合流
翌朝、ラフィーと白狼は崖の上の森に調査に出向き、三機のアバターシュとサジウス型二機はそれぞれの受け持ち区域に散って水竜の骨の探索に出た。ゴホンヅノカブト型のヴァハールは胤月とともにキャンプ地に滞在。ノーラ、綾乃、ソフィーが残る本部機能の警護に残留した。
海岸のキャンプ地はハロルド、珠絵との合流地点でもある。サジウス・ツーにはノエルが搭乗しキャンプ地近辺の探索を担当する。
ハルトは上空から岩場の波打ち際に長いものが漂着しているのを発見して降りてみたが、それは風雨にさらされた巨流木だった。嵐に守られている間の沿岸部は風が強いらしく、流木がいたる所に転がっていて誤認しやすい。内陸に緑豊かな森が広がっているところを見ると島全体が常に嵐に覆われているとは思えない。おそらくバリア的に周囲を嵐が囲っているのだろう、と推測しつつハルトはキャンプ地に戻った。
キャンプ地上空にはワイバーンが一頭、本部テントを見下ろしながら旋回していた。
アバターシュが近づいても恐れもぜず動きを変えない。砂浜にマサル達が帰還しているの見て着陸した。ノーラに聞くと「監視するみたいに飛んでるだけだよ。一度も降りてこない」と言われて緊張を解いた。
ほどなくして、ラフィーが森から卵を持って帰ってきた。「飛龍の眷属じゃろう」やはり上空のワイバーンを気にすることはないという。ダチョウの卵並の大きさの卵を割って、みんなで混ぜ混ぜ、卵焼きにソーセージにパンという朝食のような昼食にしようとしていると「何か来るわ」綾乃が海岸の先を差した。まだ遠い波打ち際に何かが蠢いている。
ハルトが見覚えのあるものだと告げて様子見になる。マサルは一応オーレイのコクピットを開いて待機。近づいてくるのは横歩きを正面にして迫ってくる青い蟹だ。カニちゃんの甲羅の上で回転式の座席に座った珠絵が手を振りながら近寄ってくる。
お尻を下げたカニちゃんの青い甲羅を滑り台にして迷彩のホットパンツとビキニトップの珠絵が砂浜に降りてきた。
「カニちゃんって泳げんの?、てかどうやってセントラルまで来たの!?」
「それはですね、先輩。秘密です」
「なんだそりゃ」
「それより面白いものが見れますよ。ハロちゃんさんからの指令を伝えに先に来たのです」
珠絵はラフィーがいることを確認し、ハルト達にはこれから来る人間に寛容に接してほしい、と言ってから、ノーラ、カッツェ、綾乃、焚哉に胤月を連れて離れた。何やら打ち合わせをしている。
何やってんだ?
ハルトが訝しんでいると、珠絵が来た方角から海面に水飛沫を上げて颯爽と風を切る船が現れた。ヨットでもなく帆船でもない。あえていうなら大型クルーザー。しかしデッキ後方のキャビンが寄せ木細工の三層構造になっている、楼閣建築純和風の船が船首を白い砂浜にむけて乗り上げてきた。
なにこれ!? 何で動いてんの!?
船から最初に降りてきたのはミネコ、ではなかった、源九郎が続いて降りてきたところを見るとオリジナルの稲穂らしい。みごとな白銀の髪の上には狐耳、モフリとたわわなしっぽをしならせてキリっとした赤い瞳の美少女が歩いて来る。くノ一を思わせる戦闘的な巫女装束は綾乃が着ているものと通ずるものがありつつ、帯を渡って裾から右脇にトライバル模様が入っている。
「ハルトさんはいるかしら?」
なぜか源九郎が姉の後ろで「すいません、すいません」と、小声で両手を合わせ恐縮している。
「俺だけど」
船から降りてきたハロルドも、やはり稲穂の後ろにまわってニヤケ顔。
「あなたがハルトさんね。弟が世話になったわ」
「はぁ」
「お礼にお稲荷さんを作ってきたわ。ありがたく受け取りなさい」
「は、はぁ」
「あんた、はぁ、しか言えないの? グランノルンの上級騎士だって聞いてたから期待してのに。しゃきっとしなさいよ。あんた達はハルトさんのお付きの人ね。ご苦労さま。それにしてもこんなところまで幼女を連れてくるなんてハルトさんは変態なのかしら?」
あー、極度のツンだこれ。しかもここにいるのが誰だか爺さん話してないな。
手の平で口を塞いだハロルドの目だけが笑っている。
