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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
セントラル編
138/148

上陸作戦

 日が暮れるまで砲撃が続いた。

 砲弾は基地敷地内に届くようになり、破壊された防護壁から内側に入ったラインでの有刺線の敷設作業が深夜にまで及んだ。

 翌日以降、集中砲火はなくなったがその存在を示すように弾着音と地鳴りが忘れかけた頃に鳴る。本部や兵舎、格納庫に直接被害はなくとも、緊張感の中で過ごしストレスを与えるには十分だった。ここは戦場なのだ。嫌でも認識させられた。

 不発弾の解析によって運動エネルギー弾の口径は155ミリだと判明した。大口径の戦車砲と同意程度の砲なのだが、砲撃を初体験する世界で大事おおごとだ。

 防護壁は放棄され、新たな区画整理がなされた。同時に直近の水門に火災を発生させる焼夷弾対策が取られ、別系統の水路の水門が開かれた。


 本山に報告を終えて戻った上層部に加え、焚哉、胤月を交えた対策会議が開かれている。

 アバターシュパイロットとして参加している、マサル、ハルト、綾乃は焚哉と胤月との再会の握手を交わす間もなく会議が始まっていた。

 キラナ方面連合軍本部。その上層部を構成するのはグランノルンの参謀とキラナの軍上層部である。

 作戦見積もりを含む対策会議いうよりも決定事項の上陸作戦のタイミングを図る、という内容の議題が進んだ。

 戦車隊を突入? 駆逐艦で兵を運搬? ノルマンディーになるぞ。機関砲は水平でも撃てる。手持ちの銃がまだない世界で生身の人間を突入させるなんて無茶だ。

「ちょっといいですか?」

 ハルトは議題の進行を止めた。

 怪訝な顔の参謀達。グランノルンに気を遣ったキラナの参謀が発言を許可した。

「この上陸作戦以外の可能性は協議しないのですか? 僕は反対です」

 参謀達は嘆息し、軽蔑の目を向ける。

「一介のパイロットの貴官に作戦そのものに意見する権限はない。意見が必要な場合はこちらから尋ねる。()()()()()に専念したまえ」

 己の地位を誇張するような、形式張った、重く、愚鈍な空気。

 ハルトの意見具申などなかったように会議は進む。

 連合軍は内部の組織形態が異なっている。キザイアの権限が大きいグランノルンとは違って階級と役職がものをいう世界だ。略綬の勲章を並べた胸元。襟元に連合軍の紀章を輝かせる上層部は軍属でありながら政治家の色合いが強い者も多い。

 開戦によって軍属に転向したばかりの政治家が多いのだ。旧ハシュタル派の政治家も汚名返上とばかりに入り込んでいる。寄せ集めの組織の中で権威の奪い合いになっているとも聞く。

 既に調整が済んでいるのだろう。粛々と議題が進んでゆく。マツスガ基地前面以外にも二ヶ所で長距離砲が設置され、量産型アバターシュの到着を待って一斉に作戦が決行されることが一方的に通告された。

 会議室を出たハルトは憤然を超えていきり立っていた。愚策だ、という思いが頭から離れない。強く足音を立てて足早に廊下を歩くハルトをカッツェが追い駆ける。

 本部施設を出た瞬間にカッツェが口を開いた。

「どうしたんだ? 焚哉に話しかけもしないで」

「あんなのは愚策だ!」

 こらえていた言葉が大きく出た。カッツェは周囲に誰もいないことを確認して、ひとつ息をついてから口を開く。

「ハルト、何でもお前の思う通りになるわけじゃない」

「そんなことは思ってない。けど、人が死ぬんだぞ。機関砲のある土手に船から降りて上陸するっていうのがどういうことなのか分かってないだろ。下手すりゃ全滅する。それがどれだけ酷い状況なのか想像してみろよ。吐き気がする」

