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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
セントラル編
137/148

前線基地

 暖房を入れるようになったハルトの執務室の扉にノックが鳴った。

 第二開発工房の執務室はパイロットとして駆り出されることが多くなったハルトの代わりに、アバターシュの生産・改良を進める技師達の本部という趣になりつつある。内側に立つ警護の兵士が扉を開ける。すると「ハルベルト様に辞令をお持ちしました」という馴染みの伝令兵の声が聞こえた。

 席から立ち、歩み寄ったハルトは「ご苦労様です」と一言添えて、辞令を受け取る。

 革表紙の騎正式なファイルの中にはキラナ前線基地への異動命令書にブリーフィング場所と時刻が記された書類が添付されていた。

 その行為を何気に気にしている様子の技師達に声をかけてた。

「みなさん、異動辞令が出ました。僕はアバターシュのパイロットとしてキラナの前線基地に勤務になります」

「ついにきたか……」

 予想されていたとはいえ、アバターシュ開発初期から共に過ごしてきた技師らの顔は総じて明るくない。

「お気をつけて」「ご健勝を」「ハルトさんの意思を引き継ぎます。これまでありがとうございました」

 口々に述べられる言辞ことばに寂しいような、これまでやってきたことを讃えられているような複雑な気持ちになった。まだ異動までは数日ある。引き継ぎの段取りをしてブリーフィングに向かった。

 エレベーターで地下に降り、格納庫付近のブリーフィングルームに向かう。指定された施設はアバターシュチーム全員でミーティングする場合によく使われるブリーフィングルームだ。現状王都に駐留し実戦に出ているカスタムアバターシュは10機。後続も続々ロールアウトしてくる。それに加え量産型のロールアウトも始まっている。パイロットは候補生を含まなくても三十人以上になる。機体とのマッチングを問わない量産型のパイロットは養成をかねて正副二人が配置されているためだ。キラナ前線基地への戦力分散によって中隊編制も変わるはずだ。その説明が主になるだろうとハルトは予測している。

 案の定、量産型を含めたアバターシュとサポート機の全パイロットが招集されていた。ハルトは進行を担う士官の指示に従って最前列に腰を降ろした。マサル、ハルト、隣にオーブを挟んで綾乃がいる。後ろにはカスタムのパイロット、量産型のパイロットが列を作り、アバターシュのパイロットとは別にサポート機のパイロット達が席を並べている。

 マティスを伴ったキザイアの入室に全員が起立。敬礼。異例の女性総長自らのお出ましに緊張が走る。壇上にキリッとした美貌が立った。

「知っての通り、キラナの前線基地が稼働可能な状態になった。イーシャがニンディタの首都に兵力を集結しつつあるという情報も得ている。キラナでの防衛活動は本土防衛と同義だと思って欲しい」

 キラナに異動するパイロットと機体が発表された。マサル、ハルト、綾乃、カスタムからは以上だ。これに量産型が順次投入される。アバターシュ隊は三機で一個小隊。カスタム1に量産型2が基本形態となり、一個中隊にあたる三個小隊がキラナ方面への移動となった。

 王都及び各領地への配属を考えれば妥当な戦力と言えるだろう。量産型を凌駕するカスタムアバターシュは王都だけではなく他領地の決戦兵器でもあるのだ。順次ロールアウトが予定されている量産型は時間の経過とともに王都防衛に必要な数は間に合ってくる。マサルの副官とカッツェ、カイラのサポート機パイロットの選出も順当なものだ。しかし綾乃の前線異動には納得しかねるものがあった。

 あくまで個人的な感情だと分かってはいても釈然としない。

 ハルト達が抜けた後の新体制が伝えられ、キラナ方面連合軍マツスガ基地のアバターシュ中隊隊長をマサルが、グランノルン連邦軍王都守備隊の指揮をマティスが取ることが告げられた。

「以上だ。諸君らの健闘に期待する」ブリーフィンは質疑応答の時間を取ることなく終了した。

 異動組と残留組に分かれてブリーフィングが開かれる。新基地司令を担う人物から航空隊の編成と戦車隊の移動が告げられた。航空隊は二個大隊にあたる一個旅団96機の大がかりな移動になる。これに爆撃機が加わる。

