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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第2章 ロダ村編
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ダークサイド・オブ・ザ・ムーン 後編

※残酷描写があります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。

 

 巨大な木々の根本を隠すように茂るあしが揺れる。

 それを割ったのは白い腕だった。

 その巨躯を誇るように白い猿が姿を現した。


 遥斗の目線と同じ高さの下顎から伸びる二本の牙。

 筋肉で盛り上がった太い腕の先に握り込んだ黒い拳を地につけてその高さだ。

 立ち上がればどれほどになるだろうか。

 厚い胸元からVの字に生えるたてがみのような白い毛並みがその実力を誇示するように風に揺る。

 

 白い巨猿と犬が睨み合った。


 木の上の黒い影たちが実体になって降りてくる。

 それは黒い猿だった。猿という言葉から遥斗がイメージするよりも一回り大きい。だが如何にも鍛えられているという体格にもう一回り大きく見える。

 黒猿達の醜悪な口元にも牙が覗き、獲物を味わうのを心待ちにするかのようによだれしたたっている。


 人間を全く恐れていない。

 獲物を狙う血走った無数の赤い目に囲まれた。

 黒猿達が身を屈め、いつでも行けるぞと足に力を込めて前後に揺れる。


 現代の日本人なら殆どの人がそうであるように遙斗はこれまで獲物として見られるような命の危険を伴う窮地に陥ったことがない。しかも遙斗は夏の日差しに焼けた手すりからカブトムシを逃がしてやったり、頼まれてとはいえ花に水をやるのをいとわない優しい男なのだ。

 

 鉛のように重く張り詰める空気。 

 逃げ場はない。体中の毛穴が開き、見開いた瞳孔に思考が冴える。


 このままだと殺されて食われる。


 遙斗は覚悟を決め、火の消えた松明を棍棒にして構えた。

 かかとの下でこいしが鳴った。


 「グオッ!」


 白猿の咆哮を合図に黒猿達が一斉に動き円陣を崩して襲いかかる。

 

 四方からの襲撃に遥斗は棍棒を振り下ろす。


 ゴン  ゴン、ゴン


 棍棒に鈍い重さが伝わる度に血飛沫が宙を舞う。


 爽快感などはない。罪悪感とほんの一瞬を生き延びた安堵だけが積み重なる中で遥斗ひたすら棍棒を振り続けた。

 けれど所詮は多勢に無勢。数に物を言わせた波状攻撃に棍棒を投げ捨てさせられ、肉弾戦に持ち込まれた。取りつかれた喉元に、腕に、ふとももに、食い刺さる牙がもたらす激痛が走る。しかしアドレナリンが動きを止めさせない。痛みが怒りを呼び起こした。

 喉元を狙って暴れる黒猿の爪が耳を裂き、頬に烈火の如き痛みを感じた時、遥斗のリミッターが外れた。

 喉元の牙の痛みを堪えながら、左腕に取り付いた猿の後頭部を掴んで猿のこめかみに膝を入れる。腕から剥がれた猿の手を取って背負投げ、地面に叩きつけて頭を狙って蹴り飛ばした。

 元サッカー少年舐めんじゃねぇ!

 いびつに首が曲がった黒猿の体が転がって痙攣する。

 

 それでもまだ事態は好転しない。喉元に食らいついた猿の背中に更にもう一匹が組み付いて押し倒された。石を拾って後ろの猿の顎を砕いて剥がし、首元の猿の後頭部を石で何度も撲打する何とか剥がれた。首に食い込んだ牙がズルっと滑って首の肉の一部を持っていく。

立ち上がってもまだふとももに牙を立てている猿に逆の足で膝蹴りを入れ、足を組み首を締めあげ、側頭部を両手で掴んだ石で打ちつけると血反吐の混じった泡を吹いて光の消えかけた目が天を仰いだ。

 劣勢を察したのか後続の黒猿達が白猿の後ろに撤退する。

 

 遥斗のそばでは返り血にまみれた犬がうなりながら猿を噛み散らかしている。


 それでも余裕の証なのかボスはまだ動かない。


 犬を襲っていた黒猿もボスの後ろに回った。

 