「……なぁハルト、俺はお前がこの世界に来てからずっと一緒だ。だから分かるんだけど、お前は甘やかされ過ぎだ。アルフリード様やオーブ、王都に行ってからだってハルトの意見はほとんど通って来た。考え方をあらためろ。ここではお前は兵士なんだ。与えられた状況の中で全力をつくすことを考えろ」

 それが分からん男じゃないだろ? 頭を冷やせ。そう言われて尚更カチンときた。

「愚策に従って死ねっていうのかよ?」

 カッツェと睨み合った。初めてのことだ。

「俺はそのつもりで生きて、お前とノエルを守ってきた」

 カッツェの言葉は重い。思い返してみればカッツェが文句を言っているところを見たことがない。

 黙って歩くハルトにカッツェは「焚哉が教室・・を用意してくれたってよ。行ってみよう」と肩に手を置いた。


 焚哉が用意した教室という内密な話ができる部屋はカスタムアバターシュ格納庫の上部にある角部屋だった。

「やぁやぁ、お冠だねハルト」

 久しぶりに再会した焚哉にハルトはブスっとしたまま椅子に座り込む。

 マサルと綾乃が顔を見合わせる。

「ハルト勘弁してくれよ。階級は同じだけどここでは上官にあたる俺を飛び越して作戦そのものを否定するなんてありえない」

「悪かったよ。でも愚策だと思う。下手すりゃ歩兵の人達は全滅するぞ」

「愚策だと思うなら手順を踏んでより良い案を提案すべきじゃないかしら? ()()()()()()では前に進まないわ」

「焚哉はどう思ってるんだ? 胤月さんも納得してるのか?」

「あのさぁ、ハルト。僕達だって思いつきで動いてるんじゃないんだ。これでも精一杯やってる」

「それであれか?」

「はぁ? 人を馬鹿にしてるの? これまでだってこっちから侵攻しようって意見をどれだけ抑えてきたと思ってるんだ。砲の排除は必要なんだよ。河を使った輸送が止まったら経済が死ぬ」

「政治家みたいなことを言うんだな……」

「ハルトみたいにただ好きな物を作ってりゃいいってわけじゃないんだ」

「焚哉! 言い過ぎだ」

「ごめん、マサル君。とにかく戦力が整うまでにまだ時間はある。作戦レベルの変更で被害を少なくすることはできる。珠絵も来るし」

「撃てるとなったら来るんだな」

「ハルトくんっ」

「……ごめん……」

 綾乃の叱咤はハルトに響いた。

「悪りぃ、ちょっと借りるわ」

 カッツェがハルトを連れて外に出た。

 外に出た瞬間に拳が飛んで来た。鼻血を出して床に転がったハルトを見下ろし「今はこの部屋にいない方がいい。頭を冷やして来い」言い残して部屋の扉が閉まった。


 部屋ni戻ってふて寝をしようとしても射撃音が響いてくる。ビリビリと揺れる窓硝子の振動が収まると、コツコツ、小さなノックが窓で鳴った。

「フィレーネ」

「寒っぶ、ちょっと入れてくれる?」

 ハルトは窓を開け閉めしてから蜂蜜の瓶の蓋を開けてやった。フィレーネはハルトの鼻に手をあてて癒やし、蜂蜜を舐め終わっても、何することなくふらふらと部屋を飛んでは鼻歌なんぞを歌っている。