「しかも巫女モドキまで連れて来ちゃってまぁ。けど本物の巫女の私が来たんだから安心しなさい――けど、ちょっとかっこいいわね、それ……」
綾乃をジッと見る稲穂。白いモフっとしたしっぽがゆらゆらと揺れている。
「ちょちょ、ちょっとだけなんだからねっ!」
分かりやすっ。いじりがいあるかも。珠絵と爺さん何かたくらんでるな。ここは乗っとこう。
「ところで、ラフィー様はどこかしら? 」
辺りを見回す稲穂に幼女姿のラフィーは何も言わない。珠絵が密かにGJサインを出した。
「ラフィー様を探してるのか?」
「犬族の王たる狼の神、偉大なる森の支配者ラフィー様はどこにいらっしゃるのって聞いてるの。私はグランノルンでいうところの鳥の人と同じ神の眷属よ。あんた上級騎士でも人間よね。案内しなさい。そこのあんたでもいいわ」
珠絵と打ち合わせ済のカッツェに視線を向けた稲穂に。
「そのうち戻ってくると思うんで、お座り下さい」
言ったカッツェは折りたたみのキャンプチェアーを勧めて、焚哉が至極丁寧にパラソルを立てた。
「分かってるじゃない」
「お飲み物をお持ちしました」
満面の笑みを浮かべたノーラがハルト達が探索している間に絞っていたジュースに氷を浮かべて差し出す。
「こ、氷がはいってるなんて……氷室を見つけたの?」
「グランノルンからお持ちしたものです。稲穂さま」
おしとやかにストレベリーブロンドの頭を下げるノーラ。
「グランノルンの上級騎士ともなると待遇がいいのね……ありがとうメイドさん。ところでおチビちゃん。おチビちゃんは何しに来たの。よく連れて来てもらえたわね」
「連れて来て貰ろうたのではない。妾が連れて来てやったんじゃ」
「あははは、面白い冗談ね。それに妾って、お公家様の真似ごとが流行ってるのかしら? グランノルンでは」
バサリ、カッツェがTシャツを上げて腰から生えるグレーの翼を広げた。
ぶっ、ジュースを吹き出した稲穂が大きく目を見開いた。
「ひかえろー」
ノーラがカッツェの隣、金髪金眼の幼女の前に立った。
「この御方こそが、森の守り神であらせられるラフィー様であるっ。ええい頭が高い!」
ボンっ 巨大な狼になった金眼がぎろり、稲穂を見下ろす。
ぽかーん、大きく口を開いた巫女狐が固まった。
ニヤニヤしたハロルドも稲穂の前に出て、腰の後ろから青い翼を開くと、稲穂はさらに大きく目を見開いた。赤い瞳が溢れ出そうだ。
「俺はカッツェだ。守りの森の鳥の人で、ハロルド様は前の族長だ。よろしくな。神の眷属さん」
「うむ。お主に飲み物を給仕したのはグランノルン連邦王国第三王女エレオノーラじゃ」
「はぁっ!?」
稲穂の顎が外れそうになる。
「巫女もどきのノルン、アーヤと言います。よろしくね」
綾乃は大きく白い天使の羽を広げ、フィレーネが光りながら周囲を舞った。
「ててて、天使さまぁ!?」
すいません、すいません、土下座して平頭し、何度も両手と白いしっぽを砂につける源九郎。
「キラナ本山、第二位階、胤月よ。こちらは大僧正様が聖人様とお呼びになるタクヤル様です」
よろしくね。焚哉が言ったところで稲穂は白目を向い後ろに倒れた。
「あっ、気がついた」
見下ろす頭に囲まれて、稲穂の美脚全開ミニスカ巫女服が濡れている。カッツェがバケツで海水をぶっかけたのだ。
目を覚ました稲穂が辺りをきょろきょろと見回すとちょうど白狼達が帰ってきた。咥えて来たダチョウを浜に吐き捨て、シンが血を滴らせた稲穂を丸呑みしそうな口元を近づけると稲穂は飛び起きた。
「しゅいませんでしたぁああああ」
ジャンピング土下座をする稲穂の横で源九郎も「すいません、すいません」と土下座をして額が砂浜に埋まる勢いで。
「すいません。うちの姉が失礼を……」
「面白かったらからいいよ。十分笑えた」
カッツェさん……。赤い瞳をシイタケにしてキラキラさせた源九郎が起き上がった。「さぁ、姉さん。ちゃんとご挨拶して」
おずおずと、稲穂が立ち上がる。
「雨乞いギツネの稲穂です。よろしくおねがいしゃっすっ」
「噛んだ」「噛んだな」「噛んだね」「噛んだわね」