 河原に転がった棍棒を拾い上げ、前に出た犬と共に拳を地に着けた巨猿と向き合う。

 満身創痍、横は川、背後は崖だ。

 巨猿の白い鬣が風に揺れる。


 耳鳴りがする。


 耳鳴りが大きくなってうるさい。


 「これは耳鳴りじゃない!!」

 

 白猿と向き合っていた犬が振り返り、崖に向かって吠えると遥斗の背後に回った。白猿も崖に向かって唸り声を上げている。


 遥斗は体と棍棒を白猿に向けたまま背後を振り返った。

 

 耳鳴りが振動に変わる。


 ブゥーン


 大気を揺らす振動が崖の下から上がってくる。

 

 姿を現したのはあの六つの赤い目。

 巨大な蟲が空中で止まった。


 六つの目にぎょろりと瞳が現れ、それぞれが別の方向を見回す。

 口元の管がせりあがると六つの瞳が一人と二匹に視点を合わせた。

 どう見て攻撃態勢だ。

 

 遥斗は足元の大きめの石を拾って投げつけた。しかし蟲の口元に当たった石は跳ね返って落ちるばかりで空中の蟲は微動だにしない。

  

 蟲の目から瞳が消えてにぶい赤が鮮血色に染まる。

 聞きとれないくらい不快な高周波が発せられた。

 

 「グオッ!!」


 白猿が咆哮するとその巨躯からは信じられない跳躍で蟲の鼻先に飛んだ。両の拳を組んで振り下ろす。巨猿の倍はあろうかという蟲の体が傾いた。

 蟲から離れ着地した白猿に蟲が急降下。六本の足の鉤爪を白猿に食い込ませると上空へ運んだ。遙斗の頭上を飛び越え、逃げまどう黒猿に向かって白猿の巨体が落ちる。

 落ちた衝撃の一瞬の隙を見逃す事なく蟲が白猿に覆い被さる。白猿を組み敷いた蟲の口から伸びた管が白猿の腹を刺した。白い毛並みに赤い染みが広がる。毒でもあるのかその赤が紫色に変わると精悍だった白猿の顔が枯れて目から光が消えた。体液を吸いきったらしい蟲が管を抜くと蟲の体の関節という関節が赤く光り、再び羽を広げた背中から出た赤い光が天に向って伸びてゆく。


 遥斗に一番近い端の目に再び現れた瞳が遙斗を見つめた。

 蟲は白猿の残骸から離れ、次はお前だと言わんばかりに地面擦れすれを飛んで遥斗に迫る。狙われた管の先から体を避けようとしたその刹那、口先の管から紫色の液体が射出された。かわしきれなかった左足に熱を感じる。左右に揺れながら接近する蟲に逃げ場を無った遙斗は崖を見下ろした。滝壺が見える。活路は他にない。