「なぁ、俺がおかしいのかなぁ」

「そんなことないよ」

「だよな」

「今までとあんま変わんない。今まではノエルやノーラ、ソフィーがハルトに分からないように雰囲気を変えてたんだよ。操縦してくれる人がいなくなって暴走してるだけ」

「――そっか……」

「ハロルドのとこにでも行ったら。訓練の時間まで」

「そうしてみるか」


 ハルトは研究棟のハロルドの部屋に向かった。ハロルドは荷物の整理もそっちのけで床に散乱した書類を拾いながら「あったこれじゃ」などと頭を捻っていた。

「爺さんには専用の側使えが必要ですね」

「おったらええがのう。贅沢も言ってられんじゃろうて。戦時なんじゃし」

 しんみりとしてハロルドは続ける。

「人間関係も作り直さにゃならんでの。守りの森の威光を笠に着るわけにもいかんで。実力を認めてもらわんことには贅沢は言えんよ」

「そういえば爺さん、アリシアのこと知ってたんですね」

「まぁの。あの娘が自分から会いにいくまでは伏せておいてほしいと言うもんじゃやから。自分でケリをつけたかったんじゃろ」

 やっぱ俺が甘えてるのかな。

「わしゃしばらくしたらここを出る。ジュリアンのとこに行こうと思うとる」

「やっぱり船に興味があるんですか?」

「ノーラ達と話し方とったらな、なんでか船を作らにゃならん気がしてしようがないんじゃ。それにここいら辺には湯も出んでじゃろう? ええ湯があるんじゃ。ジュリアンとこの近所に」

 なんかいろいろ考えるのが馬鹿らしくなってきた。やっぱ我が道を行けばいいんじゃないのか?

 格納庫に戻ったハルトは取り敢えずマサルと綾乃に謝ってから訓練に臨んだ。


 砲撃は止むことなく、敵哨戒機との小競り合いが続いた。

 哨戒機が飛び去ったマツスガ基地上空から量産型アバターシュを積んだ六機のカナブン型が降りてくる。ヘラクレス型はもとよりコーカサスも貴重種だ。最近になってヒラタやミヤマ型などクワガタ型、カブトムシ型の生産が始まっているのだが、カナブン型では出力が心もとない。関西重量がギリギリで冷却ライフルの運搬もできないのだ。

 急ピッチで進められていた機種の入れ替えは間にあわなかったらしい。元より量産型は砲身が機体全長の二倍近い冷却ライフルを支えられる腕力がないのだが。

 量産型アバターシュはカスタム型と比較すると出力が小さく行動半径も狭い。しかし数が増えるのはやはり心強い。キラナ方面軍アバターシュ隊隊長としてマサルが式典で着任を歓迎した。

 格納庫に並んだ量産型を見上げるハルト。装甲のパネル割がシンプルでグレー単色の機体にこれといった特徴はない。しかし並ぶと巨大な騎士が並んだような統一感がある。そんなことを思っているとパイロット達が寄ってきた。口々にハルトがファーストアバターシュを開発したことを讃え「後続機に汎用性を考えてくれたからこそ自分達も乗れるのです」などと尊敬の念を示した。それを受け取りつつハルトは、あー、今まではこれが普通だったんだ。でも今はひとりのパイロットなんだな、と自覚した。

 珠絵は地上部隊が詰める干潟に近いイセハマ駐屯地の配属になった。しかしマツスガ基地に土産を持ってきた。作業用ロボを持ってきたのだ。アバターシュのコクピットブロックに短い手足が付いただけのパワードワークマン掘削型は、基地の周囲に塹壕を掘り、無力化した壁に代替する設備を敷設してゆく。

