ルドラクシアの神殿
夜中に目を覚ましたハルトは塔の階段を降りる。
時計塔の中には飛龍が守座する屋上に通じる螺旋階段が延々と続いている。女子は男子よりももう一階層上の螺旋階段に挟まれた浮島のようなフロアで寝ていて、塔の壁には窓がないので外に様子は分からない。しかしマナで満々ているらしく薄らほんやりと青く光る塔の中は夜でも歩ける程度の明るさを保っていた。
アバターシュやサポート機を収納している階層から森と森を隔てる巨壁の最上部になる通路に出る。その通路自体にもベランダのように腰上まである壁に頬杖をついて、ノエルが延々と続く森を見ていた。
「あ、ハル。見て」
ノエルが指を指したのは円形に大地を囲む内側の森。夜の森を蛍の光がデコレーションしたように森の木々に明かりが灯り、ゆっくりと点滅しながら動いていた。ふらり、ひとつの光が時計塔の壁に取り付いた。
巨大すぎて直線に見える壁の外側にせり出して建つ時計塔は、どこまでも続く緩やかな曲線の壁に窪み、食い込んだ高い塔の壁面が通路から見える。ちょうどバルコニーの角に立つような感じになっているハルトとノエルに小さな光が塔の壁に沿って近づいてくる。その光はフィレーネだった。
「マナが強すぎて塔の中にいると酔うんだって。それに仲間もいるし」
深遠な夜の森。その木々のシルエットを際立たせて点滅する光。それは全て妖精が放つ光だった。夏夜の朧げで儚い蛍の光よりも生命力にあふれた光が点滅し、移動し、闇の帳が降りた森の形を浮き上がらせているのだった。
「すごいな。――綺麗だ」
空に大河を流す星の瞬きにも似た光の協奏曲の中心には、人工的な赤い光が柱を立てている。
「あれが神殿なんだな」
「ルドラクシアの神殿、ってラフィー様は言ってたね」
ハルトは生理現象を忘れて見入ってしまった。赤い光の柱からは赤い貴石から受けるのと同じ感覚が伝わってくる。ここから見るとまだ小さいのだが、神殿は王宮と同じくらいの広さだと聞いている。小さな街なら入ってしまう面積の光を立てる神殿とは一体何なのだろう? そう考えたくもなる光景だった。
ノエルは戦闘開始前から時計塔の中にいた。運び込まれた傷ついた白狼や巨木の枝から救助された胤月の癒やしにあたっていたので森の中には降りていない。
「時計塔のマナの力がすごかったにしても、癒やしに精力を使ったフィレーネにも楽しみがないとね」
腕の骨折を急激に癒された胤月は「まだ休んでいた方がいいのに」というフィレーネの助言を押して明日の神殿探索に参加することを宣言していたりする。
「竜の骨、貰えることになってよかったね。――これでまたカスタムアバターシュが増える」
赤い光を放つ神殿をしっかりと見据えているノエルは、そう言いながらも心は踊っていない。
「ノエルは貴石の研究をしたいだんよな。ほんとの意味での」
「そうだね。フォルマージュからの流れでアバターシュを作ったりすることになったけど、本来はもっと別の使い方があったと思うんだ」
ノエルの父は、人や獣人が使ったという古の魔術の復活を目指して研究を続けてきた。ノエルもその意思を継いでいる。夜が明けたら向かう神殿で「拾える石なら持って帰っていい」飛龍の言質を取ったノエルの意気込みをハルトは讃えた。
「明日が楽しみだな」
貴石を持って帰えれたとしてもフォルマージュの物理外装化と飛行ユニット装着という仕事に従事することになるノエルに「早く自分のやりたい研究に入れるといいな」と声をかけたハルトにもフォルマージュ順応訓練が課せられる。黒騎士マティスのフォルマージュを操れるようになっておけ、とキザイアから命を受けているのだ。