「敵の新型兵器の投入次第ではさらなるキラナへの戦力集中の可能性もあり得る」

 キラナが戦場と化すことを感じざるを得ないブリーフィングにハルトの個人的な感情も収まったかにみえた。しかしマサル、綾乃、カッツェと新教室に入り、ノーラやノエル、珠絵、ソフィーと合流すると個人としての気持ちが浮き上がってくる。

 切っ掛けになったのは珠絵が王宮に残ることだった。戦車隊を率いて出身国に戻るだろうという予想が外れたハルトが理由をいても「やるべきことがあるので」の一言だ。理由を問い詰めたいという気持ちを何とか抑えた。

 ノエルも王宮の研究室勤務のままだ。身の安全を案じるノエルにカッツェは「だいじょうぶだぁ」とおどけてみせる。ノーラが皆に聞こえるようにマサルに声をかけた。

「マサル、頑張ってね。クサっちゃダメだよ」

 どういうことなのかと疑問を持ったハルトだったが、理由はすぐに分かった。騎士団の頂点を目指す男としては本土防衛の司令としてキザイアの側に残るマティスに軍配が上がったことになる。

「焚哉の国だろ。俺達が行くのが当たり前だ。キザイア様の配慮だと俺は思ってるよ、俺は。それにキラナを守るのは本土を守るのと同義だ。俺もそう思う」

「よしよし」

 マサルの頭を撫でる手を「よせやい」と言われながら解かれてもノーラの口は止まらない。

「綾乃ちゃんもがんばってね」

「私も自分がやるべきことをやるわ。詩の解析をお願いね。ノーラ」

「うん、ノエルと頑張るよ」

 転移組が二つに分かれるのを実感したハルトは、その時になって初めて、かたくなな態度をゆるめて、残り少ない時間を大切にしようと思った。


 航空隊から先行して移動が始まり、アバターシュとサジウスも順次キラナに発つ。マサルの次にハルトが移動する日が来た。オーブ、ノーラとノエル、ソフィー、綾乃に見送られて上空に出る。ハロルドも綾乃と共にキラナに移動する。船舶の改良アドバイザーとしてキラナへの赴任が決まっていた。

 珠絵にもちゃんと挨拶してくればよかったな。

「聞こえてるぞ、ハルト。まぁ気にするな。お互い自分正しいと思うことをやってりゃいんだよ」

「そうなのかねぇ」

「まぁ、心機一転だ。新天地で俺達にやれることをやろうや」

「そうだな。キラナには世話になったしな」

「だろ。また飯が美味いぞ」

 航空機二個小隊に護衛されたサジウスが大空に飛行機雲を引いた。


 キラナには二つの基地が作られている。ニンディタと接する国境付近なのは同じだが中央部のマツスガ基地と河口の干潟横断に対処する主に地上部隊が駐留するイセハマ駐屯地の二つだ。

 機動部隊が駐留するマツスガ基地は、河川より少々奥まった位置にある。しかし引き込み水線により船舶の出入りも可能な基地となっていた。川幅が狭い水路と大河と接する水門にも守備隊が置かれているので船による侵攻を憂慮する必要はそれほどない。

 元々はキラナの市場だった土地を国が買い上げた敷地は平坦で広い。強制退去を伴った基地建設に反対の声は上がらなかったということだ。自国の安全のために協力する意識が高いことが功を奏したと基地司令から説明があった。

 売店など仮設のまま残っている部分もあるが、本部や格納庫など重要施設は防空対策が行き届いている。宿舎も簡素だが清潔で居心地がいい。王宮暮らしが長くなったハルトにとっては逆に気を使わなくてもいい懐かしい感じがした。

 肌寒くカラっと晴れたグラウンドをカッツェとランニングをしていると「ハルトさんにご来客です」キラナの士官に呼び止められた。キラナは軍属も坊主頭なのですぐに分かる。

 宿舎の共用応接室に入るとそこで待っていたのはジュリアンだった。再会の握手を交わすとハルトはハロルドはまだ来ていないことを告げる。

「今日はハルトさんに用があって来たのです」

 ジェット船開発の立役者であるジュリアンは軍属でなくともVIP待遇らしく、通行証もフリーに近いものを持っていた。ジュリアンに連れられて馬車に乗ると港湾地区に入ってゆく。

 港には就航したばかりの駆逐艦が入港していた。船首甲板に海軍士官の白い制服を着た女性が立っている。ハルトに向けてキラナ水上軍式の敬礼をした女性が制帽を取ると、紫紺しこんの髪が風に流れた。