「塹壕を掘るのか。まるで第一次世界大戦だな」

 ふと、つぶやいたハルトの言葉に。

「飛行機なんて第二次世界大戦じゃないですか。アバターシュなんて前の世界でも未知なものまで作っといて何言ってるんですか?」

 そっけなく言い残して、珠絵はイセハマ駐屯地に戻って行った。


 再びキラナ方面連合軍の作戦会議が開かれる前に、ハルトは『上陸作戦の効率化』と題したレポートを提出した。何度目かの提出後に司令部から呼び出しがあった。

 うるさがられたかな。

 感触がつかめないまま参謀達が集う会議室に入る。ハルトに理解を示す王都騎士団所属参謀の援護に期待を込めて。

「貴君からの進言を検討した。条件を変えてもう一度検討して再提出して欲しい」

 書類を受け取るとすぐに部屋を出された。しかし反応はあったのだ。自室に戻って書類に目を通すと、使用弾頭と武装変更が記載されていた。

 炸裂弾の使用及び、火薬を用いたカートリッジ式射出武装の使用。

 そうか、作ったのか。

 ついにこの世界に登場した火薬を用いた銃を使うことになる。

 使った場合に起こる現実をイメージする。目標は長距離砲。飛甲機ではない。バイオ弾は効かずない。物理的に破壊する必要がある。砲撃手を攻撃目標とするならば弓矢で射殺すのと差異はない。

 倫理感なんてない相手だ。そう思えばいいのか? でも人間だぞ。でやらなきゃ味方が死ぬ。俺が反対しても作戦は決行される。長距離砲を守備する高射砲も増えてる。時間が経てば経つほど航空隊の被害が増える。やるしかないのか。

 ハルトが懸念したのは駆逐艦への砲撃だった。バカ正直に正面から進行すれば上陸前に狙い撃ちされる。無残に血を流す歩兵の姿を見たくない。アリシアも作戦に参加するだろう。

 何かないのか?

 戦闘区域から離れた位置に歩兵が上陸して、有生多脚戦車の機関砲で敵歩兵に対処。アバターシュが囮になって対空砲を引きつけ、戦闘機が援護する爆撃機が爆弾投下、かな。

 けど士気が高いのはいいけど神風特攻を美徳みたいに捉えてるのはやっかいだ。地上軍の士官は精神論者だし。上層部がそれに感化されてる感もある。日本海軍の戦闘機乗りは優秀だったんだぞ。初期のパイロットが使い潰されるまでは。

 けど今までのフェアな戦いっていうか騎士道精神にのっとった戦争っていうか、そういう意識の上で考えるとそうなるのかも。それが通用しなくなる。これからは大量虐殺になるぞ。

 あー、そうか。パイロットや兵士の育成期間や熟練兵の価値を上層部に説けばいいのか。人的損失の長期戦への影響を数値化して見える化すれば。前世でも国が傾くほどの大量殺戮が戦争で行われたのは第一次世界大戦が最初なんだ。この世界の人達はまだ体験してないから頭では分かってても実感が持てないんだ。

 ハルトはマサルに相談し、学園の時間を作ってもらった。本山に戻った焚哉にも連絡を取って欲しいと頼んだ。

 珠絵は「忙しいんで」と来なかったが、焚哉と胤月も参加して転移の事情を知るメンバーが集まった。

 ハルトが提案した作戦にマサルや焚哉は大筋で合意した。綾乃が熟練兵損失の数値化をかって出て「将来起こりうる事態を数字と図で示せばいいのよね」と請負い、航空隊パイロットに『生き残ることこそが勝利に繋がる』という認識を広める件はカッツェが「カエラと協力してやる」と申し出た。胤月は珠絵の戦車隊が改修している砲まわりの装甲の強度増強を約束し、大橋や本山警護の任に就く予定の量産型アバターシュを作戦に投入できるようにも計らう、ということになった。

 事前協議を重ね、ガッチリ作戦見積りを組んでゆく中、グランノルンからの援軍派遣が知らされた。手薄になる基地自体の防御や本山に戦力を回して貰えることになると上層部はアバターシュ隊の提言として作戦内容の変更を認めた。

「ハルト、キザイア様に感謝しろよ。王都が襲われたらまた血を吐いてフォルマージュに乗る気の采配だぞ、これ」

「そうだな。俺達も堕とされないように気をつけよう」

 微妙に噛み合ってない。

 それでも意思疎通ができるようになったハルトを回復させていったのは量産型を含めた訓練だった。

 量産型のパイロットはみな若い。マナを扱う量は低くても機体への順応が若い騎士の方が早いのだ。これからを担う世代に生き残って欲しい。そう思いながら何度も想定される状況を繰り返し、体と意識に叩き込んでいく。それに連れて自分も自信を取り戻していった。