フォルマージュのコントロールの中心を担うコアの貴石はパイロット個人と呼応する。専用機として生み出されたフォルマージュを他のパイロットでも使えるように改修するのがノエルとノーラに課せられた新たな使命なのだ。カスタムアバターシュのフレーム素材になる竜の骨を確保した今でも明日の神殿探索が大きな課題として残っている。
「赤じゃない貴石もあるんだって。すごく楽しみ」
「俺も楽しみだ。どんな所だか想像もつかないけど。でももう遅いからそろそろ寝たほうがいいよ」
ノエルを塔の中に見送ったハルトは通路を少し進んだ。壁の外側に流れ出る滝に続いているだろう排水溝にむけて用を足す。壁の外側より内側の方が地面の位置が高い。壁の半分ほどの高さがグランドレベルになっている川が逃げ場のない石の壁にぶつかかって滝となって外側に流れ出ているらしい。なんでそうなってるだろう? 取り留めもなく考えていると、ふと何かの気配を感じて振り向いた。
「誰だっ!」
言い放ったのは壁の向こう。内側の森の上に焔をまった赤い女がハルトを睨んでいた。赤と黄色の炎につつまれた禍々しい女が空中に浮かんでいる。
人じゃないな。壁の中には入って来れないみたいだ。
「ハルトっ、離れろっ」
時計塔から金髪をなびかせて幼女が走り出てきた。
ラフィーに向かって走り出したハルトと並走するように焔を揺らめかせる赤い女が壁の向こうで悠々と浮遊して追いかけてくる。
ひゅん、一瞬にしてハルトを追い抜いた女が高度を上げ、時計塔の壁に向かって炎の弓矢を引いた。ちょうど女子が寝ている部屋のあたりだ。金狼の姿になったラフィーが飛びかかる直前に至近距離から放たれた矢が壁に接触する。と同時。壁の表面に現れたグリーンの魔法陣に矢が吸い込まれた。
ちっ、舌打ちした女がラフィーを回避。怨嗟の目をハルトに向けた。上空から強いが吹き付ける。
「中に入りなさい」
飛龍の声に、駆ける足に鞭打つハルト。時計塔に入ると風の音と振動が嘘のように消えた。入り口に見えないマナ壁があるのを実感する。翼をはためかせて威嚇する飛龍に焔の女は空に舞って消えた。幼女に姿に戻ったラフィーが塔に入る。
「ルドラの使い魔じゃろう。気にせんでよい。飛龍は外敵からというよりも奴から時計塔を守っている」
弓矢を引く火の魔女。綾乃との共通点が気になったハルトが問い詰めようとすると「明日には分かる。今日はもう休め」と言われ、それ以上付き合う気がなさそうなラフィーに嘆息して引き下がった。
「……てなことがあってさ」
夜が明けた壁上の通路にアバターシュとサポート機を出す仲間達にハルトが話をしていると金眼がまだ眠そうな幼女が姿をあらわした。
「おはようございます。ラフィー様」
探検隊長のノーラが声をかける。探検隊の呼び名にふさわしくノーラとノエルはいかにも探検服という胸ポケットの付いたグレーのジャケットにヘッドライト装備のヘルメットハット、ハーフパンツに白いハイソックス、茶色い編み上げブーツという出で立ちである。
またベタだなぁ。まんま、僕の夏休みとか、ジャングル探検隊じゃん。
と、ハルトは思いつつピンク系のハウスチェック柄バンダナをあしらっているところがファッション番長らしいな、とも思う。ノーラとノエル、双子のような二人の装いは同じだがノエルにはとしっぽがあるのとヘルメットハットに猫耳が装着されているので見間違うことはない。「綾乃ちゃんは巫女服が似合ってるね」神殿に行くのだからまだ納得できるが、ソフィーは黒ビキニに白衣と全くまとまりがない。そのカオスさで合宿の自由さを表現したらしい。ソフィーは歩きながら筆記できるボードを首から掛けて「頼んだよ、書記さん」と言われてモーレツに燃えている。妖精フィレーネが見当たらないので綾乃に聞くと、巫女服の袂の中で寝ているのが判明。文字通りハルトが叩き起こしてヴィマーナに向かわせた。