「うう、うるさいっ。べ、別にあんたたちのことなんて好きじゃないんだからっ!」
稲穂はダダダっと、浜辺を走り去り。
そして、トボトボとしっぽを丸めて戻ってくる。
「よかったらお稲荷さん、食べてくだしゃい」
漆塗りの丸盆にところ狭しと詰め込まれた稲荷寿司をノーラが受け取って昼食になった。
船からもうひとり、船商会の若き大旦那ジュリアンが降りて来た。
頓挫していたクルーザー開発を珠絵を通してハロルドに依頼したのはジュリアンだった。ミックも協力して新たな船を開発する中、ジュリアンの船商会に身を寄せていた稲穂と源九郎が「是非ラフィー様にお会いしたい! 水竜さんとも話せますから!」と、モーレツにせがんで連れて来てもらったのだった。好奇心の固まりのようなハロルドがセントラルでの学園夏合宿を見逃すはずがない。珠絵は珠絵で新たなカニちゃんとの出会いを求めてやって来ていた。
稲穂をいじるのはハロルドのささやかな復讐だった。
クルーザーは水棲の蟲『ヤゴ』のジェット推進を利用したものだということにハルトが驚き、発案者に唆されて作り始めたもののそう簡単に作れるものでもなく、ジュリアンに泣きつかれた珠絵がハロルドを口説いてキラナ派遣にこぎつけたそうだ。「珠絵に脅されたんじゃ」と言いながらハロルドは、次は大型船に挑戦すると嬉々として言う。
「海兵隊創設なのです」
シャキーン。「いや、ただの海軍だから」マサルに突っ込まれてても珠絵の口は止まらない。
「私はカニちゃんの集団とお友達になったのです。それに水竜の骨も確保しましたよ」
「ほんとかっ!? 珠絵!」
水深のそう深くないところに一体分の骨が沈んでいたという。
「深いところに流れた骨はカニちゃんが拾ってきてくれて、すでに船の中に積み込んでありますよ」
水竜一体分でもアバターシュ三機分の材料には十分なる。ハロルドチームは嵐が晴れたのを知ってすぐに出発したそうだ。ハルト達よりも三日先行してセントラルに入っていた。
珠絵は珠絵で、クルーザーに曳航してきたお気に入りのカニちゃんの計らいで、友達になったコトヒラ蟹の集団にグランノルンに来ないかこれから口説きにゆくのだ、という。その横で黙々とお稲荷さんを食べる稲穂が綾乃の食べているトーストをじっと見ていた。
「よかったら食べる?」
ツンとしたクールな赤い瞳の背中にモフり、としっぽが上がって揺れた。
「バタートーストの前ではお稲荷さんも霞むわ」
ぱくん、と齧りついては、んーー、と感嘆の声を上げている。
「実は姉さん、洋風なものに憧れてて……」
源九郎によると、稲穂は小麦色の肌に憧れていて、髪を巻いてへそに飾り玉をつけるのが理想なのだとか。
黒ギャル志望かよ!
「でも色白な肌は日焼けすると赤くなって痛いだけだし、体に穴を開けるのは痛そうだし、髪を巻くのもどうしたらいいのかわっかんないし」
「髪なら今度やってあげるよ。それに稲穂ちゃんの好きそうな服もあるよ。王宮に遊びにおいでよ」
パタパタと音を立てそうなくらいしっぽが激しく揺れた。
稲穂の戦闘巫女服の細かいところまで見せてもらったノーラもご満悦な様子。
いつのまにか綾乃が作ってきたフレンチトーストに稲穂は撃沈し「絶対行きますっ! グランノルンさいこー!」と絶叫して、胤月に睨まれてしゅんとした。
「ところで稲穂ちゃん。お狐さまってことは 宇迦之御魂神様にお使えしてるのよね」
フレンチトーストに気前をよくした稲穂は綾乃の質問に従順に答えた。
「よくご存知で。穀物の神様にお使えしています」
「やっぱりキラナにはそういう神様がいるのね。武葉槌命を知ってるかしら」
武葉槌命は前世の綾乃の祖父が神主を務めていた天羽神社に祀られている神様だ。稲穂は家族とニンディタに出ていたのだが狐人の本家は古宮島になる。キラナの方がゆかりが深い。
「はい、名前だけは」
「織物の神様よね?」
「いいえ。戦の神様ですよ? 武神の武に刃の槌と書きますから」
「武刃槌様なのね。やっぱり!」
黒い瞳に光を湛えた綾乃は嘆息し感慨深そうな顔をした。
