を流す小型なものだ。アームガードの鋭角的な曲線が肩を超えて伸びている。長い腕の黒い指先が握る剣は、赤い光の蛇がのたくる波状剣、大型のフランベルジュ。

 接近戦しかやらないってことか。よっぽど自信があるんだな。けどフルアーマーであのパワーだ。油断は出来ない。

「ハルト、加勢するぞ」

 アバターシュ・アントナーラがW-01、02を伴って南部戦線に到着した。サジウスと戦闘機型のサポート機も引き連れている。

 オーブの機体は火薬式のガトリングを装備している。

「オーブ、フルアーマーをお願いします」

 体温が上がり、パイロットスーツに汗が吸い取られるのが解る。

「了解だ」

 アバターシュの獰猛な目に光が入った。


 護岸方面では戦車隊の防空射撃が始まっている。

 装甲の厚いフルアーマーへの対応に大口径砲塔を載せた戦車らしい個体の南側への移動も始まっている。

 綾乃からはライトアーマー以外の目視報告は受けていない。しかし南部航空機がフルアーマーとエンゲージした段階で火薬式の高射砲を装備した控えの個体との入れ替えが進められている。今頃一時後退した個体の換装も終わっているだろう。

「綾乃っち、フルアーマーはいませんよね」

「いまのところ」

 綾乃の小隊も一機量産型を失っていた。それどころか増援に駆けつけた北部方面軍アバターシュ隊の方が被害が大きい。東部では三機の量産型が堕ちている。ライトアーマーの速さに翻弄され、高速型戦闘機との連携にも苦戦している。

 綾乃はカトラスを抜いた。



 森から煙が上がる上空でオーディーンと龍翼が剣を交えては離れる。

 パワー負けしてる。

 龍翼の後方から量産型がガトリングを打ちながら接近。龍翼は振り返ることなく後方に散弾を発射。W-04の装甲に細かい穴が穿いてゆく。コクピットハッチにもヒビが入った。ハッチを開いたパイロットが空中にダイブした。

 ハルトは王宮上空に加速する龍翼を追う。最大戦速にハルトの骨髄を痛みが貫いてゆく。

 オーブのカスタムはファルアーマーに阻まれて合流できない。

 観測機が敵機の防衛ライン突破を報告した。

 航空隊が追う。「王宮に入れさせるな!」後方から狙撃されても怯まない。混迷を極める戦域をオーディーンが飛ぶ。防空体制が崩れた空戦の間隙を縫って爆撃機が侵入してゆく。

 王宮の防空体制に進路を阻まれた爆撃機は王宮にほど近い上級貴族の区域にナパーム弾とフガス弾を投下。煙が上がった。


 王宮の防空網を掻い潜った龍翼にオーディーンの射撃、ロングソードで斬撃。

 斬。受けられて離脱。斬撃。盾。盾。斬。受け。

 ハルトの左腕に激痛が走った。

 複合装甲の表層が溶けて緩衝物質が露呈した左腕に加えられた一撃。機体の損傷と比例して受ける痛みに顔が歪む。

「まだ第一層がやられただけだ」

 奥歯を食いしばってやいばを向ける。

 斬。受け。受け。盾を飛ばれた感覚と同時に来る痛みの衝撃。

 第三層ごと欠落する装甲。オーディーンの左腕は活性液循環チューブを剥き出しにし、人口筋肉を露呈させた。

 腕の筋繊維を保護するガラス繊維も毀損している。そこと同じハルトの腕に皮を剥がれたような強烈な痛みが広がってゆく。パイロットスーツに染みる鮮血がコックピットに流れ出てゆく。液化マナが充満したコクピットに漂うそれはパイロットの思念と同化するコントロールの代償だ。機体との同化コントロールと引き換えの痛覚平調と肉体破損。

 脳がしびれる痛みにハルトは覚醒する。渾身の一撃を叩き込む。一瞬、意識が飛んだ。

 オーディーンから離脱した龍翼が加速する。

「城には触れさせん!」

 王城から黒騎士マティスのアバターシュが出てきた。

 その前に出た純白の機体が踊り出る。近衛の白いカスタムを蹴散らす龍翼。

 黒い翼がアバターシュ・マティスに迫る。鎌を落とされたマティスが落下。地上で剣を抜く。フランベルジュの赤い光が臨界する。ガラスの螺旋を抱く地上からマティスが飛んだ。黒い機体の体と体が正面でぶつる。マティスの剣を受ける龍翼アームガード。ロングソードを咥え込んだまま腕を捻る龍翼。

 バキン。

 黒騎士の剣を折った龍翼はマティスの首に腕を回して締め上げる。

 痙攣と沈黙。

 弛緩した四肢を垂らしたままのマティス。

 頭部を掴んだ龍翼の長い左腕が空中で黒騎士を揺らす。

 アバターシュ・マティスは動かない。フランベルジュがマティスのコクピットの中に入っていく。


「マティアスさん!! 師匠っ」

 急速降下するハルトの声に応答はない。


 格納庫から出てきたばかりのフォルマージュイリスが盾を出したまま突貫した。

 マティスを放り出した龍翼が後退。高度を上げる。

 光の弓を掲げたアーヤノルンが到着。

 放たれた矢を龍翼の前に出た敵の航空機が受ける。

「撤退だ」

 一斉に敵機が後退してゆく。

 地上に降りたイリスは物質化した盾を消すことなく。飛散したガラスの上に横たわる黒いアバターシュに被せた。


 戦いが終った。


 王城にほど近い神殿や上級貴族の住まう区域から煙と炎が上がっている。

 王宮敷地内でも武道場と兵舎が全壊、量産型アバターシュ生産工房の被害も大きい。

 ハルトはオーディーンをイリスの近くに降ろした。

 地面に横たわる黒騎士マティスのアバターシュ。赤い液体がコクピットから流れ出ている。黒い装甲を飾る赤い装飾と同じ色の液体が、石とガラスの地面を濡していた。


本土に及び始めた戦い。その意味するところは。

次回「空白」

明日の投稿になります。

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