 ハルトが指揮を取る戦域への配置が決まったパイロットとの絆が生まれ、さらに訓練の密度に拍車をかけた。

 ある時、他領出身のパイロットに壮年とも言えるオーブ・アントナーラがカスタムに搭乗していることについて忌憚のない意見を聞いてみると「あの人は異常です。順応速度だけを取っても私達よりも能力が高い」と、化け物でも見るような目で語る。そのパイロットが秘訣を訊きに行った時にオーブは「気合と信念だ」と答えたという。精神論を否定し操縦技術を磨くこと優先するようにアドバイスをしたハルトだったが「慣れと技術が自信を生む」という考え方は実戦経験の少ない若手に受け入れられた。ハルトのところに質問に来るパイロット達を失いたくない、という気持ちが大きくなってゆく。

 絶対に損害を出させない。

 決意を込めてその日を迎えた。


 上陸作戦が実行に移された。

 長距離砲敷設区域は三ヶ所。

 それぞれの区域の長距離砲六門と高射砲の破壊、歩兵の殲滅を目的とする。

 川下の干潟地区を綾乃、大橋下流をハルト、マツスガ基地前面をマサルが受け持つ。

 それぞれのカスタムアバターシュに二機の量産型が組入れられたサポート機を含むアバターシュ一個小隊、戦闘機十六機一個中隊、護衛戦闘機を含む爆撃隊が各区域の機動部隊となる。

 水上軍艦船との合同作戦を取る地上軍は、夜間のうちに戦闘区域外左右に上陸。戦車を先頭に挟撃しつつ敵歩兵をおびき出し通常戦闘に入る。干潟の上は特殊な環境なので別になるが河川敷は広い。マツスガ基地前面と大橋地区は通常の地上戦と遜色ない戦闘形態をとる。干潟区域の戦車隊の戦力を厚くしてバランスを取った戦力がそれぞれの作戦区域に集結、陣を構えた。歩兵を新月の闇に紛れて運ぶため、陣は森の中や川辺りの街中に敷かれた。マツスガ基地前面は直接の出撃になる。

 ハルトの受け持つ大橋地区のブリーフィングにアリシアの姿は無かった。マサルが受け持つ基地前に配置されたのだろう。

 綾乃、珠絵が参戦する干潟の歩兵輸送には大型飛甲機が投入される。これも本国からの増援だ。「運河となっている河川と干潟を制圧されると、大量の歩兵による侵攻を許すことに繋がる」ハルトが思った以上にキザイアはこの作戦を軍事戦略上重要な位置においていた。自分の認識不足をあらためて感じたが、作戦行動に入れば目の前で起きることに集中するしかない。油断は死に繋がる。コクピットでその時を待つ。


 夜が白むと同時にときの声が上がった。松林の中に身を隠すオーディーンのコクピットパネルに視覚映像を出す。長距離暗視カメラを通して送られてくる視覚情報には、砲近辺に敷設された軍用テントの中から慌てて盾に槍や剣を持った敵歩兵が出陣していく姿があった。後続の兵が隊列を組んで河川敷を左右に進軍を開始した。

『戦闘航空隊及びアバターシュ隊、出撃』

 進発命令に飛行ユニットを臨界させる。

 アドレナリンの空に、飛んだ。

 

 対岸の河川敷に到達するのと敵航空機が戦域に現れたのはほぼ同時。キラナ方面連合軍第二戦闘区域司令官の出撃判断は的確だった。作戦レベルの指揮官は生粋の軍人だ。

 戦闘機の数は互角。ドッグファイトに持ち込ませない連携が機能している連合軍側が優勢。アバターシュ隊が高射機関砲の射線を引きつけながら寄ってくる敵戦闘機を堕とす。オーディーンの右腕から新型火薬式ガトリングが火を吹き、ロッキ型の頭部を潰してキャノピーが鮮血に染まった。