パイロットスーツの男性陣の中で焚哉はしきりに「ルドラクシア、ルドラクシア、何だっけ?」思い出せない何かを思い出そうとしている。
神殿の中に入ってから説明した方が早い、ラフィーは昨夜の件を流して、飛龍に神殿に出掛ける挨拶を告げる。離陸した三つの飛行体は二頭の白狼が守る金狼に続いて島の中心を目指して飛んだ。怪我をした白狼フュールは時計塔でお留守番だ。
ハルトはARを視覚に出してアバターシュのコンディションをチェックする。
マナが濃いのか? 機体の含有量ゲージが全然減らない。
意図して出したメーターは減るどころか増加していた。
時計塔から先の円の内側は基本的に森である。基本的に、というのは河の流れに池や湖があり、岩山に湿地と鳥や動物達の楽園と言ってもいい変化に飛んだ環境が見られたからだ。面積は都内23区全体と言えばわかりやすいだろうか。しかし時計塔から神殿までは飛甲機とアバターシュならば20分もかからない。最大戦速なら10分程度だろう。
生命力溢れる濃緑。有機的な大自然の中に明らかに不自然に存在する直線の人工物。距離を縮めてから見ても角の見当たらない黒いそれはやはり円柱だった。黒一色の丸い壁に近づいてゆく。セントラルの中心に据えられた寸分の狂いもない完璧な円柱。その揺るがぬ巨漢が冷たく鎮座している。何かで作られた痕跡すらない。石の継ぎ目も、コンクリートを流し込んだ跡もない冷たい質感の黒い壁。初歩的な3Dソフトで円形オブジェクトをそのまま引き伸ばしたようなミニマルな物体である。陽が昇った今は、夜の黒を赤く染めていた光は見えない。
「どうやって作ったんだろうな」
『3Dプリンタで出力したみたいだね』
焚哉も似たような感想を持ったようだ。ラフィーの念話が届いた。ラフィー声は通信と念話、どちらにも入ってくる。状況によって使い分けている気もするが、その基準も理由も分からないのだが。
「遠目で見ておこう。高度を上げるぞ」
「「うわー」」
ノーラとノエルの感嘆の声が入ってきた。
大自然と神が作りしものが織りなす絶景。
巨大なシルクハットハットが円形に切り取られた森の中に置かれている。
側面とツバの部分は一点の曇りもない漆黒。頭頂部は白く規則的に宝石をちりばめたようだ。ちょっとした街くらいはある頭頂部には赤を中心にして色とりどり宝石が規則的に配置されていて、中心から放射する八本の直線が伸び、虹色の七本の線が色を移り変えてゆく様は時計のようにも見える。ハルトはARパネルに方位計を出しつつ後方の映像を視覚に出した。直線はしっかりと方位を守り後方の延長線上には時計台があった。
時計? 巨人の帽子? 神殿なんだよな?
呆気に取られたハルト達の静寂をラフィーの声が破る。
「神殿の中心部に近づくとマナの法則が変わる。飛甲機とアバターシュは動かんようになるじゃろう。妾についてこい」
ラフィーは高度を下げ黒い帽子のツバに近い所まで降りた。
「絶対に石に触れるな」注意を促してからアバターシュとサポート機の分離を命じる。
『マジかよ、これオブシディアだ』
黒光りする壁の石はガラス質で鏃にもなる貴重な鉱石だった。グレースとしてのマサルの領地から多く産出する磨き上げられた黒曜石の塊。「神殿」と呼ばれる物体の壮大さを思い知らされた。
「うむ、方位ここでよいな。一列になって妾のあとについてこい」
森の木々よりも高くそびえる黒曜石の壁に金狼と二頭の白狼が近づき、壁に沿って垂直に体を立ち上げると、上を向いて空中を歩き出した。
『ゆっくりでよい。隊列を乱すなよ』
ラフィーの声に従ってハルト達は慎重にホバリングしながら高度を上げてゆく。
ラフィーが五十メートルほど上昇し、もうすぐ壁の上に出る、というところで黒い壁の中にライトグリーンの魔法陣が光った。
どうやって光ってるんだあれ?