合流、というか怒涛の豪流との邂逅に一息ついて、午後の探索にハルト出たハルトはコクピットでひとり考えてしまう。綾乃が天使の姿を取った。神について強い興味を示した。それが沸き立てる霧のような不安。綾乃がノルンでいることを選んだように思えて。
再会した当初。あの頃は綾乃がノルンであること受け入れてこの世界で生きることを望んでほしいと思った。でもやっばり人であってほしいと思わずにはいられない。天使が生きる永遠と人の儚き有限。時間が綾乃を手の届かない所に連れて行ってしまうような。陰愚な弱気だと解ってはいてもつい。
結局午後の探索にもあまり身が入らなかった。
独りよがりで鬱なハルトがその日の探索を諦めて戻ると、日が暮れ始めているというのにそんな自分が「アホなんじゃ?」と思うような明るさだった。
ノーラが用意していたちゃっかり名札まで付いたスクール水着着用を拒否した珠絵がカニちゃんパワーを発揮して、ホタテやサザエ、大エビに大タコやら海藻の芽などを満載で帰って来るわ、豪快豪華な海鮮バーベキューにメインが付くわの大騒動。米味噌醤油をもってきていたジュリアンが沖合でトローリングして釣り上げた、小型のマグロの刺し身が大皿に。焚き火の炎に兜焼きがメラメラと。ジュリアンによると行きがけに寄った小島の先で淡水から海水に変わるのだそうだ。
しかしクルーザーで釣りとかセレブっぽいな。船は純和風で雅だけど。畳敷いてあったし。
騒がしかった焼き物大会が終わり、ワイバーンが帰っていった星空の下で焚き火を囲んだ。
ハロルドと胤月、ジュリアンはテーブルを囲んで本格的にお酒の時間に突入し、薪集めと相撲対決にクタクタのカッツェとマサルは横になって、ニンディタやイーシャでの話をした稲穂と源九郎もすやすやと同じような鼻提灯を膨らませてる。ソフィーは眠そうな目を擦りながらもみんなの話を聞き逃すまいとまだ頑張っている。
水着の上に更紗を羽織って星空の下で焚き火にあたっていると、遥斗にまた悶々としたものが募った。綾乃の近くにいるのに。近くにいるからこそ。
それにしてもフィレーネは綾乃にベッタリだな。
綾乃の肩にちょこんと乗る妖精を見ても綾乃がノルンであることを選んだように見えてしまう。
夜も更けて。
「不思議なことって言えば、試練にもあるよ」
焚哉がハルトを見てから語り出した。暗闇の中、焚き火の明かりで顔が揺らめいている。
「試練ってさ、自分の意思を確認するが本質のような気がするんだ」これはハルトにも納得できる話だ。
「仏教ではね。悟りに至る前に邪魔をする存在が現れる。悪魔、魔羅って呼んだりもするんだけど。だから僕の中に現れたのは、もしかして――」
「仏の姿をした悪魔だったのかもしれない」
寒気が背中をのぼってきた。
ハルトは鳥肌を鎮めるように腕をこする。
「なーんてね! ちょっと変化球な怪談でしたぁ」
やっぱ夏の夜は怪談っしょ。破顔した焚哉は「仏教でいう悪魔って煩悩のことなんだよね」と白状した。
「やられたわ、ちょービビった」
ごめんごめん。焚哉が、ははは、と坊主頭を掻く一方で、「やっぱり、煩悩ってだめよね。とくに性的なこととか――悪いことよね」綾乃が焚き火の炎に顔を揺らしながらポツリ。
綾乃ってやっぱ真面目なんだな、冗談言って雰囲気変えるとこでもないか。
ハルトが窮していると。
「性的なことに関しては、そんなことも無いんだよね」
えっ、キョトンとする綾乃に焚哉は語り出した。
「弘法大師、つまり空海さんが天台宗の創始者、最澄さんと理趣経という経典を巡って争ったことがあるんだけど、理趣経には男女の愛や性を肯定する内容があって、愛し合う男女が精神的にも肉体的にも結びついて高め合うのは菩薩の境地だ。っていう教義があるんだ」
理趣経曰く
欲望が矢の飛ぶように速く激しく働くのも、清浄なる菩薩の境地である。
男女の触れ合いも、清浄なる菩薩の境地である。
欲心を持って異性を見ることも、清浄なる菩薩の境地である。
男女交合の妙なる恍惚は、清浄なる菩薩の境地である。
だそうだ。