 感傷に浸る前に高機動型が出てきた。ハルトはエースマークの赤星がいないか探す。

 いた。

 敵のロッキ型を友軍が堕とす中、カッツェのサジウスが降下しオーディーンが弾倉を掴む。上空でハルトの動きを把握しているカッツェは補給要請をしなくても絶妙のタイミングで降りてくる。友軍の戦闘機が煙を吐きながら高度を下げてゆく。キラナの機体だ。パラシュートの華が咲いた。

「高速型が手強い。GK-03(ジーケースリー)対応できるか?」

 量産型はコードネームで呼称される。GKはグランノルン・キラナ連合軍の略称に当たり、ハルトの僚機は03と04になる。コードナンバーが白く左肩に塗装されている量産型から『了解』の通信。

 機関砲の引きつけ役は両サイドの重要度が高くハルトは川下の左翼を担っている。高射砲を誘導し地上部隊に向けさせないのと同時に、戦域を拡大して中央空域を手薄にするためだ。中央空域を受け持つ量産型に高速型への対応を命じつつカッツェに通信を入れる。

「高速型を叩く。機関砲の撹乱を頼む」

『はいよー』

 ちっ、ガトリングが安定しない。

 高熱を発する火薬式は精巧な作りを求められる物だ。導入されたばかりのそれは安定感に欠けていた。しかし破壊力が高く射程が長いことは敵のパイロットに恐怖を与える。牽制としては十分機能する。敵機が旋回。その先に盾を装着した左手の袖下から煙幕弾を撃つ。戦域のはじに位置する空域特性と風下を利用したハルトは高度を下げて敵の視界から外れる。煙幕から出た高速型の腹にガトリングを至近距離から連射。黒と黄色の細長い機体が痙攣した。飛散した翅やガラスの中でパイロットのちぎれた腕や体が落下しいく。

 気にしてたら自分が落とされる。

 即座に周囲の状況把握に入る。

 至近距離下方。ロッキ型を確認。友軍航空機は上空で旋回中。

 いける。

 オーディーンを加速。訓練に慣れた体がGに耐える。機体の過負荷を自身の痛みとして感じながら急制動をかける。ロッキの背中にパイルバンカーを打ち込んで離脱。

 すぐさま視認に入る。赤星に量産型が翻弄されている。

「高度を上げろ。上空で抜刀。俺が追い込む」

 敵からしてみれば不可解な動きでGK-03が上昇する。ハルトが旋回する高速型の下を撃つ。敢えて外した射線を避けて上昇する敵機。上空にはロングソードを構えたGK-03が待ち構えている。しかしそれもかわされた。

 二機のアバターシュを翻弄する敵のエース・パイロット。

 ハルトは量産型と入れ替わりながら執拗に接近を繰り返して挑発を継続。

 ここだ。

 ハルトは第二次攻撃隊の発進を要請した。

 いくら足が早くても撃ち尽くせば補給が必要になる。エースが補給に戻れば戦闘区域の戦力が極端に下がる。それを見越してタイミングを伺っていたのだ。補給に下がる敵機を追うように戦闘機に護衛された爆撃機が進行する。

 アバターシュが高度を下げる。敵陣に接近して高射砲を引きつける。盾から着弾煙が上がった。ガトリングを撃ち尽くすまでトリガーを引き付け続ける。

 もうちょいだ。

 先行して投下された油脂焼夷弾が炎を上げ、射撃手や砲撃手が退避する中、本格的な爆撃が始まった。



空回る秋に油断が人を殺してしまう環境。

それでも前を見続けるハルト。

次回 「己が作りしもの」

週明け月曜日の投稿になります。良い週末をです。

週明けから6月ですね。梅雨入までは良い季節です。楽しんでいきましょう。

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