 飛んだ。


 崖から伸びる木に腹を打ち、背中を岩に撲打して腹打ちで着水。


 水中でゴボッと肺から空気が叩き出される、が、思ったよりも深い水深に助けられた。


 明るい方に向って水をかぎ、水面に顔を出すと、朝焼けの上空を蟲が旋回している。その下の崖から犬が顔を出して心配そうに見下ろしている。 


 岸はそう遠くない。泳いで岸を目指す。滝壺の底が見えると足が着いた。

 重い水を割って歩き、岸に上がると暫く先に見える森を目指して走る。


「木の間だと流石にあいつも思うように動けないはず」

 森に向かって走っていると

「やっと見つけた」

 頭上から声がした。見上げると妖精が空から降りて来る。


「もう何やってんの?ロッキが光立てなきゃ分かんなかったじゃん」

「何やってんのじゃないよ!!何なんだあの虫は!あの家から追ってきたのか?」

「あれとは別だよ。それよりロッキを怒らせちゃったからまた襲ってくるよ」

「どうすりゃいいんだ!何とかしてくれ!!」

「わたしに蟲をしずめられるわけないじゃん」

「どうにかなんないのかよ!?」

「そうねぇ、――ちょっとまって」

 妖精は遥斗に頭の上に乗ると髪の毛を抜いた。抜いた髪の毛に息を吹きかけて宙に浮かべると両手をかかげて空を見上げる。

「えい」

 妖精の両手から青い光が天に向かって伸びた。

「これで鳥の人が来るよ、さっきロッキが赤い光を立てたから多分もう近くまで来てる」


 羽音が近づいてくる。蟲が降りて来た。 

「おい!化け物呼んでどうすんだよ!」

「まぁ取り敢えず逃げる逃げる。こっちだよ」


 森に向かって飛ぶ妖精を追う。

 もうすぐ森に入れる。そう思った時、大きく目に映るようになった森の木々の上から鳥の影が出てきた。

 七羽の黒い鳥が編隊を組んで蟲を囲むように旋回している。


「――鳥に人が乗ってる?」

 黒い鎧を着込んだ騎士が大きな鳥の首元に乗って空を舞っていた。


「鎮めよ!」


 先頭の男が指示を出すと六羽の鳥が蟲を取り囲んだ。


「放てっ!」

 六本の白い網が蟲の足に向かって真っ直ぐに伸び、足に絡まった網を引っ張るように六羽の鳥が蟲の外側に放射状に飛んで蟲の動きを抑え込む。単独で飛んでいた指揮官らしき男が蟲の前に出ると腰の袋から青い粉を蟲の顔に振り撒いた。

 

 足掻いていた蟲の足が動きを止め、六つの目の色が黒くなってゆく。指揮官が取り出した棒に火を点けて煙を流しながら上昇すると、その煙に釣られる様に蟲も高度を上げてゆく。


「ローグ、カッツェ あ奴を捕らえろ」


 蟲から離れた二羽が遙斗の近くに降りた。


 遙斗は森の入り口に降りた鳥から近づいてくる剣を抜いた二人の騎士と向き合った。

  騎士は全身に鎧と兜を纏っている。腰の後ろに不自然な燕尾服の尻尾のような物が2本垂れていた。一人は黒く一人はグレーのそれが風に揺らめく。

 

 捕らえろと言われても相手は人間だ。取り敢えず助かった。

 あの腰から出てるものは何だ?色が違うし階級を示す何かか。


 遥斗の肩から飛び立った妖精が騎士に近づくと騎士は躊躇なく手の中に握った。

「ちょっと何するのよ!」

「フェルンか、やっかいだな。眠らせよう」

 騎士が腰から出した黄色い粉を振りかけられた妖精の体から力が抜けた。


 遙斗の目の前まで来た二人の騎士に剣を鼻先に向けられれる。

「お前はアルフリード様が取調べる。喋るな。膝を折って両手を付け」


 その言葉に遥斗は従った。指揮官を乗せた鳥が降りて来るのが見える。二人の鳥は真っ黒だがその鳥の首元は青く燐光している。鳥を降りて遥斗に近づく指揮官の兜の下には長く青い髪が揺れていた。

 指揮官は全身鎧の2人と違って胸当てと肩と腕当てにブーツのような鎧しかないが手の込んだものだ。黒の中に青い模様が輝いている。後頭部に羽飾りが付いた兜の中の整った顔に表情はない。


 遥斗の目の前に来た指揮官が言葉を発した。

其方そなたは何者だ?何をした?」


 遥斗は逡巡しゅんじゅんするも言葉が見つからない。


「簡単には答えられません」

 

「では眠ってもらおう」

 目の前が黄色く霞んだ。


「連れ帰るぞ」

 その言葉を最後に遙斗は意識を失った。




 遥斗はまた意識を失いました。

 

 読んで頂いてありがとうございます。


 転移、ハイファンタジーのワードで来て頂いた方は初めまして。

 この物語は1話から12話までが現実世界でのプロローグとなっています。

 ここから読んでいっても楽しめますが、登場人物紹介を作ったので、そちらを見て頂ければ大体のことが把握出来るかと思います。

 最初から読んでみようかなぁ、と思う方はネタバレになるのでご注意下さいね。

 またあらすじも変更しました。

 これまでのタイトルとあらすじを設定倉庫に置いておきます。

 これまでの展開のあらすじですのでご参照下さい。


 活動報告にリンクを貼っておきます。

 

 毎日更新しています。明日も午後5時、17時に更新します。

 よろしくお願いします☆


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