焚哉は「まぁこの後に、自慢や味覚も菩薩の境地だ、っていうのも出てくるから戒めとも取れるけど、当時としては先進的過ぎたんだろうね。でも、僕は愛や快楽が完全な悪だと思ってはいないよ。素晴らしいところだってあるわけだし。禁欲だけが正しいとは思わない」と、締めくくった。
静かな時間が流れた。
「やっぱタクヤンは変態ですね」
珠絵ー、せっかくカッコよく決まったのにぃ。いだい、痛いですっ。珠絵のこめかみをグリグリする焚哉に向かって綾乃は。
「衝撃を受けたわ。仏教にそんな考え方があっただなんて……」
「正確には密教なんだけどね。でも神宮路さんにそんなふうに言われると照れるな」
「照れなくていいわよ。すごいわ焚哉くん、こらからは神宮路さん、じゃなくて綾乃って読んでもらえる? 綾乃ちゃんでもいいれど」
「そうだよ、もうお友達なんだし。ねぇー、綾乃ちゃん」
「急にそう言われてもなぁ。神宮寺さんて前世ではちょー雲の上の人だったし」
照れくさそうな焚哉は、
「取り敢えず綾乃さん、じゃだめ?」と子犬のような目をして言ったが「却下します」ときっぱりダメが出た。
何でなの? 綾乃、焚哉に惚れちゃったの!? NTRされちゃうの俺?音楽できないし、気のきいた話とかできないし、ブツブツブツブツ……
かなり穏やかでないハルト。
「分かったよ、極上スレンダー美人にそう言われちゃ男がすたる。綾乃ちゃんって呼ぶことにするね」
「スレンダーは余計よっ!」
「「あははは」」
「だって…… ノーラみたいにおっきくないし……ロスから帰ってきた時にびっくりしたわよ」
「神宮路先輩みたいな方でもそこ気にするんですね。 親近感が湧いちゃいます。私と仲間ですね!」
「いやいや、お前は単にぺったん系だから」
「むきーーー! うるさい! この変態坊主」
「珠絵、そうやっきになるな。ロリっ子体型も需要あるんだぞ」
「いったい何の需要ですかっ!? ううー、それどっかで言われたことがあるような気がするセリフなのがまた悔しいです……」
「まぁまぁ、ガールズトークに混じれる友達になったんだもん。焚哉くんもあんまり構えないで綾乃ちゃんとお友達になればいいよ。その方が綾乃ちゃんも嬉しいと思うし」
「そうね。私もその方が嬉しいわ。さっきの話しには感心したもの。あらためてよろしくね焚哉くん」
「うぃっす。じゃあ、そういうことで、綾乃ちゃん」
焚哉の差し出した手を取って綾乃は握手を交わした。
「そろそろ寝よっか」
ノーラの一言で解散になる。ノエルが見張りに立つカッツェを起こし「もうハロルド様ったらぁ」酔いつぶれているハロルドをマサルに運んでもらうように頼んでいた。
砂浜を歩きながらハルトは綾乃を呼び止めて話しかけた。
綾乃は、武葉槌命は祖父の神社の天羽神社の由来である天羽雷命の別名で、武葉槌として祀る意味を考えていた、とハルトに告げた。
「みんなと一緒にいてよかった。それに私、アバターシュにも乗るわ。織物の神様よりも軍神としての意味が大きいんですもの」
何かが吹っ切れたような顔を見せた綾乃は、珠絵に「綾乃っち」と呼ばれることになったことも喜んでいるようにも見えたのだが、最後に。
「運命を変えてみせる」
いつになく明確な口調で宣言した。
ハルトは結局、綾乃が人と天使どちらを選ぶのかを聞けないままテントに入った。
翌朝、神殿探索に後ろ髪を引かれつつ、やはり船が気になる様子のハロルドと「もう一度カニちゃんを口説きに行くのです」ノリノリな珠絵を残して一団はキャンプ地を畳んで上空に飛んだ。
湿地帯が本格的に森になり、巨大な寄生花がちらほら見える不思議な樹海を飛んだ先。まるでここから先は聖苑である、とでも言いたげな正円の壁があった。王都よりも数倍は広い区域を取り囲み、東西南北とそれを二分して八つの塔が空に伸びている。
ワイバーン達が上空を旋回する西の塔に近づくと、頂上に雄渾で豪快な飛龍が翼を畳んでいた
ダチョウは白狼がおいしく頂きました。
ザンネン人稲穂から重要なことを聞き出した綾乃。
合宿は先に進みます。
次回 「時計塔の略奪者」
明日の投稿になります。