狐につままれたようなハルトがラフィーに続いて白狼が通過するのを見ていると、ラフィーの時よりも簡素な魔法陣が白狼の腹の下で光った。
人によって違うのか。人じゃないけど。
ラフィーに指定された順番通り、ハルトのアバターシュが通過すると六芒星が現れた。マサルのオーレイ、焚哉のインドラにも同じく六芒星が出現し、カッツェと綾乃が乗るサジウスが通過すると三角形の次に魔法陣が周囲にめぐらされた六芒星が現れた。ノーラとノエルが乗るサジウスはハルト同じ六芒星とカッツェと同じくな三角形。最後に胤月とソフィーが乗るヴィマーナが通過したときは単なるドットが二つとごく小さな魔法陣が浮かんだ。
小さい魔法陣はフィレーネだな。胤月さんの癒やしで一緒に乗ってるし。転移者とそうでない人間、鳥の人や獣人が判別されてるってこと? けど魔法陣の枠があったけど同じサイズの六芒星が出たから綾乃は転移して来た人間として認識されてるってことだよな。
ハルトはここ数日モヤモヤとしていたものが少し晴れたような気がした。
完全なる円形の巨大な石。
シルクハットの頭頂部を至近距離から見下ろすと磨き上げられた白い大理石の床がビルのワンフロアのように延々と続いていた。外縁に沿って等間隔に点在する緑のドットは何かの木だ。中心から伸びる放射線は床に埋め込まれた色が着いたひし形の石が点在することで存在を知らせている。二本のそれに挟まれた太い直線は定期的に色を変え、中心に進むに従って小さくなる円の区切りは一定の間隔で宝石が作る模様。まるで大理石の絨毯を敷き詰めたような神殿の内部は外周に植わる木の緑以外は無機質でデジタルな空間だった。
静謐で煌びやかな空間に、森の守護神に連れられた獰猛な巨人と長いツノを怒らせた蟲の殻が舞い降りる。
やはり出力が少し落ちたように感じるとノーラとカッツェが話しつつ、シルクハットの縁から少し内側に入った部分に降りると外壁よりも内側の方が五メートルほど窪んでいた。中から見るとその高さの黒い壁に囲われていることになる。等間隔に生えている木は一種類らしく大きさも近しい。
「白い石の上に機体を降ろせ。ここいらで一度授業をしよう」
白い大理石の床に着陸して二頭の白狼にアバターシュと飛甲機の警護を任せると、幼女の姿になったラフィーに続いて黒い壁の外周に向かった。壁にもひし形の石が埋め込まれている。
床には水路が彫り込まれていた。跨いで渡れる幅の水路の底では水が外に向かって流れている。シルクハットの白い頭頂部が布のように見えたのはこの水路が細かい皺のように見えていたのだった。
「大理石ってお手入れ大変なのに。染みひとつないね」
「ルドラクシア全体がマナで覆われとるんじゃ」
淡く白いマーブルになっている床の大理石は、その上に立つ人を映し出すほどの光沢を放ちノーラのブーツがコツコツと音を立てる。
「そんな!」
ノエルが感嘆の声を上げた。
黒曜石の壁に埋め込まれているひし形は赤い貴石だった。赤以外の色の物もある。人の目線くらいの高さに立体カットされたひし形の貴石がずらり、横に並んでいる。外周の壁付近には目測五十メートル間隔で木が植わっていて、その間に人が二人手を繋いで広げたくらいの間隔でひし形の貴石が壁に延々と並んでいるのだ。ひし形の大きさは人の背丈の半分くらい。アバターシュやフォルマージュのコアと呼ばれる貴石でさえこぶし大である。ハルトにはどれほど強い力がこの壁に宿っているのかを想像することすらできなかった。興奮を隠し切れないノエルが恐る恐るラフィーに聞く。
「ラフィー様、もしかしてこの壁って――」
「そうじゃ、この壁は結界じゃ。先に外周の壁を見て回ろうか」
規則的に大きさを変えるひし形の赤い貴石は時折、黄色や青、紫や透明な石を挟んでまた赤に戻る。
トパーズのオレンジ、トルマリンの黄色、エメラルドのグリーン。サファイアのブルーの、カイヤライトの藍色。アメジストの紫、そしてダイヤモンドの透明な輝き。貴石には八つの色があった。
立体カットのひし形が並ぶ黒曜石の壁は、さながら宝飾の展示スペースのような在り様だ。ルビーの赤を基調としながら、大きさの変化、色の配置にも規則性がある。
「貴石の配置そのものが術式になっておる。というかこの神殿全体が術式のようなもんじゃな。妾には術の詳細はわからんが」
「美しいわね……」
天使の館で暮らしていた綾乃でさえ息を飲む光景。
歩きながらラフィーが講義を始めた。