「アリシア……」

「会ってあげては貰えないでしょうか?」

 言葉に詰まったハルトは動揺しながらも承諾する。

 軍艦色のポートサイドから降りてきたアリシアが近づいてくる。

 おかっぱに切りそろえられた髪型を初めて見るハルト。しかし白い肌と涼しげで優しい目元は変わってなかった。失われた時間が突然埋まってゆく感覚に動揺しつつも、かけるべき言葉は決まっていた。

「無事でよかった」

「本当に、ごめんなさい」

「いや、もう気にしてないよ」

 気まずいながらも笑顔を作ろうとする二人を見て。

「では、私はここで」

 ジュリアンが馬車に戻り、二人で歩いた。

 船員の視線が気にならない程度まで離れるを諦めて、船から死角になる護岸の木を背にして腰を降ろした。朝夕冷える季節になっていても日差しが暖かく心地いい。


 腰まで届いていた緩やかな艶の流れを見ることはもうできない。白い制服の肩の上で切り揃えられた端正な横顔。

 水路を渡ってくる風が頬をなで、光の粒を輝かせる水面を揺らす。忘れてしまっていた、二人の間には流れることの無かった時間が動き出す。


「愚かでわがままだったと思います」

 後悔と懺悔。過去の告悔(こくかいとも取れる言葉が途切れた。まだ何か言いたそうなアリシアを見つめる。こみ上げてくる懐かしさと、あの頃の光と痛みが入り混じったような。そのままハルトは言葉を待った。

 絞り出すようにアリシアは言葉を落とす。ハルトから離れる決意をした理由を、抑えきれない震えと共に。ハルトが知らなかったアリシアの真意。

「もっと早く伝えて、謝りたかった」最後に加えたアリシアにハルトはどう応えていいのか分からない。それでも。今の想いを声にした。

「――今の俺が言えることはまたこうして会えたことが嬉しい、っていうことだけだよ。もう乗り越えたってことだよね」

 自分に言い聞かせるためにも言葉にして。許した。

 風が耳元を触ってゆく。それがこれまでの時間を拐ってゆくように願って、今の話に話題を変えた。

「ところで何でキラナ水上軍の制服なの?」

「私に出来ることが何かを考えた結果なんです。ジュリアンの家に養女に入ってキラナの国籍を取りました。あの新しい船を作ろうと思って」

 白く細長い指を差すアリシアの先には、駆逐艦と呼ばれるジェット推進の大型クルーザー。

「そういうことだったのか。飛甲機の原理を知ってれば応用できるもんな」

「ある人が力になってくれたんです。腐っていた私を叱咤しったしてくれて。自分のやりたいことをやって、ハルトさんに笑顔を見せてあげればいい、と」

「そっか」

 この世界の腐った女子はBLを読むのだろうか? そう思える程度には復活したハルトは一瞬よぎった思考を捨てて言葉を探す。

「駆逐艦はすごく大きな戦力になる。大きなことを成し遂げたね。そしてこれからはまた仲間だ。あらためてよろしく」

 差し出されたハルトのてのひらを、アリシアはためらいの間をおいて取った。華奢で冷たいアリシアの手の感触に「手が冷たい人は心が優しいのよ」逆に言われたことがあったのを思い出した。

「それにしても飛甲機だけじゃなくて人型まで作ってしまうなんて。()()()()()()

 最後の敬語を軍人の口調のそれにして、今の関係を自分に自覚させるようにアリシアは言う。私などでは到底思いつかない、と。

「成り行きっていえば成り行きなんだよ。向こうの世界の仲間が何人かこっちに来てて。そういえばキラナの聖人様も仲間なんだ」

「えっ、タクヤル様もなの」

「知らなかったか。そんじゃこれは内緒ね」

「ええと……」

 何かを躊躇したように見えたアリシアは「もちろんです」と言うに留まった。「変わらないですね。ハルトさんの優しいところは」そう言って明るい顔に切り替えて見せた。

「私もがんばります。ハルトさんもお気をつけて」

「うん、アリシアも気をつけて」

 立ち上るアリシア。機敏な動作で向ける水上軍の敬礼。ハルトは騎士の敬意を込めて胸に拳を当てる礼で返す。同じ所に立ってはいても所属する国と組織の確固たる違いがそこにはあった。また、二人で歩いて接岸する船の前まで戻った。