「ノエルの言う通りこの壁も、そして中心部までの全てが結界じゃ。いうなれば島そのものが結界と言っていいかもしらん。神殿の中心であるものを縛っておる。ルドラと呼ばれるそれが何なのか? 何のために縛っておるのかは主神の中でも知る神は少ない。妾やノルンには知らされてはおらぬ。ベルダンティアたちは経験則で知っていることもあるようじゃが」
「私やカッツェは純じゃないけど、ソフィーと胤月さんは初めてここに登った人間になるんじゃないの?」
「そうか。飛甲機がなければここに人は登って来れないよな」
地上より五十メートルは高いこのフロアに上がる階段はない。
講義を聞いたり雑談をしながら歩いてゆくと、木の葉の形がはっきり見えてきた。青い実がなっている。
木の根本の床石は円形に切り取られていて土が見える。驚いたことに円形の縁には赤い水晶が生えていた。太いものは人の胴体くらいもある六角柱三角錘面が連なって地面から生えている。
「水晶って生えるんだ」
「私も初めて見たけれど、前の世界でも小さな水晶の育成キットは通販でも売ってたわよ」
ハルトの呟きに返したのは綾乃だ。
貴石の育成キットが通販されてたらやだな。
「これ、持って帰ってもいい、ってことだよね?」
ノエルが崩れた欠片を手にとった。紛れもなく赤い貴石だった。
「地面から生えておるものと、壁や床に組み込まれておるもの以外なら大丈夫じゃろう、配置されとる石には絶対に手や足を触れるなよ」
自然に崩壊した貴石はほとんど見当たらないが木の数は数えきれないほどある。「袋を取ってこなきゃ」サジウスに戻ろうとするノエルをラフィーが止めた。
「皆で回ればよい。それと頼みがある。どの木に何色の石が生えているのか記録を取って欲しいんじゃ。何色の石が生えるのかは周期的に変わると聞いた。外周に沿ってならアバターシュと飛甲機は動くからの」
ラフィーの指示に手分けして外周を回ることになった。
丹念に一本一本木の根本を見て回ると、コアになりそうな赤い貴石も拾うことができた。ノエルの要望に従って他の色の貴石もできる限り採集しつつ、移動を繰り返す。
『各位、通信取れますか? どうぞ』
「ノエルか、どうした?」
『見て欲しいものがあるの。外に降りた所なんだけど位置情報を送るからそこに集まってくれないかな?』
ハルトが壁の外に降りてランデブーポイントに向かうとシルクハットのツバの先に他の機体が集合していた。森の際、一本の木の根本に皆が集まっている。ハルトもコクピットを降りた。
それは神殿の上にあった木と同じ木だった。やはり根本を囲んで赤い水晶が生えている。ノエルが八本の放射線の延長線上にも貴石があるんじゃないかと予測して発見したのだった。近づいてみてノエルが集合をかけた意味が分かった。
立派な姿を持っていただろう赤い水晶が無残に根本から折れている。土の上に散った赤い粉を踏み固めた靴跡の上に大きなハンマーが捨てられている。明らかに人為的に折られた痕跡だ。
「わたしは触ってないよ。最初からこの状態だった」
「折られたのは昨日じゃな、断面からマナの光が零れておらん」
自然派生した水晶の根本にはヒビが入り、切り口が細かく段差になっている。手を当てて直径を測り、大きさを想像するノエル。
「たぶんこれ一本でアバターシュ2,30機分になるね。フォルマージュでも10機は作れると思う」
「みんな、こっちに来て」
ノエルから離れた位置でノーラが皆を呼んだ
土の地面を切り裂くような鋭い跡が二本残っている。
「ブレードをつけたまま飛甲機を降ろしたんだろうな」
「神殿に降りる前に光らせた魔法陣は侵入防止結界の鍵でもある。その存在を知らぬゆえに中には降りられんかったんじゃろうな。じゃが中を覗き込むことくらいは出来る。それで外を探したんじゃろう」
個体差があるとはいえロッキ型にしては幅が狭い。ハルトは高速機動型のホシナガバチだろうと見当を付けた。
「多分、俺を抜けて綾乃を襲ったやつだ。あそこの壁の内側に入っていったのは奴だけだ」
ハルトの意見に皆も納得したところでインドラが到着した。
焚哉は一通り聞き終えたところであらためて切り出した。
「思い出したんだ。ルドラクシアの意味を」
焚哉は木の下に皆を集めた。
ハルト達の常識を覆し続けるルドラクシアの神殿。
ルドラクシアの意味を思い出した焚哉。そして世界に中心に向かいます。
次回 「アカシックレコード」
明日の投稿になります。