「艦長、お帰りなさい」

「ただいま戻りました。予定通り出航します」

 下士官に指示を出すアリシアに動揺や迷いは見えない。そのまま水兵服の背中が軍艦色の船の中に吸いこまれていった。

 強くなったんだな。

 馬車に乗りながらハルトは思う。

「ジュリアンさんとアリシアが兄妹けいまいになったということなんですね」

「そうですね。逆に弟がジェルマンの息子になりました。お忙しいと思いますがハロルド様がこちらに来られたらハルトさんもご一緒に食事でもできたらと思います」

「アリシアの体は大丈夫なんですか」

「とくに問題はありません。動き出してから方が健康なくらいです」

「そうですか。よかったです」

 私の我が儘を聞いて下さってありがとうございました。宿舎前で馬車を降りると頭を下げられ「こちらこそありがとうございました」と礼を述べて宿舎に入った。本人の前では平静を装っていても、まだ大波に揺れる気持ちに整理が必要だった。ハルトはそのまま自室に入り、まだほどいていない荷物から零号機の絵を出してただ、眺めた。


 綾乃が合流しグランノルンからの兵力の移動が一段落ついた。無理やりつけられたというの方が正しい状況は量産型アバターシュの移動が整備体制が整い次第順次に変更となったからである。予備パーツの振り分けに変更が出た。というのが表向きの理由だが実際には上層部の状況把握不足に起因した事態だった。

 

 それでも日は落ち登る。訓練と哨戒活動を行いながらの基地での生活にも慣れてゆく。

 定時の交代を控えた哨戒機が国境方面に小さくなってゆく。

 同盟破棄という愚行に出たニンディタとの国境は河川域の中心とされ、ギリギリのラインを飛甲機が常に哨戒している。民間の交流もかなり減ったという。しかし小舟を使った不法侵入が絶えず、駆逐艦が活躍しているとも聞いた。自警団の活動も活発で清右衛門のような侍が住民を守り、国防にも草の根で協力していた。

 カスタムアバターシュの格納庫に馬を駆った伝令兵が入ってきた。古式ゆかしい伝達だが無碍むげにはできない。

「緊急招集です。ご同行願います」

 キラナ方面連合軍本部施設の会議室に入ると航空隊を含む機動部隊に加え、素性軍、地上軍の上層部も招集されていた。アバターシュとサジウスのパイロットは全員招集がされている。

 基地司令が前に立った。

「哨戒機から連絡があった。対岸に大きな砲を積んだ馬車が続々と到着しているとのことだ」

 敵陣営が大口径の砲を対岸に設置しているという。話を聞く限り対空砲ではなさそうだ。しかし圧縮空気を使った砲では飛距離が足りないはずだ。

「念のために防護壁の起動を水門に指示した」

 水門や基地の周辺国境側は防護壁を上に伸ばせる仕様になっている。全ての壁を持ち上げるのに半日もかからないと聞いていた。果てなき泉と水面を接していない河川に大型船が急に増えることはない。基地に襲来するとしたら飛甲機だろうと予測できる。

 航空隊に臨戦態勢に移行する旨が伝えられ、アバターシュチームも宿舎を格納庫内に移す体制を取ることになった。

 カスタム型と量産型は整備体制の違いから格納庫が別になっている。インドラは本山配備のため基地には配属されていない。格納庫の個室に私物の移動を終えたハルトがオーディーンの武装をチェックしていると、ドーン、爆発音が鼓膜を震わせして地面が揺れた。至近弾ではないが確実に弾着の揺れだ。

 警報が鳴り響く。

 すぐに伝令兵が入ってきた。

「侵入を許したのか? どこだ?」

「水門付近の護岸です。対岸からの砲撃とのことです。出撃体制を取って待機願います」

「もうできてるって」

 カッツェはサジウスのタラップを上がりきったところだ。ハルトもパイロットスーツに着替えている。巫女服系のスーツを着た綾乃もハンガーの階段を登り、カイラがサジウスを起動。オーレイとサジウスはもちろんスタンバっている。

「さすがですね」伝令兵が言って格納庫の外に出て手旗信号を送った。

 マサルが司令室と通信を繋いで共有した。

「敵航空機が確認されるまでアバターシュ隊は待機」

「了解」

 起動状態で待機する三機のアバターシュとサジウス。

 発砲音が続いているが弾着の感触はない。そのまま起動待機継続の指示が出た。

「敵機の存在は確認できず。砲撃のみの攻撃だと判断する。哨戒部隊と司令部、機動部隊での通信ミーティングを行う。観測機、状況を述べよ」

「対岸に六つの大砲が設置され、対空砲がそれぞれに二門ずつ設置されています。今撃っているのは大きい砲です。撃つと砲から大きな音と共に煙が上がります。すさまじい飛距離です。今は河の水面に落ちていますが護岸に近いところです。水しぶきが高い。かなり重いものを飛ばしていると思われます」

「駆逐艦にこの区域に近づくなと伝えろ!」

「砲の角度を上げています。発射しました」

 少し遅れて二つの発砲音が届き地面が二度揺れた。

 着弾したな。

「二発目に弾着したものは比較的衝撃が小さいですが煙と炎が上がりました」

 単純な運動エネルギー弾の他に弾頭を起爆させるタイプがあるってことか。焼夷弾だとしたら燐焼系か発火性油脂なのかも見極めないとだな。

「マサル、発言いいか」

「いいぞハルト」

 ハルトは発射の時間的間隔を正確に計測するように司令部に求め、アバターシュによる威力偵察を進言した。機動力の高いアバターシュで出るとハルトが押す。

「しばし待て」

 司令部が検討している間に回線を切ってアバターシュの間の別回線を開いた。

「兵器の威力と弾の種類、設置体制を把握しておいた方がいい。俺達が見たほうが分析が早い」

「そうだな」

 マサルは同意した。皆初めての体験なのだ。未知の状況に対処してきた経験値はハルトの方が高い。アバターシュ隊の隊長であるマサルもそれを認めている。

「司令部よりカスタムアバターシュ各位。威力偵察を許可する。そう簡単に方位は変えられんようだ。一旦基地上空で高度を取って射線を確認してから接近。対空砲に注意を怠るな。航空隊は第一中隊16機を進発。アバターシュ後方で待機だ」

「よしハルト、綾乃、出るぞ。サジウスは上空で待機」

「何だ置いてけぼりかよ」

「綾乃様、お気をつけて」

 カッツェとカイラの反応は真逆ようで、俺達も連れて行けと言っていた。

 離陸後、高度を取って河川方面を見下ろすと、山なりになった射線が六ヶ所から伸びてくる。中央の二門は水門に集中砲火しここに燃焼系砲弾。残りは基地に対して運動エネルギー弾を軌道を測りながら撃ってくる。

「試射してる感じだな」

「マサル、飛距離が伸びてる。基地の重要施設が奥にあるとはいっても港が使えなくなる。近づいて砲を見てみよう」

 受け持ちの区域を決め、ハルトは下流の砲に迫った。国境線を越えているが戦闘中だ。平時でも攻撃をしかけてくる敵への戦闘接近は国際条約に抵触しない。射角を確認しながら側面から近寄り砲の映像を拡大する。

 前装式ってやつか。

 砲塔前部から弾を込める前時代的な大砲だが、それは火薬の使用を意味している。ならば耐久性、信頼性においては悪い選択ではない。アバターシュのカメラ機能はパイロットの生体機能とリンクしているゆえ画像保存はできないのだが拡大縮小は自在。ズームして見ると弾の口径は人との対比による推測だが150ミリ程度と推定される。

 対空砲火が上がってきた。距離があるため盾で受けると煙があがった。

 こっちは炸裂弾か。口径がデカい砲はハンドルをまわして方位と角度を変えてるな。射出用の火薬の種類も何種類かありそうだ。射程がどこまで伸びるかだな。けど基地施設には届かない。さすがに距離がありすぎる。水門に撃ってる焼夷弾は燐焼系だな。コンクリート系の作りで良かった。

「マサル、大体分かった」

「了解だ。敵機の存在も確認できない。一旦引こう」

 ガトリングとソードが主な武装のアバターシュでは砲を破壊できない。

 発射音が響く中、アバターシュとサジウスが航空隊を伴って帰還した。


アリシアとの再会と交戦への突入。

秋の揺れる変化の季節が固まってゆきます。

次回 「上陸作戦」

明日の投稿になります。

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